寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第159話 兄として残したもの

「…私の独断ではこれ以上話を進められないな。

明日神綺がこちらに着き次第、紫様が接触に向かうのは先ほど伝えたとおりだが…サリエルが同行することは無く、しばらく時間を置いてから侵入するということなのだな?」

「うん、わたしたちが聞いた限りではそうするつもりみたいだよ~」

「散発的とはいえ何度も幻想郷に来ていらっしゃる神綺様と違って、サリエル様は初めて幻想郷に来るそうです。神綺様と同時に侵入してしまえば、強大な戦力過ぎて警戒どころか迎撃されてもおかしくない…それを避けるためにサリエル様は後発で動いていただけるそうです」

「最初から紫様か私で対応するのであれば、同行してもらった方が手間が省けるが…致し方ないか。

サリエルは私が迎えることになるだろう。他の管理者が先に動く方が問題だ…神綺との会談は私抜きで進めておいてくれ」

「なんなら今から母さんに伝えるわよ?緊急連絡用の魔法具なんてこんな事態でもないと使わないでしょうし」

「いや、八雲の立場からすると余計な借りを作るわけにもいかない。霊夢たちの件で譲歩してもらっている以上、下手に出ると不利な交換条件を飲まされる可能性があるからな」

「流石は八雲紫の式、よく理解してるわね」

 

ここまでで打ち切ると言うように、藍が話題を終わらせたわ。まあ、これ以上は夢子も上海も引けないでしょうし仕方ないわね。

―――これで最低限の話は済んだでしょう。やっと私にとって衝撃的なモノを調べられるわ。

 

「それじゃ、私は上海の魔力翼を調べるけれど…藍はどうするのよ?夢月を放置しておいて本当に大丈夫なの?」

「不安がないとは言わないが、ルナサとのやり取りを見る限りまだ大暴れすることは無いだろう。

だが、私からこれ以上聞きたいこともない…逆に、私が答えておくべきことはまだあるか?」

「…大丈夫かな?それこそ『お互いまだ話せない』こともあるだろうし」

「そうね。今日のところはもういいでしょう」

「そうか。なら私もこれで失礼しよう。

 …麟、豹のためにも―――己の果たすべき役割を忘れるなよ」

「はい、藍様」

 

麟がしっかりと返事を返したのを見て、藍がスキマを開いて姿を消す。

…なるほどね。八雲の隠者候補と名乗ったのは自称なんかじゃなく、八雲の姓を持つ者からも認められていたわけか。

 

「…ふぅ。今日はほとんど藍も同行してたようなものだったわね」

「ここに来てまた話に来てくれるなんて思わなかったよ…逆に言うと、藍も八雲紫も本気で兄さんを幻想郷に引き留めようとしてるんだね。直接介入できないから、思いっきり対立しちゃってるわたしたちを情報の当てにするぐらいに」

「本当に、先輩は先輩のままね。護るために行動するからこそ、護られることに慣れていない強者も惹き付けてしまう」

「母さんにサリエル、夢幻姉妹に八雲主従…こんな規格外が集まって実力行使での奪い合いになったら幻想郷は崩壊するわよ。なんとか穏便に済ませないといけないわ。

…なんで私がそんな事に気を使わなきゃならないのかしらね」

「アリスのお母さんが神綺様だからじゃないかしら~?」

「いやメル姉、そんな身も蓋も無い…」

「ですが、アリスさんがいたからこそ紫様と藍様は穏便に済むよう動くことが出来ています。隠岐奈様も動いてしまった以上、どうか協力できるところでは協力してもらえないでしょうか…!」

 

冴月麟…直接彼女と話をしてはっきりしたのは、己の弱さを理解していながらも豹の傍に近付こうという強い意志を持って動いているということ。こういったタイプは敵に回すと面倒だから、なるべく友好的な距離感を保っておきたいところ。

 

「安心しなさい、もう後戻りできない立場なのは理解してる。しばらくは情報共有と、隠岐奈とやらの警戒を優先してあげるわ。

豹と面識のない私が、魔界と幻想郷ごと豹を助けなきゃならないのはとばっちりでしかないけど…落ち着いてから報酬を要求すれば私にもかなりの利益がありそうだしね」

「うん、それはわたしが保証してあげる。アリスが兄さんから得られるものは数え切れないほどある。

妹のわたしでさえ、まだまだ兄さんからもらえるものはたくさんあるんだから」

 

