寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第161話 すでに術中

「…ここが豹の隠れ家。今はカナと上海が留守番してて、今日は麟も泊まると思う」

「うん、あれだけボロボロな夢幻館を修復するなんて言い出すわけね。この家見てよーく理由がわかった。

これだけアンバランスな建造物を崩れないように魔法で固定するなんて普通は思い付かない。思い付いても実行しない。本当に面白いねヒョウは」

「今になってゆっくり眺めてみれば、私が初めてここに来た時に比べて増築されてるものね。隠れ家を増築するって時点で普通はおかしいわ」

 

雛が先導するような形で夢月を隠れ家に案内して、外から眺めた夢月の感想がこれ。言われてみれば、夢幻館は廃洋館と呼ばれてるプリズムリバー邸(うち)より酷い状態だったわね…あれだけ崩壊してたら修復せずに放棄して引っ越すのが普通。そうしないで留まっている理由は聞いていないけれど、状況を考えるとフラワーマスターの命令かしら。

 

「それで、今ここに向かってきてるのがいるけど待つ?」

「…いえ、私たちは夢幻館に急ぎましょう。カナと上海が戻って来てるから、別方向から来てるのは任せられる。夢月の反応を探知されてる状態でここに人数が集まると、豹の隠れ家の存在が八雲以外の上層部にも知られてしまう可能性があるわ」

「っ!それはまずいわ。私達はもう離れるべきみたいね」

「そう、ならさっさと夢幻館に戻るよ。まだ姉さんとサリエルが帰って来てないかもしれないけど」

「ええ、急ぎましょう」

 

この時、合流を避けたのが私の判断ミス。別方向から向かっているのが【豹とお互い好意的に見ている藤原妹紅】だったことを豹に教わった探知魔法で把握できていたから、カナと上海に危険は無いと考えたのだけど。

 

私が藤原妹紅を待っていれば―――豹から動いてしまう事態は避けられたのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「勇儀様、一つ気になっていることを聞かせていただいてもよろしいでしょうか?」

「ん?なんだい椛」

 

夢殿大祀廟に向かう途中で、気になっていたことを聞いておくことにしました。同行するには力不足だからと、囮役として切り捨てられるとしても…少しでも多くの情報を豹さんにお伝えしておきたい。私にはそれぐらいしか出来ませんから。

 

「茨華仙様を訪ねたことで思い当たったのですが、萃香様には協力を求めないのでしょうか?」

「あー、椛からすればそこは気になるかい」

「スイカ?勇儀さんの知り合いなの?」

「…もしかして、鬼の萃香のこと?」

 

地底の妖怪であるこいしさんは知らないようですが、こころさんは誰のことなのか理解できています。表舞台に立つことは少なくなったとはいえ、少し調べればすぐに名前の挙がる大妖怪…鬼の四天王。妖怪の山と縁の無いこころさんのような存在でも、その名を知る機会はあったということです。

 

「というかこいしはこんなことまで忘れちまうのかい。ちょっと萃香に会わせてみるのも面白いかねえ。

私と同じ鬼の四天王の萃香だよ。地底に移る前はちょくちょくさとりとも会ってただろ?」

「…あ~!あのちっさいのにおっきい鬼ね!?そういえば地上に残ったんだっけ?」

「今は博麗神社に居候してるって聞きました。私の能楽を見に来た時にあの巫女から」

「とはいっても、常時あの神社で過ごしているわけでもないようですから。勇儀様でしたら地上の伝手としても一度接触するのではと思っていたのですが」

 

強大な力の持ち主の動向は豹さんが把握しておきたいことの一つでしょう。それなら勇儀様が合流しない理由も豹さんにとって重要な情報になるかもしれません。

 

「そうだねえ、私が地上に出てきた時点で萃香から来てくれりゃ手伝わせただろうけどさ。私から萃香を探すのはめんどくさかったんだよ。博麗神社に居候してるってのも今はじめて聞いたしな。

それに、この時間になっても萃香が私に反応しないってことはもう動いてるだろうよ。たぶん紫が先に戦力として確保してる」

「えっ…!?」

 

思わず声が漏れてしまいました。それは、どういうことでしょう…!?

