寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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誤字報告により169話の脱字を修正してます。いつも迅速な報告ありがとうございます。


第170話 敵か味方か

「伝えるだけは伝えましたよ。目論見通り動くかは知りませんが」

「アタシは駒として動いてるだけだからな。後のことは知らないよ。

 ま、礼は言っとく。敵の敵は味方が幻想郷でも通用して助かったぜ」

 

誰がこのわけのわからない生物の後ろにいるんですかねぇ?大人しく隠れてようと思ったのに、隠れ場所へ空間魔法で侵入してきた魔眼の集合体みたいな生物…幽玄魔眼とか名乗ったこいつは空間魔法に金髪とあのクソ野郎を思い出して不快でしかないのに、『ヒョウを消すために力を貸せ』とか言ってきた。

 

ただでさえ脳筋な鬼に目を付けられそうなのに、隠れても無駄な相手に利用される羽目になった。オマケに今の返しからするとこいつも下っ端。

 

(潜伏するんじゃなくて、飯綱丸様の傍から離れないのが正解でしたか…)

 

豹に痛い目を見せてくれるとしても、今後私はこいつとその後ろにいる奴に切り捨てやすい駒として扱われる可能性が残る。こいつには私単独で抵抗できないということがバレている上に、飯綱丸様を敵に回せるだけの後ろ盾があるってことになるのだから。

 

本っ当にあのクソ野郎は私を不幸にしますねえ!!となれば、少しでも奴を苦しめるために…!

 

「そうですねぇ、私としても豹を痛めつけてもらえれば溜飲が下がりますし…釣り上げるための餌であれば、騒霊楽団の他には春告精や宵闇妖怪、霧の湖の大妖精あたりが楽ですよ。攻撃魔法が使えないくせに、自分より弱いお気に入りが襲われるとすぐ助けに来る偽善者ですからぁ」

「アタシに言われてもそいつらを知らねえとしか言えないぞ。ま、あの神に報告はしとくけど。

それじゃ、アンタも上手く逃げるんだな。ヒョウが直接アンタを狙ってきた場合だけは助けに出向いてやるよ」

 

そう言って幽玄魔眼は異空間に去りましたが…下っ端というのは真実のようですね。余計な情報を落としていきました。

 

(神…つまり豹を敵視してる神が魔界における豹の敵対派閥と協調したということ。簡単に特定できますねぇ。

なるほどぉ、摩多羅神があちらから飯綱丸様に協力を求めてくるはずがない。だからこそ手駒に私と接触させたということか)

 

幽玄魔眼自身が《ヒョウを始末したい魔界の住人》と自己紹介したことが嘘だとしても、幻想郷の神々で豹の存在を知り、かつ敵視している神となれば摩多羅神しか該当しないでしょう。つまり、管理者の一角も奴の排除のために動き始めているということです。そして、間接的に飯綱丸様も動くように仕向けたということ。

 

(これは飯綱丸様にお伝えすべきですね。そのまま側で守ってもらいましょう。

 潜伏に意味が無いのなら、単独行動は逆に危険ですし)

 

となれば、討伐隊が妖怪の山を離れるまでは様子見ですね。その時間でキスメあたりを捕まえて地底の動向でも聞いておきましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

地上と月の連絡通路が存在する精神世界に私が出向くのは避けたかったから、ウドンゲが連れて来た玉兎にこの獏と接触させたのだけれど…思っていたより優秀な玉兎だったようね。逆に言えば優秀な玉兎が帰還を躊躇うような状態なのが今の月だということになるのだけれど、私が今更気にするべきことではない。上層部は未だに変わっていないということ。

 

清蘭と鈴瑚、彼女たちはドレミー・スイートを永遠亭に呼び出すということに成功していたわ。夢の世界の支配者である彼女を現実世界に出てこさせたのだから大したもの。悪くない手駒が手に入っていたようね。

 

「―――と、こういう状況よ。貴方には直接関係はないけれど、手を貸してもらうわよ。拒否はさせないわ」

「…軽く聞いてはいたけれど、本当に姫君が絡むと手段を選ばないのね。鉄砲玉に過ぎない玉兎を私の元に送り込むことで、貴方直々に乗り込めると理解させられたからここまで出向いてみたけど。

まさかその姫君の力まで使って私を取り込みにかかるなんてね」

 

