寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第178話 騒霊楽団に迫る危機

「…なんでそんな大事になってるのさ。勇儀さんに早苗との協力は今更断れないって言っておいたけど、戦闘に加われってのはお断りさせてくれないか?どっちつかずの対応が一番勇儀さんを怒らせるからね」

「そこをなんとか!星熊勇儀さんがにとりさんを狙う場合は、神奈子様と諏訪子様で救出してくれますので!」

 

清蘭と鈴瑚からのテレパシーで、妹紅さんが家にいないって言われたんだけど…私はしばらく早苗を孤立させるわけにはいかないから戻れない。だからてゐを探せって言っておいたけど、下手に迷いの竹林に入らせるほうが時間の無駄な気が今になってしてきた。だからこそさっさと帰れるように説得してほしいんだけど…戦力のアテとして訪ねた河城にとりは渋い顔。まあ、こんな厄介事に巻き込まれるのが嫌なのは私にもよーくわかるんだけど、今回に限っては手段を選べないわ。

 

なにしろ、お師匠様があれだけ警戒している相手なのだからね。

 

「ま、そう返って来るだろうと予想してたから先に見返りを持ってきた。他の河童に見つからないようにするのにちょいと時間がかかったけどね」

「げげっ!なんで神社の神様まで出てくるん……――っ!?

 ちょっと待った!なんだその改造し甲斐のありそうな大砲は!?」

「出処の説明が欲しけりゃ早苗に手を貸しな。そうすれば説明もしてやるし、お前さんを私が庇護下に置いてやる」

「う、うぐぐ…

いいだろう、ただし前衛は張らないぞ。後方からの援護射撃に徹するだけだからな!」

「それだけでも助かるわ。戦力はいくらあっても足りなさそうだし」

 

よし、()()()で味方に付けられるなら安いものだわ。なにしろ早苗どころか私でも持ち上げることすら出来なくて、守矢の戦神ですら「これは重いねえ…!」と感想を漏らした魔力砲。飯綱丸っていう烏天狗の大将が、早苗と別れた地底の妖怪たちが集合していた小屋に隠されていたのを回収していたもので、念写能力を持つ烏天狗によってもたらされた写真に写っていた武器と同じものだと推測してたわ。

 

使い方が理解できても真似できないどころか、戦神や最上位の天狗ですら持ち運ぶだけで一苦労する魔力式重兵器…こんな代物を手持ち銃器として扱っている豹ってのがますます恐ろしくなったけど、私達じゃ使えない敵の兵器を報酬に味方を増やせるのなら使わない手は無い。これを飯綱丸龍が無償で提案してきたことで、天狗勢力は共闘相手として信用できるようになった。

 

豹とやらを完全に敵に回す動きだからね、この魔力砲に関しては。

 

「こいつは私らが追ってる豹ってのが使っていたらしいんだが、拠点の一つに隠してあったそうだ。おそらくは逃走時に持ち歩くには邪魔になるから置いていったのだろうな。使い方に関してはこの写真通りだろう」

「へえ…私が印刷した写真以外にも写ってたんだこいつ。手持ちのレーザー砲か…後ろに写ってる子供の情報はあるのかい?」

「大天狗様が把握しているのは里香という名前と、魔理沙さんの姉弟子だっていう明羅って女侍の知り合いってことだけみたいですね。逆に言えば、魔理沙さんならこの里香って子のことも知ってるかもしれません」

「はーん、魔理沙には関わらせたくないって天狗は言ってたってのに、豹って奴は魔理沙と繋がりがあったかもしれないってことか。だから余裕がなくなって私の手まで借りたくなったわけね。

…それで、永遠亭の兎はどうしてこの件に噛んでるんだい?」

「その豹ってのがお師匠様と因縁持ちだったのよ。放置は出来ないから早苗と協調してるわ」

「…もしかして、この豹って奴かなりヤバい?」

「そうじゃなきゃ私直々にお前さんを説得してないよ。正直なところ、私も同行したいぐらいなんだが…相手が潜伏を図っている以上、私が前線に出るのは逆効果だ。これでも幻想郷内での有力勢力の頭だからね、私直々に動いちゃ他の連中も動きかねない…それが豹の味方に付いちまうと戦力がますます足りなくなるのさ」

「あー…勇儀さんが華扇さんに会いに行ったってことは大事になるのがわかってたってことだもんなあ。有力勢力が敵味方に割れて大騒ぎになるのは誰も望んでないってことか」

「河童にしては広い視点を持ってて助かるよ。とりあえずこいつは何処に降ろせばいい?

