寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

182 / 289
有休消化が終わりましたので、来週からは火・木・土の週3更新に戻ります。

そして、評価していただいた読者様が50人に乗ったことで評価バーが埋まりました!
とても高く評価していただいて感激です。完結まで頑張りますので、引き続きこの作品にお付き合い頂けると嬉しいです。


第182話 次なる指示は既に遅く

「ありがとうな、妹紅。

 それじゃさっそく悪いが…細かい話をさせてくれ」

 

俺の反逆者としての意地であり、カタマサと会季への義理。俺の中でこれにケリをつけない限り、魔界に帰るという選択は選べない。ユキや神綺様が、俺を処刑する覚悟を決められないのなら猶更だ。

 

俺自身が、カタマサと会季への義理は果たしたと納得しなければ…俺は神綺様だけじゃなく、カタマサと会季をも裏切ったことになるのだ。

俺はそこまで最低なゲスに堕ちたくない。今のままでユキや神綺様の優しさに甘え、俺一人のうのうと生き延びては…俺を信じて散った皆の献身に、意味が無くなってしまうのだから。

 

「うん、それで私は何をすればいいの?」

「まず妹紅に聞きたいんだが、守矢の風祝と永遠亭の玉兎が妖怪の山で行動を共にしている。これに関して何か知らないか?」

「えっ…!?それはとてもまずいですよね!?」

「…しまったな、リリーを送る前に永遠亭の様子を見るべきだったか…!」

 

どうやらあの動きは俺しか把握できてなかったようだな…となると動向を注視する必要があるか。

だが、先に確認すべきは…

 

「永遠亭に動きがあったのは確認できてるのか?」

「ああ、星が私の家にリリーを連れて来た少し前に永遠亭に向かってたのが4人もいてさ。この雪の中迷わず迷いの竹林を進んでたから一人は鈴仙ちゃんで、残り3人を案内してたんだろうけど。後で誰を連れてったのか聞こうとは思ってたんだが…豹の隠れ家に向かうのを優先しちゃったからね」

「それは、その3人の中に守矢の風祝がいたってことでしょうか?」

「そうだろうな。俺がリリーを星に任せて命蓮寺を離れたタイミングで、守矢の風祝は人里に向かってきてたのは確認してる。ただこいしを連れてなかったから、そっちを探るために反応を追うのを後回しにしちまったんだ…たぶん、霍青娥が最初に俺と接触したぐらいで誰かしら二人と合流して永遠亭に向かったから俺も見失ってたんだろう。あの邪仙を目の前にして、集中力を欠くのは危険だった…奴が一度引き下がった後は夢殿大祀廟に魔力遮断領域を張るのを優先して、索敵範囲は命蓮寺周辺まで狭めてたからな」

「ごめん豹、私が先に様子を見ておけば…」

「妹紅は悪くない。ただこれで永遠亭は俺の敵として動いてると考えさせてもらうから、妹紅はしばらく家に帰らないで俺の隠れ家に居てくれないか?

明日にでも神綺様が幻想郷に来るのなら…さっきも言ったが俺の隠れ家に来るタイミングで椛とリリーを神綺様と引き合わせて、魔界で保護してもらうつもりでいる。それまで椛とリリーを隠れ家で護衛してもらいたいんだ」

 

麟たちがまさか夢幻世界経由で魔界に向かい、サリエル様どころか神綺様とまで話をしてきているなんて思いもしなかった。俺が妖怪の山と夢殿大祀廟でやらかしてる間に、麟たちは俺にとってこの上ない情報を集めて来てくれたわけだ。

 

その情報からすれば…俺が離れているタイミングで神綺様を隠れ家と夢幻館に誘導できれば逃げ切れる。サリエル様と夢幻姉妹、妹紅を中心に応戦してもらえれば幻想郷相手でも魔界相手でもそう遅れは取らない。

つまり時間稼ぎしてもらっている間に俺一人で逃走し、もう一つの潜伏先に移動を繰り返せばいいだけだ。

 

ユキと神綺様に夢子…あともう一人ルビーかサラを加えた4名が管理者に干渉されないギリギリの人数だろう。そこにアリスを加えた5人だけでは、俺を発見することは出来ても確保までは出来ない…何故なら二手に分かれると戦力が足りなくなるはずだからだ。サリエル様・妹紅・幻月・夢月ならユキ・神綺様・夢子・アリスを一対一で抑えられる。つまりこの4名に分散して待機してもらえれば、隠れ家のカナと上海・夢幻館のエリーとくるみを加えることで増援…ルナサや雛の到着まで十分持ち堪えられる。俺が真っ先に逃げ出してもだ。