流石は夢の世界の支配者にして、サグメが協力者として選んだだけはある。閉じ込められたことを説明する前に理解していたわ。

永遠亭まで彼女…ドレミー・スイートを引き摺り出したところを、私と輝夜で用意しておいた隔離領域に閉じ込める。現実世界であれば彼女はそれほど脅威となる存在ではないのだから、実力行使でこちら側に引き込む。そもそも彼女に受け持たせたいのは仲介役…夢の世界を通じて伝手が無い相手と接触してもらうだけなのだから、依頼を一つだけこなしてもらえれば敵に回られても問題は無い。

それなら強引にでも依頼を受けさせればいい。このように引き受けない限り解放しないという手段でね。

 

「一つ、先に聞かせてもらいましょう。

貴方にとって最良の豹に対する処分…それは何になります?」

「サリエルが彼をどう見ているかで変わるわ。彼が魔界を離れたことでサリエルも彼を切り捨てているのであれば処刑しておきたい。彼が逆恨みで私や輝夜を狙ってくる可能性を潰すためにね。

逆にサリエルが未だ彼に恩義を感じているのであれば、魔界ではなくサリエルの元へ彼を引き渡したいわね。私がサリエルに恩を売ることで、永遠亭への不干渉を認めさせられるから」

「…これは私が仲介役を務める方が穏便に話が進みそうですか。

いいでしょう、私の手の回せる範囲であれば協力します。ただし、私からも一つ条件を出させていただきます」

「何かしら?」

 

抵抗は無駄と理解できているのに、あちらからも条件を出してきた。つまり、彼女自身も豹に関する情報を持っているということ。情報不足の私にとっては嬉しい誤算だわ。

 

「豹の処刑は諦めてください。豹を手にかけてしまうと魔界だけではなく幻想郷からも貴方が攻撃されます。そしてそれは貴方だけでなく協力した全ての者に向きます」

「…彼はそれほどの影響力を持つというの?」

「影響力…とは少々違うのですが。夢の世界の住人は感情豊かで素直だからこそ、私には豹を慕う者がどれだけいるのかが把握できてしまっています。そして、その中には月の賢者である貴方であろうと手を焼く相手もいます。プライベートなことなので名は出しませんが。

要するに、豹は少なくない数の実力者を依存させているのです。彼を失うことで実力者が後先考えず復讐に突き進み暴れてしまえば、収拾不可能な惨状になるでしょう」

「依存…それは厄介ね。薬で治せる類じゃないわ」

「加えて言えば、私も豹と面識がありますので。彼の処刑が目的の相手とは協調したくありません」

「―――っ!?

いいでしょう、処刑ではなく幻想郷からの追放で構わない。そのかわり貴方の知る豹の情報をすべて話しなさい…そうしない限り解放はしないわ」

 

そして私も予想できなかった言葉が返された。まさか、直接の面識があるなんて思いもしなかったわ…!

 

「とはいっても、私は豹と親しいわけではないのですが。

豹はスイート安眠枕を高く評価してくれただけでなく、問題点の指摘と解決策の提示までしてくれたありがたいお客様なんですよ」

「…夢の世界の支配者が幻想郷で商売するのに意味があるのかしら?」

「少なくとも、月よりは関わってみたいと思えますね。私も妖怪である以上、人々からの畏れは必要不可欠なものですから」

「それは否定できないわね…一応納得はしておきましょう。

ただ、直接の面識があるのであればそれなりの情報は持っているはずよ?話しなさい」

「これ以上話せというのなら、豹が有利になるように私が仲介しても文句を言わないことが条件です。

正直に言わせてもらいますが…付き合いのあったサグメはともかく、貴方に対して果たす義理なんて持っていないのですから。月の関係者は身内以外からは嫌われているということを、もっと理解するべきだと思いますよ?」

「…言ってくれるわね。月とはもう無関係なんて通じない、と」

 

思っていた以上にやり手だったのね、この獏。脱出不可能なことに気付いているのに、私が情報不足だということを読み切って譲歩を引き出している。そしてサグメとの繋がりから、私が無関係を貫こうとしていても月側がまだそう考えていないことも把握している。

 

だとしても、豹よりは危険は少ない。輝夜を守るために必要なのはサリエルと豹に対する伝手と情報。それを得るためであれば、ある程度の譲歩も受け入れるべき。

 

「いいでしょう、私は【サリエルと豹が輝夜を狙わない確約】さえ引き出せれば彼に干渉する気は無い。貴方が豹に肩入れしたいなら好きにすればいいわ」

「そうですか…ならいいでしょう。

とは言っても、貴方の当ては申し訳ないのですが外れでして。私から豹に夢の世界を通じて接触することは出来ないのです。豹の精神は堅く守られているので」

「…それはどういうことかしら?」

「言葉のままですよ。そもそも豹がありがたいお客様になってくれた理由は、スイート安眠枕から私に直接会いに来てくれたからなのです」

「は?」

 

