寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第174話 受取り完了

私たちにとって雪はなかなかの強敵なのよね~。プリズムリバー邸(私たちの家)はあくまで廃洋館だから、雪が積もり過ぎると重さで天井が抜けたりしちゃう。姉さんが帰ってくるまで手持ち無沙汰だから、リリカに家事をやらせて私は外で作業。

 

(今年も豹にお願いしたかったんだけどね~。

 …思い返すと、私もだいぶ豹に甘えてたのに気付かされるわ)

 

あの超奥手な姉さんがカッコいい男と一人で会ってたなんてビックリ過ぎたし、姉さんの独奏(ソロ)を聴いても鬱に飲まれないでいられるなんて逃がすわけにはいかなかったから。リリカと一緒になってくっつけようとあれこれ豹に絡みに行ってた。

 

たとえば、こんな力仕事を姉さんと二人一緒にやらせたりとか。

 

(嫌な顔一つせず手伝ってくれたものね~。

…とりあえず、雪が止むまではこれで大丈夫かしら)

 

豹が『無いよりはマシだ』って造ってくれた雪避け用のシートを、私たちの寝室と楽器が置いてある部屋の天井部分に敷き終えて一息つく。コスト的にも労力的にも天井部分全部を覆えるだけの数は造る気になれなかったみたいだし、必要なら外界で製造されてるしっかりした製品を伝手を使って買うべきだって言ってたから数が少なくてそれほどの時間はかからない。でも一人で全部やるのはそれなりに疲れたわ~。

 

ちなみに豹本人の隠れ家は【円錐形の防壁魔法を上空に展開】することで雪避けに使ってたっていうのをカナから教えてもらった。私たちの家もそうしてくれればいいのに~って思ったけど、そんなことしたらとんでもない魔法使いだってバレちゃうからやらなかったんでしょうね~。逆に言うと、ウィザードクラスの使い手ってことを隠すためにわざわざ現物を造ってくれたってこと。ホント私たちに優しいよね、豹は。

 

(そういえば、外界との伝手なんてなんで持ってるのかとは思ってたけど。八雲紫と親しいからだったわけなのね~)

 

ここ数日で私たちは豹のことをほとんど知らなかったってことを思い知らされてるけど、それが私たちを巻き込まないためってことが話を聞けば聞くほど理解できちゃって。

姉さんが覚悟を決めて豹を連れ帰ろうとしてるのも理解できるし、私にとっても躁に飲まれず独奏(ソロ)を聴いてもらえる豹は大切な観客。そう簡単に諦められるはずがないわ。

 

―――そんなことを考えてると、こんな時間にお客様が来たみたい。

 

「あら~、雪女さんかしら?こんな時間に何かご用?」

「外にいてくれて手間が省けたわ。

―――これ、豹から頼まれた物資。タイミングを見計らって回収しに来るって言ってたから、預かってもらえる?」

「えぇっ!?」

 

第一声から爆弾発言だったわ!

 

 

 

とりあえず受け取ってリリカも呼んで、軽く状況を確認することにしたわ~。レティ・ホワイトロックって名乗ったこの雪女さんも、豹の手助けをしてくれてるみたいね。

 

「つまり、豹は一度ここまで出向いてくれるってことなのね~。

…そのタイミングで私もここを離れるべきかしら」

「話を聞いた限り私じゃ足を引っ張るから、これぐらいしか出来ないと思ってたけど…

貴方達も前線に出る気満々なのを見ると、私も安全地帯から出るべきだと思えてくるわね」

「いやいや私は前線に出る気ないよ!?豹を助けたいとは思ってるけど、桁違いな相手に向かってくのは避けるから!覚悟決めちゃってるのルナ姉とメル姉だけだからね!?」

「リリカはそれでいいのよ~。姉さんは能力が使いようで強力だし、私は姉妹の中でなら魔力が強いからね~。

バックアップに回ってくれる方が助かるわ」

 

豹の名前が出てきた時点で話を聞くべきだと思って家の中に入ってもらおうとしたのだけど、この寒さが心地いいからって玄関先で話すことになったわ。冬になった途端に活動し始めた知り合いの雪女さんと偶然会えるなんて、豹も運がいいのね~。

 