 

「そう考えるのが自然だろ?萃香なら私がわざわざこっちに出てきたら酒に付き合わせるために絡んで来るさ。それがほぼ一日私が地上で動いたってのに萃香が動いてる気配が全くないってことは、酒を報酬に釣って大人しくさせてる奴がいるってことだよ。そしてそんなことが出来るのは、萃香と親しい強者…幻想郷が地底ごと隔離された今となっちゃ八雲紫ぐらいなもんだ。

魔界に豹を返さないという方針は紫と一致してるだろうからねえ、紫が使おうとしてる手駒を引っこ抜く気は無いさ。誰をどう動かすとかそういう集団の指揮は私にゃ向いてない。紫に任せた方が萃香を上手く動かせるんなら、私が連れてく必要は無いってことだよ」

「へー、そうなんだ。まあ、豹を地霊殿に連れ帰ることになれば八雲紫とも萃香ってのともぶつかっちゃうんでしょ?だったらわざわざ私たちが豹のこと教えなくてもいいよね?」

「…そうですね。そうなってしまったら、私も豹さんと一緒にお世話になるかもしれません」

「ほー、そこまで覚悟を決めてるのかい。まあ、豹がいい漢ってのは同意できるからねえ。恋に身を焦がすのも仕方ないか」

「そこ、気になります。能楽のためにも私に詳しく教えてくださいな」

「あ、私も聞きたーい!もしかして椛さんは、私のライバルなのかな?」

 

…物凄くキラキラした目でこころさんとこいしさんが話の続きを求めています。お二人とも精神がまだ幼い面があるようで、こういった色恋沙汰に興味津々なお年頃なのでしょう。

…お年頃という表現が正しいのかは置いておくとして。

 

「まあ、豹さんをお慕いしていることを否定はしませんが。私では豹さんの伴侶として不足でしょうね…

とてもかなわない恋敵が何人もいますので、恋物語をお望みでしたら雛さんかルナサさんに聞いてみるべきだと思いますよ」

「え~、つまんないなー。最初にそう言い切れるんなら話してくれてもいーじゃん!」

「こいし、聞き始めると間に合わないってことよ。

 入口が見えてきたわ」

「お、あれがそうなのかい。それじゃ椛、先鋒は任せるよ!

何か不自然な反応があったら私たちもすぐ突入して援護する。椛の動きが止まっても後続の私らが突入、それでいいね?」

「…はい、お任せください!」

 

茨華仙様の読みが当たっているのであれば、ここから先はすでに敵地。探査魔法を展開しつつ、慎重に進みましょう…!

急ぐのは、豹さんとお会いしてからだけでいいのですから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――というわけなので、小町さんにも手伝ってもらいます」

「四季様あぁぁぁ!?あたいに恨みでもあるのかい!?

 久しぶりに仕事した日に限って時間外特務なんて、そんな殺生な…」

「久しぶりにと自分で言っている時点で自業自得でしょう。普段からサボらず真面目に役目を務めていれば閻魔様も個人を目に付けることは無かったはずです」

「うぐぐ…何も言い返せないのが辛いところだよ」

 

茨華仙様と共に三途の川に辿り着いた時点で、小町さんがまだ残っていたのは幸運でした。もっとも、川の畔で雪見酒を楽しんでいたらしくこの反応ですが。

 

「時間外労働なのは私も同じなので諦めてください。知っての通り地獄は人材不足、優秀なのに勤務態度の悪い小町さんがこのような事態に派遣されるのは予想できるはずですよ?」

「いやそりゃわかっちゃいるけどさ。魔界なんてデカい規模の話、あたい一人手を貸したところで大した力にならないだろ?明日から手伝うからさ、真面目に働いた今日ぐらい好きにさせておくれよー」

「悪いけど今が豹と接触する絶好の機会なのよ。結果次第では明日好きにさせてあげるから、今は付き合ってもらうわ」

「なんで華扇が地獄の任務に介入して来るんだい!?横暴だよ!」

「私たちから協力を求めたからですよ。ちなみに勇儀さんは先行していますので、小町さんが合流しなかった場合に絡まれても擁護できません」

「退路が断たれてる!?なんでここまで周到なんだい!?」

「それだけ厄介な状況ということよ。閻魔様が直々に動くほどのね」

 

その言葉で、ようやく小町さんは観念したようで。

 

