寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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お待たせしました。

誤字報告により172話の「無()の丘」を修正してます。また地名でやらかしてますね…気を付けないと。


第173話 去りし者

「…まさか、あの二柱すらも全盛期の力を失ってしまうなんて。私たち魔界人が種族としていかに恵まれているのかがあらためて理解できる」

「わたしも全盛期の魔力量まで回復させることはできなかったけど、生粋の魔界人だって胸を張れるだけの魔力量までは戻せたしね…やっぱり神綺様は創造に関しては凄すぎるよ」

 

早苗と鈴仙が同行していることに気付いた私が二人のことを詳しく話したことで、思いもしなかった繋がりが出てきた。守矢の二柱はかつて魔界を訪れたことがあり、母さんと夢子は面識があった…月に対する考えを聞きに出向いて来たということなのだけれど、今の状況は当時と真逆になっているようで。

 

「でも夢子の話からすると、八坂神奈子自身も早苗と鈴仙に同行しているのがわからないわよね…」

「それは早苗という少女を守るためよ。先輩と交戦したことを報告したのであれば、一人で再度向かわせるはずがないわ。先輩を捕らえるためにも、その少女を守るためにもね。

ただ、月の重鎮である八意永琳が所在する永遠亭勢力と協調している理由がわからない。その早苗と鈴仙とやらは親しいのかしら?」

「どうなのかしら…二人ともかなりの実力者ではあるから私もある程度知っているのだけれど、交友関係までは把握してないのよ」

「アリスが知らないんじゃお手上げだなぁ…思い切ってわたしと夢子で守矢神社に話を聞きに行ってみる?」

「それをするなら母さんに頼むべきだわ。立地の関係で妖怪の山と守矢神社は切っても切れない関係だから、私たちだけで動くのはハイリスクよ」

「そうなるわよね…神綺様が来てくれるまで大人しくしてくれればいいのだけれど」

 

月との敵対関係という繋がりで母さんに接触してきたというのに、今は鈴仙と同行しているというのがどういう状況なのか全く読めないわ。流石に守矢神社+永遠亭+妖怪の山勢力を相手に私たちだけで動くのは厳し過ぎる…となると私たちの態勢が整うまではこちらからは動けない。つまり今夜のうちに動かれてしまうと後手に回ることになるということだわ。

 

嫌な予測を立てざるを得ない状況なのに、悪い知らせは続くもので。

 

「…あら?成美が向かってきてるわね」

「あ、ホントだ。どうしたのかな」

「家主の私が迎えてくるわ。この時間に来るってことは、結構重要な話でしょうし」

 

 

 

本当に今日で冬になったわね…ここまで降り積もる雪なんて。外に出て雪化粧した夜景を目にすることで実感していると、成美が空から降りて来た。

 

「どうしたのよ成美?こんな雪の中」

「ごめんアリス、ちょっと私も巻き込まれちゃってね…今時間大丈夫かな?」

「いいわよ。紅茶ぐらいは出してあげる」

「ありがと。でも謝ることになると思うから、新しく淹れなくてもいいよ」

 

それなりの距離を飛んできたらしくて、玄関先で雪を払いながら成美が言葉を返す。謝りにわざわざ出向いてくれるなんて、義理堅いわね…情報がいくらでも欲しい私たちにとってはありがた過ぎるわ。

 

そのまま夢子とユキのいるリビングに入れて座らせると、真剣な顔で切り出してきたわ。

 

「夢子さんとユキさんにまず確認したいんですけど、魔理沙が魔界との取引に使われるというのは本当なんですか?」

「――ッ!?そう、成美は彼女たちから接触されたのね」

「はい、明羅さんと呪珠が私に協力を求めてきました。その反応だと…事実なんですね」

「とはいっても、わたしたち魔界から出した条件じゃないからね…成美ちゃんはなんて聞いてるの?」

「魔界が幻想郷に戦争を仕掛けてきたら、講和の条件として魔理沙を引き渡すことになるって明羅さんから聞いてます。それを聞かされた魔理沙は『ふざけんな!』ってなって、豹を捕まえて魔界に突き出すために動き始めちゃったそうです」

「…まあ、魔理沙ならそうなるわよね。

だけどユキが言った通り魔界が出した条件じゃないから、私たちにそれを言われても困るわよ?」

「でもそれって、豹を魔界に返しても魔理沙が取引材料にされる可能性は残るってことですよね?」

「…そこまで読めてるの。成美も魔法使いだけあってしっかり深読みできているのね」

「これも明羅さんから教えられたことですから。私一人ではわからなかったと思いますよ。

…魔理沙を取引材料として見ているのであれば私は魔界に協力できない。私は豹を知らないから、魔理沙を見捨ててまで豹の手助けはしたくない。

そして、幻想郷が魔理沙を見捨てるというのなら…魔理沙が魔界に恩を売ってしまえばいい。魅魔さんが出した結論に、私も協力することにしました」

 

