(クッ、もう少し早く連中が動いてれば…!)
妹紅と麟を隠れ家に帰し、俺も無名の丘の小屋へ向かう途中。妖怪の山で動いていた守矢の風祝と永遠亭の玉兎が河城にとりを連れ出した後に、射命丸が一つ反応を引き連れ…おそらく位置からすると山童の合流した計5名がプリズムリバー邸に向かっているのをキャッチした。ルナサが夢幻館から戻っていない以上、メルランとリリカだけじゃ抑えきれない数…!永遠亭の玉兎を注視し過ぎて、妖怪の山を動いてもおかしくない射命丸を警戒せずにいたのが失策。あのフットワークの軽いブン屋天狗の素行のせいで、飯綱丸の指揮下で射命丸も動いている可能性を忘れていた…!
倍の数を揃えたことで、幻想郷最速の射命丸が先行している―――メルランとリリカが分散して逃げようが、後続が更に分かれて確実に片方は押さえる腹積もりだ。射命丸なら足止めを喰らっても速度差で追い付けるからこそ、単独で先行してメルランとリリカの出方を見る…つまり、ルナサの不在を確信した上で狙って来たと考えるべき。皆の動きはほとんど把握されてるってことだ。
(雪で衣類を濡らすのを嫌ってほぼ全速力で飛んだのがミスだった!ここからじゃ射命丸の方が早い。メルランとリリカを逃がすためだけに、俺が永遠亭に姿を曝すわけには…!)
射命丸には及ばないとはいえ、俺もスピードにはかなり自信がある。空間魔法に頼らず接近戦に持ち込むには必須な要素であり、隔離されている幻想郷とは比べ物にならない広大さを持つ魔界を飛び回る必要もあったのだ。最高速では射命丸の方が上だろうが、高速での肉弾戦における小回りや高速長距離移動する際の持久性では俺の方が上だという自負はある。
そしてこの夜に降り積もる雪…飛行時間を短くする方が発見される可能性は低いと踏んで猛スピードで動けばこれである。隠形魔法はあくまで俺の姿を隠すもの、俺の身に当たる雨や雪までは隠せない。つまり悪天候では隠形魔法を視認で見破られる可能性は普通にあるのだ。魔力を封じて活動しているのが普通になっている俺からすれば、探知・索敵魔法より千里眼持ちの相手の方が警戒すべき相手となる理由…実際、椛には発見されているのだしな。
要するに、俺はすでに無名の丘の鈴蘭畑上空まで移動してしまっている。廃材置き場からであれば俺が先にプリズムリバー邸に到着し、メルランとリリカを空間魔法で救出するという手も使えたのだが…射命丸の方が先に着いちまう以上、何の痕跡も残さずに救出するのは不可能だ。隠形魔法を行使しようと、空間魔法を行使することによる魔力反応までは消せない。その反応付近に乱射されれば姿を隠しても位置を特定されるだろう。オマケにユキと夢子に魔力反応を拾われるのも確定だ―――あまりにもリスクがデカすぎる。
(だが、メルランとリリカを見捨てるわけにもいかねえ…!)
そして、この反応を察知した俺は次の行動を迷い足を止めてしまった。
次の目的地で休息を取る場合、接触しておくか迷っていた相手が付近にいたことを把握していたのにも関わらずにだ。視認で発見される危険性を潰すために高速飛行してきたのに、足を止めることで視認されるという大ポカをかましたわけだ。
「………??
誰かそこにいるのかしら?」
「ッ!?」
平和ボケもここまで来たか…!俺に降り積もる雪に違和感を覚えた少女が、
だが、逆にこれで頭が冷えた。彼女―――メディスン・メランコリーをどうにかして協力者に加え、救援に向かってもらう…!相当に難しい交渉だが、こうなった以上やらないとな!
「見つけられた以上、姿を隠しても意味が無いか。
…俺は逃亡中でな。見逃してもらえると助かるんだが」
「…人間?でもどこか違う。
これは…アリスに似てる?」
隠形魔法を解除してメディスンに姿を見せると、俺がここにいることに感付いていた彼女は驚くこともなく俺を観察し始めた。
しかし、アリスとメディスンに面識があったとはな。軽く情報を流してもらった限りじゃ、メディスンがアリスを受け入れるとは思えなかったが…いや、それこそ一昨日上海が交戦したのがメディスンだった可能性があるか。位置的にも不自然ではない、そうだとすれば上海の状態を知っている可能性があるか?
