寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第179話 伝令役合流

「こんな時間にすみません、カナさん」

「ううん、だいじょうぶ!お話を聞かせてよ!」

「はい、もちろんです」

 

何事もなく豹さんの隠れ家に到着し、積もってしまった雪を払ってからカナさんの許可を貰って足を踏み入れたと同時に、豹さんにお貸ししていた左目の視界が戻りました。つまりここ…隠れ家が強襲されない限りは私は安全だと豹さんは判断したということです。

 

右目と左目で別の視界を得る状態は、私のような未熟者ではとても情報を整理できません。ところが豹さんは修練を続けることによって右目と左目どころか、同調させた魔眼の視界まで複数同時に視るという物凄いことが出来るのです。それだけの視界からの情報を並行して整理するなんて私ではどれだけ修練を積んでも真似できない気がします。

そんな豹さんが私との魔眼の同調を切ったということは、私を護るために使っていた集中力を別のところに使うことにしたのでしょう。おそらくは、追手たちの動向を詳しく探るために。

 

「おまたせ~」

「失礼します」

「椛さん!お疲れ様です!」

「お疲れ様なのですよー」

 

カナさんと一緒にこの隠れ家で一番広い部屋に入ると、上海とリリーが迎えの言葉をかけてくれました。妖怪の山に戻ることが出来なくなるであろう私ですが、こんな温かい言葉をかけてくれる相手が山の外にもいる…豹さんがくれたこの繋がりを、大切にしないといけませんね。

 

―――そして、その向かいのお二人が。豹さんの頼み事をお伝えしなければならない相手。

 

「藤原妹紅さんと、冴月麟さんでしょうか?」

「――っ!?私の名前を覚えていられたのですか!?」

「それはどういう意味でしょうか?豹さんからお聞きした名前を覚えているのは当たり前で………っ!?

どうして…名前しか思い出せない!?」

「…豹に教えられたのであれば、麟の名前だけは覚えていられる、か。

どうしてなのかをここで考えても答えは出ないだろうな。ま、その通り私が藤原妹紅さ。豹に手を貸すことにしたから、よろしくね」

「は、はい。今は豹さんのことを優先するべきですね…犬走椛です。こちらこそよろしくお願いします。

初対面でいきなり申し訳ないのですが、豹さんからの頼み事をお伝えさせてください」

「―――っ!?それはつまり、椛さんは豹と直接会って来たってこと!?」

 

妹紅さんだけではなく、カナさんたちここにいる皆様が驚きの表情で私の言葉に反応しています。つまり豹さんが私を連れて夢殿大祀廟から脱出したことは、あの時夢殿大祀廟に集まっていた皆様以外にはまだ把握されていないということです。ここまでは豹さんの目論見通り、それなら私は指示通りに動くだけ!

 

「そうです。なので豹さんの言葉をそのままお伝えします。

『治療を頼みたいから麟の家まで帰って来てくれ。護衛は妹紅一人で頼む』

だそうです」

「治療!?豹さんはまた怪我を!?」

「そうなんです。なので麟さん、どうかお願いします!」

「わかりました!妹紅さん、お願いします!!」

「ああ、任せな」

「妹紅さん一人、なのね。わたしたちは動くなってこと?」

「はい、『多人数で麟の家に向かわれて上層部に位置を把握されたくない』そうです。

『逆に妹紅には俺から直接協力を頼むべき』とも」

「そういうことですか…!わかりました、リリーさんも我慢してください」

「リリーは足を引っ張ってしまうので、豹さんの言う通りおとなしくしますよー」

 

私の懸念は的外れだったようですね。カナさんも上海もリリーも、豹さんの指示を最優先するのが当たり前と考えています。流石は豹さんと言うべきなのでしょう。

 

「妹紅さんと麟さんには豹さんが直接状況をお話ししてくれます。カナさんたちには私が今からお話ししますので、どうか豹さんをよろしくお願いします!」

「ああ。豹が私を頼ってくれるなんて、本当に久しぶりだからね…!

