お師匠様の予測通り、烏天狗の大将から情報は引き出せたんだけど…私にとってはむしろ凶報でしかなかったわ。ハッキリ言って、輝夜様が言ってたように静観する方針に転換してほしい。あのスキマ妖怪並みに空間魔法を扱える以上、捕まえるためにはそれを妨害する必要があるってことなのに【精神防御能力持ち】という情報が出て来た、それはつまり。
(私と相性が悪過ぎる!!目を合わせても私の能力を無効化した上で私だけ相手の魔眼に囚われるってことじゃない!)
どう考えても私が捕縛できる相手じゃない。それなら接触して交渉の席に着かせるように説得するべきなんだろうけど、早苗がもう先制攻撃してるから大人しく話を聞いてくれるとは思えない。それどころかお師匠様にまだ私怨を向けていたら玉兎である私は真っ先に狙われかねない…精神干渉が無効化されるということは、私が玉兎であることを隠すことができないということでもあるのだから。
そうなると、私が今ここで出すべき意見は…!
「…永遠亭の立場から意見を出させてもらうと、直接豹を追うのは避けたいわ。空間魔法に対応できるのが一人もいないから、発見しても逃げ切られる未来しか見えないもの」
「それはそうですねー。見つけたところでさっきのように逃げられるのであれば意味が無いです。
ここをどうにかしない限り、ターゲットの確保は不可能ですよね?」
早苗も同調してくれて助かったわ。無策で動いて遭遇戦になった場合、私だけに被害が集中しかねない。
「ああ、だからこそ真っ先に無意識妖怪との協力を打診しておいたのだからな。だが、その古明地こいしを勇儀様が引っ張って行った以上、我々だけで豹の捕縛は不可能だろうな」
「だろうね。お前さんはその鬼が何処に向かったのかは把握してるのかい?」
「一度華扇様の屋敷へ向かった後、人里方面へ向かったと報告があった。だがそれに随行していたのは椛と見慣れぬ少女二人だけで、庭渡神は華扇様と合流して三途の川方面に向かっていたという報告も受けている」
「となると、閻魔にも情報が伝わってると考えるべきか。鬼の四天王が出向いて来たのも地獄の閻魔の差し金という可能性は?」
「十中八九嚙んでいるだろう。そうでなければ勇儀様が地上の動向を知れるはずがないからな」
なんだか思ってた以上に大事になってるのね。もしかして私たちは大幅に出遅れてるんじゃないかしら?
地獄の閻魔様が地上に介入してきてる異変なんて、もう地上の重要人物には話が広まってる可能性の方が高い気がする。その点
「それなら我々も勇儀様と合流してしまえばいいのでは?こちらの巫女も地底と繋がりがあるのなら、邪険にされることもないでしょう?
地底に豹とやらを追放するという形で協力すると申し出れば、少なくとも魔界に対しての共同戦線は張れると考えますが?」
「魔界に対してだけならそれで問題ないが、勇儀様の機嫌を損ねるような相手が豹の援護に回った場合に勇儀様がその勢力全体に向けて喧嘩を売る可能性がある。そうなった場合その勢力と敵対関係になる上に、幻想郷の管理者連中が我々を矢面に立たせるよう動くから却下だ。
それこそ勇儀様がそう動いた場合、我々で仲裁に入ることで恩を売れる。だからこそ勇儀様には泳いでもらうのが最上だろう…どうせ管理者連中は勇儀様の暴走は私に押し付けてくる。それならば私にも益があるような状況にしなければな」
「そうなると豹の関係者から情報を聞き出すぐらいしか出来ないだろうね。早苗、例の写真に写ってるのに心当たりはあるんだったかい?」
「はい、ルナサさんは有名な方になりますからね。少なくとも自宅が割れてますので接触は難しくないです」
「むしろ、騒霊楽団にあのクソ野郎のことを吐かせるなら今が絶好の機になってますよぉ?」
聞きなれない声に振り向くと、狐少女が烏天狗の大将の執務室に入ってきたところだったわ。
…そう簡単に一般妖怪が入り込める場所じゃないはず。となると、この狐少女が…!
