捜索で紹介してくださった読者様がいらっしゃいました!ありがとうございます!
なんとか妹紅さんが隠れ家に来るより先に、私たちが豹さんの隠れ家に辿り着けました。
「それじゃ、わたしは部屋の用意するね!」
「お願いします!私は寒さに耐性があるので妹紅さんをここでお迎えしますね」
「カナさん、私はどうしましょうか?」
「雪の中悪いんだけど、上海ちゃんと一緒に居てもらっていいかな~?
上海ちゃんを一人にしちゃって連れ去られちゃうと、アリスに怒られちゃうから」
「わかりました。それでは家の中のことはお任せしますね」
隠れ家の中に関してはカナさんにお任せしてしまった方が迷惑になりませんから、私も外で待つことにしました。おそらく妹紅さんも私たちがここに戻ったことに気付いているはずですので、近付くだけで視認できる位置にいた方がいいでしょう。
「ごめんなさい麟さん、こんな雪の中で…」
「気にしないで大丈夫ですよ上海ちゃん。私からすれば、話相手がそばに居てくれるというだけで他のことは気にならなくなるんです。それにサリエル様のおかげで希望も持てましたから、雪や寒さなんて平気ですよ」
「そうなんですね…
その、一つ麟さんにお聞きしてもいいでしょうか?」
「はい、何でしょう?」
「麟さんは…幻想郷に未練はないのでしょうか?」
―――未練、ですか。
「無いわけではありませんけれど…私の居場所は幻想郷ではなくて、豹さんのそばなんです。
豹さんが幻想郷を去ってしまうのであれば、私はそれを追いかけるだけです。豹さんの優しさに付けこんで、逃がしてあげません」
「ふふ、豹さんなら麟さんを置いて行くことなんて出来ないですもんね。
でも、隠れ家さんは連れて行くことは出来ない…」
「豹さんとルナサさんから、上海ちゃんと隠れ家のことも少し聞きました。私は幻想郷に不満があるわけではないので、上海ちゃんと一緒に豹さんがこの家に留まれるように動きます。豹さんが、魔界に帰ろうとしない限り…そこは心配しないで大丈夫ですよ」
「ありがとうございます、麟さん。
神綺様や夢子さん、ユキさんには申し訳ないのですが…豹さんには、隠れ家さんのところに帰って来てもらいたいです。隠れ家さんは、ここから自由に動けないのですから…」
豹さんの隠れ家を見上げながら上海ちゃんが言葉を紡ぎます。本当に、人形だなんて思えないですね…
小さなその姿にどこかまぶしさのようなものを感じていると、森の中に紛れることができたらしい妹紅さんが速度を上げて、あっという間にここに辿り着きました。
「ここなのですよー!
―――あっ!上海さん!」
「人里からの距離自体はそれほどじゃないのに、ここまで見つけにくい場所があったなんてね…流石は豹だなあ」
「リリーさん!もしかして、豹さんからの指示でここへ!?」
「そうなのですよー!なのでリリーと妹紅さんにも今日何があったのかを教えてほしいのですよー」
「はい、私たちもリリーに何があったのかを教えてくださいね」
「…あれ?おねえさんはどちらさまでしょう?」
「冴月麟といいます。憶えていられたら、憶えておいてくださいね。
―――お久しぶりです、妹紅さん」
「………ああ、久しぶりだな麟。
悪い、名前を出してくれてから思い出した」
「気にしないでください。思い出してくれただけでも嬉しいですから。
今は豹さんを支えるために、情報交換をしてもらえませんか?」
「ああ、そのつもりさ。
…だが、先にこの翼のこと聞いてもいいか?」
「豹さんが魔力タンクとして創ってくれました。私がご主人様の元を離れても、長時間行動できるようにと」
「魔力タンク、か…本当に豹は凄かったんだね」
「そうなのですよー。リリーに魔法を教えてくれてるのが不思議なぐらいですよー」
そういえば、妹紅さんは今の上海ちゃんになってから面識があった上で黒翼を目の当たりにしているということですものね。創造されたところをその場で見ていた私とはまた違う方向で驚きがあるのでしょう。
そうお話をしていたら、カナさんが部屋の用意を終えてくださいまして。
「みんな、お待たせ~!