行こうか、麟」

「はいっ!

―――そうです。カナさん、これはカナさんが持っていてください。治療が必要なのであれば、私はしばらく豹さんに同行することになりますので」

「あ、通信用のイヤリングだね!わかった、私がつけとくよ!」

「お願いしますね。では、行ってきます!」

 

麟さんがイヤリングを外してカナさんに手渡して、妹紅さんと一緒に外へ出て行きます。これで、豹さんの怪我は一安心でしょう。

 

「それじゃ、椛さんから豹のお話を聞かせてちょうだい!」

「はい、私にもカナさんたちの状況を教えて下さい。

何か大きな動きが起きてしまう前に共有するために、まずはお互いに…「―――いいえ、もう動いてしまっています…!

ご主人様が、夢子さんとユキさんと一緒に人里の方へ向かっています!」

「え!?さっき今日はもう待機するって言ってたよね!?」

「…人里ですかー?

 もしかしたら、あのお寺に向かっているのではないでしょうか?」

「「「あっ!」」」

 

リリーの予想に思わず声が出てしまいました。たった今上海がアリスさんたちの動きを察知したように、アリスさんたちであれば豹さんが脱出したことは把握できていなくても、勇儀様や茨華仙様のような―――強大な力を持つ皆様が命蓮寺近くに集まり、分散したことは把握できていてもおかしくない…!

 

「でも、それならむしろラッキーじゃない?豹がもう離れた後だから、情報はともかく豹の足取りは追えないよね?」

「そうですね…少なくとも麟さんの家とは方向が違うので、ご主人様も夢子さんもユキさんも豹さんの位置は把握できていないということです」

「そうでしたら、今のうちにカナさんと上海さんは椛さんのお話を聞いてもらった方がいいと思うのですよー」

「リリーの言う通りですね。ですがいつ事態が動いてもおかしくないのはアリスさんたちが身をもって示してくれています。私もカナさんも要約して簡潔にまとめましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、閻魔様も勇儀を止めることは出来ないと?」

「止められるのであれば直接地底へ向かっています。

 …ですが、茨華仙でも不可能ですか。頭を抱えたくなりますね」

 

小町を追って私の元へ向かっていた茨華仙と合流し、星熊勇儀を沈静させる手段を尋ねてみましたが…私の元へ向かっていた理由はお互いに全く同じ。あの直情径行な鬼の四天王の怒りを鎮めるのがどれだけ困難なのかをあらためて理解することになっただけでした。

 

「ですがここで立ち止まっていても何も変わりません。まずは地底に向かいますよ、茨華仙」

「そうですね。私に仙界に飛び込むルートを用意しろと言って来た以上、勇儀達だけで仙界へ侵入することは出来ないはずです」

「…いや四季様?久侘歌なら仙界に繋げられるんじゃないですかね?」

「「あ」」

「仙人も閻魔も今思い出したのですか?

…急いだほうがいいってことですね」

「…心配は無用です。久侘歌が私の指示を待たずに独断で仙界に侵攻することは無い」

「そ、そうね。久侘歌なら引き留めてくれているはず」

 

地獄関所の番頭である久侘歌は、ある程度は空間に干渉できる…小町に言われて思い出すとは。私も少々余裕を無くしているようですね。地獄の裁判長らしからぬ心の乱れです。気を引き締めなければ。

 

「では、小町と…秦こころ。地底に向かいますよ」

「―――って、玄?

すみません閻魔様、霊夢の助けとなっていた亀が私の屋敷に向かっています。何かあったのかもしれませんので、先行してもらえますか?」

「む、博麗の巫女も動き始めたということですか?

