寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第162話 長い夜の幕が開く

「それで、夢子はどう見る?私の一存で決めちゃったけど」

 

カナと上海が豹の隠れ家へ飛び去るのを見送って、家に入り夢子に問いかける。本来なら魔界の立場で動く私たちの指揮を執るべきなのは夢子だから、修正する点があれば教えてもらわなきゃならない。

 

「…とりあえず先輩や私達が攻撃されても慌てる必要は無くなったわ。魔界の強硬派が幻想郷に侵攻するための戦力を、神綺様直々に潰しに行ったということだからね…魔界に帰った後が厄介過ぎるけれど。

そういう意味では上海達を魔界に送り出すという夢幻姉妹の判断に助けられたわね。最悪の事態になる可能性で一番高かった【風見幽香が先輩を攻撃する】というケースが起きてしまっても、全面戦争を仕掛けるには強硬派の戦力が足りなくなった」

「まあ、帰ってから大変そうだけど…兄さんを連れ帰るためにわたしと夢子が動きやすくなったってことだね。藍にも聞かせられたから、八雲紫も一安心はしてるんじゃないかな。ただその分、余裕を持って兄さんの援護に動きそうだけど」

「それはそれで厄介なのよね…でも、全面戦争の危機は避けられそうって考えれば最上の結果だし、仕方ないか」

「うん、神綺様に説明がだいぶ省けるって点でもわたしたちにとってはプラスなのは間違いない。でも例の4人が手を出して来たら、強硬派の戦力が回復してから蒸し返されるかもしれないし…次に兄さんが動き次第わたしも動くつもりだけど、単独行動は避けた方が良さそうだよね?」

「となると交替で仮眠だけでも取っておいた方がいいかしら?」

「そうね。もう少し情報を整理したらそうしておきましょう。

今日で一つ動向を注視するべき相手が身内に出来た。まだ確証は無いけれど…ルナサは八雲紫の指揮下にいると考えた方がいい」

「「えっ!?」」

 

ユキと声が揃ってしまったわね…たしかに昨夜その可能性は聞かされていたけれど…夢子の中ではある程度確信が持てたようだわ。

 

「どこからそう判断したの?」

「何点かあるけれど…私の中での決め手は『今日になって麟からルナサに接触してくれた』ところよ。麟が4日前の時点で夢幻館に辿り着いていたのであれば、昨日までは潜伏していたということになる。その潜伏を捨てて()()()()()()()()()というのは不自然に感じたわ。二胡を持ち出した相手ということを差し引いてもね。

さっき私達も実感することになったけど、麟の忘却の呪いは強力で…八雲紫のような【謀略に長けた支配層】からすれば利用価値をいくらでも見出せるような代物。そして少なくとも直接会話した限り、先輩は八雲紫主従も落としてる。これを前提に八雲としての動きを予測すれば、直接介入できないからこそ搦手や策を打ってくるでしょうけど…麟はその方向で有用過ぎる切り札になる。

―――それなのに、ルナサと合流して私たちに接触して来るというのは…駒として見れば勿体なさすぎる使い方なのよ」

「…それはなんとなくわかる。わたしは下手すると仮眠取って起きたら忘れちゃう気がするし」

「そこなのよ。一度接触しても忘却されるのであれば、ルナサと合流させるより前に私達や神綺様に策の一環として接触させて来る方が自然だわ。妖怪の賢者と称される八雲紫であればね」

「たしかにね…でも藍が言ったように『麟の独断』という可能性もゼロじゃないわ。この想定を捨ててしまえるだけの判断材料もあるのかしら?」

 

ハッキリ言って、こういった策謀に関して私は圧倒的な経験不足。流石に深読みは出来ても根がパワー重視(脳筋)な魔理沙よりはマシだと思ってるけど、魔法使いとして必要になるこういった駆け引きで八雲紫や豹と渡り合える気はしないわ。だからこの一件における夢子の対応を間近で見聞きすることで、私の糧にしたい…豹の確保もその方が成功率が高くなるでしょうしね。

