和室に通されて聖白蓮たちと向き合って座る。あちらは聖白蓮の他に二ッ岩マミゾウと…舟幽霊の村紗水蜜だったかしら?この三人だけ。
軽く探ってみたけれど、どうやらそれほど遠くない位置―――この寺の地下に3つ反応がある。そのうち一つが星だから、残りの面々は不在のようね。
「こんな時間に悪いわね。もっとも、この時間に出払っているのもいるようだけど」
「そこも含めて私からお話しします。幻想郷に魔界と伝手を持つ方はほとんどいない…豹さんの件を穏便に終わらせるために、私も動きたい。そのためにも、皆様のお話を聞かせていただけませんか?
私も答えられることにはお答えしますので」
「それじゃさっそく聞かせてもらうわ。
豹が、ここに来ていないかしら?」
四日前にここに来た時と違うのはこちらの戦力。ルナサとカナが力不足なんてことは無いけれど、夢子とユキは魔法使いとしての私の師でもある魔界有数の実力者。弾幕ごっこならともかく、戦闘であればルナサとカナより格上。
おまけに命蓮寺の戦力が四日前より少ないのだから、強気に出れる。だからこうやってストレートに切り込めば、争いを好まない聖白蓮なら―――
「はい、お昼過ぎに春告精のリリーをお連れしていらしゃいました。少しお話しして、すぐに立ち去ってしまいましたが…」
「ッ!?兄さんは何処へ向かったの!?」
「…『護るべき者を間違えるな』と、気を使われてしまいまして。
私たちに行き先を告げることなく出て行ってしまいました。ですが、次に向かったのはここ命蓮寺の地下…夢殿大祀廟だったのは確認できています」
「だった?どうして過去形なのかしら」
「そこに逃れたことを察知した方々と、前々から夢殿大祀廟に罠を張っていた者が豹さんを狙ってきてしまったのです。
それらから逃れるため、空間魔法を使って脱出してしまったそうです。これは星が実際に目撃して確認しています」
「…先輩が空間魔法で脱出した、か。
その魔力反応を私が察知できていないということは、異空間もしくは魔力遮断領域が張られた内部に飛んだということね」
「そうだね。こうなると兄さんが脱出に使いそうな場所を知ってそうな…―――ッ!?」
「兄さん、ですか?もしかして貴方は」
「…うん、わたしはユキ。兄さんの妹だよ」
ユキが何かに気付いたようで、言葉が途中で途絶えたのだけど。運がいいことに聖白蓮は兄という存在に気が向いたようね。なら、私がフォローしておこうかしら。
「地下と言ったわね?星たちが向かっているのはそこなのかしら?」
「はい、念のために夢殿大祀廟に何か残されていないかを調査しに向かっていますが…
星と直接お話しいただいた方が良さそうですね。ムラサ、星を呼び戻してそのまま調査に回って」
「嫌ですよ。こんなとんでもない三人相手に、聖が数的不利になる状況を作りたくないです」
「心配しなくても大丈夫です。夢子さんは神綺様の従者にして魔界の運営を取り仕切っている方…今の状況で私と敵対することはありません。魔界に被害が出ないことを前提に動いている方ですので、幻想郷に伝手のある私を敵に回す理由がないのですから」
「その通りよ。理想を言えば先輩を確保するために協力して貰いたいぐらい…それが不可能であっても中立を貫いて貰いたいわ。今の状況で、幻想郷の住人と敵対したくないから」
「むー…
聖、本当に大丈夫なんですね?」
「はい。ですからお願いします」
「仕方ないな…わかりました、それじゃ星を呼んできます」
「安心せい、儂がいる以上星が戻るまでの時間稼ぎなんぞ造作も無いわ」
「頼みますマミゾウさん!」
そう言って舟幽霊が和室を出て行ったわ。
これはつまり、星だけで豹の足取りを追っていたということかしら?そうなると残った二人は地下…夢殿大祀廟での騒ぎには関与していないってことになるわよね。
