雪の舞う夜空を、私の最高速で一直線に飛びます。豹さんであれば不用意に私が索敵魔法で捕捉されてしまう状態にはしない…そう信じられるからこその独断専行です。今は少しでも早く、戦力を集中させるべき…!
「妹紅さん!麟!」
「っ!?
そうか、椛は見つけられないように豹が魔法をかけてたのね」
「それなら、すぐにでもルナサさんの家に!」
お二人とも隠れ家に向かう途中で足を止めてしまっていたのですが、その理由はプリズムリバー邸の動きを察知できていたからなのですね!それなら、私からの説明は要りません!
「カナさんと上海に先行してもらっています!リリーは私が守りますので、メルランさんとリリカさんの救援をお願いします!」
「わかった、リリーは任せるよ椛!」
「妹紅さん!私も」
「麟は椛と一緒に隠れ家で待機してて!
緊急脱出先の正確な位置がわかるのは、豹と麟だけなんだろう!?」
「――っ!
そうでしたね…ごめんなさい妹紅さん、どうか皆さんをお願いします!」
「任せときな!!」
そう返し妹紅さんもプリズムリバー邸に向かってくれました!間に合うことを祈るしかないのが悔しいですが…今の私が前線に出てしまえば真っ先に狙われてしまい、逆に皆様に迷惑をかけてしまいます。それならば、私が代役として務められることに回り、動ける戦力を増やすべきでしょう。
今の状況であれば、リリーの護衛ぐらいしか出来ないのですから。
「それでは私たちも豹さんの隠れ家に戻りましょう」
「そうですね…」
麟も前線に助けに向かえない悔しさを感じているようですね…私とは違う理由なのでしょうが、その無力感は私も知っているもの。それならば年長の者として、背中を押すぐらいはしてあげなければ。
「ちなみにですが、妹紅さんの言った緊急避難先とは…私が豹さんに連れられて脱出したあの家でしょうか?」
「あ、そうです。私のために豹さんが用意してくださった、大切な家です」
「豹さんが魔力で地図を見せてくれましたので、大まかな位置は私も把握できています。
皆様が戻る前に、特定に使える目印のようなものがあれば教えてもらえないでしょうか?」
「――!わかりました、豹さんのお家に戻ってお話しします。リリーにも聞いてみれば、案外知っているかもしれません」
「そういえばそうかもしれませんね。聞いてみましょう」
…上手く前を向かせることが出来たようですね。下っ端天狗でしかない私は、こういう気遣いは不慣れなのですが…麟は豹さんを慕う皆様の中で一番年少。人間である以上、寿命という点で大きな枷をはめられています。
だからこそ、何事も経験が足りていません。私は下っ端とはいえ、それなりの年月を生きているのですから…今のような状況であれば、仲間として支えてあげるべき。
あれだけの大怪我をしてしまった豹さんが、「治療できる」と言い切っていた子なのですから。
豹さんにとって大きな助けになってくれるこの子が、無理をして豹さんより先に倒れてしまわないように。出来る限り私たちで支えてあげなくてはならないのでしょう。
麟と共に、私はリリーの待つ豹さんの隠れ家へ戻るのでした。
「―――天界経由で魔界に帰った二人組だと?」
「ええ。玄の話を聞く限り、あの天人だけではなくお目付け役の竜宮の使いも確認しているみたいよ。
隠岐奈の方で何か把握してないかしら?侵入してきた魔界の住人であれば紫に聞くべきでしょうけど、離脱したのであれば隠岐奈に聞くべきですから。紫だと使者代わりに見逃したって可能性がある」
このタイミングで茨華仙から私に接触して来るのは予想していなかったが、持ってきたその情報は重要なものだった。余計な騒ぎを起こすなと言っておいたが、そんなの知ったことかとばかりに【降りて来た天人くずれを捕獲する】などという派手なことを霊夢たちはやっていたのだが…それにより得られた情報が、事実と一致しない点がある。
