「―――ざっくりまとめるとこんな感じかな?家に取り憑く騒霊のわたしが、魔界に行くことになるなんて思いもしなかったわ」
「…私もそれなりに長く生きてきたが、これだけ密度の高い一日を過ごした覚えは無いよ。
悪霊の襲撃に堕天使と悪魔相手の取引、そして魔界神との会談―――私なんかとは全然違う場所で過ごしてたんだな、豹は…」
リリーが知ってる限りのことを妹紅さんに教えてくれてたから、あまり聞き返されずに今日の動きを伝えられたわ。こうしてその場にいなかった人から言葉にされると、本当にすごいことしてたのねわたしたち。
どちらかというと妹紅さんより麟さんの方が話の補足と質問を入れてきたのよね。夢幻館や移動中にある程度は伝えておいたんだけど、命蓮寺と魔界の繋がりみたいな細かいところまでは説明しきれてなかった。逆に麟さんも八雲の隠者候補として持っていた情報を話し切れてなかったから、私たちの今日の行動だけじゃなくて豹がお家から出て行っちゃってからのことも振り返りながら説明することになったわ。
「ですが、皆様も豹さんと共に過ごしたいという思いは私達と同じでした。ぶつかってしまうのは【豹さんの過ごす場所】だけです」
「この隠れ家に留まってもらうために、幻想郷で過ごしてもらいたい私たち。もうみんな赦しているのだから、故郷である魔界に帰って来てほしいって思っている神綺様たち…お互いに納得できる結論が出せさえすれば、手を取り合えるのです」
「でも、豹さんは魔界に帰りたくないみたいですよー?」
「うん、だからこそわたしたちがなんとか援護しようとしてるわけだし。
…ユキたちは一度連れ帰ることは曲げなさそうだし、一度魔界に戻っちゃえば豹の方が心変わりしちゃうかもしれないからね。わたしたちで帰らせないようにしないと」
魔界のみんなには悪いけど、たった一度でも豹を魔界に帰らせるのは怖い…わたしたちにとってハイリスクすぎる。今はまだ帰る気が無くても、魔界のために動くことは躊躇いそうにないから。
豹が魔界のことを切り捨てることは絶対に出来ない。それがわかってるから、豹には逃げ切ってもらわなきゃならないわ。
―――そうやって説明し終えたら、妹紅さんが出した結論がこれだった。
「そうなると、むしろ問題は幻想郷の敵か」
「はい…神綺様と敵の敵は味方で繋がってしまう可能性は低いとは思いますが。
豹さんを魔界に帰らせるという方針は同じですので、双方が利用し合うことは考えに入れておくべきでしょう。特に、マイさんという方が幻想郷に出向いてしまった場合は気を付けないといけないと思います」
「そうですね…マイさんならすでに幻想郷に伝手を持っていても不思議ではありません。魔界の諜報を取り仕切っているのがマイさんですので」
当面の問題は考え無しに実力行使で豹を捕まえようとするだろう靈夢や魅魔を引き込んだ摩多羅隠岐奈に、今日の時点でリリーが豹と一緒に居たことを見られちゃってる地底の妖怪たちと、天狗と繋がってて地底の妖怪と同じように豹とリリーのことを知ってる守矢神社ってところ。この辺は豹を魔界に返す方が都合がいいって考えみたいだからわたしたちとは相容れないわ。麟さんの言う通り、魔界と繋がる可能性は低いとは思うんだけど…
「でも豹が見つけられちゃった場合は、魔界がわたしたちを止めに来ちゃうかもしれないよね…」
「はい…豹さんを追い出そうとしている勢力から狙われるよりは、魔界側で相手する方が
「リリーたちを守るために、リリーたちを止めに来るということですね…」
「…本当にリリーは妖精とは思えないですね。そんな結論を出せるなんて」
麟さんがビックリしてる。わたしは逆にリリー以外の妖精と接点が全然ないから、ちょっと不思議な感覚なんだけど…上海ちゃんやルナサから聞いたことを纏めると、ノエルっていう今日メルランとリリカがお話ししに行った妖精以外は味方に付けるのも避けるべきってこと。リリーよりずっと子供…というより幼稚だから隠し事が出来ないから、妖精に豹のことを知られるのはまずいみたいね。
そう考えると麟さんの反応もおかしくないわ。
「そうなると豹の潜伏先を私らで守る必要があるってことか。皮肉だね…私がカナ達にした助言が、ここに来て私達の選択肢を減らしたってことか」
「あ、潜伏先はそんなに心配しなくてもだいじょうぶ!上海ちゃんのおかげでこのお家が使えて、夢幻館も再利用できるから!魔界のみんなをどっちでも一度やり過ごせれば、この二軒の往復でなんとかするわ!
だからあと数日豹の居場所を誤魔化せれば、潜伏先の問題は無くなるよ!」
「はい、そのためにいただいた黒翼ですから!
ですので、豹さんがあと数日潜伏できる場所を確保できていれば一安心は出来るはずです」
「ああ、上海を囮に使うってそういう意味もあるのね。夢幻館ってのは何処にあるんだ?」
「博麗神社の裏山に涸れた湖があります。そこが洞窟の入口になっていますので、進んだ先です」
「えっ!?あの湖にそんな秘密があったんですか!?
