寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第151話 協力要請

「はあ…結局、問題になるのは霊夢の方なのね」

「間違いなく。昨日の襲撃者本人である妖夢を無条件で受け入れたところを見ても、夢子もユキも極力戦闘は避ける方針…情報を得るために実力行使しないというのは信用していいでしょう」

「うん、私に対して敵意が全くないのには驚いたよ。お爺様のお話を抜きにしても、無理に追い返す必要なんて私は感じなかった。霊夢と魔理沙の方がずっと乱暴で考え無しだよね?」

「あの二人も『斬ればわかる』妖夢には言われたくないでしょうねー」

「あ、あはは…それで、これから私たちはどうすればいいのでしょうか紫さま?」

 

白玉楼で幽々子・藍・妖夢と合流して、お互いの得た情報を整理したのだけれど…

結論としては【神綺達はむしろ安全】ということになってしまったわ。天界経由で侵入した二人には警戒が必要だけれど、幻想郷の住人である霊夢と魔理沙、風見幽香の方から手を出す可能性の方が圧倒的に高い。釘を刺しておいた魅魔さえもカナと上海を襲撃するという暴挙に出てきた以上大人しくしていることは無い。まあ、この4人に関しては想定内ではあるのだけれど…

 

真っ先に牽制を入れておいた隠岐奈も本気で豹を消そうとしている―――よりによって、私に霊夢と豹を天秤にかけさせるというやり方で。

 

「豹を排除することで敵に回る相手には侮れない存在も多い。隠岐奈なら理解できているはずなのに強硬策を打ってきた―――つまり、風見幽香を夢幻姉妹にぶつけるよう仕向けたのはまず間違いなく隠岐奈。だけど、あのフラワーマスターをどうやってこのタイミングで都合よく動かせたのかがわからないのよね…

今日中に夢幻姉妹とは私直々に接触するべき、か。それこそ神綺が来てから彼女たちに会うのはハイリスク過ぎる」

「そうなると、私はシンギョクが察知したという侵入者2人の捜索でしょうか?」

「お願いするわ。ただ、天界に直接乗り込むのは避けなさい…あの鬱陶しい天人に嗅ぎつけられると、必要ない方面にまで豹の情報が広まりかねないから」

「かしこまりました」

「橙は新たな追手の動向を探ってきて頂戴。橙とあうんで察知してくれた星熊勇儀と東風谷早苗…この2名が《誰と合流して》《どこに向かった》のかだけでいいわ。それを確認したら、家に戻って待機していなさい。

古明地こいしはどちらかと合流していなければ放置して構わないわ。あれは誰であろうと敵にも味方にも出来ないから」

「わかりました!!」

 

二つ返事でスキマに飛び込む藍と橙。余裕が出来たら少し休息を取らせたいのだけれど…まだしばらくは酷使することになりそうね。何かご褒美も用意しておかないと。

 

―――隠岐奈本人に対する鬼札は用意してあるとはいえ、それを隠岐奈の尖兵相手に切るわけにはいかない。そしてこのタイミングで増えた豹の捜索者は隠岐奈が裏にいる可能性がある…風見幽香は間違いないでしょうから私が対応するとして、読めないのが東風谷早苗。守矢神社は天狗と協力体制にある以上、隠岐奈が手駒として扱おうものなら天狗勢力から反発が出るはず。つまり、隠岐奈だけでなく天狗勢力まで動いた可能性もあるということ…その場合は星熊勇儀をこちら側に付けたい。

彼女が豹を狙う理由は再戦以外に無いのだから、豹の負担を考慮しなければ私達と利害が一致する。再戦する前に豹が魔界へ追放されることが、星熊勇儀にとって一番避けたい状況でしょうしね。

 

「それで、私と妖夢はどうするのよ?」

「幽々子は今まで通りよ。人里へ食べ歩きに出るならついでに情報収集しておいて。

…ここは最後の砦なのよ。夢子たちが再訪したとしても、幽々子がここにいれば誤魔化し切れるでしょう?なるべく動かないで頂戴」

「…まあいいけどー。私を出し惜しみして後悔しないでよ?」

「出し惜しみしてるわけじゃないわ。魔界人はスペルカードルールを理解できていない以上、幽々子に相手させるのはどちらも危険があるわ。死者を出すわけにはいかないし、上位魔法で幻想郷に被害が出るのも避けたいだけよ」

