寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第165話 古老元神

「勇儀様!!」

「おう、どうした椛」

 

瓦礫から抜け出した勇儀様は足止めに使われた死体を私とこころさんが合流する前に全滅させていました。

…私が辿り着くまでに全滅させているのに、恐ろしさを感じずにはいられませんが。本気の勇儀様は肉弾戦だけでなく射撃戦も桁外れということですね…

 

「ありゃ、椛とこころだけって…こいしはまたふらつき始めたのかい?」

「違います。私から豹さんの依頼をお伝えしたところ、何も聞かずに受け入れてくれました。こころさんもです」

「うむ。あのお兄さんの手助けをすることにしたぞ」

「ほー、こころもやる気になってるのかい。無表情でころころ口調が変わるのも面白いもんだねえ」

「勇儀様にも豹さんから依頼があります。聞くだけでも聞いていただけないでしょうか?」

「ははっ!豹の依頼ってことは、報酬に邪魔が入ったこの喧嘩の再戦を要求できるってことだね?

喜んで受けてやろうじゃないか!豹はどう言って来たんだい?」

「『全力でぶつかれば命蓮寺の面々が介入してくる可能性がある、それが茨華仙とかち合うと管理者連中も手を出して来かねない。だから命蓮寺の足止め役に一人回してくれ』だそうです。残りの二人とこいしさんで霍青娥を排除したいということでしょう」

 

これで勇儀様が私を向かわせてくれるかどうかですが…こればかりは私では誘導できません。ただこころさんが向かうことになった場合も、私が豹さんの手駒として傍に残れるので無駄な策では無いと豹さんは判断した。

 

それなら、私はそれに従うだけ…!もうすでに私ごときの浅知恵で動くような盤面ではないのですから。

 

「椛、任せた。説明はこころより椛の方が正確にできるだろうしね」

「わかりました、盃、お返しします!

 勇儀様、こころさん。どうか豹さんをお願いします!」

 

返事とお礼と星熊盃を返し、即座に刀を抜きながら地上へ向け飛び出します。豹さんにとってここまでは理想的な展開…!

後は、豹さんが脱出するタイミングで―――()()()()()()()()()()()()()()です!!

 

 

 

 

 

「念のために確認させて頂きますわ。

 仙界ではないところであれば私に助力して頂けるのかしら?」

「最初に答えた通りだ。移動先が仙界でなかろうとも、豊聡耳神子に協力している君に力は貸せない」

「ここまで豊聡耳様を拒絶する方は初めてですわね。個人的な恨みというわけでもなさそうですし…私が貴方と豊聡耳様との距離を取らせることを徹底するという条件を呑んでもお断りですの?」

「ああ。俺が彼女を拒絶する理由は単純…読心系の能力持ちとは関わりたくないからだ。警戒する立場だから彼女を拒絶してるんじゃねえ。奴の能力で俺の過去を読み取られるのが問題なんだよ。

―――君から俺の存在を豊聡耳神子が知ることは、防ぐことは出来ないんだろ?」

「悔しいですが仰る通りですわ。ですが、敵だけ増やして成果無しでは引き下がれませんの。

 少々手荒にご招待させて頂きますわよ?」

 

交渉は完全に決裂!それならば俺が取るべきは先制攻撃!!

 

「俺からも謝っておこう、かなり手荒に追い返させてもらう!!」

「なー!?」

 

背後を取ろうとしていたキョンシーの背後に俺が逆に空間魔法で回り、左手で邪仙に向けて投げつける!!魔法具無しで行使するから魔力消費が大きいとはいえ、勇儀相手に封じていた魔力を解放してる今ならそう簡単に魔力枯渇はしない。そもそも接近戦でしか有効打が放てない俺が多数を相手取る場合、敵は同じ方向にまとめなきゃならねえから、出し惜しみする余裕なんざねえ。

 

少なくとも、援護無しの俺一人で戦う状況ではな!!

 

「あらあら…やはり索敵系や空間系の術では劣っていることを認めなくてはなりませんわ。こんなに簡単に芳香を察知してしまうのですね。

ですが、お優しいこと。芳香をわざわざ傷付けずに投げ捨てるなんて」

「下手にブチかましてバラバラになった方が厄介だからな!お気に入りのキョンシーである以上、再縫合もお手の物なんだろ?」

 

幻月すら出し抜けた手段だからこそ、警戒すべき手。高位のネクロマンサーにかかれば死体は実に有用な武器なのだ。体の部位が多少もげたぐらいでは兵士として動き続け、その部位だけを再利用することも出来る。