あ、本当にリリーも一緒だったの!みんな寒いと思うから、とりあえず入って!」
「ああ、お邪魔するよ。豹の隠れ家って聞いてるけど、カナが留守番してるってことでいいんだよね?」
「うん!妹紅さんなら豹もお家も拒まないから、だいじょうぶ!」
「それじゃ、まず聞きたいのが――リリーのところに豹が行ってないかな?」
「そうなんですよー!豹さんがリリーのお家に来たところを、お山の神社の巫女さんと地底の妖怪さんに襲われてしまったのですよー」
「っ!?上海ちゃんの予想が大当たりですか…!」
「それで、豹さんは何処に!?」
「ごめんなさいなのですよー…豹さんは『俺単独とリリーを連れてでは逃走難度が桁違いだ』って言ってリリーを置いていってしまったのですよー」
置いていってしまった、つまり豹さんはまた単独行動しているということです。そうなるとやはり豹さんからの連絡待ちになってしまいますか…
「そうなのですね…でも、どうして妹紅さんと一緒にここへ来てくれたのでしょうか?」
「ええとですね、リリーのお家から豹さんが空間魔法で命蓮寺っていうお寺に移動してくれたのですよー。そこで豹さんがお寺の皆さんとお話しするかわりに、リリーを妹紅さんのところに送ってと頼んでくれたんです。それで星さんっていう妖怪さんがリリーを妹紅さんのお家まで送ってくれたのですよー」
「あ、あの虎妖怪さんだね!でもその言い方だと、豹も命蓮寺をすぐ出て行っちゃったってことかな?」
「そうなんですよー。それこそリリーと星さんより先に豹さんがお寺から離れてしまったのです…
星さんたちは神綺様って魔界の神様と会おうとしてるみたいでしたので、豹さんは行き先を告げずに行ってしまったのですよー」
「神綺様とですか!?それは、どういう…!?」
「あ、麟さんには命蓮寺のこと話してなかったね。
命蓮寺の住職さんは魔界に封印されてたことがあって、その頃に神綺様と仲良くしてたんだって。アリスが神綺様の娘だって伝えて話を聞きに行ったら、すぐに人払いしてお話ししてくれるぐらい神綺様と付き合いがあったみたいなの」
「…そう繋がってたのか。お前らはもう命蓮寺の連中とも接触済みで、それがあったからこそ星は何の疑いもなくリリーを私のところに送って来たってわけね」
私と妹紅さんが聞いていないところで、カナさんたちと魔界の方々・命蓮寺に繋がりがあったのですね。今日から同行することになった私はまだ共有してもらえていない情報がたくさんあるようですので、豹さんからの指示がある前に聞いておかないと…!
「なのでリリーはそのまま星さんに妹紅さんのところまで送ってもらって、昨日までにみなさんから教えてもらったお話をお伝えしたのですよー。妹紅さんが豹さんのお願い通りリリーと一緒に居てくれることになりましたので、星さんは命蓮寺に帰ったのですよー」
「その後も私はリリーから細かい話を聞いてたんだけど、リリーは豹の隠れ家の位置を知ってるって言うからね。人目に付かない遠回りでここまで案内してもらったのよ。
私の家より
「そうだったんだ~。でもリリーを守ってもらえるってことは、妹紅さんも?」
「ああ、豹を幻想郷に留まらせるためにお前らの力にならせてくれ。リリーの護衛を頼まれたわけだが、それはここにリリーを連れてきた以上カナにも頼めるだろ?
これでも腕に自信はあるからね、戦力として荒事は任せてくれていい。これは麟が証明してくれる」
「ありがとうございます、妹紅さん…!本当に助かります!
妹紅さんは間違いなく今ここにいる中で一番強いです。私の師匠の一人ですから」
「思い出してもらえればというのはこういうことだったんですね。
妹紅さん、こちらこそよろしくお願いします!」
「うん、このお家にいる限りリリーはわたしたちで守って見せるよ!
だから妹紅さん、これからよろしくね!」
とっても心強い味方がいらっしゃってくれました…!
妹紅さんは博麗の巫女やフラワーマスターを相手にしても引けを取りません。つまり今日のお昼ごろに魅魔さんがそう動いたように『豹さんではなく私たちを狙う』という手段を取られた場合も、彼女たちですら一対一で抑えられる強者に力を貸してもらえるようになったということです。
魔界に侵入した4名が同時に動いたとしても…妹紅さんとアリスさんが一人ずつ抑えてくれている間に、私とカナさん・上海ちゃんで残りの二人を幻月さんと夢月さんが来てくれるまで足止めすることで対処が出来るようになったということです。そこにルナサさん・メルランさん・リリカさんにエリーさんとくるみさんも合流してもらえれば豹さんが私たちの援護をしなくても撃退できるはずです。
そして、本当に襲撃されてしまった場合…妹紅さんに理解しておいてもらわなければならないことは。
「それでは、次は私たちの番ですね。今日はとてもたくさんお話ししなければならないことがあって、長くなってしまうのですが…妹紅さん、聞いてもらえますか?」
「もちろんだ、私は状況が全然わかってないからね。
豹を取り巻く状況がどれだけ悪くなってるのかを、詳しく教えてくれ」
「―――よっしゃ!上手く茨華仙を出し抜けたな!!」
「は、はい…」
椛のおかげで茨華仙の妨害が届く前に脱出成功!ここまで上手くいくとは思ってなかったぜ…!