「典、情報は助かるが足は付いてないだろうね?」
「ご安心を飯綱丸様。潜伏して集中していたからこそ気付けた反応なので」
さっき話に出てた管狐が彼女ね。出来れば豹とやらと戦闘になった場合の対策になるようなことを教えてもらいたいんだけど…話の内容的に今は難しいか。
「それで、何に気付いて私らに話に来たんだい?」
「そのルナサですが、今は自宅の廃洋館から離れていますよ。例の厄神とメイド服を着た見慣れない少女にルナサの三名が、博麗神社方面に向かっています。
―――つまり、騒霊三姉妹を敵に回した場合最も厄介な鬱の音持ちが不在です。三日前いいようにやられた仕返しをするには、絶好の機会ですよぉ?射命丸様」
「ふん、アンタほど私は陰湿じゃないわよ。
ま、絶好のチャンスってのに違いはないみたいだけど」
…そういうこと。単純に敵戦力が分散中だってことに気付いたからわざわざ連絡しに来たってワケね。
そこで、早苗が一つ気付いたのか質問をぶつける。
「メイド服ですか?咲夜がルナサさんに協力したってことなんでしょうか?」
「いえ、金髪のメイドでしたので吸血鬼のメイドとは別ですね。それが誰なのかまではわかりませんでしたので…
伝えるべきことは伝えました。私はまた大人しくしますよ、飯綱丸様」
「ああ、そうしておけ」
それだけ言って管狐は部屋を出て行った。呼び止める隙が無かったわね…
どうも潜伏しないと危ない立場って言うのは本当らしいわ。
「…だ、そうだ。実力行使に出ようが幻想郷の有力勢力に影響が出ないという観点からしても、狙い目ではある相手だろうな」
「というか三日前に何があったのかを先に聞かせな?騒霊楽団が妖怪の山に来てたなんて聞いてないが」
「ああ、鍵山雛を騒霊楽団が訪ねていたそうだ。たしか、もう一人別の騒霊が居たと言っていたな射命丸?」
「そうですな。プリズムリバー三姉妹ともう一人、カナ・アナベラルという生意気なお子様騒霊を引き連れてアリスが来ていたのですよ。その時少々不覚を取りましてね…実害はありませんでしたが。その時案内していたのが勇儀様が引き抜いて行った椛ですよ」
「アリス?人形遣いのアリスさんのことでしょうか?」
「そうだ。流石に彼女は私も要警戒対象と見ているからこそ報告を覚えていたわけだ」
「成程ね。厄神が魔界に関して詳しい情報を得たのがそのタイミングだったってことか。
逆に言えば、騒霊達は魔界出身のアリスとやらに随行していたことを理由に手荒に扱っても誤魔化しが効くってことだね?」
「って、魔界出身!?あの人形遣いが!?」
思わず声が出てしまったわ。私も顔見知り程度ではあるけれど、アリス・マーガトロイドとは面識がある。でも魔界出身だなんて初めて聞いた。つまり、アリスからすでに
「それはすぐにお師匠様に伝えたいので、少しだけ時間をください!テレパシーで清蘭と鈴瑚に伝えますので!!」
「へっ!?鈴仙そんなこと出来るんですか!?」
「玉兎同士でしか通じないし、適性の無い玉兎には通じないんだけど。清蘭と鈴瑚には繋がるから!」
『清蘭、鈴瑚!聞こえてる!?』
「あれ、鈴仙?どうしたのよ?」
「ちょっ…!?清蘭、会話の途中でそんな反応はダメでしょ!」
八意様の指示でドレミー・スイートと接触できた私と清蘭は、夢の世界に出向く八意様から人里で楽団の情報を集めておくよう命令されたわ。話を聞いてくるべき相手も具体的に指示していただけたから、それほど苦労なく接触できたんだけど…
「鈴仙?あの薬売りのことかい?」
「どこにもいないわよ?何を急に言い出すのよ」
案の定疑念を持たれてる!これはあまり広めたくない能力だっていうのに!
でも、続けて伝えられた鈴仙のテレパシーで私も思わず声が出ちゃったわ。
『魔界から幻想郷に移住してきてた人形遣いがいたのよ!!そいつからすでに永遠亭の存在が魔界にバレてるかもしれない!!
すぐにお師匠様に伝えておいて!!』
「「ええっ!?」」
それってめっちゃくちゃヤバいよね!?下手すると迷いの竹林っていう防衛のアドバンテージが無くなる可能性があるってこと!
「あのさー、私をわざわざ影狼に呼び出させておいて奇行に走らないでくれない?時間の無駄にしか思えないんだけど」
「あーごめんなさい!清蘭、一度永遠亭に戻って報告して!こっちは私が聞いておくわ!」
「ラジャー!」
「…なんなのよホント。私も帰っていい?」
「待って待って、聞きたいことは一つだけだから!