 

ユキたちがこれを先読みし脱出先に先回りしようとしても、4人多くても5人では分散したところで各個撃破されるだけだ。例外になる分散の仕方として、神綺様単独と残り4人で分かれられると押し込まれる可能性もあるが…今の状況で夢子が神綺様の単独行動を許すことは無い。何故なら幻想郷には神綺様であろうと何の躊躇いも無く喧嘩を売ってくるようなのが多数いるからだ。そこを考えればこの形での訪問を考慮して動く必要は無い―――その可能性を俺の頭の片隅に入れておく程度でいいだろう。

 

それならば、俺に力を貸してくれている皆に指示すべきは戦力の集中。俺の隠れ家と夢幻館に戦力を集中させれば、ユキたち魔界だけでなく幻想郷内で俺を排除しようとしている面々への対策にもなる。要するに襲撃されても撃退できれば問題ないのだから。

 

「ああ、私もそのつもりだった。だけどリリーを私のとこまで連れて来てくれた星が、魔界神と話をしたらその結果を私にも教えに来てくれるって言ってる。その場合は私の家に来てくれって言っちゃったけど、どうする?」

「そうか…星もなんで初対面だった俺に手を貸してくれる気になったんだか」

 

思わずそう言葉を漏らすと、妹紅と麟が視線を合わせてため息をついていた。なんだその反応。

 

「本当に豹はさ…

今さら言っても遅いんだけど、一人で逃げるつもりなら不用意に兄視点で振舞うの止めな?特に人外相手には。

私もそうだけど、長く生きてる奴らほど年下扱いに慣れてない。だから豹がいつも通り年長者として振舞うだけでも、頼るなり甘えるなりしたくなるもんだからね?」

「耳が痛いな…ここ数日で似たようなことを何回も言われたよ」

「豹さん?何回も言われてるのなら、せめて神綺様たちから逃げ切るまでは自重してください」

「麟の言う通りだよ豹。逃げるためには切り捨てることも必要だからね?」

「わかってる、だがこれを治す気は無い。

…兄として振舞い続けることは、俺がただ一つだけずっと貫けてることだからな。曲げるわけにはいかない」

「やれやれ…ま、それに甘えてた私が何を言うって話か」

「そうですね…私も人のことを言えないです」

「そうしてくれ。悪いが話を戻すぞ」

 

いい加減、妹紅と麟がここに留まり続けているのも不自然になるぐらいの時間は経っている。話をそろそろ終わらせないとな。

 

「神綺様が幻想郷に到着したことは、上海が確実に把握できるはずだ。だから上海に神綺様の動きを追ってもらって、命蓮寺との会談を終えて離れたら一度家に帰ってもらうぐらいしかないだろうな。問題は、そのタイミングで隠れ家を襲撃されることだが…麟の家を一時避難先として使ってもいいか?」

「はい、どうぞ豹さんのために使ってください」

「ありがとな麟。それじゃ妹紅が帰るのと同時に隠れ家に残る面々も麟の家に向かってもらって、違和感が無いように何人かは人里まで買い出しに出る。妹紅が隠れ家に戻るのと同時に皆も隠れ家に戻る…これで頼む」

「わかった。私と麟は豹の家で待機ってことね。

それで、豹はこれからどこに行くの?」

「無名の丘の鈴蘭畑を越えた先にある小屋で雪を凌ぎつつ状況の把握に専念して、日付が変わるぐらいに通信具(イヤリング)で明日どこに集まるかを伝える…って。麟、イヤリングは誰に渡してきた?」

「カナさんです。治療に時間がかかる場合は、私は豹さんに付いていくつもりでしたので」

「気を使ってくれたのか、助かる。

だがその心配はいらなかったみたいだな。相変わらず麒麟の加護は凄まじいぜ」

 

話を進めながらも麟が麒麟の加護を俺に向け続えてくれたおかげで、右手は元の形に戻っている。もっとも中の損傷が完全に治っているわけではないので、しばらく右手で打撃を行うことは避ける必要はあるが。

 