「それもそうねー。それじゃ、妖夢は?」

「妖夢は悪いけれど、一度人里へ向かってもらえるかしら」

「え、どうしてですか?」

「魅魔の姿形を把握しておいてほしいのよ。白楼剣を持つ妖夢は、悪霊である魅魔に対して切り札になり得る。霊夢と魔理沙に同行してるでしょうから、食料の買い出しに出てきた体で様子を見てきて頂戴。

もし絡まれたら『豹は隠れ家に帰ったらしい』とでも伝えておいて。霊夢たちは隠れ家の位置を知らないから」

「わかりました。それでは幽々子様、私も一度外に出ますね」

「行ってらっしゃーい。

 …それで?紫はどうするのよ?」

「最初に言ったわよ。夢幻姉妹と話を付けてくるわ。

 もっとも、タイミングを計る必要があるから時間がかかるでしょうけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

「豹の隠れ家を見つけられたの!?」

「はい、何度もお邪魔させてもらってたのですよー」

 

リリーから私の知らない豹のことを聞こうと話し始めて、すぐに驚くことになってしまった。豹が教えてくれなかった隠れ家を、リリーは自力で探し出してた…!幻想郷に春を告げて回るリリーは、それこそ妖怪の縄張り争いなどお構いなしに各地を飛び回れる。そして今直接話をしてみて初めて知ったけれど、そこらの妖精とは比べ物にならないぐらい賢い。ここ3日間で聞いていた豹に関わる話をほとんど覚えていたことも合わせれば…もしかすると、幻想郷の地理については私どころか慧音よりも詳しいのかもしれない。

 

「昨日からはカナさんと上海ちゃんがいるはずですよー。たぶんですけど、妹紅さんならリリーより詳しくお話ししてくれると思います」

「―――こないだ私と話に来てからだいぶ情報を集めたみたいだし、リリーがいれば私も信用してくれるか…」

 

星が明日以降ここに来た時に入れ違いになると二度手間だし、この雪なら人どころか妖怪も外に出ようとは思わないはず。なら、今からリリーに案内してもらって豹の隠れ家の位置は把握しておくべきだよな…

 

リリーが私に隠れ家のことを話すことは豹も織り込み済みだろうし、私の家は永遠亭に近い。要するにリリーが豹と親しくしていたことを知られると永遠亭からも狙われる可能性があるということ。逆に豹の隠れ家を知っている奴は豹がそれを伝えるほど信頼している相手…魔界から来たっていう妹とメイドも含めてだ。

 

(それに、地底なんて厄介なとこから狙われたリリーを任せてくれたってことは…豹は私を信じてくれたってこと。それなら、隠れ家に集まる面子とは協調出来るはずだし、リリーもここで匿うよりずっと安全…星の話を聞き終えたら私が隠れ家で寝泊りすればいいんだしね)

 

ならこれからの私が取るべき行動は決まりだ。問題はどうやってリリーを隠しつつ案内するか。

 

「…妹紅さん、豹さんの隠れ家に行きたいのですか?」

「うん、リリーを守るためにも今から連れてってくれないか?

 あまり得意な術じゃないが…私も隠形系の妖術を使えないわけじゃない」

「リリーからお願いしたいぐらいですよー!それこそ、豹さんがリリーのお家に来てからのことは早くみなさんにお伝えしたいですし!」

「決まりだね。それじゃ、慣れないが隠形術を…」

「このお家からでしたら遠回りしてもらえれば人にも妖怪さんにもあまり見つからないルートがありますよー?