今のは永遠亭から借りた通信具で連絡が入っただけなのよ」
迷いの竹林に住んでいる狼女に、人里に紛れて暮らしている妖怪の知り合いがいる―――てゐという兎のおかげで今泉影狼とはすぐに接触できて、そのまま本命の赤蛮奇ともあっさり引き会わせてもらえたのだけれど…お互いに自己紹介し終えたタイミングで鈴仙からとんでもない内容のテレパシーが飛んできたのが今の状況。
これで誤魔化されてくれるといいんだけど…
「あー、そうなの?よく知らないけどそれで納得しておくわ、この寒い雪の中長々と話したくないし」
「そうね、私も早く帰りたいわー」
寒さのおかげで乗り切れた。それなら私もさっさと任務を済ませちゃいましょう。
「大丈夫、知らなければ知らないで引き下がるから。
人里でも人気のプリズムリバーウィズHってのいるでしょ?そこの長女にオトコの影があるって噂、知らない?」
この聞き方は輝夜様のアイデア。有名人の色恋沙汰は話題になるからって理屈で、ルナサじゃなくて直接豹とやらのことを調べられる方法。流石は八意様が夢中になった姫だけはあるのを実感させられちゃったわ。
そして、大当たりだったらしくて。
「男?
ああ、もしかして《幻影の裏方》のこと?」
「え、なにそれ。私も初めて聞くんだけど」
八意様の予測は本当に凄い!あっさりターゲットの情報が手に入ったわ!
―――と思ったのだけれど、そう簡単にはいかなくて。
「…先に聞いとく。なんで彼のこと調べてんの?」
「え」
「私も彼に世話になったことあるから、あんたがなんか企んでんなら話さないよ。
彼、徹底的に目立たないようにしてたから。目的を言わない限り教えない」
「えー?蛮奇がそんなこと言うの珍しいじゃない。もしかして狙ってる?」
「影狼、あの楽団のメンバーと噂になるような色男が私と釣り合うと思ってんの?」
「思ってない!それはそうよね!」
「喧嘩売ってんのかコラ!?」
…漫才が始まってるわ。それにまさか目的を聞かれるなんて思わなかった…!
こうなると清蘭を伝令に向かわせたのは失敗。こいつらなら実力行使でなんとかなると思ってたけど、流石に1対2だとちょっと厳しい。ここは人里に近いから、派手に騒ぐと自警団が動く…人数的不利な状況でそれを防ぐのは無理だから。
なんか、上手い理由付けは…!
「…ま、あんたのその反応じゃ教えられないね。後ろめたいことが無いんならすぐに返してくるさ、この寒い雪の中なんだし。
悪いけど他を当たって。私は帰るよ」
「あ、待ってよ蛮奇!せっかく会ったんだから雪見酒に付き合ってよ!」
…間に合わずに帰られてしまった。やっちゃったなあ…
でも、収穫がゼロってわけじゃないし、一度清蘭と合流しようか。
(…あ。そういえば、私と清蘭だけでどうやって永遠亭まで帰ればいいんだろ?)
『鈴瑚、鈴仙!?私どうやって永遠亭に行けばいいの!?』
『あ、そうだった!?
迷いの竹林の入口にある焼き鳥屋さんに案内してもらっておいて!』
…まじか。これって下手すると私孤立するよね?
『清蘭、ちょっと待ってて!私もすぐ向かうから!』
「それで、結局さっきの男って何だったのよ?」
「…影狼なら大丈夫か。教えてあげるけど、あまり言いふらすなよ?
彼はあの楽団のステージの設営とか、音響・照明機材とかの設置を統括してる裏方の代表みたいなもんだよ。一度だけ日雇いで働いたことあんのよ私」
「あー…それは私も知らないはずね。人妖問わず人気のライブとはいっても、スタッフに私やわかさぎ姫みたいな一目で妖怪ってわかるのは入り込めないと思うし」
「そういうこと。ただ彼、最初に会話しただけで私を妖怪だと見抜いたらしくてね…
一人でできる作業かつ人間だと体力的にキツい作業を優先して私一人に割り振って来たのよ。そう言う意味ではすごく理想的な作業内容と給料だったんだけど…逆に言えば彼も同じような存在ってことじゃん?
だからそれっきり。お互いに深入りしない方がいいだろうしね」
「…蛮奇、いつの間にそんな気遣いが出来るようになったの?」
「さっきからホント失礼だな影狼!」
主人公の設定に対し悲惨な相性になっているのが鈴仙。
これで最前線に出ろと言われているのは不憫でしかない。