「地底と仙界をぶつけるべく、豹さん自ら鬼の四天王に立ち向かった、ですか…」
「うう、リリーが見つかってしまったせいで…」
「リリーはなんにも悪くないよ。そこに関しては靈夢じゃない方の巫女がすごかっただけだし。
でもほんとに豹は無茶するなぁ…それに椛さんとリリーは神綺様に護ってもらえるって当たり前のように言い切ってるし…」
椛さんが話してくれた、リリーを星さんに任せてからの豹の動きは…思ってた以上に大ごとだったわ。でも、結果だけ見れば地底から出て来た妖怪たちの狙いを上手く自分から逸らしてた。そういう意味ではわたしたちにとっても理想的な状況にしてくれてるんだけど…
「やっぱりユキたちと豹を会わせたくはないなぁ。豹は今でも間違いなく魔界を守ろうとしちゃうから…また顔を合わせちゃえば魔界への未練に引き摺られちゃいそう」
「そうでしょうね…なにより神綺様とサリエル様ですら、今の魔界で暮らす
わたしの感想に上海ちゃんもうなずく。魔界から逃げて来てるのに、魔界のことを切り捨てられない。いかにも豹らしいんだけど、このお家に留まってほしいわたしたちからすると困ったところ過ぎるわ。
「それに、椛さんは大丈夫なのですかー?
リリーはどんな状況でも一回休みで済みますが、椛さんは魔界神様が助けてくれる前に見つかってしまったら、大変なことになってしまうと思うのですよー」
「そうですね…私はもう勇儀様に赦して頂けないでしょうし、妖怪の山にも戻れません。ですので次に表に出るような状況になってしまったら…皆さんを逃がすための捨て駒になります。どちらからも逃げ切ることは出来ませんので」
「捨て駒って…!豹はそんなこと望んでないよ椛さん!」
「わかっています。豹さんは私を無事に逃がすために、この隠れ家に潜んで神綺様…魔界神に保護してもらえと言って下さいました。そのご厚意を無にする気はありません。
―――ですが、先に私を狙ってここが襲撃されてしまう可能性はあるんです。
その時に、豹さんが援護に来れないのであれば…私を囮にカナさんたちはルナサさんたちと合流してください。時間稼ぎぐらいはやってみせますし、私は豹さんと二人だけで脱出したという事実があります。勇儀様たちだけでなく、飯綱丸様や幻想郷の管理者でも問答無用で私の首を斬り落とすことは無いでしょう…豹さんの詳しい足取りを知る、唯一の存在と見られているはずですので」
そう口にする椛さんの目は…覚悟を決めた曇りないものだったから。
わたしだけじゃなく上海ちゃんもリリーも、何も言うことができなかった。
「それと私からもう一つ。豹さんから上海に伝えておいてくれと言われたことがあります」
「え、私にでしょうか?」
「はい、私が豹さんから師事させて頂いている、魔眼についてです」
「「「っ!?」」」
その曇りない瞳のまま、椛さんがビックリするようなことを言って来ちゃった…!
椛さんは豹に稽古を付けてもらってたって言ってたけど、そういえばその内容までは聞いてなかったわ。でもまさか、体術じゃなくて魔眼のことだったなんて。
「あ、もしかして…!