リリーは何度も通り過ぎたことがありますが、全然気づかなかったのですよー」
「なるほどね、妖怪が潜む場所としては盲点だ。博麗神社にほど近い場所に入口があるなんて、そこらの雑魚妖怪じゃ気付くはずがない。調べようとするだけで巫女に退治される危険がある。
おまけに人里からじゃ遠すぎるから人間が存在を知るはずがない、と。極めつけは今でもその強さを幻想郷に轟かせるフラワーマスターが関係する館…幻想郷の住民なら余程の理由がなきゃ近付こうとは考えないってわけだ」
そんな場所に平気で出向いてた豹はやっぱりものすごかったってことだよね。逆に言うとリリーは幻想郷で危険なところでも飛び回ることが出来るってこと。テレポートの距離を延ばす補助をわたしたちがやれば、脱出すること前提で危険地帯の様子を見てこれるかもしれないわ…!
リリーは何もできないって思い込んでるけど、そんなことない。状況によっては、リリーを頼る状況もありそうね。
「となれば、私も夢幻館で豹の助けになってくれてる連中と顔を合わせておきたいな。エリーとくるみにサリエルとリィス、それに夢月と幻月って言ってたか?」
「はい、夢幻館とそこから通じる夢幻世界で待機してくれているのはその皆様になります。あともう一人、豹さんの力にはなってくれる方もいるのですが…」
「…あ、里香のことまだ説明してなかったね」
「里香?もしかして天才戦車技師の里香のことか?」
「えっ!?妹紅さんは里香さんのことをご存じなのですか!?」
「いや、直接の面識は無いけど。ただ慧音が自警団の幹部候補として目を付けてた天才少女だよ。少なくとも霧雨魔理沙が魔法使いとして覚醒する以前は、人里で有望な魔法使いと言えば里香だった。
もっとも、人里では知識を得る場所が足りないって理由で家出したそうだ。戦車技師として生存が確認されたのが今の博麗の巫女が初めて解決した異変の時で、それ以降また消息が途絶えてたはずだが…それこそお前らはどうやって里香と知り合ったんだ?」
こんなところで里香の名前が出てくるなんて思わなかった。とはいっても、なにかわたしたちにとってプラスになるようなものじゃなかったけど。
「豹さんは夢幻館から離れた後に明羅という侍の方を頼ったそうなのですが、そこに里香さんもいらしてたそうです。そこで豹さんの魔法が戦車に使えると知り、研究に参加させるために豹さんを追っているそうです」
「…待て、明羅ってまさか霧雨魔理沙の姉弟子の明羅か!?」
「はい、それは藍様から確認が取れています。ですが、里香さんはすでに魅魔さんと袂を分かっていると言っていました」
「どこまで信用できるかはちょっと怪しいんだけど、魔界から戻ってくるときにわたしたちと一緒にいたらまずいって言って別ルートで帰ったから…少なくとも豹を魅魔に突き出すってことはしないと思う。ただ、条件次第では魔界と協力して豹を魔界に連れて行く方向に動くかもしれないわ」
「神綺様からすれば、豹さんを魔界に連れて帰るために人間の魔法使い一人を受け入れるだけなんです。それに何も問題はないのでしょう」
「…それは私にも同じことが言えます。豹さんが魔界に帰るという決断をするのであれば、私も魔界に行きますので」
「麟…
―――いや、私が口を出すことじゃないなこれは。
とりあえず、里香は現状の問題になる幻想郷内の敵になら手を貸してくれると思っていいんだな?最終的に魔界側に回る可能性があるってだけで」
「はい、そう理解してもらえれば大丈夫だと思います」
「魔界ですかー。リリーも豹さんと一緒なら受け入れてくれるのでしょうか…」
里香がどこまで豹のために動いてくれるかは微妙なんだけど、少なくとも敵に回るってことはないわ。それなら手が足りないわたしたちが拒む余裕なんてない。それこそ里香一人であれば妹紅さんとわたしで取り押さえられると思う…戦車ってのを持ち出されなければ。
「それで、その里香は何処に帰ったんだ?」
「幻夢界へ帰って行きました。幻想郷から向かえる世界でして、サリエル様とリィスさんによって魔界とも通じるゲートが創られた世界です」
「…もしかして、幻想郷と魔界って私が想像しているより近いのか?」
「そういうわけではないのですが…元々幻想郷と魔界は空間位相的に繋げやすいみたいなんです。私が知るだけでも魔界と幻想郷を繋ぐゲートは4つありますし、神綺様であれば魔界から直接ご主人様の家にゲートを繋げられるんです。
…そこもあって、あの大惨事以来魔界と幻想郷の行き来は厳しく制限されています」
「そこら辺は私じゃ理解できないからいいわ。魔界を経由せずに里香のいる幻夢界に行くことは出来るんだよね?」
「はい、それは上海ちゃんだけでなく私も把握しています。
ただ、幻想郷からの行き方を知っているのがおそらくリィスさんだけなので…妹紅さんが里香さんと直接顔を合わせるのは難しいかもしれません」
「そうかい。となると里香を頼る判断は夢幻館の連中に任せるべきだろうね。
となりゃ…私が今から夢幻館に行ってくるのが手っ取り早いか?」
そう妹紅さんが言葉にしたタイミングで、隠れ家の意識が来客を教えてくれたわ。誰だろうと思って外の様子を知ろうとする前に、声が掛けられた。
「カナさん、中に入れてもらえないでしょうか?」
「えっ!?椛さん!?」
急に声を上げちゃってみんなをビックリさせちゃった。でも、これは絶対に大事なお話がある!!
「みんな、ちょっと待ってて!椛さんのお話も聞きましょ!」
みんな揃って頷いてくれたわ。
次の更新も明日します。