それなら、先に聞いておくべきは…
「地下の騒ぎは星が戻ってから聞くわ。豹はすぐに立ち去ったと言うけれど、連れて来てたリリーはどうしたのよ?」
「豹さんは『俺単独とリリーを連れてでは逃走難度が桁違い』とおっしゃいまして…私たちが豹さんから話を聞くことの条件として【星がリリーを藤原妹紅さんの元へ送り届ける】ことを求めて来たのです。星はそれを受け入れて、豹さんがここを離れてすぐにこの依頼を果たしました」
「兄さんが名指しでその星って子を指名したの?もしかして交友があったとか?」
「いいえ、豹さんは私たち皆と初対面でした。ですが豹さんはここ命蓮寺の住職を務める私と本尊代理の星、大妖怪の一角に数えられるマミゾウさんのことはある程度知っていたそうです。
私が率先して動くと幻想郷の有力者に疑念を与えてしまい、マミゾウさんは八雲藍と親しい豹さんからすると信用し切れない―――消去法でもあったのでしょうが、毘沙門天様の代理を問題なく務めている星ならリリーを任せられると豹さんは判断したのでしょう」
つまり豹が《星なら余計な真似はしない》と判断したということね。たしかに一度しか会話したことのない私でも、二ッ岩マミゾウと星なら星に頼むでしょう。聖白蓮が動いても問題が無いのであれば彼女でも良かったのでしょうけれど。
そしてユキも会話に戻って来たわ。これなら聖白蓮は誤魔化せそうね…となると口を挟まないで情報だけ抜き取ろうとしてる化け狸の方が問題か。
「成程ね、綺麗に繋がったわ。先輩はリリーという妖精を連れてここに脱出し、貴方達に彼女を預けてここの地下…夢殿大祀廟と言ったかしら?そこに潜伏しようとした」
「でもわたしたちとは別に兄さんを追いかけてる幻想郷の奴ら…アリスは星熊勇儀って言ってたっけ?そいつらにここの地下に向かったのがバレちゃったから、また空間魔法でわたしたちが反応を拾えない位置に脱出した」
「そして、その騒ぎの間に星が送り届けたリリーは藤原妹紅を豹の隠れ家へ案内した、ね。
でも、肝心の豹の行方は誰も知らない…か」
「はい、そうなんです…
ですが、星が夢殿大祀廟へ向かった際に、夢子さんたちとは別に豹さんを追っていた方々とお話が出来ています。そのお話だと、豹さんは犬走椛という白狼天狗の協力により二人一緒に脱出したそうなんです」
「え、椛と?」
「その子って、ルイズに兄さんのことをいろいろ教えてくれた子だよね?」
「それなら、その子を探査魔法で見つければ先輩の行き先を知れるということね。
アリス、リリーは弱体化した妖精だから探れないって言ってたけれど…その椛は見つけられるの?」
「今探してるけど…駄目ね、見つからないわ。でも普段であれば椛の反応は拾えてるから可能性は二つ。
豹と椛は空間魔法の魔力反応すら隠せる遮断領域内、それかスキマのような異空間に脱出したままそこから動いていない。もしくは豹が椛にも魔力反応を隠す魔法を行使して隠している。このどちらかでしょうね」
次に探すべき相手は特定できたわね。それに椛はある意味リリー以上に単独行動させ辛い存在…リリーは力が弱いからこそ探知・索敵魔法で見つけるのが難しい上に、一回休みで復活することを前提にしてしまえば単独行動させることも選択肢に入って来るわ。
でも椛はそうもいかない。戦闘力はリリーより数段上ではあるけれど、幻想郷の実力者を相手にして逃げ切れるレベルには達していない。もちろん一回休みで復活なんてできないから、妹分に甘過ぎる豹が単独行動させる可能性は低い…つまり椛を連れて逃走するか、空間魔法で椛を安全な場所へ送るかでしょう。もし単独行動させるのであれば、隠形魔法を椛に行使して近くにいる協力者に合流させるぐらいかしら。
「それじゃ、アリスには椛って子を探知するのを優先してもらった方が良いかな?
