寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第16話 過ごした時など刹那でしかなく

「失礼する」

「あれ、藍?どうしたの?」

 

食材の買い出しに出ようとしたところで、白玉楼に藍が入ってきました。紫様はいないようで、藍だけで来るのは珍しいです。

 

「む、妖夢は今から出かけるところだったか?悪いが少し付き合ってくれ。妖夢も交えて幽々子様に頼みたいことがある」

「あ、うん。幽々子様にそう伝えるから、ちょっと待ってて!」

 

 

 

「あなただけでここに来るのは珍しいわねー。紫は手が離せないということかしら?」

 

幽々子様も私と同じことを思ったようですが、それだけで私より踏み込んだ事情を把握できたみたいですね。流石です。

 

「はい。紫様も今、友のために手を尽くしています。私たちの友のために手を貸していただきたくここに参りました」

「ふーん…紫の友、ねえ。心当たりは何人かいるけれど、誰のことかしら?紫が私のところにあなただけ寄越すなんて、だいぶ切羽詰まっているようだけど」

 

なんだか、すごく大変なことが起きてるみたい。藍がこんなに真剣で、紫様も手を離せないなんて。

 

「豹が、魔界に通じる者に存在を知られました。すでに八雲を切り捨てて、潜伏したようですが…

私も紫様も、豹をそう簡単に見捨てたくはない。表立って我々が手を貸せないために、幽々子様に協力をお願いしたいのです」

 

…誰でしょう。私の知らない名前が藍の口から出てきました。

 

「…豹ってたしか、紫が奥の手として扱ってた彼よね?あなた達がそこまでする相手だったのが意外だわ」

「豹自身が目立つことを避けていましたから、我々も徹底的に秘匿していました。今の状況になったからこそ明かせますが、我々にとっては幽々子様よりも長い付き合いですし、おそらく豹は紫様よりも長く生きています。借りもありますし、友人としての情もある…それなのに、豹の方から繋がりを切ってしまった。俺一人のために魔界を敵に回すわけにはいかないだろう、と。豹がそこまで幻想郷に気を遣う必要など無いはずなのに」

「紫らしくないわね。そこまで言ってくれてるのなら、むしろいろいろ押し付けて切る方向に動くべきだと思うわ」

「幻想郷のことだけを考えるならばその通りですが、切り捨てるにはまだ早いというのが紫様の判断です。豹を切るのであれば、魔界絡みの問題すべてをまとめて済ませたい…霊夢のことも含めて、と」

 

…どうしよう、話に全くついていけない。

 

「協力していただければ謝礼として、紫様が外の世界から仕入れた洋菓子を用意します」

「任せなさい!何をすればいいのかしら?」

「ゆ、幽々子様…そんな簡単に答えて大丈夫なのですか!?」

「紫の友人なら私の友人よ!友人を助けるのは当たり前じゃない!」

 

流石は紫様です。幽々子様を動かすにはどうするべきかをよくわかっています。

…もう私が何を言っても駄目でしょう。せめてもう少し事情を聴いてから答えてほしかったです。

 

「一つは豹の潜伏先としてここを候補の一つにさせていただきたい。期間は魔界の追手に豹はもう幻想郷から離れたと誤認させるまで。ただ、豹自身はほとんど面識がない幽々子様を頼ることは無いでしょうから、ここに豹を送る場合もう9割方勝利を確信できている状況になると思います。ここに豹がいることが魔界側に漏れた場合、紫様が豹を切らなかったことを隠すのが困難になり、八雲にとってリスクが高すぎますから」

「それぐらいお安い御用だわ。部屋なら余っているし、妖夢や使用人の幽霊に口止めすればいい話よね」

 

ちょっと待ってください幽々子様。それは、ここ白玉楼に素性の知れない男性を受け入れるということですよね?私の負担や心情は考えていただけないのでしょうか。

負担はともかく、男性をここに住まわせるというのはとても複雑なのですが…

 

「もう一つ、こちらの方が重要です。今はまだ魔界の追手が本格的に動いていないので、反応していないようですが…この先豹の捜索に本腰を入れられると、霊夢も動くでしょう。

それに備えて、妖夢の力を貸していただきたい」

「ふえっ!?」

 

急に話を振られて変な声を出してしまいました。

 