「どうやら、今回はあの天人くずれより竜宮の使いの方が厄介者のようだな」
「…は?どういう意味よ」
さて…茨華仙にはどこまで伝えるべきか?茨華仙は紫が中立的な選択を取れそうにないということを理解できているからこそ、玄の求めに応えてここに話を聞きに来たということだ。
エリスと幽玄魔眼が私の指揮下に入ったことはまだ伏せておきたいが、天界の住人としては地上に通じている永江衣玖が真意の読めない行動をしているのは不確定要素となる。あの愚かな子供でしかない比那名居天子と違い、永江衣玖は龍神様に仕える者としての自覚と責任を理解し果たしている優秀な存在なのだ。その彼女が独断で魔界絡みの案件に介入し誤情報を広めようとしている理由は掴んでおきたい。
―――となれば、私のために動いてもらおうか。
「私は逆の事態を把握していてな。昨夜察知したのは【天界経由で魔界から侵入してきた二人組】だ。舞と里乃を派遣して監視していたが、夜明け前に幻夢界から幻想郷に侵入した天使と接触し、その後で
「…つまり、永江衣玖が嘘をついていたと?」
「私が把握している情報からすると、だがな。この件の真実を知るには、永江衣玖本人か魅魔を訪ねていた天使に聞かねばならんだろうさ。
茨華仙よ、情報を集めて来てくれないか?」
「私はこれから勇儀の説得っていう頭も胃も痛くなる仕事が残ってるのよ。私を情報収集に使いたいのであれば、閻魔様と隠岐奈で勇儀が仙界に殴り込むのを止めてもらえるかしら」
「それは面倒ねえ…
仕方ないわ、この件は私が追っておく。華扇は勇儀をお願いするわ」
「相変わらず調子のいいことを言う時だけ態度が崩れるのね…
気は進まないけど勇儀と隠岐奈で上手く行くはずないから、私と閻魔様でどうにかするわよ。そのかわりしっかり伝えたのだから、霊夢たちに返答はしてから動きなさい。結果はあうんか玄に伝えてくれれば私に教えてくれるはずよ」
「ええ、そうしておくわ」
そう返すと茨華仙は心底気の進まない様子で後戸の国を去って行った。
やれやれ…あまり私直々に動きたくは無かったのだが、今私の手駒を動かすわけにはいかない。魅魔の連れて来た戦力に働いてもらうしかないだろうね。
「―――ッ!?
予想通りではあるけれど、一気に事態が動きそうね…!」
「はい?どうかしましたかアリスさん?」
星が地上に出て来たとほぼ同時に、妖怪の山で動いていた早苗と鈴仙に文が合流した計5名がプリズムリバー邸に向けて動き始めたわ。おそらくは豹とルナサが念写された写真からルナサを狙って動いたということでしょう。
問題は、夢子とユキが応戦できない以上私は援護に向かえないということ。そして、母さんと接触する気でいる命蓮寺にも下手に動いてほしくないということ。
私が援護に向かわないのはなんとかなる…少なくともカナと妹紅は救出に動くはず。メルランとリリカが持ち堪えられればルナサも加えて数は互角になるし、位置的に考えても私は最後の砦としてギリギリまで様子を見るべき…誰かしらが捕まった場合、永遠亭へ連行される前に私が奪還するのが最上でしょう。
となれば、命蓮寺が動きたくなりそうな部分を省いて説明すればいいだけね。
「妖怪の山が動いたわ。早苗と文が3人引き連れてプリズムリバー邸に向かってる」
「なんじゃと?」
「…一番戦力が薄いところを狙われたのね。つまり、ルナサ達の動きは妖怪の山に漏れている?」
「そう考えた方がいいでしょうね。でも私たちが援護に向かうわけにはいかないわ」
「応戦するだけで揚げ足を取られるかもしれないんだよね…メルランとリリカには悪いけど、今の時点でわたしたちが向かうわけにはいかない…」
「それに、星が戻って来てるわ。私たちは情報交換を優先させてもらうわよ」
「…皆様は、それで本当に良いのでしょうか?」
「聖白蓮。神綺様と会談しようと考えているのであれば、余計な行動は慎みなさい。命蓮寺の独断専行を魔界の仕業と解釈されると、魔界とこの寺双方に害が及ぶ」
