「霊夢さん!天子さんがいらっしゃいました!」
あうんが言いに来たそれは、面倒事が増えたということで。思わずため息が出ちゃったわ。
「はあ…厄介なのが増えたわね。何をしに来たのよ?」
「霊夢さんに用があるみたいじゃないみたいですね。上空を通り過ぎてゲートの方に向かってますよ」
「ゲート?おい霊夢、どこのことだそれ」
「…どこよ?」
「アッハッハ!なーんで霊夢が知らないのさ!」
「まったく、自分の神社周りのことすら覚えてないとはねえ…
あうんだったかい?シンギョクが守ってるゲートのことだね?」
「あ、そうです魅魔さん!」
シンギョク?
…あー、そういえばそんなとこあったわね。老いぼれを捕まえる前に二回だけ入ってみたあそこか。
「つまり、この神社に私達が集まっていることはまだ把握されていないということか?」
「おそらくは気付いていないでしょうな。ここには見向きもせず一直線にゲートへ向かったようですぞ」
「それなら巫女に対応してもらうのがいいんじゃない?あたしたちが真っ先に出ていくと首を突っ込まれそうだし」
…明羅さんと一緒に来た呪珠ってのが調子のいいこと言ってるわね。というか老いぼれもあうんにそのまま様子を見に行かせときなさいよ。何のための番犬なんだか。
「そうだな!霊夢、ちょっと行ってきてくれよ」
「面倒だわ。ほっとけばいいじゃない…こっちに降りてきた以上、私が何言おうが首を突っ込んでくるわよあの不良天人は」
そこまで言ったところで弾幕らしい光がゲートの方で光ったわ。
…私に視線が集まる。あーもう、今日はついてないわね!!
「わかったわよ、様子を見に行きゃいいんでしょ!?
あうん、魔理沙と萃香が勝手に台所を漁らないように見張っておきなさい!」
「お任せ下さい!」
「ちっ、気付かれてたぜ」
「なんだい、ケチ臭いなあ霊夢。手を貸してやるんだから酒ぐらい飲ませろー!」
「報酬は後払いよ。というか紫に請求しなさい」
「待て霊夢。魔界ならともかく、あのゲートから地獄に入られるとちょいと都合が悪いわ。
私も付き合ってやるよ」
「なら魅魔一人で…と言いたいけど、魅魔と天子を二人にすると後で面倒になりそうだしね。いいわよ、手伝いなさい」
まったく…こんな雪の中、しかも夜に外に出る羽目になるなんてね。原因になった天子と豹にはしっかりお礼してやらないと。
そんな事を考えながら魅魔と一緒にシンギョクのところに辿り着くと、案の定決着は付いてたわ。
「あ、いいところに来たね霊夢!ここから魔界に行けるって聞いたわ。行き方を教えなさい!
こいつら球に戻って一言も喋らないのよ。負け犬のくせに生意気だわ!」
「私はここの開け方なんて知らないわよ、というかそれを喋らせずにこの状態に戻したあんたの負け。弾幕ごっこやったんなら中のやつ見たんでしょ?」
「ボコボコにしたのに出てこないのよ!弱いのに無駄に我慢強くて腹立たしいわ!」
「ふっ…成程、霊夢にすら不良天人呼ばわりされるだけはあるわけだ」
あー、これはシンギョクが一枚上手だったみたいね。天子に敵わなかったけど、替え玉を残して逃げることでゲートに入らせなかったと。
…紫は何をしてんだか。私の仕事じゃないでしょここの管理は。
「我慢強いんじゃなくて効いてないのよ。この球、門番のシンギョクじゃないわ。
本物は上手く逃げ切ってる」
「はぁっ!?いつの間に!?」
「魔界に行けるゲートの門番ってことは、それなりの空間魔法を扱えるってことじゃない。弱いって油断したから簡単に出し抜かれたんでしょ?紫が門番として配置してるのがただのザコだとでも思ってたわけ?」
「ぬぐぐ…!」
…天子は本当に変わらないわね。相当な実力があるのに性格で足をすくわれて失敗するタイプ。こいつに手助けされたのも結構堪えてるのよね…だから少し真面目に修行しようかなと思い始めたんだけど。
「そもそも天子が魔界に何の用があるのよ?単なる暇つぶしで向かうような場所じゃないわ」
「暇つぶしじゃないわよ。昨日天界に侵入してきた魔界の不届き者を成敗しに行くの」
「…なんですって?」
ちょっと聞き捨てならないわね、それ。天界に侵入した魔界人がいるっての?
詳しいことを聞き出そうとしたところで、また珍しい奴がやって来たわ。
「総領娘様!何をやっているのですか!?」
「げ、衣玖。なんで追って来たのよ!?」
「総領娘様がまた勝手に下界に降りたから『監視せよ』と命じられてしまったのです!