「……ああ、そういうこと。霊夢がこれ以上魔界人を攻撃するのが問題になるのね」

「同じことが魔理沙にも言えます。魔界の強硬派が幻想郷へ攻め込んでくる口実を与えないために、霊夢と魔理沙が追手と交戦するのは避けるべき…そこで妖夢には、霊夢と魔理沙が動きそうになった際に先手を打って魔界の追手を抑えてもらいたい。かつて魔界に乗り込んだ4名…霊夢、魔理沙、魅魔、そして風見幽香。この4人以外との衝突であれば、穏健派である魔界神に話を通せば全面戦争は止められるはず」

「いいでしょう。妖夢、魔界人との手合わせはほとんどしたことが無いわね?いい機会だし修行の一環として、しばらくは紫と藍の指示に従いなさい」

「えっ、えっ!?」

 

なんだか理解できないけど大変な話が、私の意思関係なしにとんとん拍子で決まっていく。私にも理解できるように説明をしてくださいぃ………!

 

 

 

 

 

 

 

 

「とりあえず、私のことは知られているようだから置いておこう。そっちの白い帽子の子、名前を教えてくれ」

「カナだよ~、カナ・アナベラル。豹のお家に取り憑かせてもらってるわ。あなたが妹紅さんね、よろしく~」

 

焼き鳥屋ということに嘘は無かったようで、カウンター席に私たちを座らせて藤原妹紅が向かいに陣取った。ちょうどいいから先に紹介しておきましょう。

 

「上海、あなたも先に挨拶なさい」

「あっ、はい!はじめまして、上海です。ご主人様共々よろしくお願いします」

 

流石の蓬莱人もこんな流暢に話す人形と遭遇することはなかったのでしょうね。彼女のこれほど驚愕した顔は二度と見れない気がするわ。

 

「………アリス、この人形に何があった?」

「豹の隠れ家が持ち始めていた意志と記憶が上海に宿ったのよ。これ以上の説明は時間の無駄でしょうから、納得して頂戴」

「その、私自身にもわかっていないことの方が多いのです。どうか深く考えずに受け入れていただけないでしょうか…?」

「…わかった。聞いたところで私にわかることなんか無さそうだし、礼儀正しい妖精とでも思うことにするわ…。それで、本題だが」

 

あらためて妹紅がこちらに向き直る。予想はしていたけど、またそれなりに覚悟のいる話になりそうね。

 

「豹のことを話すのであれば、これだけは必ず守れ。守れないというのなら私がお前らを口封じしても文句は言わせない。

―――永遠亭の関係者、特に八意永琳には豹のことを絶対に知られるな」

 

今更どんな大物の名前が出てこようと驚かないと思っていたけれど。これはまた意外な大物の名前が出たわね。

 

「…私はそこの面々と接点が全くないから構わないわ」

「だね~。わたしも知らない人だし、豹のことを言いふらす気なんてないしね」

 

騒霊であるルナサとカナは薬剤師に用は無い、か。

 

「私も別に構わないけれど、どういうことなのかは教えてくれるのかしら?」

「私はご主人様に従いますし、豹さんの迷惑になることはしたくないです」

 

魔界から逃げている男が、月の重鎮からも隠れようとしている。繋がりが全く見えてこないわ。

 

「…いいだろう、その言葉、忘れるなよ。

教えるも何も、私も詳しいことは知らない…豹にそう頼まれただけだ。豹が言うには、

 

『八意永琳は、俺が道を踏み外したきっかけの一人だ。俺の事を覚えられてる可能性がある以上、ここにいることは伏せておいてくれ』

 

だそうだ。元々親しい仲だったわけじゃないが、私がここに落ち着いてから豹とますます疎遠になったのは事実でね…少なくとも豹の方は徹底して永遠亭に近寄ろうとしない」

 

―――含みのある言い方ね。魔界から逃げ出した直接の理由では無いということかしら?

 

「アリス、魔界と月に繋がりはあるの?」

「少なくとも私は知らないわ。ただ、これだけスケールの大きい話だと母さんは何か知ってると思う…聞かなきゃならないことが増えたみたいね」

「うん?アリスの母親はそんな大物なのか?」

 

…まあ、隠しているつもりはないのだけれど。あまり大っぴらになるのも面倒なのよね…

 

「母親として私を育ててくれた神綺は魔界の創世神よ」

「………冗談だよね?」

「信じなくても構わないけれど、霊夢と魔理沙に八雲紫あたりは知っているから隠してはいないわ」

「…まじか」

 

話が逸れる前にこの話題は終わらせましょうか。

 

