寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第164話 衝撃の余波

「ま、私が知ってるのはこれだけさ。勇儀は随分と買ってたけど、私からすりゃ【私を不意打ちで足止めして逃げた】魔法使いでしかない。あの眼で私を動けなくしておいて、トドメを刺すどころか一目散に逃げたつまらない奴なんざ追う価値もない。だから紫が干渉してきた時点で引き下がったよ」

「ふん、随分と敵の値踏みが甘いんだねえ鬼とやらは。人間にあっさり退治される三下がうじゃうじゃいるわけだい」

「はん、とっくに死んでる負け犬がよく吠えるもんだ」

「あんたらやるなら外に出なさいよ?中で暴れたら問答無用で封印するわ」

 

博麗神社に帰り着くと、萃香が勝手に貴重なおつまみを開けて飲んだくれてたわ。するめに貝ひもっていう幻想郷だと中々手に入らない海産物を引っ張り出してきてるあたり、最初から狙ってたみたいね。

で、魅魔が部下を連れて帰って来たから萃香にも豹のことを聞いてみたら。昔やり合ったなんて答えが返って来て問いただした結果がこれ。

 

「魅魔様もあまり煽らないでくれよ。豹の厄介さに気付いてないなら、萃香を戦力に数える必要が無くなるだけだぜ。足を引っ張られるよりゃ出しゃばられない方がマシってな」

「師匠が師匠なら弟子も弟子だな!私が足を引っ張るなんて、そんなことがあるはずないね!」

「まんまと豹に逃げられた鬼が言えることじゃないだろう」

「ぬぐ…」

 

明羅さんの一刀両断で萃香が黙り込んだわ。相変わらずかっこいいわねー、女性なのがもったいない。

 

「だが、これ以上なく有益な情報が出てきたねえ。豹は空間魔法使いにして、魔眼の使い手かい」

「とりあえず、攻撃魔法が使えないってところを差し引いてもあたしじゃ足止めにもならないのはよーくわかりました」

「本当に、私とは格が違ったのだな豹は…魔眼の持ち主だなんて気付きもしなかった」

 

なんだけど豹とやらとそれなりの付き合いがあったみたいで、結構へこんでるのよね。今日はそっとしておいてあげましょうか。

 

「まあ、紫に頼まれてるから私も状況次第で手伝ってやるよ。私が出るまでもないだろうけど」

「…ま、たまには痛い目見るのもいいんじゃないかしら」

「あん?どういう意味さ霊夢!?」

「勘よ」

 

そう簡単に解決する気がしない。まったく、外れない勘ってのもこういう時は面倒ね。

 

 

 

 

 

 

 

 

豹さんの本気も、勇儀さんの全力も…私はもちろんこいしさんもこころさんも、こんな間近で見るのは初めてで。

その凄まじさに気後れてしまいながらも、勇儀様の星熊盃を受け取り巻き込まれない位置に移動し、その激突を見守ったのですが…!

 

 

「「うおおおぉぉぉぉ!!!」」

 

 

重なる咆哮と同時に激突した豹さんと勇儀様が、その衝撃で背後の建造物諸共吹き飛んでしまいました。

そして、余波は私たちのところにも届いて。

 

「わわわっ!」

「きゃっ!」

「くぅっ!」

 

勇儀様の星熊盃を傷付けるわけにはいきませんので、懐に抱え込むように伏せて余波をやり過ごしたのですが。

豹さんの予想通り、事態がまた複雑になっています!

 

「―――っ!?こいしさん!豹さんからの依頼です!!

『無意識に潜んで俺の傍に来てくれ』だそうです!!」

「へっ!?」

 

私たちの周りと勇儀様の吹き飛ばされた方向に、どこからか動く死体が現れ足止めしようとしています!!

 

「こころさんは私に力を貸してください!!勇儀様と合流してから説明します!!」

「え、え!?」

 

返事が返ってくる前に私は勇儀様の元へ飛び出します!まずは、この星熊盃を勇儀様にお返ししなければなりません。これを守り切れなかったことで勇儀様が私を切り捨てるのは仕方ないとしても、その流れで豹さんとの協調まで断られてしまうのは困りますから!