どうして私の仕事を増やすのですか!?」
「侵入者に気付かない盆暗天人共の尻拭いを私がやってるのよ?監視なんていらないわ」
「その処分を決めるのは総領娘様ではありません!帰りますよ!」
「黙れ、衣玖に指図される謂れは無い」
…また天子のお目付けを押し付けられたのねこの竜宮の使い。同情するわ。
でも、話はこっちの方が通じるし…少し付き合ってもらおうかしら。
「あんたたしか永江衣玖だったわよね?天子をとっ捕まえるのを手伝ってやるから、その魔界のこと私にも教えなさい」
「私もそれは聞きたいねえ、手を貸してやるわ」
「あら、いいのですか?とても助かります!
では総領娘様、お覚悟を」
「ってちょっと待て!?流石にお前ら三人掛かりは大人気ないだろう!?」
「お前だけには言われたくない!」「総領娘様だけには言われたくありません!」
「ははは!霊夢に大人気ないと言われるような奴がいるなんてね!」
「ぐぅ…不意打ちとは卑怯な」
「「貴方より弱いので当然の手段です」」
「暇人の天子と違って、こっちは今立て込んでるのよ。余計な騒ぎを起こされるのはごめんだわ」
「そういうわけだ。ま、私はあんたの方に用はないんだけどね」
「霊夢様、魅魔様も。助かりました」
「私らだけで侵入者を止めることが出来ず、申し訳ありませんでした」
「気にしないでいいわよ。それこそシンギョクのおかげで天子をここまであっさり捕まえられたんだしね」
「私からもお礼を言わせてください。皆様、ありがとうございました」
私と魅魔、永江衣玖が共闘することを察知したシンギョクも即座に不意打ちを掛けてくれたから、4対1での袋叩きになってあっさり天子を捕まえられたわ。今の天子は衣玖の羽衣でぐるぐる巻きにされている。これで少なくとも今夜は首を突っ込んでこないでしょ。
「それじゃ悪いんだけど、天子を引き摺ってでいいから神社まで付き合いなさい。魔界がちょっと面倒なことになってるみたいなのよ」
「わかりました、少しお邪魔させていただきますね」
「素直で助かるよ。お前さんの方が余程天人に見えるね」
「…お前は悪霊?初めて見る顔だわ」
「シンギョクもお疲れ様。魔界が妙な動きをしたら、紫だけじゃなく私にも教えなさい。少なくともあうんか爺は神社にいるはずだからね」
「「畏まりました」」
―――ってわけで、衣玖と俵担ぎの(引き摺って羽衣を汚したくなかったみたい)天子を連れて戻ったわけなんだけど。
「あっははっ、ざまあねえぜ!天子がこんな格好で連れて来られるなんてな!」
「いい気味だねえ、どうだい見下してた相手に見下ろされる気分は?」
「うぎぎ…!衣玖!さっさとこれ解きなさいよ!!」
「私が総領娘様のせいでどれだけストレスを溜め込んでいるのかまだわかっていないみたいですね…
どなたか猿轡をお持ちではないでしょうか?話が終わるまで黙らせておきましょう」
「衣玖ー!!お前後で覚えてろよー!!」
「ほれ、使いな竜宮の使いさん」
「ありがとうございます」
魔理沙と萃香が煽って衣玖が冷たく突き放し魅魔が本当に猿轡を持ってきた。宴会でもないのにこんな騒がしい雪夜なんて過ごしたくもないんだけど。
…まあ、さっさと話を聞いて帰らせればいいか。
「とりあえず、ちょっと聞いておくべき話っぽいから連れて来たわ。
じゃ、魔界のことについて話しなさい」
「魔界!?」
「えっ?どういうことそれ!?」
明羅さんと呪珠が飛び上がるように反応するけれど、衣玖は気にせず話し始める。
「あまり時間は無いようですので、自己紹介は省かせていただきますね。
昨夜、天界に侵入した悪魔と魔眼の集合体のような生物の二人組がいたのです。私は仕事帰りでしたので、天界に迷惑を掛けないのであれば見逃すとお伝えしたところ、
ですので地上で何をしていたのかまでは何も知らないのですが…ご覧の通り総領娘様が勝手に動いてしまいまして」
「魔界に帰った、ねえ。つまり目的はもう果たした後ってことか」
「そういうことなのでしょう。ですが私は地上のことには詳しくありませんので何が目的だったのかなどは知らないのです。
…そのせいで総領娘様がいい暇つぶしとばかりに動いてしまったわけですが」
―――これはあの秘神に伝えるべきね。魔界側もすでに幻想郷でコソコソ動いてたってこと…それに今日紫と話してた二人とは繋がってない気がする。つまり豹を連れ戻しに来たわけじゃないかもしれない。
「魅魔、あんたあの秘神に会いに行ける?」
「悪いが難しいね。幻想郷の管理者だけあって、そう簡単に飛べるような場所じゃなかったよあの国は」
「あーん?何の話だい?」
「萃香と言ったな。後で説明するから、話を進めることを優先させてくれ」
