寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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…よくここまで続けられたなあというのが作者の本音です。
お付き合い頂いている読者の皆様に、あらためて感謝を。ありがとうございます。


第152話 警戒せざるを得ない理由

「お師匠様が姫様と私まで集めるなんて珍しいねー。それも月の玉兎どころか外の巫女までいるし」

「私は巫女ではなく風祝ですよ。まあ、おとぎ話のかぐや姫と直接話すことになるなんて思いもしませんでしたが」

「あら、つい最近こっちに来た貴方がそう言うのであれば私はまだ外で語り継がれてるのねえ。永琳が事あるごとに屋敷から出さないようにする今となっては、あの頃有名になり過ぎたのは失敗だったかしら」

「輝夜、悪いけれどまたしばらくは大人しくしてもらうわよ。今回はウドンゲを保護した時や月の遷都騒ぎの時と違って、交渉が通じない可能性のある相手…下手をすれば魔界がここに手を出して来かねない。

そうなれば、その元凶と見られる私は幻想郷から退去させられてもおかしくない。それどころか魔界の出方次第では幻想郷そのものが維持できず崩壊する可能性すらあり得るわ」

「そ、そんな大事なんですか!?」

 

早苗と清蘭と鈴瑚を永遠亭に連れて来て、サリエルと魔界人の豹の名前を出しただけではお師匠様の反応も薄かったんだけど。早苗が持ってた豹って奴の写真を見せたら、血相を変えて私にてゐを連れてくるよう命じてお師匠様は輝夜様を呼びに行った。

…お師匠様のあんな表情は初めて見たわ。だからただ事じゃないと思って、連れて来た3人を放置しててゐを連れて来たんだけど。

 

「えー、なによ魔界が手を出してくるって。そんなのあのスキマ妖怪あたりが止めるでしょ?そんな面倒臭そうなことに私が首を突っ込むわけないじゃない。なんでまた外出禁止になるのよ?」

「今回の相手は私に私怨を向けている可能性が高いわ。輝夜もサリエルのことは憶えているでしょう?」

「名前は覚えてるけど詳しいことは知らないわよ。私が知ることが出来ないところで全部終わってたじゃない」

「…そうだったわね。まずはここから説明しないと事の重大さが理解できない、と」

 

輝夜様も知らないような月のことを話してくれるみたい。でもそれって、永琳様クラスの上層部にしか開示されてない機密情報ってことよね。

…私や清蘭、鈴瑚が聞いていい話じゃないような気がするんですが。大丈夫なんですかお師匠様?

 

「まずサリエルに関して、月の民には意図的に情報統制した部分があるわ。

 サリエルは私たちが追放したんじゃなく、取り逃がしたのよ」

 

 

 

 

 

「―――これがサリエル追放の顛末。永く生きた私は失態を晒したこともそれなりにあるけれど、その中でも五本の指に入る大失態がこの一件だわ」

「八意様と…」

「サグメ様と…」

「依姫様と豊姫様が包囲した状況から逃げ延びた…」

「…とても信じられないけれど、永琳が外からの客人にも話した以上はこれが真相なのよね。

 そして、魔界からサリエル救出に向かって来た男というのが…」

 

月の上層部のことを知らないてゐと早苗はよくわかってない表情だけど、私と輝夜様、清蘭に鈴瑚にとっては衝撃的過ぎる話だったわ。月の頭脳と呼ばれた天才永琳様、月でも有数の実力者である依姫様、空間移動に関しては右に出る者がいない豊姫様、今でも月の切り札として扱われているサグメ様。

ここに指揮する兵を加えた包囲からサリエルは逃げ切ったということ。そして、それを援護したのが…

 

「彼のことは忘れもしないわ…私はあの時完全に彼の邪視に囚われた。もし彼とサリエルの与えた魔眼の相性が良ければ、そのまま即死していたのだもの。私は総司令官や参謀として後方で動くのはともかく、前線指揮官として直接戦闘に参加するのには向かないということを思い知らされたのよ。

私の本質はあくまで研究者。戦闘員として前線に出たのが間違いだったわけね」

「お師匠様がそんなこと言う相手なら、私はさっさと逃げ出したいんですけど。

 どう考えても戦力にならないですよ?」

「てゐはある意味私の奥の手よ。意図的に幸運を招くなんて代用が利かない貴重な能力。

だからこそ危険の少ない輝夜の護衛に回ってもらうから、その心配はいらないわ」

「ならいいですけど。話だけは聞いておけってことですねー」

 