 

「こころ!お願いね!!」

「っ!…いいだろう!!」

 

その声と同時にこいしさんが消えてしまいました…!これが、無意識を操る能力。こんな至近距離にいても、見つけられなくなってしまう…恐ろしい能力です。

 

星熊盃を右腕に抱えているため、左手で盾だけ構えて勇儀様の元へ向かいます。あくまで足止め役の死体のようで動きは鈍く、数が多いだけで難なく避けて通れます。その上…!

 

「ふっ!!」

 

いつの間にかこころさんが薙刀を構えて邪魔になる位置の死体を切り伏せ援護してくれています!何も言わずに私と豹さんを信じてくれたのはとても助かります…!これなら、勇儀様との合流は問題なくできるでしょう。

 

(豹さんの助けになれるかは、そこから先次第です…!)

 

 

 

「いっつつ…!本当に最高の喧嘩相手だねえ豹は!」

 

受け止めるどころか私の全力の拳に合わせてくるとはね!!吹っ飛ばされた方は何も問題ないけど、豹の全力とまともにぶつかった右手はしばらく使えないかい。私の手をここまで痺れさせたのはいつ以来だったか…

 

「だからこそ、この喧嘩の邪魔されるのは不愉快だねえ!!」

 

吹っ飛ばされて埋もれてた瓦礫から抜け出すと、豹の吹っ飛んだ方向に私を向かわせないように死体が動かされていた。いい度胸だよ!!

 

「霍青娥とか言ってたか?私の喧嘩の邪魔した落とし前は付けさせてもらおうかい!!」

 

 

 

 

 

「ぐっ…流石は鬼の四天王の本気、最上位魔導士の魔法でも破れないか」

 

まあ当然の結果だよな…!魔法使いが殴り合いで勝てるはずがない。だが、真正面から受けて立ったことで勇儀の渇望をそれなりに満たせたはずだ。

 

吹っ飛ばされた先で崩落した瓦礫を左手だけで払い除けて這い出す。俺の肉体強化魔法も障壁魔法も貫き砕いた勇儀の剛拳―――真正面からかち合わせた右腕が原形を留めてるだけ儲けものだろう。掌骨は肉ごとぐっちゃぐちゃになってるが、これなら麟を頼れば回復できるはず。とりあえずこれ以上ズタボロにならないよう最低限の回復魔法と保護魔法を行使して、次なる相手と向かい合う。

 

「随分と無茶をしますのね…それだけ肉体を損傷させてでも、仙界に来たくはないのですか」

「消滅さえしなきゃ、治してくれるアテがあるからな。

君こそ、巻き込まれる前にここを離れてくれ。勇儀との喧嘩に割って入ったことのフォローは不可能だ」

 

激突の衝撃で吹っ飛ばされた先にこの邪仙は仙界への入口を創っていたのだが、介入してくることを予測してた俺は即座に塞いだ。もっとも、こんなやり方で介入を防げば俺が最高位の空間魔法使いであることがバレるのだが、勇儀をこちらに付けられた今なら知られても問題ない。

 

喧嘩の途中に割って入ってきた以上、()()()()()()()()()()()()()のだから!!

 

「意地悪を仰いますのね?せめて治療をというのも先に潰してしまいますし。

足止めする必要がある以上、私があの鬼に狙われてしまうのは理解できていたはずですのに」

「君はそこを根本的に勘違いしてるんだよ。()()()()()()()()()()()()()()()

真正面から喧嘩の相手になれば、勇儀は俺を見逃してくれる可能性はかなり高いんだ」

「見逃してくれない可能性も零ではないのに、ですか。肉体派な方の考えは理解しきれませんわね…

ですが、こうなった以上私も退けませんの。鬼に目を付けられただけの代価は貴方から頂きませんと、ね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ッ!?地震…にしては一瞬。地下に向かった鬼の四天王が何か!?」

 

命蓮寺に帰り着いて、リリーと妹紅さんからお聞きした豹さんのお話を皆に伝え終えたのを見計らったようなタイミングで。ぬえが信じられないといったように声を上げました。

 

―――鬼の四天王がこっちに向かってきてる。

 

それだけでぬえ同様地底に封印されていたムラサと一輪は戦闘態勢に移り、私と聖も状況の悪化を理解して襲撃に備えたのですが。その強大な妖気は命蓮寺(ここ)ではなく墓場へと一直線に向かい…しばらく待機していました。

 