「とりあえず私の頼まれ事はこれで済んだのだけれど、私からもいくつか聞いていいかしら?」

「私とリリカもあまり情報を持ってるわけじゃないわ~。知らないこともだいぶあると思うけど、それでもいい?」

「少なくとも私よりは豹のことを知ってるわよ。冬にしか活動できない私は、春から秋にかけての豹を全く知らないのだし。豹からの頼みは済ませたから、次は豹に協力してる貴方達を手助けするのが豹への恩返しになるでしょう?」

「お、やる気あるんじゃん!なら私の替わりに動いて…って言いたいんだけど。

ルナ姉からまだ詳しい話を聞けてないから、次に何やればいいのかわかんないのよ」

「要はまだ情報共有が済んでいないと」

「そうなのよ~。だから力を貸してもらえるなら、姉さんが帰って来るまで待っててもらえないかしら」

「そのルナサは今どこに行ってるの?」

「夢幻館で通じる?夢月さんって規格外な悪魔に指名されて出向いてるよ」

「なるほどね…でも私目的で魅魔って悪霊が動く可能性がある以上、巻き込むわけにもいかないし一度離れた方がいいかな」

「「えっ!?」」

 

思わずリリカと反応が揃っちゃったわ…!それってとってもまずいんじゃ!?

 

「今日活動し始めたって言ってたわよね!?なんでもう要注意悪霊にマークされてるの!?」

「物資の調達先で呪珠っていう知り合いと鉢合わせたんだけど、彼女がその悪霊と繋がってたのよ。外に出たばかりで豹の居場所なんて知らないって言っておいたけど、魅魔と明羅っていう侍は私が全てを話してないのに感付いてたようね。

だから魅魔から私に接触してきた後でまた顔を出す方が安全でしょう?」

「そっかー、私たちだけじゃ白黒魔法使いとその師匠は防ぎ切れないもんね。それでいいんじゃない?」

「あ、でもレティさんがどういうルートで豹と会ってここまで来たのかだけは教えてもらえるかしら~?」

「私は昨日まで夢殿大祀廟で過ごしてたのだけど、冬の訪れに気付いて外に出たら入り口で豹に呼び止められたのよ。そこで軽く状況を聞いて、危険が少ないことを手伝わせなさいと言った結果が今だけど」

「夢殿大祀廟…?何処よそこ」

「命蓮寺ってわかるかしら?あの寺が管理してる墓場の地下にある廃墟よ。

もっとも、豹は一晩雪を凌いだらすぐ移動するって言ってたけど」

「って、命蓮寺!?もしかして豹が空間魔法で飛んだ先って…!

レティさんが豹と会ったのっていつぐらい!?」

「えーっと…店に着いたときに暗くなってたから、夕方にはなってないぐらいかしら?」

 

豹の足取りがつかめたみたいね!カナと上海を姉さんのところに送った後に襲撃されて、空間魔法で命蓮寺のあたりに脱出した。そこでレティさんと会えたってことだわ!

 

「店に着いた?そういえば物資調達先で鉢合わせたって言ってたっけ。どこのお店に行ってきたの?」

「妖怪の山近くの豪徳寺ミケって招き猫妖怪の店よ。ミケも『一晩ぐらいなら匿ってあげる』って豹に伝えておいてなんて言ってるから、豹の味方する気みたいね」

「妖怪の山近く…会いに行くとしたら椛か雛さんの手を貸してもらいたいところだわ」

 

天狗のブン屋に思いっきりケンカ売っちゃったから、私たちとカナはあまり妖怪の山に近付きたくないのよね。

もうアリスたちを頼るわけにもいかないから、あの天狗に仕返しされると私たち姉妹だけじゃ追い返せるかどうかすら怪しいわ。あれであの天狗幻想郷でも上位に入る妖怪らしいからね~。

 

「ありがとねレティさん!魅魔に目を付けられちゃってるのなら、無理してまで私たちと一緒に豹を追わない方がいいかもしれないわ~。だからレティさんが大丈夫だって確信を持てたらもう一度来てもらえるかしら~?

