寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第15話 舞台で踊り出す少女たち

私としては、この時期で助かった面もある。冬眠に入る準備として、私自身が精力的に動いてもそれほど警戒されないわ。なにより昨日の時点で隠岐奈に強力な伏兵を忍ばせられたのは僥倖、豹が幻想郷から後ろ弾を食らう可能性は大幅に下がったはず。次に私が打つべき手は。

 

「悪いわね、時間を貰うわよ茨華仙」

「…せめて食べ終わるまで待ってくれない?」

 

同士討ちの防止。豹がもう割り切ってしまった以上、私の方で処置しないとね。

 

 

 

「貴方直々にここへ来るなんて珍しいわね。冬眠する前に頼み事でもあるのかしら」

「察しが良くて助かるわ。ここのところ魔界から幻想郷に入り込んでる神綺絡みで、手を貸してもらいたいのよ」

「…何か問題になるようなことが?」

「彼女本人はまだ大丈夫でしょう。頼みたいのは霊夢のこと」

「霊夢?……まさか宣戦布告でもされそうだというの?」

 

霊夢を使えば、茨華仙は御しやすい。そこに豹の情報を加えてこちら側が利するように動いてもらう。

 

「いえ、その心配はないわ。魔界人相手に霊夢たちが大暴れしたことに関しては、管理不十分を神綺自身が認めている。今回問題になりそうなのは豹の方」

「豹?………ああ、貴方が匿ってた大魔法使いか。とうとう尻尾を掴まれたのね」

「隠れ家を捨てて潜伏するまでは出来たようだけど…完全に私の庇護下に入るのは嫌だったようね。こうなると八雲として彼は切らなければならないのだけど…私にとって最悪な結末が起こり得るのよ」

「―――霊夢が豹を退治するという可能性、ね」

 

これだけはどうあっても避けなければならない。霊夢のためにも、豹のためにも、幻想郷のためにも。豹から八雲を切り捨てようとしてくれた以上私と藍・橙はともかく、霊夢をこの件に巻き込むわけにはいかない。

 

神綺が責任を認めてお咎めなしになったとはいえ、霊夢は靈夢として魔界の怨敵になっている。魔界絡みの案件からは遠ざけたい。今更言っても仕方ないけれど、星蓮船の一件も私としては関わってほしくなかったぐらい。

 

「だからしばらく霊夢の相手をして、行動を制限しておいて貰いたいのよ。説教でも修行でもお茶の相手でもいいから、霊夢が率先して豹を探しに向かう状況を作らせないで頂戴。豹自身はともかく、豹の追手である魔界人と霊夢が衝突したら、神綺も流石に見過ごせなくなる」

「そうなると全面戦争に陥る可能性が出てくる、ということね。

いいでしょう、たしかに傍観できる事態ではないわ。ただし霊夢の勘が当たるというのは貴方もよく知っているはず。完全に抑えることは出来ないのは理解してもらうわよ」

「それはもちろん…と言いたいけれど。協力の謝礼として、先にもう一つ情報を渡しておくわ。

今、頭部は彼の隠れ家に封印してある。でも彼が戻れる可能性は低い…だから豹が幻想郷から姿を消したら、貴方に管理を任せる。今の貴方なら問題もないし、そうしたいでしょう…茨木華扇?」

「……そこまで彼を信頼してたのには気付けなかったわ。どれだけ本気なのかは私も理解した。

貴方が冬眠してる間にそう動きそうなら、式神に連絡して叩き起こす。それでいいわね?」

「ええ…頼むわよ、茨華仙」

 

私が眠気に抗えなくなる前に。打てる手は全て打っておかないとね。

 

 

 

 

 

 

 

 

(神社裏山の湖…枯れていますが、ここで間違いないはず)

 

魅魔さんの返答で私の選択肢は一気に絞り込めました。幻想郷縁起に載っていない妖怪となると、スペルカードルールが制定された後に異変を起こした勢力には属していないはず。阿求自身が身の安全のために、このルールに従い戦闘したことが確認できない相手には直接会わないようにしているとのことなので、まず間違いないでしょう。

 

そうなると、レミリアさんが吸血鬼異変を起こす以前に異変を起こした妖怪たちから当たりたい。極力人付き合いを避けていた豹さんが自発的に交流しようとする相手は、後ろめたい事情を抱えている方が多くなります。お互いに弱みを握らせることによる協力関係…といういびつな形ですが、孤独の辛さをよく知る私にはそんな繋がりでも大事なものというのがわかってしまう。

 

そうなると退治されながらも逃げ延びた妖怪は豹さんにとって狙い目の相手になるはず。勢力に属さない妖怪を探すのは私一人では無理でしょうけれど、異変を解決した側の存在が覚えている可能性はある。ですので私は魅魔さんを訪ねました。

 

…博麗の巫女では、豹さんに余計な敵を増やしかねない。白黒の魔法使いは、私の感情的に頼りたくない。消去法ではありましたが、魅魔さんから知らないという返答をもらえたことで私の向かう場所が決まりました。

 

(夢幻館。そこに何も手がかりがなければ、エリーさんというのはおそらく魔界の人になる。つまり豹さんがもう魔界へ向かってしまったということ。その場合、私ではお手上げになってしまう…)

 