その3名が誰なのかは聖とぬえのおかげで確認できて、襲撃が無さそうだとは判断したものの…目を離すわけにもいかない状況。聖の選んだ選択は【マミゾウさんが戻るまで待機】でした。豹さんとリリーを狙っている以上、同等の戦力で向かわなければ先制攻撃される可能性があるから―――つまり我々から出向くのであれば聖・ぬえ・マミゾウさんで向かうという判断です。

 

ですが、マミゾウさんが帰ってくる前に事態が動いてしまいました。星熊勇儀さんが連れて来ていたのはこいしとこころ…命蓮寺と縁がある二人。三人揃って墓地の地下―――夢殿大祀廟へ向かったのですが、途中で反応が消えてしまったのです。聖の予測だと、夢殿大祀廟に魔力遮断領域が展開されているとのことですが…それがどういうことなのかを推察している途中、命蓮寺が大きく揺れました。

 

「余震や第二波が無いってことは、鬼の仕業だろうねえ。夢殿大祀廟で何か起こってるのは決まりみたいだ。どうする、聖?」

「…マミゾウさんが戻るより先に到着する反応が三つあります。むしろマミゾウさんはこの三つを警戒して後から帰っているようにも感じますね…

つまり、この三名も迂闊に対応するのは避けるべき相手なのかもしれません」

「それじゃやっぱ私たちは静観します?下手に首を突っ込むのも不味そうだし」

「あの方からも、余計なことはするなと言われてしまっていますしね…」

 

そして、皆は聖同様静観するべきと判断しているようです。それがたしかに命蓮寺にとって一番良い判断なのでしょう。

 

―――ですが、豹さんの人となりを妹紅さんとリリーから直接詳しく聞いてしまった…私個人は。

 

(…豹さんが、夢殿大祀廟に向かっていたとしたら。

 我々の動きも考慮に入れて動いている気がします…!)

 

今日初めてお会いして、少し直接話をし、妹紅さんとリリーから話を聞いた程度ですが。

豹さんは《広い視点で全てを見ている》という印象があります。そして、私のことをある程度知った上でリリーを預けてくれた…時間にして半日もない邂逅でしたが、この信頼には応えたい。そう思えてしまって。

 

「聖。我が儘を言わせてもらっていいでしょうか?

 私一人で、夢殿大祀廟に向かわせてもらえませんか?」

「「「「は?」」」」

 

皆が声を揃えて振り向きました。まあ、その反応になりますよね。

ですが、もう時間が無いかもしれません!

 

「もしも、夢殿大祀廟に豹さんが移動していて…それに確信を持ったことで地底の鬼が二手に分かれて行動しているのだとしたら。

今の衝撃を理由に一人で様子を見に来たと偽れば、後から来ている三名から情報を引き出せるかもしれません」

「ええっ!?星が策を立てた!?」

「ムラサ、いくらなんでも驚き過ぎよ。でも、星がそんなことを言い出すのは本当に珍しいわ。どうしたの?」

 

ムラサと一輪の本音が痛いですが…事実なので言い返さず、私自身の考えを。

 

「私個人として、豹さんが心配になってしまいました。妹紅さんとリリーから色々お話を聞きましたから…

なので、私一人です。これでも毘沙門天代理、強大な妖怪であろうと交渉の席に着かせられるだけの肩書はありますから。今単独行動に適任なのは私です」

「あーあ、思いっきり星がひっかかってるよ。聖、どうするのさ?」

「…星、一つだけ。

地底だけでなく魔界も関与していることが確認出来たらすぐ引き返しなさい。これを守るのであれば任せます」

「――っ!聖、ありがとうございます!!」

 

聖に礼を返し、槍と宝塔を携え―――雪の舞う夜へ飛び出しました。

 

 

 

「…良かったのかい、あれで。星じゃ逆に策に踊らされそうな気がするよ?」

「ですが、今こちらに向かっている三名が()()()()()()()()()()()方々でしたら星の言う通り交渉役としては適任です。

素直だからこそ、利用されやすく信用されやすい。情報を集めるだけであれば良い手だと思いましたから…

ですが、星も襲われるようでしたら私とぬえで援護に出ます。そうなった場合は頼みますよ、ぬえ」

「ま、いいさ。とりあえず、ムラサと一輪はマミゾウが帰ってくるまでここを頼むわ」

「あいよ!それぐらいは任せといて」

「状況次第ではすぐ援護に向かってもらうわ。その分、留守はしっかり預かるわね」

 




申し訳ありませんが来週土曜日(8/18)の更新は休ませていただきます。
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