…まあ、お師匠様の言うこともわかるのだけど。要はてゐを護衛に回す以上、前面に出るのは必然的に私よね。これ、早苗だけじゃなく清蘭と鈴瑚も連れて来たのは大正解だった。私一人でそんな奴を相手にして立ち回れなんて言われたら絶望するしかなかったわ…

いや、純狐さんやヘカーティア様に比べれば戦力的にはマシなのかもしれないけど。

 

「…一つ、いいですかね?私は月のこと全然詳しくないので、あまり事態の深刻さがピンとこないんですけど」

「何かしら?」

「神奈子様と諏訪子様が『ユキという豹の妹と、夢子という魔界神のメイド』がもう幻想郷に侵入してるって情報を掴んでくれてるんですが。もしかして、今のお話に出て来たユキというのは」

「っ!?そこまで事態が動いているなんてね…!

おそらくは同一人物でしょう。ただ、なぜあの兄妹が分かれて動いているのかを私が知るはずもない。

だからこそ、貴方の持つ情報を貰いたいわ。サリエルのこと、豹のこと、ユキのこと…知っている情報をすべて共有してもらえないかしら」

「うーん、私も詳しいところまで教えてもらってるわけじゃないんですけどねー…」

 

そう言いつつも早苗が持っている情報を話し出したわ。

 

 

 

「―――と、私が聞いているのはこれだけです」

「…彼ほどの者が魔界を追われたというのもわからないけれど、追手として現れた魔界人が彼に危害を加える気がないというのもわからないわね。追撃者ではなく迎えの使者から逃げ回っている…?」

「ねえ永琳、サリエルも魔界にいるのよね?」

「そのはずよ。清蘭と言ったわね。襲ってきたのは悪魔で間違いないのね?」

「はい!片方はちょっと正体を見抜けませんでしたが、えりって呼ばれてた方は間違いなく悪魔でした」

「それならサリエルは魔界にいると見て間違いないでしょう。悪魔が故郷である魔界から離れるのは稀…悪魔を部下として使役していること自体がサリエルが魔界から離れていないことの証明になる。

もっとも、ウドンゲが半信半疑だったようにサリエルの部下を騙ったという可能性も残るのだけれど。豹とユキという魔界人が絡んでいる以上は、サリエルも本人だと見て動きたい」

「八意様でも、魔界の正確な情報は持っていないということなのでしょうか?」

「ええ、今の私はあくまで潜伏中の身…ここ隔離された幻想郷内のことはともかく、異界のことまでは把握していない。それも月と因縁のある魔界なら猶更よ。

少なくとも私個人は、もうサリエルとも彼とも敵対する気は無いのだけれど…」

「サリエルも豹も、お師匠様を好意的に見るはずがないということですよね…」

「そう考えるべきね。そしてサリエルは私にとって最も警戒すべき相手なのよ。

 死を司る癒しの天使にして、霊魂の看守である彼女であれば…蓬莱人を疑似的に殺し得る」

「「「「「「!?」」」」」」

 

その言葉に、状況の深刻さを理解しきれていなかった早苗すらも驚愕したわ。

 

「魂のみが存在の本体となっていることで、肉体が滅んでも新たな肉体を生み出す事で復活するのが蓬莱人。でも、サリエルであればその不滅の魂による再生を阻止できる…

冥界の主である西行寺幽々子の上位互換の能力と考えていいわ。彼女の能力はあくまで死を操る程度…魂にまでは影響しないからこそ蓬莱人には効かない。でもサリエルは死を司るだけではなく霊魂の看守という役目を果たしていたことで、その能力と組み合わせれば蓬莱人の復活を止められる。

蓬莱人の不滅の魂といえど、《即死の魔眼で死んだ状態の肉体》に()()()()()()()()()()()()()()()は【リザレクション出来ない】のだから」

「…まさか、そんな手段を実際に取れる相手が存在するなんてね。妹紅が知ったら飛び付きそうだわ」

「もっとも、不滅の魂を死んだ肉体に閉じ込めるという手段がどれだけサリエル自身の負担になるのかは私でもわからないわ。魔力や労力に対して釣り合わない行為であれば、サリエルにとって不利益でしかない行動になるかもしれない。

だとしても…輝夜を疑似的にとはいえ殺し得る手段を持つ相手である以上、私はサリエルを警戒しなければならないのよ。

―――貴方達が、手を貸してくれるのよね?」

 