そう考えをまとめていると、メディスンの方から一歩踏み込んだ質問をしてくる。
「―――もしかして、魔界人のヒョウさん!?」
「ああ、その通りだ。
だが…君がそれを知っているということは、上海から何か聞いているのか?」
思っていたより話が通じるかもしれない。メディスンはその実力に対して交友関係が狭い…まだ妖怪として過ごすようになってからの年月が短いため、子供特有の人見知りと残酷さを併せ持つのに生半可な妖怪なら簡単に返り討ちに出来るだけの力があるのだ。そのため初対面の俺とまともにコミュニケーションを取ってくれるかという不安要素があったのだが、この反応を見る限り会話を続ける程度には友好的に見てくれている。
そして、人間嫌いの彼女が【初対面の相手に友好的な反応を取る】という予想だにしない状況に持っていける可能性があるのは…俺の知る限り一人しか心当たりがない。
「そうよ、上海から聞いた。
早く上海のところに行きなさいよ!」
「大丈夫だ、今日直接会って来た。
だから上海の状態も見た上で、心配はいらないと言い切れる…だが君は俺の話だけでは納得できない、か。
メディスン・メランコリーだな?上海に対する君の不安を聞かせてくれ。それにどう対処してきたかを教える」
「本当に?嘘だったら毒で動きを止めてでも上海に会わせるわよ」
「状況次第で君と一緒に上海と合流しても構わない。上海に負担をかけたくないと思ってるのは俺も同じだ」
「…いいわ。ならいくつか聞かせなさい」
「清く正しい射命丸です!取材させていただきますよ!」
―――来た。このブン屋だけ閉じ込めても意味が無いから、せめてもう一人二人は誘き寄せたいわ。そうするには、ある程度時間を稼がなきゃならないんだけど…どこまで引っ掛かってくれるかしら?
「おや、居留守とは感心しませんな―――っと、これは…?」
よ~し、さすがは豹の
「ふむ…?」
リリカの思い付いた即席のトラップ。あのジオラマを停止させるのは簡単だけど、今は姉さんが魔力を補充することで長時間動作し続ける状態になってるわ。それを正確な解除方法じゃないやり方で停止させることで―――!
『♪ギュウイーーーーン♪』
「!!?――っ!!!」
姉さんのエレキギターソロが爆音で流れるトラップ!豹が疑似的に録音できる魔法を使えるって聞いたリリカが、何かに使えるかもって豹に頼んで姉さんのソロが録音されてるオルゴールを作ってもらってたのよね。オルゴールからエレキギター音が流れるなんてまず予想できないでしょうし、いろんな意味で引っ掛かった相手を驚かせるために作らせたなんてリリカは言ってたけど…実際は面白半分だったんでしょうね~。セッティングし終わったら「まさか本当に役に立つとはねー!」なんて言ってたし。
『♪ティロリロティロリロリ「…っ!!…―――!!」
それを至近距離で流された天狗は声も出せずに耳を押さえながら、強引にジオラマをオルゴールごと力任せに蹴り壊したわね。ちなみに私とリリカは音波に関してある程度干渉できるから、同じ家の中に居てもなんとか耐えられる。そもそもオルゴールが音源なのに爆音にしたのは私とリリカだしね~。そして、この爆音なら外まで聞こえるわけで。
「な、何事ですか文さん!?」
「なんなのよ…!?まだそれなりに距離があった私にも聞こえたわよ!?」
よし、3人引き込んだわ!問題は顔と名前の一致する3人…射命丸文と東風谷早苗に鈴仙・優曇華院・イナバが真っ先に突入して来ちゃったから、誰なのかわからない反応二つが外の残っちゃたことだけど―――こればっかりはリリカを信じるしかないわね!
「「今っ!!」」
「「え!?」」
テーブルやクローゼット、もう音を奏でることが出来なくなったピアノといった大きなモノを二人掛かりで動かして…入口扉にバリケードを作って閉じ込める!
「ひゅい!?なんだこりゃ!?」
「分断された!?まんまと乗せられたっての!?」
外から小さく届いたのが誰の声なのかまでは聞き取れなかったけど、これでそう簡単に合流は出来ないはず…!ここからは、私が
「さ、この狭い屋内でどこまで避けられるかしら!?」
「っ!?察知されてた!?」
「たかが楽団って侮り過ぎてたの!?やってくれるじゃない!」
蛇行レーザーを乱射して時間稼ぎ!!せめて、迷わず屋根裏部屋の天窓から脱出したリリカが十分な距離を離せるぐらいは粘らないとね!!
スキマから飛び降りて探知魔法を行使すると、リリカが
「こっちよ!付いてきて!!」
「うんっ!」「はいっ!」
視界が悪くなるほどの雪を吹き飛ばすような全速力で、メルランの救出に向かうだけ!!少なくともカナと上海が間に合うまで粘れば撃退できる―――そんな希望が見えたから…それが思いもよらない方向に曲がってはじめて、その強大な反応も動いていることに気付くことになった。
―――そしてそれは、くるみとリィスもほぼ同時に気付いてしまって。
「…えっ!?もしかして私たちの方に来てる!?」
「まさか、私たちが突然現れたことに気付いてしまったのでしょうか!?」
「―――ッ!?そうかもしれない、なんでこんなタイミングで…!」
霧の湖にほど近い場所から…
今の今まで、まったく動いていなかったのが不自然な存在。
幻想郷に大きな変化をもたらした後も、幾度となく異変に関わっている有力勢力。
速度を落とすわけにもいかない私たちは、対応を相談することすら許されず。
「―――ククク、同族はそれほど不思議でもないのだろうが…
まさか幻想郷に天使が訪れるとはな。楽しい雪夜になりそうね」
「「う…!」」
くるみとリィスを一瞥して語られた言葉に、二人が動きを…いえ、私も止まらざるを得なくなった。
「…なぜ、貴方がここに」
紅魔館の主、レミリア・スカーレットが…羽ばたきで降りしきる雪を振り払いながら、私たちの前に立ち塞がった。