説明が面倒くさくて後回しにしてた萃香が口を挟んできたけど、明羅さんが押さえてくれた。助かるわ。
「霊夢さん、隠岐奈様の国でしたら華扇さんが行き方を知っているのではないでしょうか?」
「あ、それはあるかも。爺、華扇に今の話を伝えに行ってもらえる?そうすれば華扇が上手く伝えてくれるでしょ」
「お任せを。この爺はこれぐらいでしか役に立てませんからのう」
そういって爺が雪の中文句も言わずに飛んで行ったわ。
…爺もまだまだ使えそうね。なんで私今までこの使い方を思い付かなかったのかしら。
「…空気を読んで、私からは何も聞かないでおきますね。
もう総領娘様を連れて帰っても大丈夫でしょうか?」
「ちょっと待った。今の話からするとその天人くずれ、暇してるんだね?」
「はい、一時的に天界から追放されても誰も困らなかった程度には暇な方です」
「ならそいつここに置いて行ってもらえないかい?頭数不足になった時に使えそうだからねえ」
「お、さすが魅魔様だぜ!天子が嫌がる上に私たちの得になるな!」
「むぐー!!」
…天子がキレてるわね。身動きできない状態じゃ何も怖くないけど。
「いいじゃないかそれ!クソ生意気な天人には相応しい扱いだよ!」
「…師匠がそう言うのであれば。大人しくさせるだけの手段もあるということですよね?」
「当然だよ。魔理沙、私が拘束魔法かけた後に別の拘束魔法をかけてやりな」
「任せてくれ魅魔様!」
萃香もノリノリで賛成して、明羅さんも反対はしない。あうんと呪珠は思いっきり引いてるけど、こいつらに意見する気は無いみたいで何も言わない。
そのままあっという間に天子に拘束魔法が二重にかけられたわ。こういう行動は早いわよね…流石は悪霊。
「これで羽衣外しても逃げられないさ。持ち帰ってくれて平気よ」
「………私一人で救出は無理ですね。
総領娘様、これに懲りたら少しは大人しくすることを覚えて下さい」
「ぶはっ!!衣玖、お前本当に覚えてろよ!!」
「自業自得です。それでは、私は失礼しますね」
「ええ、魔界の情報をくれたのには感謝しておくわ」
猿轡もついでに外された天子が衣玖にキレてるけど、言い返された通り自業自得。たまには自分の傍若無人の報いを受けるべきよね。
(これはとても不味いことになってしまいましたね…!総領娘様をあんな方法で戦力として使おうとするなんて思いもしませんでした)
博麗神社から離れながら、これから私がどう動くかを考えます。一度察知されない高度まで上がってから移動しなければ、あの魅魔さんという悪霊に私の動きを把握されてしまうでしょう。4人がかりかつ不意打ちまでしたとはいえ、総領娘様を簡単に捕縛できたのは…博麗の巫女を魅魔さんが正確無比な魔法で援護したからです。つまり博麗の巫女と肩を並べられる程の実力者…迂闊に動いて私が見つかってしまえばルナサさんたちに迷惑がかかってしまいます。
考え付く中で一番悪い結果になってしまったこの状況をどうするべきか…!
(完全に私の失態です。天界に帰る前に、皆様にお伝えすることは必須。
ですが、誰にお伝えするのが一番安全でしょうか…?)
総領娘様に【侵入者はすでに魔界に帰った】とお伝えすることで、魔界に向かう手段が無い以上天界で大人しくしてもらうつもりだったのですが…まさか博麗神社近くに魔界に通じるゲートがあるなんてことを総領娘様が知っているなんて思いもしませんでした。そもそも私も知りませんでしたし。
その動きは流石に名居様も放置できなかったようで、私に話が向いてしまったのですが…その結果がルナサさん達の敵対者による総領娘様の戦力化。総領娘様を天界に連れ帰ることが出来れば、比那名居の皆様方がどうにか止めて下さるでしょうが…あれだけの実力者達を私一人で相手にすることなど不可能。博麗の巫女が出てくる前に総領娘様を連れ帰ることが出来なかった私の落ち度です。
そもそもルナサさんたちは私に伏兵のような役割を求めています。要するに私が地上で戦闘行為を行うこと自体を避けるべきなのです。そうなると今後最優先するべきは隠密行動ですので、これから私が状況をお伝えするべき方は【私が地上に出向いても不自然ではない相手】かつ【急にルナサさん達を訪ねても違和感がない方】でなくてはなりません。
「…そのような方は、一人しかいませんね」
天界の高度まで上がったら、そのまま雷鼓さんの家に向かいましょう。
手遅れにならなければいいのですが…
明日から有休消化のため更新ペースを上げます。
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