 

「その可能性は【夢月がルナサを連れて行った】点で薄くなったわ。

さっきの状況で夢月に案内役を付ける場合、八雲藍からすれば適任はカナになるのよ。それなのに口を挟まず夢月とルナサを送り出したことも、ルナサが八雲の指揮下にいる可能性を高くしている」

「…そっか。夢月が暴れそうになったら、八雲としては力尽くででも止めなきゃいけない。なのに、私たちを除いて最高戦力のカナじゃなくて、ルナサが選ばれても問題はないって藍は判断したってことになるのね」

「そしてそう判断した理由を推測すれば、ルナサの方が八雲にとって都合が良かった、もしくはルナサでも問題ない理由があったということになる」

「例えば、ルナサはすでに八雲の指揮下で動いている…とか」

「ええ、そう考えれば麟がルナサと接触したことにも一つ仮説が立てられる…ルナサと麟を組ませた状態を八雲の駒として扱い、私達に接触させたという可能性よ」

「…なるほどねー。アリスのその反応からすると、結構説得力あるって感じ?」

「そうね、私は否定できる情報や要素を持ってないわよ。麟の立場じゃなくて八雲の立場で考えれば、たしかに麟の動きは非効率的だけれど。潜伏していた3日間で八雲やルナサと接触していたと想定した上で、ルナサも八雲の指示で動いてたと考えれば…今日の麟の行動に辻褄が合う。私もそう感じたから」

 

流石は夢子ね…推測に説得力がある。策を巡らす側としての視点も持っているから、《ルナサと麟で八雲の駒の一つ》という可能性を見ていた。私一人だと2人で1駒という発想に辿り着くのはここまで簡単ではなかったでしょうね…

―――そう考えていたところで、展開していた探査魔法で妖怪の山方面の大きな動きをキャッチする。

 

「――ッ!?これは、思ってた以上にまずいことになってるかもしれないわ…!

さっき話に出た早苗が、永遠亭の関係者と合流して動いてる。おまけに二柱の片割れも連れて!」

「「ッ!?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――豹さんっ!」

「気を使ってくれたんだな。助かる、椛」

「ですが、私が止まれば勇儀様も突入してしまいます。違和感が出ない程度に動きながらお話しさせてください!」

「そこまでやってくれたのか。ありがとな」

 

ギリギリまで引き付けたのは正解だったようだな!夢殿大祀廟に続く墓場の洞窟入り口で勇儀達3名は待機し、椛単独で地下に入ってきたのだ。つまり椛は勇儀に睨まれるリスクを負ってでも俺の力になるように動いてくれたということ―――今朝、皆から伝えられた通りに。

 

「時間が無いので要約します。勇儀様と古明地こいしさん、秦こころさんがここの入口で待機していて、茨華仙様と庭渡様が小町さんを連れて後詰に向かっています」

「茨華仙を勇儀が引き込んだのか…思ってた以上に俺にご執心だったわけだ。

こころってのはどんな奴だ?」

「こころさんは入口の墓場付近にいた面霊気で、豹さんが命蓮寺から飛び去ったのを目撃していたそうです。そして繋がりのあったこいしさんの探し人の豹さんだったと聞いて、勇儀様に協力を求めて来たことで…今の状況になっています」

「面霊気…!そうか、宗教ブーム騒ぎの元凶か」

 

これは完全に油断してたな…今は精神も能力も安定しているせいで、野良妖怪並みの反応になってたってことだ。墓場近くにあった二つの反応は、両方それほど強大ではなかったからこそ野良妖怪だと思い込んで放置したんだが…実際のところ片方は幻想郷でも上位レベルの存在だったというワケだ。後で紫さんに聞いただけだが、博麗の巫女・聖白蓮・豊聡耳神子の三人を同時に相手にしてかなり粘ったらしい。

