寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第17話 重き想いは誰を潰すか

「エリーもくるみも自力で修復するつもりだってことか」

「そうですね。資金はさすがの幽香もある程度回してくれましたから、資材だけなら買えそうなんです。ただ、補修まで業者に頼むのはちょっと厳しいので、豹さんの言う通りやってみようと考えていたのですが」

「肝心の修復魔法が難しくて手詰まりでしたけど、豹さんが来てくれて解決しましたからね!」

 

帰ってきたエリーも加えて今後の方針を確認する。資金的に業者へ依頼するのはキツいから、俺の使った手段でやるという結論に達したようなんだが…

 

「言い出した俺が今更言うのもなんだが、資材だけ仕入れての素人仕事で納得してくれるのか?俺の隠れ家は見てくれを気にしなくてよかったから荒業が使えたが、内部はともかく外からの景観まで直すのは俺たちだけじゃ無理だと思うんだが」

「それはそうなんですけど、幽香は館の外装は気にしないと思います。そこにこだわるならこの薄暗い立地でも咲く花の花壇を作ろうとするのが幽香です」

「ですね。だから中さえきれいに戻してあれば許してくれると思います」

 

なるほどな。景観まで再現しろと言われてないなら無理ではないか。となると建築資材を運び込めれば作業は始められるが。

 

「ただ、俺もいつまでここに居れるか不透明なのに資材だけ運び込んで本当に大丈夫か…?

まあ補強に使った魔法は自己強化魔法を改良したものだから修復魔法よりは二人とも扱いやすいとは思うが、俺が急に抜けても作業にちゃんと目途が立つ自信はあるのか?」

 

俺が一番不安なのはここだ。初日だから俺も気合入れたのは事実だが、半日足らずで終わらせた作業分だけでこれだけ驚かれ感激されるようだとな…。二人の作業効率と出来栄えは相当悲しいんだろう。そこを考えると資金が厳しくても専門業者に任せるべきだと思うんだよなあ。

なんて思っての質問だったが、なぜかジト目で答えが返ってきた。

 

「もう、豹さんはこれだから…そんなに気を使ってくれるから私たちみたいな厄介者にまで慕われるっていう自覚してますか?」

「そうですよー!ハッキリ言って豹さん、いざ逃げ出すときに足手まといが追い縋って来るようなことをしてばかりです!」

 

エリーとくるみにすら言われるのか…でもそれは変えられないんだよ。

俺は、兄であることだけは果たさなきゃならないからな…

 

「…俺の事は置いておいて、だ。本当に大丈夫なのか?冗談でもなんでもなく、俺は捕まったら二度と戻って来れ―――ッ!?」

 

マジかよ。昨日の今日でもうここに当たりを付けられたってのか!?

 

「豹さん?どうかしましたか」

「え、もしかして…追手ですか?」

 

エリーとくるみはまだ気付いてないようだが、湖からこっちに向かってくる気配が一つ。

…いや、この気配は。

 

「…俺を追ってきたのに違いは無いだろうが、敵じゃない。ただ、俺以上に訳ありの娘だ。門で話してくるから、少し時間をくれ」

 

麟。気付かれなくて当たり前の少女だ。俺の独断で二人と接触させるわけにはいかない。

 

「…信じますよ。そのまま立ち去るなんてしないでくださいね」

「エリー!?」

 

ホント、心配になるな…エリーは俺を簡単に信じすぎだ。

 

「くるみ、危害が無いことは言い切れる。むしろここに4人いることを感付かれる方がまずい」

「っ!……わかりました、お任せします」

「ありがとな。それじゃ行ってくる」

 

 

 

 

 

崩れた正門前で麟を待つ。たしかに麟なら俺の逃亡先を調べ当ててもおかしくないが、まさか一日経たずに見つけられるのは予想外が過ぎる。その点でも逃げるんじゃなく話を聞くべきという判断だ。

それに、その悲しき立場から麟は俺の味方として信用できる………俺からも見捨てたくなくなるぐらいに。

 

「豹さん!?まさか直接会ってくれるとは思いませんでした」

「会わないわけにはいかないだろ。麟の状況を正確に把握してる身としてはな。

ただ、先にこれだけ聞かせてくれ。俺に協力してくれるのなら、ここにいる二人とは顔を合わせておいて欲しい…大丈夫か?」

「構いません。カナさんが、名前だけは覚えていてくれたんです。辛いですけれど、少しだけ…希望が持てましたから」

 

二胡を携えた金髪の少女…冴月麟。孤独に耐えられなかった俺にとって、放っておけない少女である。

 

 

 

「冴月麟です。名前だけでも覚えていていただけると、嬉しいです」

「私はくるみ、よろしくね!」

「エリーです。よろしくお願いします」

 

麟の許可を貰えたので、二人と引き合わせる。事情をどこまで説明するかは麟自身に任せるべきだろうから、俺はそのまま本題に入ることにした。

 

「早速だが、麟はどうやってここに辿り着いた?いくらなんでも早過ぎる…そんな簡単に思い当たる場所なのかここは」

 

麟以外の追手にもすぐバレるような情報が残っているのであれば、潜伏先を再考しなきゃならなくなる。

 

「昨日の時点で、豹さんの隠れ家で何かあったのはわかったんです。私の贈った二胡…大切にしてくれていたんですね。おそらくアリスさんと戦闘した際にカナさんが利用して、それに私が気付いて隠れ家に向かいました」

 

無理に相手しなくていいと言ったのに、カナは全力だったからな…多分動かせるもの総動員してたぞあれ。ちゃんと片付けてくれるといいんだが…

そう思ってしまうこと自体、逃亡者として烏滸がましいんだが。

 