ユキに言われなくてもそれは理解できている。今の時点でも地下室に残されていた資料や、今から調べさせてもらう上海の魔力翼は私にとって貴重過ぎるものだから。

全てが終わったら、魔法使いとしても人形遣いとしても…魔界人としても。豹とはゆっくり時間をもらって話してみたいと思えているのだから。

 

「ありがとうございます、ご主人様…!」

「気にしないでいいわよ上海。ただ一度外に出なさい…本当に影響がないのか、実際に魔法を使ってるところもチェックしたいから」

「あ、はい!わかりました!」

 

さあ、私の人形に他人の手が加えられたなんて次があるかすらわからない貴重な体験。今日はもう動かないと言い切ったし、しっかり観察させてもらいましょう。

 

 

 

 

 

「―――どうでしょうか、ご主人様?」

「問題ないわね。

…本当に、豹は凄まじいわ。これほど高性能な魔力タンク兼質量刃なんて母さんの魔力翼以外に見たことが無いわよ」

「うん、兄さんも明らかに神綺様の黒翼を意識してるよ。ただ展開しっ放しで収納できないから、神綺様みたいに近接戦闘の隠し技として使うのは難しいかな?」

 

私直々に見ても、豹の魔力翼は上海には全く害のない有用な創造物だったわ。私とユキと豹の魔力が上海のボディに同時に入ることだけでも、普通は悪影響が出てもおかしくない。下手をすれば魔力を留めきれずに内部からボディが崩壊してしまうような危険さえあるのに、上海は問題なく三つの魔力を動力に変換できているわ。それどころか…

 

「やはり魔法系統における向き不向きは、術者の魔力によって左右されるのですね‥‥

弾幕や攻撃魔法はユキさんの魔力が最も威力が上がりますし、空間魔法や探査・索敵魔法の燃費は豹さんの魔力が一番消費が少なく済みます。そして妹たちを私が動かすときや、ゴリアテちゃんの術式はご主人様の魔力じゃないと安定しません」

「…上海だけでなく、隠れ家の意識も上級魔法使いとしての素質がありそうね。他人の魔力を奪って扱うこと自体、苦手であれば上級魔法使いでも難儀するもの…人形という特殊な存在とはいえ、それを難なく理解し使いこなしている上海と隠れ家は、すでに魔力の取り扱いに関して中級魔法使いは超えているわ」

「兄さんは相手の魔力を逆用して魔力枯渇に追い込むのも得意だったし、その方向の研究資料もあったからね。隠れ家ちゃんはそこから覚えたのかも」

「本当に、幻想郷で隠棲させるのが惜しいわよ豹は…最上級の空間魔導士として手元に置きたがるのがいくらでもいる。というか魔界全体でもこれだけ有用な研究資料はなかなかないんじゃないの?」

 

それぞれの魔力を上手く使い分けて、最高効率で扱うことにまで理解が進んでいる。私の人形(むすめ)ながら本当に優秀な魔法使いね。

 

「それはそうよアリス。先輩が編み出した複合魔法や後進のために残してくれた研究資料には、使いこなされると神綺様でさえ対処に手間がかかるようなモノすらあるわ。パンデモニウムでも最重要機密扱いで資料の閲覧を許されるのは、神綺様と私が認めた相手だけなのよ。というか見せたことがあるのはユキとマイにサラ、ルビーとサリエル様ぐらい。旅行先で悪用されると問題になりかねないって理由から、ルイズにさえ閲覧許可が出せないレベルのもの」

「…うん、魔界のことよく知らないけど、豹が想像してた以上に物凄いウィザードだったってことはわかった」

「物凄いどころではないですよカナさん。紫様のお言葉を借りれば『独力で私のスキマや隠岐奈の後戸への対抗手段を編み出した存在は豹以外に知らない』そうですから」

「でしょうね~、私も豹がここまでとんでもない魔法使いだったんて思いもしなかったわ~」

「まさかライブのスタッフの気のいい兄ちゃんがさー、あのスキマ妖怪の協力者で、魔界の超エリートだなんてわかるわけないじゃん。それこそルナ姉に釣られなかったら私たちと関わることなんてなかっただろうし」

