寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第166話 夢殿大祀廟脱出

「椛、無事でしたか」

「私は敵対するつもりも、豹さんの邪魔になるつもりもありません。

状況を報告してあげてください」

 

地上に出る前から把握していましたが、一名私と面識のない方がいます。格好を見る限り、この墓地を管理している寺の関係者でしょう。おそらく、豹さんと勇儀様の激突による衝撃は地上の寺にまで届いてしまい様子を見に来た…といったところでしょうか。

 

少し迷いましたが、4対1であれば強硬手段を取れると判断してそのまま話すことにしました。それこそ、この方が加わっていることで茨華仙様の警戒心をそちらへ向けさせることが出来ますから。

 

「豹さんと接触できたのですが、霍青娥に先手を打たれてしまっていて豹さんは空間魔法での脱出が出来ない状況だそうです。そのため真正面から勇儀様の喧嘩を受けて立ったのですが」

「ちょっ…!?鬼の四天王との喧嘩を素直に買ったってのかい!?」

 

小町さんも合流してしまっているので、私の責任は重大です。小町さんが把握できない位置へ豹さんが脱出できるように、茨華仙様が空間魔法を妨害しないよう動かなくてはならない…!

 

「はい…再戦することは避けられないと覚悟を決めてしまったので、私では止められませんでした。

ですが、豹さんと勇儀様が激突したと同時に霍青娥が多数の死体を操り豹さんを捕らえようと介入してきたんです!豹さんはそれ自体は読んでいたので、まだ無事だとは思いますが―――」

「勇儀さんと真正面から激突して無事なはずが無いです!茨華仙様、急ぎましょう!!」

「わかってる!寅丸星、貴方は」

「私も行きます!足を引っ張るようなことはありません!!」

「時間が惜しいです!茨華仙様、構わないですよね!」

「仕方ないわね!小町、2人増えても」

「負担がでかくなり過ぎるよ!豹ってのを逃がさないためにあたいを使おうってんなら、地下までは自分で飛んどくれ!!」

「ああもう!皆、行くわよ!!」

 

―――上手く私が最後尾に回れました!後は私が為すべきは、最後の一手のみ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「勇儀、こいし、こころ。ありがとうな…助かった」

「気にするなって!それに私の全力とぶつかり合ってそれだけで済んでるんだ、治療したら再戦に期待していいんだよな?」

「ああ、報酬にそれを要求されるのは覚悟してたさ。ただ、しばらくは待ってくれよ?この状態から治療してくれるアテはあるとはいえ、完治には時間がかかるからな」

「…そのぐっちゃぐちゃな右手が完治するって、魔界人ってすごいんですね」

「いや、魔界人がそういう体質なんじゃなく、癒すことに関しては医者よりも頼れる相手がいてな。ただ接触するのに時間がかかるんだが」

 

麟の存在はなるべく伏せる。妹紅とは違う方向で俺の奥の手、超貴重かつ優秀な回復役である麟は迂闊に前線に出すわけにはいかない…その有用性を敵に知られると真っ先に狙われてしまうからだ。

 

それゆえに、味方にもそう簡単に存在を明かすわけにはいかない。

 

「それで、こいしとこころは何を俺に求める?右腕がこのザマだから今すぐにとはいかないが」

「地霊殿に来てよー!こんなところよりずーっと安全だもん」

「………そうなるか。

いいだろう、ただし条件がある…古明地さとりとは接触しないこと。これが呑めないならユキたちが魔界に帰るまでは待ってくれ。俺と彼女は相性が悪いんでな」

「え、お姉ちゃんと相性がいい相手なんていないよ?」

「こいし、それ実の姉に言っていいの?」

 

こころがこいしにツッコミを入れているが、こいしの言い分も間違ってはいない。覚妖怪の本質は精神を蝕むもの―――こいしと違い真っ当な覚妖怪として過ごす古明地さとりが嫌われるのは本人も自覚した上での接し方なのだろう。もっとも、俺にとって問題なのはそこじゃないんだが。

 

…こうなった以上、勇儀にも伝えて地底の面々で豊聡耳神子一派に睨みを利かせてもらうか。茨華仙が協力してるってことは、魔界と幻想郷の問題は勇儀も把握しているはずだしな。

 

「性格の問題じゃないんだよ。俺の能力は【他者からの精神的な干渉・影響を受けない】―――魔法だろうが呪いだろうが固有能力だろうが、肉体に影響しない事象は俺には効かない…おそらく古明地さとりの読心能力もな。

そんな相手が地底に侵入したら地霊殿の主として警戒対象になるだろう?潜伏先の主に警戒されるんじゃ本末転倒だ」

「お姉ちゃんなんて気にしなくていーじゃん!豹は私の運命の相手なんだから!」

「ほー」「おぉ!」

「なんじゃそりゃ…勇儀はそのニヤニヤ顔で見るな。こころもその妙に腹立たしい笑顔の仮面はなんなんだ」

 