「そうですね…悔しいですけれど、傍観しなければなりませんか」
私が言いたいことを夢子が先に伝えてくれたわね。流石は夢子、理解が早いし魔界のNo.2から言うべきと判断してくれてるわ。
この事実を理解させておかないと、命蓮寺の動向まで私たちが制御しなきゃならなくなる。母さん不在でそれが出来るとは思えないから、そもそも行動させないよう先に牽制しておかなければならなかった。
「儂からも先に聞かせい。あの楽団の小娘共は、どこまで信用できるのじゃ?」
「…どういう意味よ、それ」
そして今まで口を挟んでこなかった二ッ岩マミゾウが、ここに来て初めて発言してきたわね。それも、明らかに不信感を隠そうともせずに。それに素直なユキが乗せられて刺々しく返してる。このあたりは本当にユキらしいわ…豹に対して好意的なプリズムリバー三姉妹を、今の時点で相当気にかけてるってこと。
妹としての意識が強いからこそ、兄の助けになっていた存在は無条件に信を置いてしまっているわ。相手には好意的に見られる反応だから悪くはないのだけれど、二ッ岩マミゾウ相手にはちょっと危うい反応。私と夢子で上手くフォローしないと。
「あやつらの赤いのとは昨日慧音殿の寺子屋で話したのじゃが、儂にガセネタを掴ませてくれおってな。
今までの話を聞いた限り、お主ら魔界の者共にとって【豹の扱いに関して相容れない連中】なのじゃろう?援護に向かう必要など元から無いのではないかの?」
「わたしはそこまで薄情じゃないよ。兄さんをここ幻想郷で支えてくれてた子なんだから、目的が違っても助けになるのは当たり前だわ」
「やれやれ…あの妹紅殿をして兄呼ばわりさせたのは伊達じゃないようじゃのう。
ここまで盲信的な妹では話にならんわ」
「私も先輩の妹の一人よ。ユキだけじゃなく、魔界の大多数の妹が同じ答えを返すと言っておくわ」
「…お主のような考えの持ち主が魔界の重役じゃというのか?」
「夢子は実質的な魔界の最高責任者よ。魔界の創世神は自由奔放だから、夢子がストッパーにならないと魔界の運営はグダグダになるわ」
「アリスさんの云う通りですマミゾウさん。神綺様は魔界に封印された小娘でしかない私と、私的な交流を持つような方なのです。私のお相手をして頂いた時間に、魔界を管理していたのは間違いなくここにいる夢子さんです」
「随分と身内に甘い世界なのじゃな、魔界とやらは。儂が何を言うても無駄なようじゃ」
―――成程ね。このやり取りで推察できるのは、二ッ岩マミゾウは既に姫海棠はたてという念写能力持ちの天狗と接触し終えてるということ。つまり天狗勢力と繋がりができている以上、迂闊に情報を渡せない。
これは思ったよりも面倒な話になるかもしれないわね。聖白蓮がどこまで二ッ岩マミゾウを制御出来ているかも考慮しないと、魔界の動向が天狗にも漏れる可能性があるってことだわ。
―――そこまで頭の中を整理したところで、星が和室に入って来たわ。
「聖、戻りました!」
「おかえりなさい、星。今、お茶を…」
「いえ、大丈夫です。今は情報交換を急ぐべきです。
…アリスさん、こんな時間に足を延ばして頂いて申し訳ありません」
「気にしないでいいわよ。それこそこの時間に上がり込んでる私たちの方が非常識でしょうし」
「あなたが星ね。わたしはユキ、兄さんの妹よ。よろしくね」
「私は夢子、神綺様のメイドを務めているわ。よろしく」
「はい、ユキさんと夢子さんですね。魔界で聖がお世話になったようで、私からもお礼申し上げます。
ありがとうございました…そして、よろしくお願いします」
礼儀正しく頭を下げて、星が夢子とユキに挨拶をする。こんな素直な相手ばかりだと楽なのだけれど、幻想郷でそれはまずありえない話。それこそここ命蓮寺のトップ2人が例外中の例外。
今は、善性を信じられるこの2人から得られるだけの情報を貰っておきましょう。