護衛である俺は見渡す限り死体の山といった戦場に出ることはあまりなかったが、その数少ない経験において数的優位を即興で作るために使ったことのある手段だ。非人道的であれど、敵の死体を捨て駒として使い潰すのだから…【護衛】の使命を果たすには合理的かつ有用だったのだ。

 

「屍術の知識もお持ちですか。本当に敵に回してしまうのが惜しいですわ…

 ですが、今までの貴方を見ただけでもどう対処すればいいかは察せますのよ?」

「ちーかよーるなー!」

 

だが俺の弱点もあっさり看破されてるな!霍青娥と宮古芳香二人掛かりで射撃戦に移行してきた。だが、今の俺には射撃戦での対抗手段がある。利き腕である右手がダメになっている以上、命中率は落ちるだろうが―――

 

「牽制と相殺なら十分!!」

「あら、魔力を弾丸とする拳銃ですか。これはまた興味深いものをお持ちですね」

「ぐわー」

「芳香、回避を優先しなさい。

 ですが、一人で対処できるほど甘くはなくてよ?」

 

里香の拳銃を乱射しつつ距離を狭めるべく接近。リロードの必要が無く反動も小さいとか、本気でいい武器を貰ったもんだ!!

だが、動きがそれほど速くない宮古芳香には牽制もそれなりに当たってるが…霍青娥がこの程度の光弾を喰らうはずもない。だが、予想していたよりずっと早く援護が来てくれた!!

 

(こいし、協力助かる!!

 勇儀が乱入して邪仙の気が逸れた時を狙ってくれ!)

 

椛の説得に応えてくれたこいしが視界に入ったところに念話(テレパシー)を飛ばす!気付いていたことにも急に俺の声が聞こえたことにも驚いたようだが、俺と目が合うと凄まじく機嫌の良さそうな顔で頷いてくれた…!

 

最大の賭けには勝ったらしい!こいしが俺の念話(テレパシー)を聞き取れなかった場合は違和感を持たせないようにこいしと接触する必要があったのだが、これが通じたことで勇儀とこころの援護まで粘るだけで良くなった!!それだけなら左手一本でも辛うじて間に合うはず!!

 

「それなら援護を待つだけだ!!不機嫌な勇儀の恐ろしさを思い知れ!!」

「お断りさせていただきますわ。小手調べは終わりにさせていただきましてよ?」

 

そして俺がこいしに視線を向けたことも、無意識に潜んだこいしが認識できていないらしく違和感を持たれていない!ある意味、最高のタイミングで勇儀に追い付かれたようだな!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「…面倒なことになるかもしれません」

「ん?―――ああ、寺から一人様子を見に出てきたのかい」

「つまり、勇儀さんは派手に暴れ始めてしまっているということですね。

 当たりだったということですが…どうします?」

 

小町さんの能力を負担にならない程度に使ってもらうことで、夢殿大祀廟へ急いでいた私たちでしたが。辿り着く前に事態は動いてしまったようです。

 

私も探知魔法を行使してみて気付きましたが、命蓮寺から一人夢殿大祀廟へ続く墓場に向けて移動しています。流石に敷地内の移動ですのであちらの方が早い…つまり勇儀さんが交戦していることを隠すのはもう不可能だということ。

――だと、思っていたのですが。

 

「…これは、入り口で待っているのでしょうか?」

「ってこたあつまり、あたいらの接近に気付いて動いた可能性もあるってことかい?」

「それはそれで面倒ね。どうはぐらかそうかしら」

 

何故か命蓮寺から出て来た相手は墓地で足を止めています。それは小町さんの言う通り《私達の接近に反応した》という可能性もあるということです。

 

ですが、夢殿大祀廟に続く道はあの墓場だけ…茨華仙様の空間魔法や小町さんの能力で強引に夢殿大祀廟に入り込むのも不可能ではないそうですが、勇儀さんが交戦中ということを考えると避けたい方法ではあります。

出口次第で【勇儀さんの喧嘩の妨げになる】可能性がありますから。

 

「ただ、命蓮寺に集まる者達は争いを好まない者が多い。素直に話をする方が安全かもしれないわ。

それこそ、逆に私達が知らない情報を持っているかもしれない」

「そう考えますと、このまま小町さんに負担がかからないように向かうのがいいでしょうね。諍いを起こしたくないのは私達も同じです」

「その辺は任せるさ、あたいは数合わせでしかないんだからね」

 

そうして、夢殿大祀廟に続く墓地に辿り着き―――待っていたのは。

 

「このような雪の夜に、何のご用でしょうか?」

 

槍を携えた虎妖怪が、入口を塞ぐように待ち構えていました。

―――そして、とても間の悪いことに。

 

「「「「っ!?」」」」

 

4人全員がほぼ同時に気付いてしまいました。

突然、椛の妖気が地下に現れこちらに向かってきています!!

