寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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主人公によるなが~い過去語り。独自設定の塊とも言います。

ようやくここまで書くことができましたので、タグを大幅に追加しています。メインどころのキャラ達です。


第18話 哀しき少女のむかしばなし

「吸血鬼異変ですか。大騒ぎになりましたけれど、私たちは一時的に幻想郷から離れてた時期なんです。幻月さんのご厚意で魔界に渡らせていただいて…成果は上がらなかったのですが。巻き込まれなくて幸運だったと言えますけれど、その分詳しいことは全然知らないんです」

「同族だから気になってはいたんですけどねー。一度紅魔館?に行ってみたんですけど、門番がメイドにナイフでハリネズミにされてるところに鉢合わせちゃって…さすがに入る気になれなくて帰ってきちゃったんですよ」

 

…お仕置きが相変わらず容赦ないな。まあ、今はこっちの話だ。

 

「あの異変は幻想郷に多大な影響を与えたが、裏でも面倒な事態が起きていた。気力を失った妖怪をレミリアが怒涛の勢いで糾合したことで紫さんたち管理者も動くことになったわけだが…いくら気力を失ってたとはいえ、新参、それも異国から幻想入りした吸血鬼に多くの妖怪が従う。これを面白く感じない連中もいた。

まあそいつらは紫さんに『弱体化した分際で時流を受け入れることすらできない役立たず』と評されたが」

「流石は妖怪の賢者、切り捨てるべき相手には辛辣ですね」

「ああ。実際奴らはもう妖怪として死んだも同然だ。レミリアに従うという形で時勢の変化を受け入れた妖怪たちは、新たな決闘方法を定められた幻想郷においても【敗者】という過去を持てたんだ。それゆえに人々からは恐れられることができた…機会があれば、その牙を剥いて襲い掛かってくる存在として。

だが新参のレミリアに従うことを拒み、管理者側に付くこともしなかった妖怪は、吸血鬼異変の裏で無様に壊滅した。敗者にすらなれなかった役立たず共は、人から恐れられる数少ないチャンスを逃してさらに弱体化したのさ」

 

―――歴史において、敗者も必要な役割だ。

誰の言葉だったか…真実であり、救いであり、悔悟でもあるのだろう。

 

「裏で企てられていた計画を簡単に言えば、大妖怪や賢者が直接レミリアを叩くタイミングで人里を狙う…だ。その首謀者が小賢しい魔法使いだった。そのために役立たず共を扇動し、集結することには成功したが―――紫さんは奴が動くだろうことも見抜いてた。見事に掌の上で転がされてたわけだ」

「人里を狙うって…小賢しいどころかバカじゃないのそいつ」

「その通りだ。まあ、奴は元々人間だったらしいから幻想郷において人里がどれだけ重要なのか理解してなかったんだろう」

「…あら?幻想郷において人間が妖怪になるのは処断の対象ではなかったでしょうか」

 

エリーがそれを知っているとはな。伊達にフラワーマスターほどの大妖怪に仕えているわけではない、か。

 

「正確には幻想郷に入ってきた時にはすでに魔法使いになっていた男だ。今となっては名前を覚えているのは、俺以外に何人いるか…藍ですら忘れかけていたからな。

 

―――与長守定。元はキリシタン武士・明石全登の部下で、宣教師とのつながりから西洋魔術に傾倒し魔法使いになったらしいが…詳しくは知らない。だが、当時の下級武士が西洋魔術の知識を得て魔法使いになったなど普通は信じられん。つまり、魔法使いとしての才能は間違いなくあった。

その才をロクでもない使い方をした挙句、自分だけこの世から消え去った大馬鹿野郎だ」

 

俺がもう少し早く、麟と知り合えていれば。

麟の悲劇的な運命は、変えられたかもしれない。

それは、ひたすら逃げ続けている俺でさえ後悔するような、何か一手でも違えば避けられた可能性のある残酷な結果。

 

「紫さんたちがレミリアとの死闘を演じてる間に人里を襲おうとした奴らだが、紫さんは人里にも少数精鋭の戦力を配置していた。正確には、情報を与えて何人かに協力を要請してあった。