不覚にも間抜けな声が出てしまったわ。てゐから少し聞いたことがあるけれど、スイート安眠枕なる商品はいわくつきの商品で、高い評価を受けながら愛用者は少ないと聞いている。でも今の言葉からすると、本当に商品として問題がある欠陥品ということになるのだけれど。

 

「私はスイート安眠枕を購入いただいたお客様の夢にお邪魔して、使い心地に関するアンケートを取っていたのですが」

「いわくつきの原因はそれなのね」

「はい、そこを指摘して頂いたのが豹でして。私が豹の夢にお邪魔しようとしたのを防がれたことに気が付いて、スイート安眠枕から逆探知して私のところに直接出向いてくれたのです」

「簡単に言ってくれてるけれど、相変わらず凄まじい魔法の使い方をするのね…

 物質からの逆探知で夢の世界に侵入なんて」

 

忘れもしないあの交戦の時に思い知ったけれど、彼は魔法の使い方が柔軟にして奇抜。魔法使いのメッカと言われる魔界の出身だけあって、魔法に関しては私よりも知識を持っている可能性すらある。

―――あの魔界神・神綺が、直々に救出に出向いてくるような存在だったのだから。

 

「私が貴方と豹が敵対することを望んでいないことを証明するために、豹の能力を一つ教えましょう。

私が豹の夢に侵入できなかった理由は、豹が強力な精神守護能力持ちだからだそうです。夢の世界の支配者である私でさえ、豹個人の夢には干渉できない程の」

「成程ね。サリエル救出に彼が派遣された理由は、防御に特化した能力を持っていたからだったと」

 

大きな情報が一つ手に入った。彼に搦手の効果は薄いということ…そうなると、ウドンゲは相性的に前衛から下げるべき。とはいっても風祝を囮に使うような作戦を立てれば守矢からの不信を買う。

前衛を任せられる手駒が欲しいところね。

 

「直接夢の世界に乗り込んできた理由は、八雲の隠者としてスイート安眠枕の悪評が幻想郷に危険をもたらすものなのかの調査だったようですが。私が隠し事なく説明したら『何度も同じ使用者の夢でアンケートや販促活動するのは逆効果、一回だけに留めておいて販売店にポストでも置いてもらえ』とごもっともな指摘をされまして」

「ごもっともって理解してるのであれば最初からそうしなさい」

「販売店から夢の世界に送ってもらうのが難しいのですよ。そう返したら豹の知り合いの商売人を紹介してくれまして、その者の店に夢の世界と繋がる簡易ゲートを創ってくれたのです。それ以降はお客様の夢にお邪魔するのは一度きりにしています」

「また簡単にとんでもないことを言ってくれるのね…

 その【豹の知り合いの商売人】というのは?」

「豪徳寺ミケという招き猫の妖怪ですよ。

 ですが、私が夢の世界経由で貴方と引き合わせるべき相手は…別にいますよね?」

「―――そうね。一応聞いておくけれど、サリエルとは直接接触できるのかしら?」

「申し訳ありませんが、流石に魔界の住人の夢に侵入するのは無理です。私を魔界に送り込んでもらえれば可能ですが」

「流石に私と輝夜でも貴方を魔界に送り込むのは無理だわ。正確な位置を把握できていないから」

 

本当にやり手ね、ドレミー・スイート。私が誰と接触しようとしているのかも理解した上で、ここまで譲歩させるなんてね。

 

「いいでしょう、取引成立だわ。ここまでの貴方の要求は全て呑む。

 その代わり、八雲紫と接触してきて頂戴」

「承りましたわ。ですが、妖怪の賢者相手。少々時間は頂きますよ?」

 

八雲の隠者という肩書きからして、八雲紫が関わっていないはずがない。

あの厄介な妖怪を引き摺り出すのに、ドレミーは適役。この程度の条件で協力を引き出せるなら、決して損は無いわ。




この作品を楽しんでいただいている皆様、今回もお付き合いいただきありがとうございます。

申し訳ないのですが、9月はリアルの諸事情に付き土曜日の週一更新になります。そのかわり有休消化のため、10月第一週は更新ペースを上げられると思います。
しばらく更新ペースを落とす慈悲をお恵み下さい。
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