白蓮、だっけ?あなたが聞きたいことはアリスじゃなきゃ答えられないことだったりする?」
「いいえ、私が詳しく聞きたいのはむしろユキさんと夢子さんから見た豹さんのことです。
直接お会いして、少しお話しさせていただいたことで…ますます豹さんが反逆者となり逃亡したということがわからなくなってしまいました。ですので、魔界から見た豹さんのことを聞かせていただきたいのです」
「まあ、先輩と直接話したのであればそうなってしまうわよね。
いいでしょう、答えられる範囲のことは答えてあげるわ。ただし、魔界の重要機密に関わる点は伏せるわよ?そこは納得してもらうわ」
「はい、それで構いません」
「わかった。そしたらさ、アリスは妖怪の山の気になる反応を探知するのに集中しちゃっていいよ。星って子が戻って来たら、もう一度全員で話す方が効率がいいわ」
「そうね…どうせ索敵魔法に集中すれば星が戻って来るのを私が察知できるし、そうさせてもらうわ」
聖白蓮への豹の説明はユキと夢子に任せてしまいましょう。探査・索敵魔法を広範囲に展開しても、夢子とユキは幻想郷の実力者と面識がない方が多い…要するに強い反応を拾えてもそれが敵か味方かの判別が付かない以上、魔力反応だけで動きを把握できるのは私だけなのだから。今のうちに妖怪の山以外の反応も拾えるだけ拾っておきましょう。
(―――早苗と鈴仙にもう一人合流してる?それに文も誰か一人連れて早苗たちの方に向かってるわね…これはもう守矢神社含む妖怪の山は永遠亭と協調してると見るべきか。厄介なことになっているのは確定、と。
それに博麗神社に戦力が集中してるのも問題だわ…霊夢に魔理沙、魅魔だけじゃなく伊吹萃香にお騒がせ天人までいるじゃない。これじゃ母さんと合流するまでは私たちは下手に動けないわ…夢子とユキは応戦するだけでもグレーで、私一人であの5人を押さえるのは流石に厳しい。私たちが騒ぎを起こしたと霊夢たちが判断して向かって来られるとどうしようもなくなる)
それこそ藍が言っていたように霊夢と早苗を上手くぶつけたいわね。それが不可能でもこの二人に手を組まれるのはどうにかして避けないと…
霊夢・魔理沙・魅魔・萃香に早苗・鈴仙・文。さらにお騒がせ天人まで加えたこの8人に組まれると、母さんと合流しても単純に倍の人数を相手取ることになる。その上で八意永琳や摩多羅隠岐奈とやらの暗躍を凌ぐのは難しいでしょう。
そうなると、早苗が動いたことを霊夢が把握できれば上手くぶつかってくれるかもしれない。霊夢も魔理沙も大人しくしてる気は無いみたいだから、誰かしら都合のいいのに博麗神社へ情報を流しに向かってもらえば早苗を霊夢たちで押さえてくれるかもしれないか。
(とは言っても命蓮寺の面々がこれに協力してくれるとは思えない。誰か適任と接触できればいいのだけれど…
そういえば、妹紅はあんなところで何を…?たしかあの辺りは廃材置き場。それにもう一つ魔力反応があるけれど、覚えがないわね―――って、隠れ家に揃って戻り始めた。上海とカナは隠れ家から動いていないし、カナが廃材置き場から調達して欲しい資材でもあったのかしら?
後は…ルナサはまだ夢幻館。雛とエリーにくるみはいるけど、夢月はいない…?別行動してる幻月を迎えに行ったってことかしら。まあエリーとくるみが残ってるなら、夢幻館から動かない限りルナサは心配ないはず。となると…早苗たちが強硬手段を取って来るならメルランとリリカのいるプリズムリバー邸か)
私たちにとっての理想は…幻想郷の住民同士での異変として、霊夢と魔理沙が早苗たちを止める方向に動かすこと。
となると、メルランとリリカに囮になってもらい早苗たちを釣って、それを確認したら博麗神社の霊夢たちに情報を流して潰し合ってもらう。その混乱に乗じてメルランとリリカも脱出できればベスト。
そう動くには、博麗神社に向かってもらう協力者が欲しいところだけれど…
(…でも時間切れね。星が戻って来る…まずは夢殿大祀廟で何があったのかを聞かせてもらいましょうか)
夢子とユキが聖白蓮にどこまで話すかは関係ない。今優先すべきは豹の過去じゃなくて、今の豹。先にこの寺の地下で何があって、これから命蓮寺はどうするのかを…星に聞かせてもらいましょう。