弾幕ごっことはいえ称賛に値する戦歴であり、敵に回したくはない相手だ。

 

「皆様、幻想郷と魔界の全面戦争を避けるために動いてくれていますが…勇儀様は豹さんとまずは再戦という点は譲れないそうです。ただ、一度再戦を終えれば豹さんを魔界に返さない方向で助力してくれるとおっしゃっています。勇儀様の言葉は信じられますが、再戦で豹さんに負担をかけてしまうことは避けられません。

ですので豹さんが決めて下さい!勇儀様と再戦するのを避けたいのであれば、私が囮になっている間にここから脱出してもらえれば…!」

「バカ言うな椛。脱出するなら椛も連れて行く。

その場合、椛は神綺様…魔界神に保護してもらうことになる。命の危険は絶対に無いのは俺が保証するが、椛が魔界を頼りたくないのであれば勇儀の元に戻ってもらう必要がある」

「その選択は豹さんに負担がかかってしまいますよね?

 それなら、私は豹さんを信じて魔界神に降ります。天狗社会を捨てる覚悟は決めて来ました」

 

…椛にここまでさせてしまうとはな。白狼天狗では群を抜いて優秀な椛だが、あくまで白狼天狗は下っ端。妖怪の山全体で見れば椛の実力は中の上がいいところだろう。魔眼の技術の師として贔屓目もあるから、これでもかなり甘い評価だ。

 

つまり、閉鎖的な天狗社会からすれば椛に追手を放つ可能性は十分にあるのだ。それを俺と再会する前の時点で…神綺様に保護してもらうという選択肢がないまま覚悟を決めた。どうあっても敵わないであろう上司や関係者がいるにも関わらずだ。

 

俺だけのためにここまでしてくれた椛を見捨てるわけにはいかない。となれば、俺の選択は一つだ。

 

「わかった、なら2人で俺の空間魔法で脱出するぞ。ユキにバレること前提で、一度隠れ家に飛ぶ。今ならカナと上海が戻る前で、妹紅も辿り着いてないからな。椛はそのまま待機して合流してくれ」

「…妹紅さん、ですか?」

「ああ、椛が知らないのも無理はないか。だがリリーが案内してるから、リリーを守ってくれる相手だと信じてくれればいい」

「わかりました。それに動き続けるのももう不自然な位置です。勇儀様たちが突入することも計算に入れてお願いします!」

「ああ、後詰の茨華仙もなるべき引き付けたいから、ギリギリまで粘るぞ」

 

そして俺は空間魔法の入口を開き…

術中に嵌っていたことにようやく気付いたのだ。

 

「―――なっ!?まさか!?」

「え、どうかしましたか豹さん!?」

 

 

出口が、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

こんな大掛かりな細工、誰がいつの間に…!?とりあえず状況を把握するため鞄から短柄のミニフレイルを取り出し、鉄球部分に魔眼を同調させ入口に放り込んで出口の様子をうかがうと。

 

(―――この雰囲気、夢殿大祀廟(ここ)によく似ている…ということは!?)

 

「あの邪仙、やってくれたな!!」

「豹さん!?何があったのですか!?」

 

妙に簡単に引き下がったと思ったが、こんな手段で俺を引き込もうとするか!

俺が空間魔法で脱出するであろうことを見越した上で―――仙界に俺を引き摺り込もうとしてやがった!!

 

「すまない椛!霍青娥にしてやられた!

 ここで空間魔法を使うと、仙界に放り出されるように干渉されてやがる!!」

「えっ…!?それじゃ、脱出は!?」

「時間さえあれば干渉を撥ね退けるゲートを創れるだろうが、どう考えても勇儀の到着の方が早い!

交渉に付き合ってくれ!」

 

―――自分で言っておいて、無理だろと思った。

勇儀との再戦は、不可避かよ!!

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