この作品にお付き合い頂いている読者の皆様に、あらためて感謝を。
「―――成程。情報を整理すると、春告精を連れて豹が脱出した先が命蓮寺。貴方達命蓮寺の住人は魔界神との繋がりがあったことで豹との取引に応じ、春告精を引き受けて彼を見逃した。ところが豹は潜伏先に夢殿大祀廟を選んでしまい、そこに霍青娥が付け込んできた」
「そういうことになると思います。妖怪の賢者が取引材料にしたことで私たちだけでなく、豹さんもここが安全地帯だと思い込んでしまったのではないかと」
幸いなことにこちらの仙人…茨華仙さんも幻想郷と魔界の戦争を止めるべく豹さんを追っていたそうです。こころが命蓮寺の関係者ということも手伝って、私たちと敵対する理由が無いということは理解してくださいました。そのため、お互いに知り得た情報を整理したことで豹さんの移動経路は明確になったのですが。
「次にお兄さんが向かうような場所はわかりそうもないですね」
「そうね…完全に手詰まりだわ。それに命蓮寺は迂闊に動くわけにもいかないのでしょう?」
「はい…豹さんにも『護るべき者を間違えるな』と釘を刺されてしまっています。毘沙門天代理として豹さんを見捨てることはしませんが、積極的に介入することは出来ないのです。これは妹紅さんとリリーにも私から伝えました」
「となると、私達が次に接触すべきはその藤原妹紅になりますか。彼女も豹を好意的に見ているのであれば、協調できる可能性はある」
「もしくは、豹さんと共に姿を消した椛の反応を探す…でしょうか。豹さん本人はともかく、椛は高度な隠形魔法などは使えないはずです」
「でもお兄さんなら椛さんに隠形魔法もかけられると思います。そう簡単に後を追えるとは思えませんが」
「私も同感ね。そうなると、やっぱり幻想郷側の内部抗争を少しでも小規模に抑えるよう動く方が先かしら」
やはり豹さんが何処に向かったかというのはわかりませんか。そうなると、私も積極的に動くことは出来ません。今しがたこの先…夢殿大祀廟で起こった豹さんと鬼の四天王・星熊勇儀さんによるぶつかり合いとそれに対する邪仙・霍青娥の介入。これによって地底の妖怪が仙界の面々を完全に敵と判断してしまったように、私が動いて遭遇戦などに巻き込まれることで余計な対立軸を作り出してしまう可能性がありますから。
「豹さんの力になれないのは悔しいですが、私はこれ以上動けそうにありません…後は、お任せしてしまってもよろしいでしょうか?」
「頼まれなくても私は動くわ。ただ、貴方達が魔界神と接触できたらその情報を私にも回してもらえないかしら?」
「はい、それぐらいは聖も黙認してくれると思います。そうなると、こころに連絡役をお願いしてもいいですか?」
「いいですよ。私もお兄さんと少しお話ししましたけれど、悪い人とは思えませんでしたし。
しばらくは仙人に同行して、定期的に命蓮寺に帰ってくればいいですよね?」
「交渉成立ね、しばらくお願いするわ。
私は小町を追って閻魔様に勇儀と仙界の仲裁を頼んでくるわ。元々勇儀を地上に派遣したのは閻魔様だから、任命責任を問えるから」
「お願いします!私は聖たちに状況を説明して、幻想郷と魔界の仲介役として動けるようにしておきます。
魔界と繋がりのある幻想郷の住人は少ないでしょうから」
「ええ、そうしてくれると助かるわ。
それじゃ、こころはしばらく借りていくわね」
「はい。星も上手く動いてくださいな」
「はい、お二人ともお気をつけて」
その言葉を最後に茨華仙さんとこころが一足先に地上へ向かいました。
―――念のために、私が夢殿大祀廟を調査しておくべきでしょうが…
(仙界の面々であれば、まだあの墓所に仕掛けを残している可能性は残ります。
先走って孤立してしまうと聖たちも動いてしまう…となれば、一度帰り複数人で再調査するべきですね)
そう判断して私も命蓮寺へ戻ることにしました。マミゾウさんが帰って来てから、誰が再調査に出向くかを相談しましょう。
夢幻館に辿り着くと、くるみとエリーが出迎えてくれた。逆に言うと、まだ幻月とサリエル様は戻っていないということね。
「おかえりなさい夢月さん!