姉さんにも伝えておいて、情報の共有が出来るようにしておくわ!」

「それがいいでしょうね。

それじゃ、今日のところは失礼するわ。豹を頼むわよ」

「は~い!それじゃまたね~!」

 

そのままレティさんは雪の中に飛び去って行ったわ。豹の力になってくれるメンバーが一人…いいえ、ミケっていう店主さんも合わせて二人増えたってこと。となると、アリス達に伝えない方向でカナたちと雷鼓、衣玖さんに共有したいわね。

 

「うー、さむっ!メル姉、とりあえず中で考えよ?」

「っと、そうね」

 

 

 

「今から伝えるにしてもカナたちと雷鼓で二手に分かれなきゃならないし、ルナ姉が帰ってくるまでは待った方がいいんじゃない?」

「そうなるわよね~。でも今夜であれば豹本人とも会えるってことだから、夢殿大祀廟まで行ってみるのもアリな気もするわ」

 

リリカと情報をまとめてみたけど、二人だけじゃ手が足りないわ。姉さんがこの場に居たら留守番と伝令に分かれてみんなに情報を渡しに行けたのだけれど…姉さんが帰ってきたタイミングで私もリリカも帰って来れてなかったら、襲撃されたと思い込んで姉さんが動いちゃう可能性があるのよね。それは豹にとってかなりまずいパターン…姉さんを助けるために自分から動いちゃうかもしれないから。

 

豹は姉さんのことお気に入りだしね~。ユキと会ってその理由も納得できたから、この予想は合ってると思う。姉さんとユキが並んだら、私とリリカよりずっと姉妹に見えるもの。

 

「でも豹は一晩で動くって言ってるんだし、無理に私たちから会いに行く方が危ない気がするけどな」

「そうだけど…私も直接豹から話を聞いておきたいし」

「………あのさ、メル姉。ホントに自覚無いワケ?」

「ふえ?何が?」

「ああ、わかんないなら大丈夫…今は拗らせるとマズそうだし

 

なんだかリリカは気になってることがあるみたい…それもそうよね、今動くとなるとどうしても戦力的に不安があるわ。私も姉さんもリリカもそれなりに戦えるとは思ってるけど、豹の周りのみんなと比べると私たちはまだまだ力不足。移動中に襲われちゃうと逃げられるかどうかも怪しいものね。

 

「やっぱり姉さんが帰って来るのを待つしかないかしら~」

「そうしてよメル姉。ルナ姉もだけど、ちょっと前のめり過ぎだって。

 妹としては、もうちょっと身の危険を考えてほしい」

「う、それは言い返せないわね~。

 わかったわ、姉さんが帰るまでは大人しく待つ」

「OK!豹はなんだかんだ私たちに甘いから、下手に動く方が逆に迷惑かもしれないじゃん?

 まだ豹が追い詰められたわけじゃないんだし、先走らないようにしよ」

「りょうか~い!」

 

リリカに窘められて、私も少し落ち着けた。豹のためにも、待つことが必要…その通りよね~。

そのまま姉さんが帰ってくるまで、リリカと軽く音を奏でたりして時間をつぶすことにしたわ。

 

―――そんな私たちの都合なんて、通るはずもなかったのだけれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――と、こういう結果になりましたよ。たぶん華扇もここに来るんじゃないですかね」

「………星熊勇儀を介入させたのは間違いでしたか。

 致し方ありません。茨華仙と合流して地底の暴走を止めます」

「よろしくお願いしますね四季様!あたいはこれで失礼し「小町も参加です。追撃にも足止めにも有効な能力ですから」

「やっぱりそうなるんですかい…」

 

まさかあの邪仙が【星熊勇儀の妨害】を実行に移せるだけの胆力を持っているとは…星熊勇儀であれば地上の有力者も過度な干渉はしないと考えていましたが、私の読みが甘かったようですね。

こうなると豊聡耳神子も動く可能性が出てくる。魔界に対し警戒が必要な状況で、地底勢力と仙界勢力での内乱など起こすわけにはいきません。

 

(もっとも、星熊勇儀の怒りを鎮める必要もある。むしろこちらの方が難題ですが…茨華仙であれば何か妙案があるかもしれません)

 

私の犯した失態ですが、私と小町・久侘歌だけで星熊勇儀を止めるとなると負傷は避けられません。幻想郷の戦力消耗を避けるためには、協調出来るであろう茨華仙と合流するべきでしょう。

 

 

―――止めるべき相手の優先順位を間違えたことに私が気付くのは…手遅れになってからでした。

 

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