「あたいは豹と親しいわけじゃないのです。一昨日明羅のとこに戦車の試運転に行ったら豹が居ただけだし。
ただ、戦車に組み込むのに有用な魔法を豹はいくつも編み出せそうだったのです!あたいの戦車のために豹を追いかけてたらここにいる皆に会っただけなのです。そもそもリィス以外とは今日が初対面なのです」
「リィスちゃんとは繋がってたってこと?それじゃもしかして幻夢界の要塞を建設したエンジニアが里香ちゃんだったり?」
「その通りなのです。ですので豹のことはほとんど知らないのです。
要するにあたいは豹個人じゃなく豹の魔法に用があるだけだし。だから下手にあんたらの話に入るつもりはないのです。
豹をどう扱うにしろ、手が空いたらあたいのところに向かわせればそれでいいのです。それさえ守られるなら豹がどうなろうと構わないので、あたいのことは気にせず話をさっさと終わらせるべきなのです」
「………ふーん、そういう割り切り方嫌いじゃないわ。つまり条件次第であのスケコマシを魔界に帰らせる方向でも協調してくれるのね?」
「構わないのです。さっきも言ったとおり、リィス以外の皆のこともあたいはほとんど知らないし。つまり【どちらの味方に付けば豹があたいの戦車を優先できるか】をまだ判断できてないだけなのです。なので口を挟むつもりはないし、さっさとあんたらで話を終わらせるのです!」
流石はヒョウくんだなー、里香ちゃんみたいな研究者気質の子からも慕われてる。一昨日初めて会ったってことなのに、心血を注ぐ研究対象に協力させて問題ないと考えてるってことだもんねー。
同じ研究者気質から里香ちゃんを気に入ったみたいなマイちゃんもそうだけど、こういう子が研究対象を完成前に他者へ見せるのはとっても貴重。機密情報の漏洩や、自分の理論を否定されることによる時間の浪費につながる可能性があるから、心の底から信頼できる相手じゃないとまず見せようとしないわ。
でも、里香ちゃんはヒョウくんの魔法を組み込むことを前提に話してる。ヒョウくんなら自分の研究に加わっても大丈夫だと信じてるってこと。
本当に、ヒョウくんはヒョウくんのまま。
「…うん、里香の考えはよ~くわかった。あまり当てにしちゃダメってことね。
わたしは生まれたお屋敷から飛び出して、しばらくフラフラしてたら豹の隠れ家を見つけたの。ちょっと入ってみたらとっても素敵なお家だったから、取り憑くことにしたわ。豹も受け入れてくれたしね。
わたしは豹をお家に帰らせることが目的。これは上海ちゃんも同じだよ」
「え?上海も?」
「はい、サラさん。今の私には、豹さんの隠れ家さんの意識が宿っているんです。豹さんに関しての記憶も、流暢に喋ることが出来るようになった言葉も…隠れ家さんがくれたものなんです。
隠れ家さんは『ずっと豹さんの傍に居たい』という気持ちを貫くために、私のボディに同化してくれたんです。私自身の意識を残したまま。
私を乗っ取ることもなく、豹さんに直接お会いした時に私がボディの支配を手放しても…伝えたい言葉を伝えたら私にボディを返してくれたのです。そんな優しい隠れ家さんが、『帰って来てほしい』と願っているんです…!