たぶん一人じゃ持ち上げるのも厳しいだろ?そこまではやってあげるさ」

「あ、それじゃこっちにお願いしまーす!」

 

そう言って守矢の戦神と河童が奥に魔力砲を持っていく。これでとりあえず一人は戦力確保に成功、ね。

 

「ふぅ…この調子で文も誰か連れて来てくれると助かるけど」

「文さんですからね…協力してくれる代わりに私たちにも不満が向きそうな手段を取ってしまいそうです」

 

まったく…同じ妖怪の山に住む早苗ですら文のことは厄介者扱いしてるなんてね。ある意味あのゴシップ記者は幻想郷で一番ブレない妖怪なのかもしれない。誰に対しても迷惑を振り撒く腹立たしい記者って意味で。

…妖怪の山から戦力を連れてこれるアテのない私が口を出すべきじゃないんだろうけど。

 

「それじゃ私は準備するから、もう少し待ってな!」

「――だそうだ。早苗、後は任せるが…豹を直接相手取る場合は無理するんじゃないよ。退くことも一つの勇気で、必要なことだからね」

「はい、それはこいしさんと二人掛かりで逃がしたことでとてもよくわかりましたから。

 私では届かなければ、素直に神奈子様と諏訪子様を頼ります」

「それでいい。

鈴仙だったね?お前さんも貧乏籤らしいが、だからといって早苗を見捨てたら私らが直接シメる。よーく覚えときな」

「言われなくてもわかってるわよ。貴重な協力者を減らすような真似はしないわ」

 

最後に釘を刺して守矢の戦神が去っていく。出来れば前衛として参戦してもらいたかったんだけど、言われた通り有力勢力が入り乱れるような状況は避けないといけない…サリエルの存在を有力者に知られると、お師匠様と姫様に危険があるのだから。

 

(…それこそ、真っ先に妹紅さんを頼るべきだったわね)

 

今になって盾役に適任な心当たりを思い出す。こんな時間にどこへ行ってるのかしら?

 

 

 

 

 

「―――というわけでして。山童の手も貸してもらいますよ?」

「はぁ…大天狗からの協力要請なんてものを文さんが持ち出してくるなんて。

第三者として客観的に見るのが記者っていうものだと思ってますが?」

「記者でありたくても組織の上層部には従わなければならないのですよ。仮にも山童をまとめているたかねさんであれば理解できるのではないですか?」

「…だからといって無条件に天狗に従う気は無いわ。我々を動かそうというのであれば、それなりの報酬は支払ってもらわないとね?」

 

うーむ、曲がりなりにも山童のリーダー。タダ働きさせることは難しいようで。

それなら、協力者に報酬を支払わせればいいだけですな。

 

「それでしたら美味しい話になると思いますよ?

なにしろ飯綱丸様が動くにあたり、協力者として守矢の風祝と永遠亭の訪問販売員が同行することになりましたので。守矢神社はともかく、永遠亭に恩を売っておけば今後のビジネスに繋がるのではないですかな?」

「永遠亭?あの滅多に表に出てこない所が、無駄に話を大きくする文さんと取引したんですか?」

「無駄とは何ですか!私は日々真実を伝えるべく」

「あー、余計な話は時間の無駄だからいいよ。

 とりあえず私は手を貸しましょう。ただし山童からの戦力供与は私一人で打ち切ります」

 

むむ、話を途中で遮った挙句最低限の協力しかしない気ですな。となれば、もう少し報酬を良い方向に…

 

「上手く立ち回れば私個人で永遠亭とのビジネスを独占できそうですしね。これで何か不満があるのであれば、大天狗様直々に商談に出向いてもらえますか?