神綺様とサリエル様にもこのことをお伝えするということなのでしょうか?」
「はい、豹さんはそうすることで神綺様だけでなく、サリエル様も私を保護してくれるはずと言っていました。私も豹さんの過去を詳しく聞かせてもらったのは昨日が初めてでしたので、豹さんの魔眼が邪視の始祖たる大天使様から頂いた最上位のものだとは知らなかったのですが。
元々は私の千里眼に活かせる技術を伝授するために、豹さんは何度か私の左目に魔眼を同調させてくれていたのですが…そうしているうちに、私の左目は千里眼だけでなく魔眼としての性質も持ち合わせるようになっていました。大天使様の魔眼は何度か同調するだけで、私のような弱い妖怪にすら魔眼の性質を目覚めさせてしまうほどだったのです。
…もっとも、それに気付いたのも私ではなく豹さんだったのですが」
「そういえば、豹と初めて会ったときに『目が合ったと思ったら身動きできなくなった』って言ってたっけ椛さん。豹の魔眼のことは最初から知ってたってことだもんねそれ」
「はい…飯綱丸様や同僚の白狼天狗たちにも隠している私の切り札ですので、あのときは皆様にも伏せたのですが。
サリエル様から頂いた豹さんの魔眼により、新しく目覚めてしまった私の
…お話を聞いた限り、豹さんが与えたものであれば即座に処分せず、私から事情を聞き出すことを優先してくれそうですから」
「神綺様はそんなに心配しなくても、豹さんの助けになってくださっていた椛さんを受け入れてくださいますが…サリエル様がその魔眼をどう扱うのかは予想出来ないですものね…」
「そうなのですかー?みなさんのお話をお聞きしましたが、とっても優しそうな天使様としか思えないのですよー?」
「リリーさんの言う通り、サリエル様はとても優しい方です。ですが魔眼に関してはとても厳しく管理しているように思えるんです。豹さんを襲ったという幽玄魔眼も、元々は持ち主を亡くした魔眼を悪用されないために生み出された使い魔だと聞いています」
「そうだよね~、即死の邪視なんて悪用されちゃうわけにはいかないし」
上海ちゃんが感付いてくれた豹と椛さんの目的は、わたしも納得できるものだったわ。椛さんから先に魔眼を扱っていることを伝えておかないと、優しいサリエル様でも椛さんを警戒しなくちゃいけなくなっちゃう。
それに、幽玄魔眼っていうわたしたちにとって一番問題になる相手がいる。最初から魔眼を持って使役された幽玄魔眼と、まだ魔眼の技術を豹から教えてもらってる途中の椛さんが鉢合わせちゃったら…無事にはすまないわ。
それを避けるためにも、椛さんは神綺様に保護してもらうのが一番安全ってこと。使い魔なのに好き放題してる幽玄魔眼でも、魔界神様を敵に回すことはしないって考えてるんだろうね。
「私はこの魔眼を放棄しろと命じられれば、素直に従います。私には過ぎた力ですから…
ですが、その代わりに豹さんの意思を尊重することを魔界神様とサリエル様にお願いしてみます。私の意見など一蹴されて当然でしょうが、私と同じ気持ちの皆が何人もいるという事実を伝えることにはなりますので」
「…椛さんもすごいですね。最上級の魔眼を手放すことに、何のためらいも無いのでしょうか?」
「私が力を得ることより、豹さんが幻想郷に残ることの方が大切ですから。
これは、上海もカナさんもリリーも同じ考えではないですか?」
「…う、ごめんなさい椛さん。リリーはそう思ってしまうのですよー」
リリーが本音を言葉にしちゃってるけど、この素直さはまぶしいなぁ。
わたしも、椛さんの魔眼より豹がこのお家に留まることの方がずっと大切。でも、わたしじゃこんなすぐに言葉に出せないと思う。
上海ちゃんも同じみたいで、リリーに視線を向けてるしね。
「ごめんね椛さん。わたしもさ…豹を引き留めるために甘えちゃっていいかな?」
「私もです…椛さんのその考えに、頼らせていただいてもいいのでしょうか?」
「そんなに気にしないでください。私はカナさんや上海と違って、豹さんを守れるだけの力がありませんから…この魔眼を使ってもです。
それこそ、私からお願いさせてください。どうか、豹さんをお願いします。先ほど言ったように、ここに強大な相手が襲ってくるようなことがあれば…カナさんと上海はリリーを連れて逃げ延びて、豹さんの力になってあげてください」
「うぅ、足を引っ張ってしまってごめんなさい…
でも、リリーからもお願いするのですよー。力の弱いリリーたちの分まで、豹さんを助けてあげてほしいのですよー」
「うん、任せて!!」
「はい、力を尽くします!!」
さっきは、止めようとして何も言えなくなっちゃったけど。
ここまで言われたら、椛さんの覚悟を無碍にすることなんてできないわ。だからわたしにできることを、精一杯やろう。
それが椛さんのためにも、豹のためにもなるから。
「ありがとうございます。
それと、私から聞いておきたいことが最後にもう一つあります。豹さんが『魔界から幻想郷に帰るルートもある。そのルート上に俺の協力者がいる』と教えてくれたのですが…これは夢幻館のエリーさんとくるみさん、そして夢幻世界の幻月さんと夢月さんのことなのでしょうか?」
「たぶんそうじゃないかな~?わたしたちは実際にそのルートで魔界に行って来たし」
「リィスさんのいらっしゃる幻夢界という可能性もあるのですが…豹さんはまだリィスさんのことを知らないはずですから。おそらくはエリーさん・くるみさん・幻月さん・夢月さんで間違いないと思います。
夢月さんは私たちがこの隠れ家に帰ってくる前に、ルナサさんを連れて雛さんを迎えに行っていただけました。ですので椛さんもリリーさんも受け入れていただけるはずです」
「それにこのお家の位置も覚えてから夢幻館に向かってくれてたから、豹の指示次第では直接ここで椛さんとリリーにも会ってくれるかもしれないわ。
青と白のメイド服を着てる悪魔さんだから、もし私と上海ちゃんがいないときに来ちゃったらそこを目印にしちゃっていいと思う!なるべくわたしはここにいるようにするつもりだけどね」
「メイド服、ですか?紅魔館の従者が着ているような服でしょうか?」
「はい、そうです。私たちから白狼天狗の椛さんと春告精のリリーさんが豹さんに力を貸してくださっていることはお話ししてありますので、名乗ってもらえれば大丈夫です」
「リリーのことまでお話ししてくれたのですかー!?ありがとうなのですよー!」
「当たり前だよリリー!リリーも豹がどう動いてたのかを、ちゃんとわたしたちに教えてくれたでしょ?