だから私はカナさんと行動を共にしています。夢子さんもユキさんも…ご主人様も。それを認めて、送り出してくださいました」
「―――家が、付喪神になりかけていたってことですか…
なんというか、ヒョウさんは本当に優しいヒョウさんのまま…幻想郷で過ごしていたんですね…」
ルビーちゃんが漏らした言葉通りなんだろうなぁ。ヒョウくんの凄さは魔界から離れても変わってないのね…家が付喪神化したなんて魔界では聞いたことが無いわ。どうしても
それこそ無関係な戦闘の流れ弾や災害でダメになっちゃうこともある。でもヒョウくんはそうならないようずっと隠れ家を護り続けてたってこと。私もヒョウくんに護ってもらってたから、意識を持ち始めた隠れ家ちゃんがヒョウくんから離れたくないっていうのはとってもよくわかっちゃう。
(アリスちゃんがヒョウくんを見つけちゃったから、隠れ家を離れちゃって。
隠れ家ちゃんはそれに耐えられなくて、上海ちゃんに乗り移った。
そこに取り憑いてたカナちゃんはすぐに理解して、お手伝いしてたってことね)
う~ん…これはヒョウくんをすぐに魔界に呼び戻すのは難しいかなあ。ヒョウくんがその気じゃないだけじゃなくて、カナちゃんを筆頭に幻想郷に留まってもらいたいって考えてる子たちがたくさんいそう…
私とユキちゃんならヒョウくんを捕まえることも出来ると思うけど、全力で止めに来られると相手しなくちゃならなくなるからなー。幻想郷が
そういう意味だとマイちゃんは流石ね。ヒョウくんが幻想郷でも慕われてるのを見抜いてたから、理由を付けて先に強硬派の戦力を削ぐ方向に動いたってこと。私はどうしても粛正って選択は後回しになっちゃうから…こういう決断は遅くなっちゃう。だから独断で動いてくれてた。
でも、マイちゃんの予測通り…ヒョウくんに魔界へ帰って来てもらうには、幻想郷を滅ぼすべきって考えてる子たちを止めないと手遅れになる。だから魔界側の問題点から解決していくってこと。
私自身魔界神として幻想郷に思うところもあるんだけど、紫と直接話をしてからは滅ぼす気にはなれなくなった。あの隔離された小さな世界は、生き延びることが難しくなってしまった存在にとっての楽園…幻想郷を滅ぼすことで、生き延びる術を失う子がたくさんいる。
魔界のために敵対する相手を世界ごと滅ぼしてきた私が、今更何を言ってるんだって思われるでしょうけど。
創世神の端くれとして、明らかな敵意を持っているわけじゃない世界を滅ぼしたいとは思わない。破壊することよりも、創造することの方が大変で、大切なんだから。
「…私はカナほど豹に近いわけじゃない。でも付き合い自体はカナより長いはず。私は姉妹で楽団をやっているのだけれど、ライブを人里で開催するには準備に人手がいる。豹は長期間裏方として手伝ってくれていたから、会場設営において細かい指示を出せる唯一の存在だったのよ。なるべく目立たないように裏方の代表は他人に任せるけれど、手の回り切らない場所を豹一人で受け持って回れるような立場。
だからこそ、私は豹を信頼していたし…豹と楽団としてではなく私的な付き合いもさせてもらってたわ。魔界に帰ってしまうと私の音を聞いてくれる時間が減ってしまう…それが嫌だから豹を追ってる」
「………楽団。さっき聞こえてた沈んだ音は、ルナサだったの?」
「聞こえていたのなら謝るわ。ただ、ツララを狙って出したわけじゃないのは信じてほしい」
―――ルナサちゃんもなかなかやるみたいね。距離を考えるとツララちゃんが私より遅かったのが不思議だったんだけど、音でサリエルと上海ちゃん、リィスちゃんを援護してたってこと。それにツララちゃんも影響されてたってこと…実体を持たない騒霊だからこそ、同じ霊体にだけ影響を及ぼす音を奏でることが出来る。守護霊であるツララちゃんにすら効果のある、強大な力で。
「それじゃ、後話を聞いてないのは麟だけかしら?私も初めて名前を聞くのだけれど…」
「私はルナサさんや上海ちゃんと違って、とても特殊な立場ですので…
豹さんは、紫様の庇護を受けていました。私を弟子のように扱ってくれているのも、八雲の手駒として有効活用するためです」
「「「「えっ!?」」」」
これには流石に私もびっくりしちゃった。幻想郷の上層部に関してほとんど知らないルイズちゃんとツララちゃんは首を傾げただけだったけど、八雲紫のことを知ってるサラちゃんとルビーちゃん、そして諜報面を任せてるマイちゃんでさえ思わず声を出しちゃうぐらい衝撃の事実。
ヒョウくんは幻想郷に逃げ込んでただけじゃなくて、その管理者の一人で異界との交渉役も兼ねている八雲紫に匿われていたってこと!