放置するべきではないでしょう。私も話を聞きます…小町、こころを連れて地底に先行しなさい。星熊勇儀を止めろとは言いませんが、久侘歌と協調して足手まといになる地底の妖怪を振り分けるぐらいはやれますね?」

「流石のあたいも真剣になるべき案件みたいですからねえ。手の限りは尽くしときますよ。

そいじゃこころ、付いて来な」

「うむ!」

 

小町がやる気になっているのは珍しいですね。どうやら豹の危険視すべき空間魔法(ちから)を目の当たりにしたのが大きいのでしょう。即座に小町を参加させた久侘歌の判断は正解だったようです。

 

「こちらです。時間に余裕は無いようですし、急ぎましょう」

「はい」

 

 

 

―――そうして茨華仙と共に雪の夜空を飛び、博麗の巫女がかつて飛行するために飼っていた亀、玄と合流し聞かされたのは。

 

「天界から魔界に帰った悪魔たち、ですか」

「これを隠岐奈様にお伝えしてほしいとのことですぞ。流石の魅魔様でも、後戸の国へは侵入できない様でしてな」

「ありがとう玄。この情報、たしかに受け取ったわ」

「それでは失礼しますぞ。茨華仙様も閻魔様も、どうかご主人様を頼みます」

 

伝えるべき情報を伝えた玄はそのまま博麗神社へ帰って行きました。博麗の巫女に理不尽な扱いを受けていたはずですが、今でも忠誠を誓う主として見ているのですね。このような部下は得難いもの…博麗の巫女がそれを早く理解してくれるとよいのですが。

 

「魔界に帰ったということは、目的を果たしたということですよね?」

「そうなるでしょう。ですが、今日八雲の屋敷で話した魔界人…夢子とユキ以外に魔界の住人が幻想郷に侵入しているとは一言も話していません」

「ええ、伏せていたという可能性もありますが…彼女たちも全面戦争を避けようと動いていることに嘘があったとは思えません。ですから、可能性として高そうなのは―――」

「魔界神・神綺に従うことを良しとしない、敵対派閥の手の者ですか」

 

我々の予測より、状況は悪いようですね。これは地底と仙界の内乱など、起こしてしまうわけにはいきません。

魔界の住人は、天界にすら幻想郷への侵入口を開くことが出来る。人里の重要性が露見してしまえば、魔界によって幻想郷は簡単に滅び去りかねないということを…あらためて突き付けられたわけです。豹なる者を確保するまでは、魔界からの侵入者を徹底的に警戒するべき。幻想郷内部での争いに人員を割く余裕など無い。

 

「そうなると問題は、隠岐奈の目的―――幻想郷と魔界の現状維持よりも、豹の排除を優先しようとしている。直接彼に逃げられたことで、私も豹の危険性は理解できましたが…ユキと夢子を見る限りその行動自体が魔界に不信感を与えてしまう」

「ですが、私はこうなった以上豹の処遇は摩多羅隠岐奈の方針に賛成です。地上に失望し地底で燻っていた星熊勇儀に、地上の勢力に攻撃を仕掛けるだけの熱量を取り戻させた…生半可な人妖では不可能なことを彼は一日で成したのです。

豹には地上と地底の相互不干渉を反故にさせるだけの影響力…いえ、この場合は人望と呼ぶ方が適切でしょうか。それを持ち合わせているだけで幻想郷にとって危険すぎる爆弾のようなもの。幻想郷と魔界双方の維持のためにも、豹は幻想郷から去るべきでしょう」

「閻魔様はそう白黒つけてしまいますか…

わかりました。それならば私が隠岐奈にこれを伝えてきますので、閻魔様は地底に急いでください。勇儀は豹を魔界に返すことに関して、断固拒否の姿勢ですから」

「…仕方ありませんか。

いいでしょう、ですがそう簡単に止まる星熊勇儀ではありません。茨華仙も早急に地底に来るように」

「あまり期待はしないでください。こうなった以上、私が隠岐奈から少しでも多くの情報を引き出す必要がありますので」

 

そう返して茨華仙は空間に干渉し、後戸の国へ向かいました。

まったく…八雲紫も摩多羅隠岐奈も幻想郷の管理者として独断専行が過ぎます。もっとも、魔界神を必要以上に警戒し傍観に徹する者よりは評価できますが。

 

―――まずは、星熊勇儀率いる地底を止めましょう。全てはそれからです。




次の更新も明日します。
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