勇儀も酒の肴として色恋沙汰に興味津々で俺の話に聞き入って集中を切らしてたのと、茨華仙が俺だけでなく星にも注意を向けていたことで椛が完全にノーマークだったこと、そして薄暗い地下洞窟内が合流地点となったことで椛に持たせた核から創造したゴーレムを俺と入れ替えたことを茨華仙が視認できなかったこと―――これだけの幸運が重なったことで最上の結果になったわけだ。
どれか一つでも欠けていたら茨華仙と直接対峙する羽目になっていただろう。
(茨華仙には最後まで中立を保ってほしいからな…)
摩多羅隠岐奈が介入してきた以上、紫さんも幻想郷の管理者としてではなく八雲紫として動くことになる。これによって管理者が真っ二つの派閥に割れると魔界との交渉どころじゃない。茨華仙にはそれを避けるための第三派閥として動いてほしいのだ。
紫さんと摩多羅隠岐奈の対立になんぞ管理者の誰も巻き込まれたくないだろう。つまり第三派閥が出来れば大半がそこに流れるはず…そうなれば
その立ち位置を貫いてもらうためには、俺の情報をなるべく持たないでほしいのだ。紫さんにも摩多羅隠岐奈にも与しないでもらうには、その決裂の原因である俺の情報を不足させるぐらいしか手が無い。それこそ俺と直接話したことで摩多羅隠岐奈の肩を持つべきと判断されれば俺は詰みだ。紫さんを除く幻想郷の管理者全てを敵に回したら逃げ切れるはずがないのだから。
(まあ、紫さん側に回ってくれるのであれば助かるんだが…そうなると数的不利に陥った摩多羅隠岐奈が強硬策を打ってくるリスクが増すからな。俺と直接の面識はどうしようもなくなるまでは無い方がいい)
頭の中でそう結論付けて、麟の家から外に出ようとしたところで椛が口を開いた。
「えっと、その…豹さん?こ、ここは何処なのでしょうか?」
「ああ、この家の周囲には魔力遮断領域と妖怪除けの結界を展開してあってな。小野塚小町に一気に距離を詰められないよう空間魔法の魔力反応を隠せる地点だ。家主とは面識があるから、後で俺が謝っておく」
「そ、そうですか」
…なんだ?妙に椛が顔を赤くしてるが―――って、そうだった。
「あ…その、ありがとうございました」
「礼なんていらないさ。それこそ片手で雑に抱えて悪かった」
またやっちまったな…左腕の中に抱えた椛を玄関先に降ろす。少しでもタイムロスを減らすために左腕に椛を抱えて空間魔法のゲートに飛び込んだのだ。どうやらこれもユキや夢子に何度も言われた【アウト判定な行動】なのだろう。自覚していても咄嗟の判断で避けることなど出来るはずもなかった。
そして、降り立った椛はそこではじめて俺の右手に気付いたようで。
「――って、豹さん!?その右手は!!」
「慌てなくて大丈夫だ、治療のアテはある。
だが、置き去りにしてきたメンツの注意が逸れるまでは迂闊に動けない。計算外要素の乱入も考えて、俺は外でしばらく待機する」
「……わかりました、信じます。ですが、私に出来ることがあればすぐに言ってください」
「助かる。動きを俺が把握でき次第、頼みたいことがあるからな…
今は少し、ここで休んでてくれ」
「いえ、豹さんが外で待機するなら私も外に出ます。寒いですけれど、面識のない方の家でくつろげるほど私は神経が太くありません」
「そうか、悪いな…」
椛にもしっかりお礼をしないとな。巻き込んでしまった挙句、鬼の四天王のうち二人に睨まれてしまっただろう。魔界に保護してもらうことになっても、不自由にさせないようにユキと夢子に上手く伝える方法も考えねえと。
…ここのところ借りを作ってばかりだな、俺。