「ですが、豹さんは隠れ家から離れた時点で紫様と決別してしまったそうなのです。『俺一人のために魔界とやりあうわけにもいかないでしょう』、って…
紫様は魔界との全面戦争を望んでいませんが、かつて博麗の巫女たちが魔界で迷惑をかけてしまったことも理解しています。だからこそ、豹さんを匿い続けることは出来ない…中立を保つのが精一杯だと。これ以上八雲が魔界に不義理を働けば、博麗の巫女を庇い切れなくなりますから。
…私は、紫様より豹さんを選びました。藍様は、豹さんを頼むと言ってくれました。
豹さんが魔界から逃れようとしているのであれば、私はその助けになるように動くだけです」
「…そっか。麟ちゃんは、ヒョウくんのために八雲から狙われる覚悟まで決めてるのね」
「はい。私はもう豹さんのいない世界には耐えられなくなっていますので」
「……………あいつ、本っ当に変わってないな」
マイちゃんもここに来てヒョウくんがヒョウくんのままってことに確信を持てたみたい。麟ちゃんみたいな女の子をここまで依存させてしまっているのは、私たちの知るヒョウくんそのまま。
ヒョウくんに護られた子は、だいたいこうなっちゃうのよね…今ここにいるルビーちゃんがわかりやすい一人だし。
でもこうなると…私はどう動くべきかしらねー。ヒョウくんと会いたいのはみんなと変わらないんだけど、魔界に連れ帰るには解決しなきゃいけないことが多すぎるわ。麟ちゃんたちとも仲良くしたいんだけど、最終的な目的が反対だからそうもいかないみたいだし…
「私も詳しい事情を聞いたばかりだから、これからどう動くかを決めているわけではないが…
少なくとも魔界と幻想郷の全面戦争を望んでいる者は、ヒョウに関わる者の中には一人もいない。今は神綺達がこれだけ理解してくれればいいと思っている。
なにしろ、ヒョウ自身が魔界に戻ろうと考えていない以上神綺と直接会おうとはしないだろう…だが、私を頼ってくれる可能性はある。その時は必ず私が皆とヒョウを引き会わせるから―――今は、このまま皆を幻想郷に帰してやってくれないか?」
「うん、それはもちろん。ヒョウくんが妹だと認めてて、アリスちゃんとも仲良くしてくれてるみんなを魔界に閉じ込めるなんてことしないわ。ただ、もう少し幻想郷のことを聞かせてもらいたいんだけど…
時間はあまりないってことなのかしら?」
「はい…私と里香さんは魅魔さんとも関わりがありますが、幻想郷ですでに魅魔さんも動いてしまっているのです。魅魔さんがヒョウ様を襲ってしまう可能性もありますので、それを止めるためにも皆さんは早めに幻想郷に戻って頂いた方が良いと思うのです」
「あの悪霊も動いてるの!?それじゃ、夢子さんとユキが狙われるのもマズいってことじゃない!?」
「そうなんですサラさん。ですが、私やカナさんでも足止めなら出来るんです。魔界の皆様と侵入者4人が戦うことにならないようにする時間稼ぎぐらいなら…!」
…上海ちゃんはもう完全に自立できそう。ここまではっきり意思を持って行動できるなんて…!
そしてそこまで引き上げたのがヒョウくんの隠れ家…ヒョウくんが意識して起こしたわけじゃないでしょうし、ヒョウくんも上海ちゃんも気付いてないでしょうけど。
今でもヒョウくんは、魔界の【兄】としての役割を果たし続けてくれてる。
(―――それなら、今の私が優先するべきは)
ヒョウくんが守りたいと思ってる、魔界と幻想郷を…守ること。
「わかった。これ以上詳しいことはアリスちゃんに直接聞きに行くね。
だから今は…魔界と幻想郷のバランスを崩したあの子たちを任せてもいいかな?
私たちは、魔界の不穏分子をなんとかしておくから!」
私にしか出来ないこと―――異界間戦争が起こらないように、魔界の分からず屋たちを大人しくさせる。
マイちゃんの言う通り、先にこれだけは済ませないとね!