―――まあこれは仕方ないわね。成美は幻想郷の住人、魔界人である豹を魔理沙より優先する義理なんてないのだから。

そして、私たちと接触している成美には【豹を引き渡すことで魔界神とその側近達に恩が売れる】ことが理解できているからこそ…

 

「アリス達に恩を売ってしまえば、魔界のことは任せてしまえるってことですよね?」

「…あの悪霊もそこまで読めてるんだね。ホント厄介だなぁ」

「ですが私は今朝色々知り過ぎてしまったので、魔界と完全に敵対してしまうのも困ってしまいます。月に狙われて魔界にも狙われるなんて立場になりたくないですから。

ですので、冬支度のために出向いた人里でいくつか掴んだ妖怪の動きを教えますので…この異変、私は今後消極的に魔理沙に協力することを見逃してもらえませんか?」

「―――中立と言わないあたり、成美は信用できるわ。

いいでしょう、好きにしなさい。今朝伝えた通り、月が成美を敵と判断した場合は魔界が保護することも曲げない。

ただし、直接戦闘になれば手加減はしない」

「そこは大丈夫です。消極的にしか動かないので、前線には出ませんから。これは先に明羅さんと呪珠から魔理沙と魅魔さんにも伝えてもらってます」

「うん、残念だけど仕方ないね。兄さんと直接会ってもらえればって思うけど、今はそんな状況じゃないし。

それで、何を教えに来てくれたのかな?」

 

夢子とユキはあっさり割り切ったわね…この辺りも経験の差か。

まあ、私は成美ともそれなりの付き合いがあるから割り切り辛いのもあるんでしょうけど。

 

「まず魔理沙と魅魔さんですけど、霊夢と一緒に稗田のお屋敷から飛び去るのを見ました。魅魔さんは屋敷に入らず上空に待機してたみたいですけど、警官の小兎姫さんが監視してたみたいなので自警団にも明日には魅魔さんが人里に現れたことが共有されると思います」

「…地味に面倒なことになりそうねそれ。阿求が個人的に豹と因縁がある以上、豹は人里に近付かないとは踏んでいたけれど。霊夢が博麗の巫女として動いている以上自警団も豹の敵に回ると考えるべきか」

「…あれ?さっき明羅とジュジュって名前が出てたよね?その二人は別行動してたってこと?」

「そうです。明羅さんはともかく呪珠は野良妖怪の間ではかなり交友関係が広いそうなので、明羅さんを護衛に情報収集と協力の取り付けに回っていたんだと思います。

少なくとも、私の他にも霖之助さんと夜雀のミスティアは博麗の巫女に協力する方向で動いていると見て間違いないです」

「ミスティア?どこかで聞いたような…っ!?

たしか屋台を出している野良妖怪だったかしら。どうしてそれがあの魔法使いたちに協力することに?」

「そこを繋げられるのが呪珠なんです。昨夜、ミスティアの屋台が謎の二人組に襲撃されたことは皆さん知ってます?」

「ええ、私達は八雲紫に幻想郷で動くことを黙認してもらうための会談に出向いてたのよ。そこで聞いてるわ」

「呪珠はミスティアと直接接触して情報交換する際に『エリーとくるみはフラワーマスターの部下』ってことを伝えることで、一人じゃ返り討ちに遭うから協力する方向に持って行ったみたいですね」

「あっ!?そういえば――っ!」

「え?ユキさんどうかしましたか?」

 

何かに気付いたような夢子の違和感のある反応に続いて、思わずといった感じで何か口に出しかけたユキが慌てて口を噤む。どういうことか私はすぐに判断できなかったのだけれど、フォローに入った夢子の言葉で理解する。

 

「エリーとくるみは先輩と付き合いがあったらしいから、風見幽香が先輩を保護してる可能性もゼロではない…か。先輩が魔界を荒らした風見幽香を良く思うはずがないという先入観が私達にあったのが盲点だったわね…」

 

そう、エリスと幽玄魔眼がエリーとくるみの名を騙ったということを知るのはごく僅か…私たちと接点のある八雲とルナサ・カナを中心とした豹を幻想郷に留めようとしてる面々だけ。つまり上手く立ち回れば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということ。

エリーとくるみに被害が行く可能性もあるけれど、問題の4人でぶつかってもらえればだいぶ楽になる…!だからこそここに気付いたユキは慌てて口を噤み、夢子も把握していないよう装った。なら、私も乗っかるべき…!

 

「野良妖怪の繋がりも馬鹿に出来ないものね…そんな形で霊夢や魔理沙に手を貸すパターンもあるなんて。

つまりミスティアも魅魔と合流しているのかしら?」

「いえ、そういうわけではないみたいですね。豹を追うより本業の方が優先だそうですので。

ただ、手が足りなくなったら動いてくれるという話にはなったそうですよ」

 

私たちからこの騙りを成美、ひいては霊夢と魅魔一派に伝える必要は無い。そうすれば最大警戒対象同士での潰し合いが狙える…!