人里の守護者・上白沢慧音。その友人の妖術師・藤原妹紅。人間屈指の実力を持つ警察官・小兎姫。八雲の隠者と名乗っていた俺。

そして、魔法と紅夢からなる存在・霧雨魔理沙と、麒麟の名を継ぐ風花・冴月麟。

所詮は紫さんに切り捨てられた雑魚の寄り合いだったからな。レミリアが鎮圧されるより先にこっちのカタは付いた。一歩も人里に入り込ませずに撃退したが、その弱さに魔法使いが乗せられてしまった」

「魔理沙って、あの魔法使いさんですよね?」

「そうだ。夢幻館に一番乗りした、博麗神社の悪霊・魅魔の弟子。その実力は二人も知る通りだ。

だが、彼女の若さと、奴の老獪さと、戦闘においての実力差が彼女を最後の最後で落とし穴に嵌らせてしまった」

 

俺は現場に居合わせていないが、何があったのかを聞いて、正確に覚えているのは、もう俺一人。

当事者の魔理沙と麟の記憶にすら残っていない、愚かな魔法使いの最期。

 

「俺は目立つわけにはいかなかったから、旧知の妹紅にこの一帯は任せろとだけ司令官役の慧音に伝えてもらった。今思えば、ここで友軍と顔を合わせておかなかったのが俺のミスだったな…

攻撃魔法が使えない俺でも、弾幕ごっこじゃない肉弾戦なら戦える。無傷とはいかなかったが片っ端から叩き潰してやった。他の面子も問題なく一蹴したんだが…俺たちからするとまだ幼いとさえ言える魔理沙と麟を二人で組ませて迎撃に出したのが失敗で、二人の担当した所に奴がいたのが最大の不運だった。

 

奴の弱さに釣られて魔理沙は深追いしてしまった。麟もそのフォローに向かい、俺はそれを察知して後を追ったが…遅かった。

奴はまだ小娘に過ぎないと思い込んでいた彼女たちに敗れた屈辱と怒りから、おそらくは【己の存在と命】を代償にした強力な呪いを残して忘却の彼方に消え去った。―――それが、麟に纏わりつく、忘却の呪い」

 

優れた魔法使いとしての才能と、研鑽し続けていた魔術技能を。己を超えていった少女たちへの呪詛だけのために使って消滅した腐れ外道。

先達として優秀な後進を喜ぶどころか排除しようとした愚者ごときに麟の運命を狂わされたのは、俺にとって痛恨の極みだった。

 

「忘却の呪い…名前通り、記憶絡みの呪いですかー?麟さんもそれっぽいこと言ってましたし」

「その通りだ。ここからは当事者でない俺の推測になるから、間違いがあるかもしれんが…

まずこの呪いは、魔理沙と麟で及ぼされる害が異なっていてな。魔理沙の被害は麟に比べればだいぶマシだった…おそらく悪霊である魅魔の弟子として長く過ごしたことによって、呪詛に対する耐性が付いていたんだろう。

魔理沙は記憶をそれなりに失ったらしい。俺は彼女と直接会うわけにはいかないから、又聞きの情報しか持っていないが…この異変で彼女に何かが起きたというのは一目瞭然だったそうだ。

 

彼女はこれ以降、白黒の衣服を身に纏う《普通の魔法使い》を名乗るようになった」

 

古くから霧雨魔理沙を知る者は、紅霧異変から彼女が変わったことを知っている。

 

「そういえば、幽香に聞きましたね。巫女も魔法使いもあの頃とは変わったって」

「あ、そーなの?私もたまには幽香に会いに行こうかなあ」

 

そういえば、靈夢が霊夢になったのもあの異変からか。

 

「だが、彼女に及ぼされた影響はその程度だった。今でも異変とあらば首を突っ込みに行くぐらい、当時と変わらない…霧雨魔理沙のままだ。

しかし、麟は全てを失うことになった。受け持つはずだった役目どころか、過ごしてきた時間までもな…

 

麟に及ぼされた害は、冴月麟という存在の忘却だ」

 

それは、彼女が孤独を強いられる元凶。

 