…お師匠様がここまでハッキリと外部の人間に協力を求めるのは珍しいわ。それこそ純狐さんを止めることになったとき以来かしら。

でも、その理由も頷ける。最初にお師匠様が言った通り交渉が通じない可能性がある上に、輝夜様に危害が及ぶ可能性すらある相手…!お師匠様自身との因縁よりも、輝夜様の安全が脅かされることの方が重要視される事柄。使えるものは全て使い倒す気でいるみたいね。

 

「むしろ私からお力添えをお願いしたいぐらいです!私みたいな下っ端一人じゃどうにもならない相手なので!」

「私からもお願いします。月の上層部は私たちのことなんて捨て駒ぐらいにしか見てないですからね…

使い道を見つけて指示を出してくれるなら、直接会ってもらえる八意様の方がずっと頼りになりますし」

 

清蘭と鈴瑚は何の躊躇もなく肯定。それはそうよね…月の支援がない玉兎だけで対処できるような問題じゃないわ。

 

「私はその豹を捕まえたら大天狗様に引き渡さなければなりませんので、その後の処分には関われませんよ?

それでもいいのでしたら、私としてもぜひ協力してもらいたいんですが」

「構わないわ。幻想郷の有力者の管理下に彼が置かれさえすれば、私からの干渉が通じる。これでもそれなりに幻想郷に対しての発言力は持っているから。

しばらくは私達と協調して頂戴。貴方の神社もこんな状況においては人手不足でしょう?」

「交渉成立ですね!よろしくお願いします!」

 

よし、早苗なら十分戦力に数えられる。上手く私の負担を分散させてもらうわよ。

輝夜様絡みとなると、お師匠様は容赦なく私をこき使ってくるからね…!

 

「まあ永琳に任せておけば問題ないと思うけど、具体的にはどうするのよ?

サリエルも豹とやらもそう簡単にここへたどり着くことは無いでしょう?下手に私たちから動くより静観した方がいいんじゃない?」

「輝夜の言うことも一理あるのだけれど、魔界人はともかくサリエルの目的が全く見えてこないのが私の懸念点よ。部下を動かしている以上、サリエルにも目的があるということなのだから。

だからこそ当面は情報収集と、協力者の確保に動いてもらうわ」

「協力者?そんな当てがお師匠様にはあるんですか?」

 

てゐが口を挟んできたけど、それは私も疑問。永琳様自身が言っている通り、ここ永遠亭は潜伏場所。外部との繋がりなんてほとんどないはずなのだけれど…

 

「ウドンゲと風祝は守矢の二柱に協力体制を取ることにしたと報告しに行きなさい。そうすれば二柱が天狗に対して強気に出れるようになるから、伏せていた情報も引き出してもらえるはずよ」

「あ、それはそうですね!お任せください!」

「…まあ、いいですけど。喧嘩を売られたら買ってもいいんですか?」

「好きにしなさい。出来れば風祝に対応してもらいたいけれどね。

 清蘭と鈴瑚はドレミー・スイートと接触を図りなさい」

「え、あの獏ですか!?たしかに協力してもらってたとは聞きましたけど、私たちみたいな下っ端が会えるような相手じゃ…」

「そこは私が上手く夢の世界への入り方で調整するわよ。ただ、最初から私が出向くと別の有力者にも情報を流される可能性がある…あの獏は管理する側としては実直かつ合理的。詳しい説明を私がするという方向に持って行かないと、独断で別の協力者を得ようと動いてしまう可能性があるわ」

「そ、そこまで考えてるなんて流石は八意様です…

 つまり、接触するための移動ルートは指示してもらえるということですよね?」

「そうしないと時間効率が悪いわ。私が指示する。

その次は―――風祝、さっきの写真に写っていたもう一人の少女の情報はある?」

「え?あれはルナサさんですけど、ご存じないんですか!?」

「…どこかで聞いた名の気はするわね。たしか…プリズムリバー?」

「ああ、お師匠様があんな人口過密なところに興味を持つはずがなかったですね…

人妖問わず人気な楽団のメンバーですよ。完全憑依異変の黒幕が利用していたライブの演奏者です」

「ああ、それは私も詳しく調べてないはずよね。

協力者候補と接触し終えたら、彼女のことを探っておいて。豹と彼女に接点があったことは、この写真が証明しているのだから」

 

…とりあえず、最初の標的はそれほど危険は無さそうなのが救いね。私たち実働部隊の危険が少なくなるような妙策を、お師匠様が打ってくれることに期待しましょう。




サリエル様と蓬莱人のくだりはもちろんこの作品の独自設定。

蓬莱人の設定にサリエル様の伝承でメタ張れるのは作者的にテンション上がった要素なので独自解釈させてもらってます。
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