正直に言って、文さんは信用に足る取引相手じゃないので」

「好き放題言ってくれますねえ!これでも私、それなりに天狗上層部に顔が利くのですよ?」

「文さんが組織より個人を優先してるのは妖怪の山全体で周知の事実でしょう?もう少し自分を客観的に見てくださいよ」

 

まったく…どいつもこいつも私に対して失礼ですねえ!私ほど天狗全体の利益と私個人の楽しみを上手く両立している天狗なんていないのですが、誰一人それに気付きもしない。損な役回りですなあ私は。

ですがたかねを引き込めれば十分です。同族内のリーダー的な彼女を抑えておけば、後々山童で数を揃えられますし。私はあくまで補佐と状況判断が優先、前面に出す駒が必要になった場合はたかねに確保させればいいということです。

 

「まあいいでしょう。少なくともこれだけいれば騒霊二人に出し抜かれることは無いでしょうし」

「騒霊が最初のターゲットってことね。とりあえず協力者たちと合流して、作戦を聞かせてもらいますよ?」

 

三日前のように分散して逃げられると面倒ですからね。これで単純に人数差が5対2で倍以上、少なくとも片方は問題なく捕まえられるでしょう。

 

(その後は月の頭脳に押し付けてしまいましょう。直接妖怪の山へ恨みを向けられるのは面倒ですし)

 

 

 

 

 

「―――というわけです。この状況になったのであればしばらく私に用は無いでしょうし、潜伏するより飯綱丸様のそばに居る方が安全ですよねぇ?」

「成程ね、こっちだけじゃなく魔界も一枚岩じゃないってことか。その上で摩多羅隠岐奈も動いていて、豹を排除すべく協調した、と。

そして私も都合よく動かそうとしたわけだ。隠岐奈といい紫といい、管理者は相変わらずだ」

 

今後の方針が決まり風祝達が出発したのを見計らったように典が戻って来て、先程の情報元を白状してきた。もっとも、白状する気になったのは私に役立つ情報を引き出せたから―――本当に転んでもただでは起きないな、典は。

 

「さて、これはどう動くかな。隠岐奈が動いている以上、こちらも守矢の祭神を切り札として使えるようになったということだが…その場合どこまで情報を渡すのかが考えどころだな」

「それともう一つ。釣瓶落としのキスメが、勇儀様が庭渡神を引き連れて地底に戻ったのを確認しています。

別行動していたはずのこの二人が合流しているということは、既に大きな動きがあったと考えるべきじゃないですかねぇ?」

「地底に戻った?

…また出遅れてるようだね。後ろで高みの見物なんざしていられない、か」

 

幸いなことに、地底と守矢には繋がりがある。つまり地底経由で勇儀様から情報を得られるということだ。

時間に余裕は無いだろうが。

 

「典、守矢神社まで付き合え。今の状況なら、先に典を処罰するという方向には行かないからな」

「かしこまりましたー!」

 

やれやれ…私直々に飛び回ることになるとは。こうなるなら発掘作業を中断させて百々世にも手伝ってもらうべきだったかもしれん。もう間に合わんし、代価に何を要求されるかわかったもんじゃないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――こうまで私にとっての理想通りに動いてくれるとはね。この偶然を上手く活かせば、神綺が幻想郷に侵入する前に終わる。

 

「ここから先は状況次第でお前達にも介入してもらうぞ。

理想は豹の協力者による分断だが…奴等の援護が間に合わなければ舞と里乃で介入しろ。エリスと幽玄魔眼を表に出すのはまだ早い」

「「おおせのままに、お師匠様!」」

「奴等の援護が間に合った場合は策に従って動け。永遠亭の動き次第だが、今夜で片が付くかもしれん」

「いいわよ!ヒョウと憎い月のやつらで共倒れが一番だもん!」

「ああ、喪った悲しみを怒りと憎しみで塗り潰すぐらいでしか、サリエル様はヒョウを割り切れない…!

月の連中相手にしか、このやり方は使えねえからな!」

 

さあ、帰還しようとしない月の民共よ。魔界神の護衛を誘き出すための、餌として使わせてもらおうか。

 




次の更新も明日します。
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