「…でもそれ、幻想郷の管理者は兄さんでも対抗手段が必要になったレベルってことだね。

 本当に侮れないな…単独行動はなるべく避けるべき、か」

 

まさかそこまでなんてね…パンデモニウムの重要機密保管庫は厳重な封印と警備・防護領域が展開されていたけれど、その理由を聞いたことはなかった。私は魔界の上層部だけが把握するべき情報に関しては避けていたから。

まだ重い立場を押し付けられたくなかったし、七色の魔法を扱えるようになったとは言ってもまだまだ私は駆け出しの最上位魔導士。先に学ぶべきことなんていくらでもある…もっとも、この一件が片付いたら母さんと夢子から色々聞いておくべきことの中に、最重要機密も混じっているのでしょうけれど。

 

そもそも今追っている豹がすでに魔界の最重要機密なんでしょうしね。

 

―――そんな事を考えていると、私が行使状態をチェックするために索敵魔法を展開していた上海が大きな動きを拾ってくれたわ。

 

「――あれ、これは…?

ご主人様、カナさん。藤原妹紅さんが、随分と遠回りしてはいますが…豹さんの隠れ家に向かって移動しています」

「へっ?妹紅さんって、真っ先にお話を聞きに行った焼き鳥屋さんだよね?」

「はい、その時は隠れ家の場所を教えてもらってないとおっしゃってましたよね?」

「そのはずだけど…誰かに案内してもらってるということ?」

「…あっ!?

消去法で考えれば、今隠れ家へ案内しているのはリリーじゃないでしょうか!?」

「あ~!有り得るかもしれないわ!

カナか上海は隠れ家に戻るべきじゃないかしら?」

 

麟がその可能性に気付いて、メルランが尋ねてくる。この中でまだ私をリーダー的存在として見てくれてるあたり、やっぱりメルランも荒事向きじゃないわね…まあ私が心配することでもないのだけれど。

 

「ご主人様、私はもう少しチェックして頂いた方がいいでしょうか?」

「そうね…大丈夫だとは思うけど。逆に上海がまだ試したいことはあるのかしら?」

「いえ、特には。ですので、妹紅さんとお話をしに向かいたいのですが…!」

「ならそうして頂戴、情報はいくらでも欲しいわ。

 カナ、通信人形(マトリョーシカ)を持っていきなさい…って、しまった。ルナサと夢月に渡すの忘れてたわ」

「あ、それなら私が持ってくよ。ルナ姉が帰って来たら、三つ全部繋げて明日の予定を打ち合わせすればいいじゃん。私とメル姉は大した情報持ち帰れなかったし…って、思いっきり報告してなかった!」

「忘れてた!霧の湖の大妖精だけど、やっぱり豹の行き先は知らなかったのよ~。ここに来るならリリーを先に頼るはずって言ってたわ。

それで、ノエルっていうのは豹が彼女に命名という呪いをかけたことで、一部からそう呼ばれるようになったそうよ~」

「ふふ、やっぱり先輩とユキは兄妹ね」

「うん!嬉しいな…別の相手とはいえ、同じ事してたなんてね」

 

…ああ、そういえば教えてくれたことがあったわね。

氷雪世界の守護霊・ツララ。彼女の名はユキが名付けたんだって。

 

「ただ、チルノにはノエルって呼ばれてるのを隠したいみたいなのよ~。だから大妖精で呼んだ方がいいかもしれないわ。余計なことして豹の負担が増えると大変そうだし」

「そうですね…彼女から私たちに接触してきた時だけ、ノエルと呼べばいいのでしょう」

「ま、そういうことだからさ!

後は人形で明日の予定だけ伝えればいいんじゃない?この雪の中派手に動くことは無いと思うし」

「それもそうか…冬になった途端にこれだけ積もる雪は珍しいものね。

 カナ、上海を連れて妹紅と接触して。麟はどうするの?」

「私もカナさんと上海ちゃんに同行させてください!思い出してもらえれば、妹紅さんとは情報交換ができる程度の関係はあったので…!」

「わかった!一緒に行きましょ!

 それじゃ、後で人形に伝えるわ!今日はこれで解散ね!」

 

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