「…四季様が公休に動いてるんじゃどうしようもないねえ。一本空け終えた直後だっただけマシだったってことかい。

それじゃ、そこに向かうまでに軽く説明しておくれよ?」

「勿論。とりあえず、彼の写真を1枚受け取ってるから見ておきなさい」

「へいへい―――って、コイツは…!」

「小町さん?なんですかその反応…まさか顔見知りですか!?」

「いんや、遠目に見たことがあるだけだよ。だとしても…あの時追っかけてみるべきだったかい。

久侘歌があたいんとこにアリス達を連れてこようとしてただろ?あの時聞かれたのは『死神のエリー』についてだったのさ。そんでコイツは、そのエリーと話す直前に人里を屋根伝いに駆け抜けてった不審者。今となっちゃ、団子屋に入らずコイツを追いかけときゃよかったってことだよ」

「…もしそうしていたら、小町が彼との交渉役になっていた可能性があるのね。

そういう意味では、追わないでくれて助かったのかしら」

「そりゃどういう意味だい!?」

「サボり癖のある小町さんに危険人物との交渉なんて任せたくないってことですよ…言葉にさせないでください」

「いやいや流石のあたいでも魔界の関係者なんてヤバい奴相手なら真面目に対応するよ!?」

「流石のと付けていることが信用されない理由だと理解していないとは言わせないわよ」

「」

 

流石は茨華仙様、仙人だけあって口で小町さんに負けるはずはありませんよね。

絶句した小町さんを連れて私達も夢殿大祀廟へ向かいます。大きな動きがある前に、間に合えばいいのですが。

 

 

 

 

 

 

 

 

(今日一晩ならこれで十分だろ)

 

邪仙を一度退かせたのち、元々外界から遮断するために使われていたであろう結界を維持させていた遺物を再利用し魔力遮断領域に張り替え終えた。これで俺がここから空間魔法で脱出しても、魔力反応は脱出先の1ヶ所だけに偽装できる。ユキと夢子が来た以上、空間魔法を使えば魔力を拾われるのは避けられない…が、魔力反応が一つだけであれば、それが()()()()()()()()()()の判断は付かなくなる。

どちらにせよ脱出口付近を捜索されるとはいえ、それを凌げば【出口を入り口と誤認】させられるわけだ。魔力反応の時間差で入口と出口を確定されれば出口側を集中的に捜索され動き辛くなる。それなら少しでも捜索地点を増やすよう細工するべき。

 

(さて、それなりの大仕事だったが…大きな動きもあったようだな)

 

思惑通り妹紅は隠れ家に向かっている。随分と遠回りしているが…おそらくはリリーの使っているルートなのだろう。これに関しては問題ない。

 

だが、夢月が幻想郷内に侵入している。最初に接触していたのはアリスとメルランだが、すぐに藍も出向いてそのままアリスの家に移動していた。つまり、夢月の侵入に関しては八雲が対処したという事実を作りに行ったということだが…

 

(このタイミングで八雲と夢幻姉妹が繋がった可能性を見せるのは早過ぎるんだが…おそらくフラワーマスターが動いたことで夢月から動かざるを得なくなった、か。

ルナサ達は全員無事に戻って来てくれたが、幻月だけ夢幻館にいない。幻月なら心配はいらないだろうが…)

 

夢幻館から離れていた間に何があったのか、麟たちとアリスが合流した際に藍もいたのは何故か、雛がルナサ・夢月と合流してるのはどうしてか―――単独行動した結果状況が全く掴めていない。悪い方向に向いていなければいいんだが…

 

そう思っている間にも、俺は追い込まれていて。

 

(ッ!?勇儀と椛に、古明地こいし。それにもう一つ反応が向かってきてる!?

いや、この知らない反応はさっき墓場の近くにあった、まさか大回りしてここに入り込んだのを把握されてたか!?)

 

どうする!?勇儀とは戦闘不可避だが、椛はおそらく俺に力を貸してくれる。そして古明地こいしも条件次第では見逃してくれる可能性がある…

 

(どちらにせよ、空間魔法で脱出するなら至近距離まで引き込むべき。

 今すぐ逃げず、様子を見るべきか…?)

 

この時点で、夢殿大祀廟(ここ)はすでに敵地になっていた。

気付くのは、もうしばらく後だったが。

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