もうリリーだって、豹を助けてるんだから」
「そう言ってもらえるとホッとするのですよー。
リリーのせいじゃないってみなさん言ってくれましたが、リリーとしてはそう思えませんでしたので…」
「リリーさん、そう自分を責めてしまうのはあまり良くないですよ。
反省は必要なものですが、前を向いて行動する方がずっと大切なことです」
「…そうですね。上海さん、ありがとうなのですよー」
「上海は本当に人形だなんて思えませんね。どなたからその考え方を教わったのでしょうか?」
「ご主人様と、隠れ家さんからです。
…隠れ家さんは、豹さんから教わったって言うと思いますので…ご主人様と隠れ家さんと豹さんからというのが正確かもしれませんね―――っ!?これは…!」
「ッ!?何かあったの上海ちゃん!?」
椛さんが最後に聞きたいことに答え終えたタイミングで、上海ちゃんが何かに気付いたみたい。
―――それは、豹が一番避けたがっていた状況になりつつあることを…思い知らされる動きだったわ。
「なんで今まで見逃していたのでしょう…!
妖怪の山で、東風谷早苗さんと鈴仙・優曇華院・イナバさんが一緒に動いています!それに、射命丸文さんも私が知らない反応を連れて合流しようとしているようです…!」
「―――っ!?永遠亭の関係者が妖怪の山で行動しているのですか!?」
「射命丸って…雛さんに初めて会いに行った時のパパラッチ!?
もしかして、豹を狙って手を組んじゃったの!?」
「そんな…!
リリーが妹紅さんを呼び戻して来ましょうか!?リリーなら何かあっても…!」
「ダメ!リリーが見つかったら真っ先に狙われちゃうわ!
上海ちゃん、麟さんと妹紅さんの位置はわかる!?」
「人里の北東にいます。たしか、あの辺りにあるのは廃材置き場だったはずですが…!」
「カナさん、落ち着いてください。上海が把握できたのであれば、豹さんも察知しているはずです」
「う、それもそうね」
椛さんの冷静な判断でちょっと落ち着けたわ。やっぱりわたしは全然経験が足りてないなぁ…
「ですが現時点で分散してしまっている私達の中で、一番戦力の薄いメルランさんとリリカさんを狙われてしまうと危険でしょう…お二人はご自宅ですよね?」
「うん、ルナサはまだ帰って来てないんだよね上海ちゃん?」
「はい…」
「上海、その反応が合流したら何処に向かうかをよく見ていてください。この雪だと視界が悪くて私の千里眼はあまり役に立たないので。
もし、メルランさんとリリカさんの所に向かうようでしたら…カナさんと上海で援護に急いで向かってください。その場合は妹紅さんが戻るまで私がリリーを守ります」
「そうするしかないか…!豹の指示が無ければそう動く。上海ちゃんもいいよね?」
「わかりました!私はこれらの反応に集中します!」
豹の指示がないのに動きたくはなかったけど…今のタイミングでメルランとリリカが狙われちゃうのはすごくマズいわ。仕方ないわよね…!
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