ただ、この雪の中なのであったかくなれないと凍えてしまいますがー」

「…いや、リリーすごいな。もしかして幻想郷ならどこでも案内できるのか?」

「そういうわけではないのですよー。たとえば、エリーさんたちが住んでいた夢幻館なんて一昨日はじめて聞きましたし、ここから先にあるっていう永遠亭ってところにも行ったことがないですよー。

永遠亭だけには近付くなって、豹さんからとっても強く言われてますので―」

「そうかい…本当に豹は徹底してるな」

 

豹が永遠亭をあれだけ警戒していたのも、今になってようやく理解できた。ただ素性を知られてる可能性があっただけじゃなく、永琳も豹を敵視していた場合は簡単に人質を取れるから。

極端な話、一度永遠亭に引き込めば案内無しで迷いの竹林を抜け出すことはほぼ不可能。豹の仲間誰か一人が捕まった時点で豹を誘き寄せることが出来る…豹みたいなお人好しは、仲間を見捨てるなんて出来ないからね。

 

「それじゃ、リリーが使えるような防寒具を探してみるからちょっと待っててくれ。リリーも私の家より豹の隠れ家の方が安心できるだろ?カナと上海が受け入れてくれたら、私もそっちに泊まらせてもらうからさ」

「はい!お願いするのですよー!」

 

…こうして、私はリリーを永遠亭から離すことを優先してしまい。

永遠亭に向かっていた残りの3人が、この先とても重要な動きをしていたことを知るのは…全てが終わってからだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

(考えが浅かったか…!放棄されていたとはいえ、ここはれっきとした聖人の霊廟。俺にとって利用価値がある以上、元々深く関わっていた彼女にもまだ利用価値があって当たり前。

仙界に移っても、俺のような異分子を把握できるようにはしてあったということか)

 

今更悔いても遅い…!紫さんと藍が『使える』と判断していたことで『安全』と思い込んでしまったことが一つ。そして偶然にも地下への入口でレティと会えたことで、一度切った隠形魔法を再行使せずに地下に侵入したことが一つ―――二つのミスが重なった結果が、今の状況で目を付けられたくなかった相手の中でも最上位に入る邪仙との遭遇。どう切り抜ける…!?

 

「…無人と聞いたからこの雪を一晩凌ぐために使わせてもらうつもりだったんだが。

迷惑になるようなら引き返すが、一晩雨宿りさせてもらえないだろうか?」

「貴方ほどの殿方が雨宿りなんて、何か大変なことに巻き込まれてしまったようですね。

私に力を貸して頂ければ、仙界でお客様としておもてなし致しますが…如何でしょう?」

 

まったく悪意を感じない態度で交渉を持ちかけてくる…が、どれだけ追い詰められようともこの邪仙は頼れない。彼女自身の行動指針や倫理観も相容れない面がある以上に、俺にとっては豊聡耳神子の関係者ということが問題だ。

 

俺の精神守護能力は、豊聡耳神子の性格・行動方針及び読心系能力に対する相性が悪過ぎるのだ。あの聖人は現在の幻想郷における有力勢力代表の中で頭一つ抜けて【支配欲】が強い。元々外界で政治家だったこともあり、人里から望まれれば為政者となると公言している。それは紫さんの創り上げた理想郷を守るべき立場だった俺からすれば、()()()()

そして実利的かつ打算的な為政者である彼女からすれば、能力を無効化できる俺は要警戒対象になるだろう。潜伏が基本となる俺にとって最も関わってはならないタイプの相手なのだ。実力行使に出てでも彼女の拠点である仙界に出向くことは避ける必要がある。

 

「いや、雨宿りを終えたらすぐに合流したい相手がいてな…異界に向かうような時間の余裕は無いんだ。

ここで一晩過ごすことに何か問題があるのだろうか?」

「いえ、そういうわけではありませんわ。単に私が貴方に興味があるだけですのよ。

私の接近に気付けるほどの方が、何故魔力を封じて活動しているのか。貴方ほどの方がわざわざ墓地の地下にあるこの霊廟に雨宿りにいらっしゃるなんて、どういった経緯なのか。

―――逃亡もしくは潜伏が目的なのであれば、私が庇護して差し上げたいのですよ。貴方ほどの殿方は、ここ幻想郷で探し出すのは困難ですので」

「高く評価してくれるのは光栄だが、庇護は必要ない。一時的に離れているだけで、匿ってもらえる当てはあるからな」

「あら、あら…それは惜しいですわ。

 でしたら、私からも貴方への利益を提示しなければなりませんね」

 

…思っていた以上にこの邪仙は俺にご執心のようだな。これはそう簡単に退いてくれることは無いか…!

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