リリーの家で軽く話した時点で面倒なことになりそうだとは思ってたが、こいしは予想以上に俺に執着してるな!『私をちゃんと見てくれる人なんてはじめて』ってのは真実だからこそ、俺を確保しておきたいのだろう。

 

敵視されるよりはマシだとはいえ、逃亡生活において制御不可能な協力者なんて抱え込めない。となれば、上手く理由を付けて別行動してもらうしかない…そしてそれは、裏まで読んでくる茨華仙と合流する前に依頼することが必須。ストップをかけられる前に依頼を受けさせれば、勇儀が途中放棄をさせないだろうからな…!

 

「それに、今の状況で向かえば()()()()()()()()()()()()()ことになるんだよ。あの邪仙を仕留め損ねたからな…仙界の連中が俺目当てに地底に介入してきたら潜伏どころじゃなくなるだろ?勇儀や古明地さとりが俺を隠蔽する方針で動いたとしても、地底の大多数の妖怪は【俺が地上で活動していた】というだけで排除に動く」

「それは否定できないねえ…力尽くで黙らせても納得しない奴は出てくる。そんな馬鹿でも数が集まれば無視できなくなるってのが集団ってもんだ。そいつらが豹やさっきの女に絡んじまうと今度は逆に地上の鬱陶しい集団が地底に絡んで来て、相互不干渉違反で管理者共が動いて強引に解決。

それをまた余計な因縁にして動く馬鹿が出てくるいたちごっこさ」

「だから古明地さとりと俺の相性だけじゃなく、あの邪仙とその背後の連中を黙らせることも必要になる。ここまでは理解してくれるかこいし?」

「…まあ、ね。これでもお姉ちゃんの妹だから、そういうことを知らないわけじゃないもん。

 でも、それならさっきの奴らを潰しちゃえば来てくれるっていうことにもなるよね?」

 

よし!珍しく勇儀が上に立つ者としての見解を出してくれたことで、こいしも一度引き下がってくれた。ここで言質を取らせればいいだけだ!

 

「そうだな…潜伏先がもうほとんど残ってないのも事実だ。地底に逃れるってのも選択肢に入れざるを得なくはなってるからな」

「言ったな豹!条件が整えば地底に来てもいいってことだね?」

「ああ、紫さんに断りを入れる必要はあるが…この状況なら見逃してくれるだろ、多分」

「決まりだね!勇儀さん、手伝って!さっきの奴らを片付けちゃおう!!」

 

このあたりは即断即決の勇儀で助かる!一度言葉に出した以上、霍青娥だけじゃなく仙界の連中も敵として勇儀は動いてくれる。俺への執着を見る限りこいしもだろう。この二人がやる気になっていれば茨華仙でも簡単には止められないはずだ。

 

「こいしはそれでいいとして、こころは何かあるか?」

「そうですね、椛さんにも頼みましたが色々お話を聞かせてほしいです。特に、恋物語を」

「ちょっと待て、椛はこころに何を言ったんだ!?」

 

俺に恋物語なんざ縁が無い…とは言えねえか。流石にルナサや雛に椛、麟の好意を理解できないわけじゃない。だが、なんで椛からその方向の話が出てきた!?そういった方向に話題が流れないよう気を付けてたはずなんだが。

 

「女の子は恋の話がだーい好きなんだよ、豹♪」

「そういうこったよ。酒の肴にも悪くない話題さね」

「私の能楽に活かすためにも、ぜひ」

 

ああ、勇儀まで興味津々なのかよ。こりゃ迂闊なことは言えねえな、逃がしてくれなくなる。

となれば…椛を使ってさっさと脱出させてもらうか。

 

「仕方ねえな…それなら椛たちと合流するぞ。そのついでに俺の逃走に力を貸してくれてる皆を恋物語っぽく聞かせてやるさ」

 

これでも長い潜伏生活を送ってたんだ。そういった物語を読んだことが無いわけじゃない。

気を逸らさせるという意味でも、悪くない手段だろう。なにしろ、女の子は恋の話が大好きらしいからな。

 

 

 

 

 

「―――こんなところで満足か?逃走中の俺が恋人を作れば弱点になる…それを理由に逃げ続けてるわけだ」

「女たらし」

「甲斐性無し」

「そのうち後ろから刺されそうですね」

「否定できねえが言いたい放題だな!?」

 

はっきり口に出されると結構凹むんだぞ!ユキにも言われたことあるから自覚してるが!