―――あ、あなたが話に出てた雛さんかな?」
「そうよ。だからなるべく近付かない方がいいわ…豹の助けになってもらうためにも。
何か、私の厄を引き寄せられるようなものはこの館にないかしら?」
「そうですね…
――!一時的に厄受けとして利用した後、その厄を雛さんが再度纏うということは可能でしょうか?」
「問題なくできるわよ。つまり、大切なものだけれど厄除けに使えるものがあるということね?」
「それならこれを一時的に使ってください。死神の首狩り鎌、負の性質を持つものとして厄を引き寄せられるはずです」
「…いいのかしら?豹から死神のエリーという協力者のことを聞いているわ。
これはエリーの大切な鎌ではないの?」
「しばらく戦闘にはならないはずですから。豹さんの助けになるのであれば、どのような形であれ使ってください」
「ありがとう。鎌自体に悪影響が及びそうになったら私が回収するわ。
…それまでに私の呼び出し主が戻って来てくれればいいのだけれど」
そう言葉にしながら雛がエリーの外刃の鎌に術式を施し終えると、私と夢月に向き直って。
「ルナサはしばらくこの鎌の側に居て。今ならまだ私から移った厄も引き剥がせるから。
夢月は本当に私たちと格が違うのね…ルナサとほぼ同じ距離にいたのに、夢月にはほとんど厄が移っていないわ」
「ま、これでも悪魔だから。それにルナサも鬱の音―――負の性質を持っているから厄を引き寄せやすいのも影響してるよ」
「…そういうものなのね。つまりは私とメルランが並ぶ場合、私の方が厄を引き寄せてしまうということかしら?」
「そうなると思うわ。ルナサには余計な負担をかけるかもしれない…ごめんなさいね」
「気にしないでいいわよ。それを解決するために雛をここまで連れて来たのだから」
「そうですよー!豹さんの力になるために、雛さんの手も貸してください!」
「ええ、今のままでは足を引っ張ってしまうけれど…本当に対処が出来れば力を尽くすわ。私も豹を魔界に帰したくはないから」
負の性質、ね…こういったことに関して私は無知だから、皆に任せるしかない。でも、豹の力になりたいという気持ちは一致しているから心配はない。
だから、今はサリエル様が戻るのを待つだけなのだけれど…
「早くサリエルさんが戻ってくれるといいのですが」
「そういえば、ルナサ達は姉さんが神綺と会う前に幻想郷に戻ったってことよね?」
「ええ、私たちが神綺様に幻想郷へ送ってもらうまでには幻月は神綺様の元に来ていないわ」
「それなら姉さんもそろそろ帰って………
いや、私が呼びに行かないとダメかも」
「…?それはどういう意味ですか夢月さん?」
夢月が何かに気付いたようで、皆の視線を集める。
…あらためて向き合うと、本当に私なんかとは桁違いなのね。震えてしまいそう…豹の味方に付いてくれて、本当に助かったわ。
「ルナサたちが聞いた話だと、神綺達は強硬派を潰しに行こうとしてたんでしょ?
姉さんも一緒に暴れてるかもしれない。それなら私も増援に向かってさっさと終わらせる方がいい」
「あ、そういえばそうですね…問題は、幽玄魔眼とエリスさんがここを襲って来ちゃった場合ですけど」
「でも、さっきしばらく戦闘は無いってエリーは言ったわよね?
私の厄のことも考えると、ここでの待機時間は少しでも短くした方がいいわ」
「それもそうですね…夢月さん、お願いしても?」
「任せて。それじゃ姉さんとサリエルを迎えに行ってくるわ」
そう言って夢月は夢幻世界に通じるゲートに飛び込んでしまったわ。まあ、私が止めることなんてできないから見送るしかないのだけれど…戦力的なことを考えると私に出来ることはするべきよね。
「…それじゃ、私は幻想郷に向けて探知魔法を展開しておくわね。精度はくるみとエリーの方がいいと思うけど、向かって来る相手の敵味方の判別は私の方が付けられると思うから」
「あ、たしかにそうですね。ルナサさんもお願いします」
「待ってる間に少しでも情報を整理しておきましょ。私の掴んだ情報を話すから、ルナサとエリーとくるみの話も聞かせてちょうだい」
「はーい!それじゃ紅茶用意しますねー!」
私の魔力でも、豹が教えてくれた探知魔法であれば
豹からの連絡が来てしまったら、私はすぐ帰るべき…メルランも、覚悟を決めてしまってたから。
この雪はしばらく降り続きそうだな…風が無いので雲の流れが遅い。となると衣類のことを考慮して次の潜伏先に輝針城真下は選べないか。雪を遮っている城の直下へ移動するまでに相当雪塗れになる…とはいえ椛を妖怪の山から引き離しちまった以上間欠泉地下センターも使い辛い。そうなると次の行き先は無名の丘になるか。
「…こんな役得に恵まれるなんて」
「ん?何か言ったか椛?」
「―――っ!?な、なんでもありません!