「私はこれぐらいしか豹さんの役に立てませんので…」

「そんなことは無い、この逃亡生活で麟にはずっと助けられてるよ」

「ふふ、そう言ってもらえると救われます」

「そういえば麟、負担は大丈夫なのか?」

「はい、豹さんが麒麟について、守護される側として感謝を伝える方法や儀式を調べてくれたんです。それを色々試してみたことで、麒麟もあらためて私を認めてくれたみたいです。この癒しの力を使うことによる負担は、体の一部ぐらいならそれほど負担にならなくなりました。

さすがに、行使する箇所が多いとそうもいかないのですけれど」

「へえ…相変わらず博識だね豹は」

「俺だけの力じゃない、紫さんや藍の協力のおかげだ。

だが、そろそろ誤魔化すのも厳しい時間だろう。麟、後は自分で回復魔法をかけてなるべく固定しておく」

「わかりました。でも、重ね重ね言わせてください。

 もうこんな大怪我しないでくださいね!」

「約束は出来ないが、努力はする」

「もう…仕方ないのはわかっていますけど」

 

 

そう返して麟が癒しの力を止める。しばらくまた、お別れだ。

 

「それじゃ、当面は隠れ家で待機していてくれ。遅くとも日付が変わるぐらいには俺が指示を出す。

余裕があれば、交替で仮眠だけでも取っておいてくれ」

「うん、任せて。豹も十分気を付けなよ?」

「麟に治療してもらったばかりだぞ?流石の俺でも慎重に動くさ。

妹紅、麟。皆を頼む…できれば、分散してるルナサとメルラン・リリカの動向は気にしておいてくれ」

「はい!皆さん大切な仲間ですので!

 豹さんも、お気をつけて!」

 

そう笑顔で返して、麟が妹紅と共に飛び立つ。

麟がこの笑顔をずっと続けられるように、俺も動かないとな。

 

 

 

―――もうとっくに手遅れだったのに気付くのは…そう遠い話じゃなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

雪の降りしきる夜空を命蓮寺に向けて飛ぶ。相変わらず早苗と鈴仙は行動を共にしているようだけれど、私たちから接触しに向かうわけにもいかない。二柱の片割れは守矢神社に戻っているから、派手に動くことはないとは思うのだけど…

 

「やっぱり早苗と鈴仙ってのが気になるの?」

「そうね…二人とも霊夢や魔理沙と同じように、異変の解決者として動いたこともある実力者。

それに守矢神社と永遠亭に繋がりなんてないはずなのよ。つまり二人が組んで動くだけの事態になっているということだわ」

「先輩のことが漏れてしまった可能性も考慮するべきということね。

…八意永琳は先輩の名は把握できていないはずよね?」

「うん、サリエル様に名乗ったのはパンデモニウムに帰還した後だし、月ではわたしが兄さんとしか呼んでないから知らないはず。

ただ、わたしの名前は知られてるから…椛って子が口に出しちゃってると兄さんを意識するかも」

「その可能性があったわね…椛は一度早苗と接触してたのを橙が確認してたと藍が言ってたか」

 

ユキが集中しきれていない私を見抜いて言葉を向けてくる。流石は私の姉を名乗るだけあって、隠し事は出来そうにないわね…

でもそんなことを考えている時間は無い。ここ数日は上海が自立することになったから、動力分の魔力を残せるようにする訓練も兼ねて移動速度は上海に合わせてた。でも今は夢子とユキ…魔界でも有数の実力者だけで移動しているのだからほぼ最高速で飛行している。要するにこの隔離された狭い世界である幻想郷を、広大な魔界を飛び回る私たちの最高速で飛行すれば…私の家から命蓮寺までそれほどの時間はかからない。

 

「ここよ。出来れば住職か星が出て来てくれると話が楽なのだけれど」

 

この夜の時間、それに雪で視界が悪いのだから目撃者を気にする必要がない。だから直接本堂近くに降り立つ…さあ、誰が出てくるかしらね?

 

「………お久しぶりです、夢子さん」

「ええ、久しぶりね聖白蓮。

 少し話を聞かせてもらえるかしら?」

 

出て来たのは住職、聖白蓮。そして、向こうから私ではなく夢子に応えた…!

大当たりのようね。命蓮寺の代表として、魔界と話す気だということなのだから。




次の更新も明日します。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。