でも、現実はそんな甘くなくて。

 

「それとフラワーマスターのところに豹は居ないです。人里で冬支度をしていたフラワーマスターが、私と買い物帰りの妖夢さんに豹のことを聞き出そうとして来たので」

「「「えっ!?」」」

 

潰し合いの可能性はすでになくなっていたわ…!霊夢・魅魔一派と風見幽香がお互いに情報不足なのを把握しているのであれば、協力することはあっても戦う理由は無い!

 

「流石は幻想郷の管理者も警戒する大妖怪、人里に紛れ込んでもすぐに見つかっちゃいましたね…私が話してる途中で妖夢さんにも気付いて私ごと移動するほどでした。

私じゃあの大妖怪の相手は厳しいですし、妖夢さんも食材を守りながら戦うのは無理だって判断したみたいですね。素直に話してくれましたが…妖夢さんは八雲の隠者として名前は知っていても顔を合わせたことはなかったみたいなのでどこに住んでるかすら知らないそうです。

私も皆さんから話を聞いただけなので『魔界から逃げて来た魔界人で、霊夢や魅魔さん、アリス達も探してる』とだけ伝えておきました。

…『使えないわね』って捨て台詞吐かれましたけど」

「…変わってないな、あの傘持ち妖怪。思いやりって言葉を欠片も持ち合わせてない」

「あれだけの大妖怪だから仕方ないわ。動く場合は確実に所在を把握しておかないとね」

 

あまりこういった腹の探り合いが得意じゃない妖夢だからこそ、最低限の情報を落とすことで上手くやり過ごしてくれたようね。成美もだけど、風見幽香に余計な情報を落とさずにいてくれてるのは助かるわ。

 

「フラワーマスターはそのまま太陽の畑に帰ってます。

最後に、命蓮寺でも何かあったみたいです。私は初めて見た相手なのですが…一本角の強大な妖気を撒き散らす鬼が、秦こころさんと白狼天狗に黒い帽子の妖怪を連れて命蓮寺に向けて飛んで行くのを確認できました」

「―――っ!?星熊勇儀だわ!

となると白狼天狗は椛でしょう。もう一人は他に特徴ないかしら?」

「え?うーん…

あ、そういえばなんだか紫色の触手っぽいのを纏わせてたわ」

「大当たりね。古明地こいし…まさか、豹の移動先は命蓮寺?」

「え?たしかそれって」

「聖白蓮の所在地、ね。

 アリス、神綺様が来る前に私とユキだけでも会ってもらえるかしら?」

 

夢子が動く気になっちゃったか…出来れば母さんと合流してから動きたかったのだけど。

でも、今ここで成美からもたらされた情報はルナサやカナ、夢幻姉妹にはまだ伝わっていない。つまり夢子とユキからすれば幻想郷に来てから初めて()()()()()()()()()()。動きたくなるのは当たり前か。

 

「わからないけれど、迎撃されるということは無いと思うわ。争いを好まない妖怪ばかりだから」

「なら、わたしも動きたい。アリス、付き合ってくれる?」

「仕方ないわね…少し準備に時間を頂戴。

 成美、最後ってことは情報はこれだけなのよね?」

「うん、私もあまり長くここにいると魅魔さんに疑いの目を向けられちゃうからね。

動く気なら、私も帰るよ」

「そう、ありがとう成美。私達にとっては大き過ぎる情報だったわ。

あらためて言っておくわ。月から敵視されたら魔界で保護してあげる…独力で月に刃向かうぐらいなら私達を頼りなさい」

「助かります。

 それじゃ皆さんも、お気をつけて」

 

そう言って成美は帰って行ったわ。

…成美を味方に付けるのであれば、今朝の時点でもっと詳しく話をしておくべきだった、か。今更悔いても仕方ないけれど、成美が魔理沙を生贄にすることを許容できるはずもない…私たちからこれを先に説明できなかった時点で、敵対するのは避けられなかった。

結局、私たちも情報が足りていない…それだけの話。

 

「成美ちゃんも律儀だね、わざわざ一声かけてくれるなんて」

「状況が大規模過ぎるのよ。一個人が魔界と月の諍いに巻き込まれたら、こういうどっちつかずな対応になるのも仕方ないわ」

「そうね…本来であれば私達が巻き込まないように配慮するべきなのだけど。

今は先輩を連れ帰ること…それ以外に気を使う余裕はないわ」

 

本来であれば、私が気を使うべきだったのだけど。私も状況を理解しきれていないから、敵に回してしまった。

でも、夢子もユキもそれを責めない。最初から覚悟してきているから。

―――なら、私も悔いてる場合じゃない。これ以上状況を悪化させないように、動くだけよね。

 

「それじゃ、人形の用意して来るから少し待ってて頂戴」

 




次の更新は9/16(土)です。
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