それで、豹さんの思惑通りに推移しているのでしょうか?」
俺と一緒に外に出たはいいが、椛が普通に寒そうにしていたので無事な左腕で肩を抱いて寄り添うことにしたのだが…よく考えなくてもアウトだなこれも。椛が真っ赤になっている…だが寒いのは俺も同じ。魔力は遮断出来ているが焚火による光と煙は隠せないので、雪の中ただ突っ立っているだけなのだ。逃亡のためにそれなりの防寒も考えた格好の俺はともかく、哨戒任務と同じ格好の椛には辛い寒さだ。だから麟の家の中で待っててもらおうと思ってたんだが…嫌がってはいないからいいだろう。
それに、置き去りにした面々が綺麗に分散してくれたからな。準備を整えて、椛にはもう一件依頼しなければならない。
「ああ、茨華仙が中有の道にまで差し掛かり次第椛に動いてもらいたい。頼めるか?」
「はい、何をすればいいのでしょうか?」
俺の思惑通り勇儀は仙界に殴り込む準備を整えるために一度地底に戻ろうとしている。こいしに至っては勇儀より早く動いていたから、その監視も含めての判断だろう。そして小野塚小町は先行して三途の川方面に向かっていて、茨華仙とこころが遅れて小町の後を追っている…おそらく星と情報交換してたんだろうな。星はそのまま命蓮寺へ帰っているので警戒する必要は無いだろう。
となれば俺が注視すべきは茨華仙。そして彼女からすれば地底と仙界の対立は完全に無駄な内乱…勇儀がやり過ぎないよう閻魔に依頼するため小野塚小町を先行させたはずだ。この茨華仙と閻魔の会談が終わるまでに、少なくとも右手は使えるようにしておきたい。
そのために、椛を使わせてもらう。
「まずこれを見てくれ、幻想郷の地図だ」
「っ!?魔力による地図ですか。本当に豹さんは凄いですね」
「この家の位置がここになる。そして俺の隠れ家がここ…この方向に直進すれば辿り着く」
地図と隠れ家を指差しながら椛に説明を始める。椛は探知・索敵魔法と認識阻害魔法を同時に行使することが出来ないので、俺が探知魔法で得た位置情報を説明しなければ今現在誰がどの位置にいるのが把握できていないのだ。探知魔法の反応を逆に拾われるリスクを考えると、探知・索敵は椛にやらせず俺一人でやるべきと判断したわけだ。
「豹さんの隠れ家よりも人里に近い位置なのですか…全く気付きませんでした」
「気付かれないように俺が隠している家だからな。
そして、ここの家主が右手を治療してくれるアテなんだ。今は俺の隠れ家に居る」
「っ!私がその方をお連れすればいいのですね」
「いや、椛はそのままリリーと一緒に隠れ家に留まってくれ。神綺様なら確実に俺の隠れ家を見に来る。そのタイミングで庇護下に入ってもらえれば安全が保障できるからな」
「…そのまま、私は豹さんと離ればなれになってしまうのでしょうか」
「いや、魔界から幻想郷に帰るルートもある。そのルート上に俺の協力者がいるから、事情を説明すれば椛にも協力してくれるはずだ。
…そもそも、庇護下に入ったとしても幻想郷に留まりたいと伝えれば神綺様は許してくれるさ。その場合はしばらくカナに頼んで俺の隠れ家で過ごして構わない」
「いいのですか?妖怪の山に戻れない私としてはとても助かりますが、追手が隠れ家ごと私を攻撃してしまったら…」
「ユキも神綺様も夢子も俺の隠れ家を傷付けるのは避けてくれる…上海と直接話したそうだからな。だからリスクがあるのは椛へ妖怪の山が追手を出した場合だが、そうなったら俺が追手を潰すさ。俺もカナも隠れ家を護りたいと思う気持ちは同じだ」
「…豹さんも、上海と話せたのですね」
「ああ、そのあたりは直接上海に聞いてくれ。
そろそろ準備を始めるぞ。椛、しばらく左目を貸してくれ」