 

「…私は寅丸星、毘沙門天様の代理を務めさせていただいています。

先程ここの地下で何か起きたらしく、大きな揺れがこの一帯を襲いました。

貴方たちは、これに関して何か知っているのでしょうか?」

 

毘沙門天の代理、ですか。妖怪でありながらそう名乗れるあたり、彼女の信仰心は本物でしょう。それならば、会話が普通に通じる可能性があります。

そして、茨華仙様もそう判断したようで。

 

「まず前提として言っておきましょう、私達は命蓮寺と敵対する気は無い。それは先行した勇儀も同じよ。

そして、悪いことは言わないわ。この件には関わらない方がいい。私たちに任せて、大人しくしていてもらえないかしら?」

「はい、私たちも争うつもりはありません。ですが、この先に向かうのであれば――その理由だけでもお聞かせ願えませんか?

何か危険なことが起きているようですので、このまま見送るのは不安でしかないのです。貴方たちが私よりも強い力を持っていても、です」

 

少なくとも敵視されているわけではない、一安心とは言えるでしょう。ですが、今の状況をあまり広めたくはない…それに私は地獄勤め、地上の情報には疎いのです。このような状況だと、茨華仙様にお任せせざるを得ない。そして、その間にもどんどん近付いてくる椛を交渉に利用されてしまい。

 

「少なくとも、今ここに向かってきている者が危険な相手なのかは教えていただけませんか?

 対処が必要であれば、私が動かなければなりません」

「彼女に危険はないわ。ただ、彼女が追っている男は危険…幻想郷全体を巻き込むほどのね。

 だから、深入りせずに引き下がってもらえない?」

 

そして、私達が予想していた以上に。彼女は情報を持っていたようで。

 

「―――彼女が追っている男性とは、豹さんでしょうか?」

「「「!?」」」

 

私達が驚愕していたところに、全速力で向かっていた椛は辿り着いてしまいました。

 

「皆様!!どうか手を貸してください!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「どぉらぁっ!!」

「しぶといなー!はやく仲間になれー!」

 

俺が拳銃だけで多方向に対処できないというのを即座に見破られてるから、しつこく背後に回り込もうとする宮古芳香に向け足止め用の死体の首をトラースキックで吹っ飛ばし牽制に使う。同時に俺を狙う霍青娥の本命であろうレーザーを空間魔法に放り込み、霍青娥ごと邪魔な死体に当たるよう拳銃から乱射した光弾を出口にして狙う!

 

「お見事!ですが私の力を逆用するのは無駄ですわ」

 

余裕綽々でそのレーザーを受け止めるどころか、そのまま蛇行させて俺を狙ってきた。仙界に向けた流れ弾になる可能性もあったが、俺の空間魔法に干渉せず素通りさせることも出来るってワケだ。流石は邪仙として長く生き続けているだけはあるな!

 

「だが、時間切れだ!!」

「見つけたよ!!私の喧嘩の邪魔するたあいい度胸だ!!」

「青娥、大人しく引き下がれ!!」

 

勇儀とこころが攻撃範囲に入った!!これで王手(チェックメイト)だ!!

 

「本当に、素晴らしい殿方ですわね…!

 もっと慎重に動くべきでしたわ!」

「ホントにねー♪」

「っ!?」

 

ガキィッ!!っと金属同士がぶつかるような音がしたと同時に、こいしの突き出したナイフが折れていた。こいしの不意打ちは完全に決まったが、俺が接近戦を狙い続けてたことで有効打にはならなかったか!

 

「って、折れちゃった!?」

「…これは、とても厄介な妖怪もいらしたようで。

 仕方ありませんわね、一度退かせていただきますわ」

 

その言葉と同時に宮古芳香を含む死体がすべて一瞬で消え去った。あれだけの数を同時に仙界に戻すとは…空間魔法では俺に劣ると言っていたが、用途によっては俺より上の空間魔法も扱えるということだ。やはり侮れない。

 

「逃げられちゃった!?ごめん豹!身体がこんなに硬いなんて思ってなかったー!」

「いや、退かせてくれただけで十分だ。ありがとな、こいし」

 

本当に俺の悪運は素晴らしいな!ハッキリ言って椛が来る前に先手を打って邪仙とキョンシーに襲撃されてたら、地下洞窟を追撃されつつ逃げ回る羽目になり相当消耗しただろう。それを勇儀達の介入で右腕の損傷だけで切り抜けたのだ。

 

勇儀とこいし、こころ。逃げる前に、最低限の礼と情報交換はしておかないとな。

その上で、茨華仙に見つかる前に脱出できれば最上だ!




こいしも強化している一人。この作品ではある程度無意識能力を制御可能になっています。
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