 

「あっははー♪でもこれなら私にもまだチャンスあるよねー?」

「お、こいしも参戦する?なら私もライバルとしてお兄さんを狙おうかな?」

「収拾つかなくなるからこころまで乗らないでくれ!!」

「いいねいいねえ!外から見てる分には面白いよ!」

 

ったく…ルナサ・雛・椛との出会いと協力してくれてる経緯を話すだけでここまで楽しそうになるとは思いもしなかった。だが、脱出に必要な魔法術式を語りながら密かに俺が組み終えたのには気付かなかったようだな―――加えて命蓮寺が星を偵察に出してくれたことで、茨華仙はそちらにも意識を向けざるを得ないはず。

 

そして―――俺はここで、運を使い果たしたのだろう。

この時までは、俺は幸運にも悪運にも恵まれ過ぎていた。

 

「――っと、見えてきたか」

「お、一人多くなってる気もするが…まあいいかい」

「それじゃ、椛さんにも聞きましょう」

「さんせーい!」

 

俺の話に聞き入っていた皆が、視線を墓地から向かって来た仲間に向け。

茨華仙達も、俺の言葉が聞こえる距離まで近付き―――椛はこれ以上ないタイミングで動いてくれた!!

 

 

交替(チェンジ)

 

 

「へ?何か言った豹?」

「あん?

 ―――って!?やられた!!」

「はい?どういう意味ですか勇儀――っ!?

 彼に似せた土人形(ゴーレム)!?」

「…そういうことですか。

 彼女…椛は最初から、豹さんのために」

「ありゃ、椛もいない!?いつの間に!?」

「っ!椛にも出し抜かれたというわけですね…!」

「え?え?何が起きたの!?」

 

私が不自然に感じていた点――夢殿大祀廟から地上に出て来た白狼天狗…椛。彼女は先行して私たちを案内するでもなく、いつの間にか最後尾に下がっていました。ですが、私も数に含めても椛は戦闘面でここにいる面々に劣っている…そのため最高速に差があるからと思い込んでしまいましたが。

 

背後から聞こえた何かを落とした音。それに気付き振り向いた時、椛は足を止めていて。

 

「申し訳ありません、何があったのかは辛うじて把握できたのですが…私では止められませんでした。

豹さんは空間魔法を連続して使ったようです。まず椛が豹さんから受け取っていたであろうその土人形の核を地面に落とし、それを豹さんが創り上げたと同時に位置を入れ替え…椛を抱えて空間魔法の入口に飛び込んでいました」

「本当に、紫が匿っていた大魔法使いなだけはあるわね…!ここまで綺麗にしてやられるなんて!!」

「おまけに椛まで引っこ抜かれたかい。まあ、あの様子なら私らが頼まれごとを済ませりゃ地底に来るだろうけど」

「もー!もっとお話ししたかったのにー!!

勇儀さん、こうなったら意地でも豹を地霊殿に連れてくから!お空も呼んでくる!!」

「は?いやちょっと待ちなさいこいし…!」

「…いや、もう追えないねこりゃ。無意識に潜まれちゃお手上げだよ」

「お空って…あの地獄烏を地上に!?それは流石に大騒ぎになりますよ!?」

「そうだろうねえ、こうなっちゃ仕方ないか。

華扇、私と久侘歌は一度地底に戻ってこいしと合流するからさ、その間に仙界に飛び込むルートを用意しときな。仙界ならあの地獄烏が暴れても管理者共は気にしないだろ?」

「勇儀…仙界の一派を本気で襲う気ですか?」

「当たり前だよ!!私と豹の喧嘩の邪魔をしたんだ、しっかり落とし前を付けさせないとねえ!!」

「あーもう!!とんでもない方向に悪化したわね!!

止めても無駄だからもう勝手にしなさい。ただ、例の摩多羅隠岐奈が絡んでたら私に伝えて」

「おう、それぐらいはやってやるさ。行くよ久侘歌」

「はぁ…小町さん、四季様にこれを伝えてくれますか?」

「仕方ないねえ…そのまま次の特務を押し付けられそうだけど、これを放置する方がどやされちまうかい」

「私からもお願いするわ。流石に閻魔様も何か手を打つでしょう。

それで悪いけど、こころと星は少し私に付き合ってもらえる?ここで何があったのかと、今後どう動くかを確認したいわ」

「む…私しか残っていないから仕方ないか」

「はい、私もそうしてもらえると助かります」

 

私には何もできませんでしたが、結果的に少人数での情報交換という私が余計なことをする可能性は低い状況になりました。ある意味、命蓮寺にとっても豹さんにとっても一番良い状況になったのかもしれません。

 

それならば…今、私に出来ることを。




お伝えしたとおり今週土曜の更新は休ませていただきます。
次の更新は22(火)になります。
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