「私のことはいいでしょう。それでなのだけれど…妹紅、エリーという名前に心当たりないかしら」

「待て、今のはそう簡単に流せるような話じゃないだろ」

「でもわたしたちはもう納得しちゃったからね。妹紅さんが流してくれれば話が進むんだけどな~」

「あーそうかい。ったく…後で私にも話を聞かせろよ?それで、エリーか…

知らないね。少なくともここ数年、人里や永遠亭の患者でそう名乗る奴はいないはずだ」

 

空振りか…まあ仕方ないわね。永遠亭に向かったという可能性は無いとわかっただけでも良しとしましょう。

 

「そもそも、お前らはなんで私なんかに豹の話を聞きに来たんだ?家に憑いてるカナやライブの手伝いをさせてるルナサちゃんの方が今の豹に近いだろ?」

「その豹が逃げ出してしまったのよ…アリスを魔界からの追手と勘違いしたみたい。

豹と付き合いがある相手として、私が知っている相手が貴方しかいなかったからここに来たわ」

「わたしも引っ越してきたばかりだからね。豹から何人かの話は聞いてたけど、妹紅さんが一番会いやすそうってことだから付いて来ただけだし」

 

ルナサとカナがそう返すと、妹紅は肩を竦めながら話し出す。

 

「最初に言ったが、付き合いは長いけど私は豹とそれほど親しいわけじゃない。今日初めて誰から逃げてたのかを知ったぐらいでね。隠れ家がどこにあるのかすら教えてもらえなかったからさ…

そもそも、豹にとっては私とそれなりの付き合いになること自体計算外だったはずなんだよ。初めて会ってしばらくは話し相手だったけど、別れた後次に会うまで300年ぐらい間が開いてね。豹が思わず漏らした再会の最初の一言は『やられた…』だ。私が寿命通り死ねる人間だと思い込んでたのよ、豹は」

 

こういう話を聞くと、私はまだまだ小娘に過ぎないというのが実感できるわね。

 

「再会してからある程度の事情は教えてくれたけど、同時に距離も取られるようになってさ。だからこそ私からすれば楽団の手伝いで豹が人里に出てきたのには驚いてね…何があったのか聞いてたところじゃないかな、ルナサちゃんが見たってのは」

「…私は、何も聞けなかったわ。だから今、豹を探してる」

「妹紅さんの言うある程度の事情すら、豹はわたしたちに隠してたからね。妹紅さんが思っている以上に、豹は妹紅さんのこと頼りにしてたんじゃないかな」

「そうなのかな?まあ、私はもう永遠亭の奴らともそれなりの関係になってるからさ…

豹にとっては頼りにしたくても近づけなくなっちゃったんだろうね。人付き合いってのは、ほんと難しい」

 

ああ、そうなるのね。永遠亭から距離を取りたい以上、豹が妹紅を頼ることは無いってことか。

 

「まあ、ちょっとした助言だと思ってこれは覚えときな。逃げ回る豹を捕まえるのはまず無理だろう。だから追いかけるんじゃなくて、逃げ場を潰していけ。そうすれば豹はおそらく隠れ家に戻ってくる…カナがそれを待ち構えるのが一番確実だと思うぞ」

 

 

 

結局、妹紅は豹の居場所についての情報は持っていなかった。とはいえ、逆に向かう必要のない場所を一つ作れた。収穫無しじゃなかっただけマシなのでしょう。

 

「…いい感じに日が暮れそうね。これから命蓮寺に寄ろうと思うのだけれど、ルナサはまだ付き合える?」

「え?…別に構わないけれど、順番を無視した上で今からなの?」

 

むしろ、私としては絶好のタイミングなのよね。

 

「あの寺はなかなか人の出入りが多いから、昼間は豹の話をし辛いと思うのよ。これぐらいの時間なら追い返されることなく、目撃者も少なめで話を聞けると思うわ」

「あ、そんなに賑わってるんだ。山奥にある修行の地って感じのお寺じゃないのね」

 

カナも来る気のようね。別視点の意見も聞ける機会が増えるのはありがたいわ。

 

「ご主人様、私がご一緒しても大丈夫でしょうか?」

「上海、あなたがやりたいことなら、私の許可を取らなくていいわ。駄目なことに関しては命令させてもらうけれど、それ以外はもうあなたの意思で動くようにすること…それに慣れていきなさい」

「あ…はい!ありがとうございます」

 

上海は随分と丁寧な言葉遣いになったものね…魔理沙の影響がどれだけ悪かったのかよくわかるわ。

 

「異論はないようね。それじゃ、行きましょう」

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