「それで隠れ家に着いたら、人形遣いさんが帰るまでカナさんが待ってくれて。状況を教えてくれました…名前を出してくれたのは、エリーと春告精だと」

「え、私ですか?」

「ああ、迷惑な話だろうが…潜伏するとなって真っ先に浮かんだのが夢幻館だった。今の状況なら厄介事持ちでも俺を匿ってくれるだろうってな」

「へえー、私たちにとってはラッキーだったんですね」

「いやそんなこと言ってられなくなるかもしれないんだよ。エリーもだがもっと俺に対して警戒心を持ってくれ」

「豹さん、それ本気で言ってますか?妖怪に警戒心をどうこう言う前に、豹さんが逃亡者としての自覚を持つべきだと思いますが」

「「その通りですね」」

 

総ツッコミを食らった。おまけに言い返せねえ。

 

「エリーさんのことが幻想郷縁起に載っていないことを確認して、今日魅魔さんに聞きに行きました。覚えがないと答えてくれたので、魅魔さんが関わらなかった異変の中心だったここに来た形になります」

「…凄いな、それだけでここまで来れたのか」

 

だが、それほど慌てる必要は無さそうか。幻想郷縁起に載ってないから魅魔に聞きに行くってのはそう簡単に思い付く手段じゃない。可能性としては、アリスが巫女か魔法使いにエリーのことを聞きに行かれるとバレるが…この二人に話を漏らすと大騒ぎになるだろうからギリギリまで避けるはず。おそらく藍がもう一度俺と接触するまでの時間はあるはずだ。

 

「アリスが慎重に動くなら、まだここで大丈夫そうだな。それで、麟は俺に何を確認したいんだ?」

 

次は麟がここに来た目的だ。俺の事情はだいたい話してある…おそらく幻想郷では紫さんの次に俺の状況を知っているのが麟。こうなった以上覚悟を決めてくれてるはずなんだが。

 

 

 

「………私に出来ることはありませんか?私が今でも耐えられているのは豹さんがいるからです。何もせずにいて失ってしまうのは、嫌です」

 

 

 

…やはり、こうなったか。でもこれは、防ぎようがなかった。

こんな幼い少女に、忘却の呪いは重過ぎる。

 

「本音を言うと、今は俺との繋がりを伏せて、動かないでいてほしかった。麟は俺の切り札に成り得たからな」

 

その言葉に、麟は俯く。ああ、わかってる。俺が麟の立場でも、追いかけただろう。

 

「責める気はない、俺の事を気にしてくれたことに違いは無いからな。動いてくれるなら、白黒の魔法使いを警戒してもらっていいか?」

「…霧雨魔理沙、ですか?」

「ああ、博麗の巫女に関しては紫さんが対応してくれるだろう。俺と巫女を衝突させるのはまだ早い…少なくとも神綺様が幻想郷にいるタイミングじゃないと魔界に恩を売れないからな。だから麟には、白黒の魔法使いに対して俺が逃げ延びるための攪乱と足止めをして欲しい。頼めるか?」

「やらせてください。動いてしまったのは、私ですから」

 

顔を上げて、麟がはっきりと返してくれた。

情けない…俺よりずっとキツい運命を背負わされた少女に守られるなんてな。

 

「…麟さんの事情を、私たちは聞いていいのでしょうか?」

「構いませんが…豹さん、お願いしていいでしょうか」

「は?」

 

麟が直接話す方が…いや、そういうことか。

 

「わかってくれたみたいですね。…もう一つ、我が儘を言っていいですか?」

「出来る範囲なら応える」

「出口用の魔法具、もう一つ私に貰えませんか?

持ち歩くのと、私の家に置くのとで。話せる機会を、増やしたいです」

 

付けていた指輪を一つ外して麟に手渡す。探査魔法さえやり過ごせれば、麟の周囲はいい潜伏先になる。断る理由はなかった。

 

「うーんと、話が全然分からないんだけど…」

「エリーさんとくるみさんは、私の名前だけでいいです。忘れないようにしてください。

 私のことは、私自身じゃなく豹さんの言葉の方が、可能性があるんです。

 豹さんのことを、お願いします」

 

それだけ伝えて、麟は夢幻館を去っていった。

 

 

 

「それで…麟さんのことは教えてもらえるのでしょうか?」

 

麟のことを忘れずに覚えていられるのは、俺みたいに特殊な能力持ちか、あの呪いを撥ね退けるほどの大妖怪や神々だけ。エリーとくるみが覚えているのは難しいだろう…が。

 

「ああ、カナが名前だけでも忘れずにいたのなら…俺が話すことで、名前だけは覚えていられるかもしれない」

「勿体ぶらないで教えてくださいよー。豹さんだけ納得されても困りますって」

 

俺が倒れても、俺が話したことで残る可能性があるのなら。

 

「麟は、幻想郷を守る側になるはずだった存在。

 だが…吸血鬼異変の裏で、その役目を失ってしまった。

 傍迷惑な魔法使いの、死に際の呪いのせいでな」

 

 

 

 

 

無事は確認できました。豹さんの期待には応えられなかった様ですが…今日の時点で直接話すことができるとは思っていませんでしたし、次の機会も貰えました。

 

(―――今度は、期待に応えないと)

 

私を一人にしないでいてくれた存在が居なくなってしまったら、もう孤独に耐えられなくなる。

だから私は、ただ私のためだけに、豹さんを護る。

 

 

 

「絶対に、逃がさない」

 

 

 




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