「魔理沙への呪いは自身の記憶に影響を及ぼしたのに対し、麟への呪いは他者の記憶に影響を与える。

麟に纏わりつく呪いは、本人ではなく麟に近付く相手に作用する。麟に近付く者は、麟の存在を忘れていく…俺のような特殊な能力持ちか、奴の呪詛すら撥ね退ける大妖怪や神々ぐらいしか、麟を記憶し続けることが出来ない」

 

己の命と存在を引き換えにしたと俺が仮定しているのは、この呪いが二人同時に作用していることからの推測だ。命は奴の死体は残ったことから。存在は事態の収拾を任せた慧音・妹紅・小兎姫でさえ翌日には奴の名前すら忘れていたことから。

おそらく、誰も解呪出来ない呪いだろう。手掛かりになりそうな情報は、奴諸共忘却の彼方だ。

 

「なぜ、豹さんは覚えていられるのでしょうか」

 

エリーの信頼が重い。どうしてここまで簡単に俺を信じられるんだ…?

 

「俺の能力は【他者からの精神的な干渉・影響を受けない】だ。魔法だろうが呪いだろうが固有能力だろうが、肉体に影響しない事象は俺には効かない。自分で言うのもなんだが強過ぎる能力だ。

俺が攻撃魔法を碌に使えないのは、この能力の代償なんだろう。俺が与える立場でも、これだけ強い能力を持たせるなら別の部分に制限を掛けるだろうしな」

「あ―なるほど…敵対する可能性を考えるとバランス取りますよね。豹さんに対する疑問が一つ解けました」

 

―――バランスを取った神綺様の判断は正しかった。深入りされたくない俺の能力を、麟の話の中で軽く流せるのは俺にとっては助かったな…

 

「麟は人里の楽器職人の一人娘だったそうだが、母親が病で倒れた際に麒麟の加護を授かったそうだ。慧音に調べてもらったが、彼女の母系の女性に代々受け継がれていた加護らしい。父親もそれを知っていたそうで、人里に立ち寄ることのある実力者に麟を鍛えてもらっていた。先程話した慧音・妹紅・小兎姫のほかに、茨華仙や藍も手ほどきしたことがあるはず。人里を守る人間として、期待されていたんだ。

それほどの実力者すら、麟の事を完全に記憶していられなくなってしまっている。俺の知る限り、今も麟を記憶し続けていられる相手は俺含め5人だけ…父親や師である猛者たちでさえも、麟との記憶を失ってしまっている」

「親にすら、ですか。あんな少女に向けるべき呪いじゃないですね…!」

 

エリーの言葉に怒りが滲む。死神とは思えないぐらい優しいな…俺の巻き添えで苦しめないようにしないとな。

 

「そうして人里に居場所を失った麟は、俺と同じく紫さんに利用価値を認められて普段は隠棲している。博麗の巫女が動かせない時に事態の鎮静に当たる《八雲の隠者》としてな。紫さん、慧音、そして稗田阿求によりその名前だけは人里にも残されているが、知ってもいつしか忘れられてしまうらしい…その結果、能力的に忘れることが無く人付き合いを極力避けている俺に対して依存するようになってしまった。ここに逃げてきた通り、俺もいつこの世から消されてもおかしくないのにな…

それに耐えられないことを麟自身が理解しているからこそ、即座に俺を追ってきたんだろう」

 

孤独に耐えられない隠者同士の不毛な傷の嘗め合いだ。親しくなればなるほど絶望の離別が待っているのに、刹那の寂しさを埋めるため交友を深めてしまう。

…俺からもっと麟を拒絶するべきだったんだろうな。

 

「だからエリーとくるみには明日また麟の事を聞く。麟はある程度俺の方でフォローしてやらないと、取り返しのつかない暴走をしそうでな…それを止めるためにも、麟の事を憶えていられたなら力を貸してほしい。頼めるか?」

「任せてください!…覚えていられるかわからないので期待外れになるかもしれませんが」

「もちろん、出来る限りの手を尽くします。それぐらいの恩を、豹さんはすでに私たちに与えてくれてますから」

 

まったく…二人とも人が好すぎる。妖怪なのにな。

 

「ありがとな」

 

 

 

―――――麟を守護する麒麟よ。どうか、麟の友が増えるよう…その力を貸してくれ。

 

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