私の知る博麗の巫女が解決した異変で、スペルカードルール制定前に起こっているのは吸血鬼異変を含めて6件。そのうち魅魔さんが関わっていないのは1件だけ…今は太陽の畑で暮らしている大妖怪が起こした異変だけです。であれば当時の彼女が拠点としていた館…夢幻館になら、エリーさんという方の情報が残っているかもしれないのです。魅魔さんが覚えていないだけという可能性もありますが、それを前提にしてしまうと動きようがなくなってしまいます。こればかりは信じるしかないでしょう。

 

「でも…何も手がかりが無ければ、風見幽香さんに直接聞いてみるしかなくなる…」

 

出来ることなら避けたい選択です。花を大切に扱わないものに対し容赦しない《フラワーマスター》。私のかなう相手ではなく、協力どころか話を聞いてくれるかどうかすら…

 

(―――やめましょう。それを考えるのは、夢幻館に何も残されていなかったときでいい)

 

ここは博麗神社に近い。博麗の巫女に見つかってしまっては事態が悪化する一方です…先を急ぎましょう。

 

冴月麟も枯渇した湖の底へ降りてゆく……

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃ、行きましょ~」

「…もう昼ね。今日は藤原妹紅に話を聞くだけで日が暮れそう」

「わ、悪かったわよ。あの部屋にあったものを持ち出すのは危険かと思ったの」

「ご主人様があれほど読みふけるぐらい、あの魔導書は貴重だったのでしょうか?」

 

無駄足に終わった地下室の確認だけれど、時間稼ぎにはなった。もっとも、カナとアリスが乗り気だったおかげで私が誘導したわけじゃないのだけれど。

 

「貴重なのは間違いないけれど、厳密に言うと魔導書じゃないわ。おそらくは豹自身が書き留めた研究の記録………内容を理解できる魔法使いにとっては魔導書並に貴重でしょうね。研究内容の方向的に魔理沙はそれほど興味を示さないだろうけれど、パチュリーは全部欲しがると思うわ。なにより魔導書じゃなくて手書きの資料だから読みやすい。だからこそ止めるタイミングが無くなったのよ」

「豹さんの研究、ですか…ご主人様、時間があるときに私にも見せていただけますか?」

「好きにしなさい。それこそ、今の上海には良い資料になると思うわ」

 

…昨日から、豹がどれだけ素性を隠して私たちと接していたのかを思い知らされてばかり。ただの末端妖怪なんかじゃないことはわかっていたけれど、幻想郷でも名の知れた魔女からここまで評価されるほどなんて予想外よ。

 

「後にしてね~、ホントに日が暮れちゃう。それでその…妹紅さん?どこに住んでる人なの?」

「迷いの竹林で案内人をしているはず。後たまに慧音の手伝いで寺子屋に顔を出したりもするわ。私たちとしては彼女の焼き鳥屋に居れば探す手間が省けるのだけれど…」

 

問題なのは迷いの竹林の中にいる場合なのよね。上空から視認するのは難しいし、案内無しで竹林内部を探すのは非効率…出てくるまで待つ必要が出てきてしまうわ。

 

「まずは竹林の手前にある彼女の焼き鳥屋…というかあそこ営業してるのかしら?少なくとも私は店が開いてるところ見たことないんだけど」

「え、どういうこと?営業時間が夜になってからとかなの?」

「…そういえば、私も彼女が焼き鳥を売っているところは見たことない」

「閉店してしまったということでしょうか?私はそのあたりの情報は全くわからないので…皆様にお任せするしかないのですが」

 

…話が逸れているわね。私の目的からすれば歓迎すべき状況なのだけれど、豹のことを知りたいのは私も同じ。戻しましょう。

 

「これは私たちが気にすることではないと思うわ…とりあえずはそこに向かってみて、不在なら人里で慧音にでも聞いてみましょう。4人いるから二手に分かれても合流しやすいのだし」

「そ~だね~。それじゃ案内よろしくね」

「飛んで行けば見失うことは無いでしょう。私たちが揃って人里を歩いても目立つだろうし…あえて徒歩で向かう必要性は薄いわ」

「わかりました。ご主人様、カナさん、ルナサさん…私のためにご迷惑をお掛けしますが、お願いします」

 

上海が頭を下げる。本当に、もう人形とは思えないわね。

この素直な人形を騙すことに、罪悪感を感じるけれど。

もう私の役目は、決まってしまったから。

 

「気にしなくていい。豹に直接会いたいのは、私も同じだから」

 

私と一緒に、この舞台で踊りましょう…上海。

 

 

 

 

 

アリスとルナサに付いていき、地上に降り立つ。わたしはこの辺りに来るのははじめて。家屋がほとんど見当たらない竹林なんて、騒霊には縁が無い場所だったからね。

 

「…やっぱり閉まってる。留守かしら」

「いや、こっちだ。金髪が3人並んで飛んでく方向を見てまさかと思ったが…当たりだったようね」

 

後ろから、長い白髪の少女が声を掛けてきたわ。もしかして、この人が?

 

「プリズムリバーのお姉さんに、人形遣いに、…初めて見るな。並んでいると姉妹に見えるが…どういう組み合わせなんだお前ら」

「成り行きで同行することになったのよ。あまり時間が無いようだから早速本題に入らせてもらうわ。豹という男について、知っていることを教えてもらえるかしら」

 

いつの間にかアリスがリーダーみたいになってるのよね。実力的に申し分ないし、ルナサは引っ込み思案みたいだし、わたしは人里の情報に疎い…だから誰も反発しないのかな~。

 

「………ここでその名を出されるのは困る。中に入れ」

 

そう言って閉まっていたお店の中に彼女…藤原妹紅さんは迎え入れてくれたわ。

でも、困るってどういうことかなあ?

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