寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第19話 日の暮れた妖怪寺にて

命蓮寺に向かう途中で、思い出したようにアリスが聞いてきた。

 

「そういえば、ルナサはどういった経緯で豹と知り合ったの?」

「私が一人で音を奏でたいときに使っていた場所が、豹にとっても意味のある場所だったのよ。そこで偶然出会えたわ。ただ、そこから楽団の手伝いをしてくれるまでになった話は少し長くなるから…」

「わたしが気になるから、今度時間作って聞かせてよ!」

「…気が向いたらね」

 

簡潔に言えばメルランとリリカが色恋沙汰と面白がって強引に引き込んだだけ…あまり広げたい話じゃないのだけれど。話すことになるなら私の果たすべき役目―――足止めを兼ねるような状況にしたい。今みたいな移動中にさらっと済ませてしまうのではなく。

 

「そうね、日も沈みかけてるし…今日は命蓮寺で情報収集することを急ぎましょう。この辺りで降りるわよ」

「はい、ご主人様」

 

 

 

参道に降り立って境内へ向かう。私たちは人里だと目立つ容姿だからすれ違う人が物珍しそうに視線を向けたけれど、そもそも数人しかいないし完全に日が沈むまでに帰るべきことを判っていたのでしょう。声を掛けられることは無く私たちは山門をくぐった。

 

「おや、こんな時間になってからいらっしゃるなんて珍しいですね。何か急ぎのご用でしょうか?」

 

槍を片手に持った虎柄の少女がこちらに気付き声を掛けてきた。すっかりリーダー役になったアリスが言葉を返す。

 

「あまり無関係な人間の耳に入れたくない話をしたいのよ。だからこの時間に来させてもらったわ。

聖白蓮とナズーリン。この二人の時間を貰えないかしら?」

「え、ナズもですか?ごめんなさい、ナズはここに住み込んでいるわけではないので、今日はもう帰ってしまったんです…とりあえず、聖だけでもよろしいでしょうか?」

「あら、そうなの?でも不在は仕方ないわね…それなら、聖白蓮にこう伝えてくれる?

 ―――神綺の娘としてあなたと話をしたい、って」

「シンキ…ですか?わかりました、少々お待ち下さい」

 

少女が本堂に入っていった。…話には聞いていたけれど。

 

「驚いたわ…彼女、妖怪よね?あそこまで人間らしくなれるものなのね」

「うん、びっくり…立ち振る舞いと雰囲気は人間にしか見えないわ…」

 

カナも私と同じ感想を持ったみたい。私たち騒霊は人によって生み出された存在だから、人間に近い感性を持っているのだけれど…彼女は私たち騒霊以上に人間らしく見える妖怪だった。

 

「…ご主人様、神綺様の名前を出して大丈夫なのですか?」

「ええ。心当たりがあれば人目を避けて対応してくれるでしょうし、逆になければ意味が分からず怪訝な反応を見せるはず。後者の反応なら早々に話を切り上げられるから問題ないわ」

 

こういった判断はアリスにしか出来ない。そういう意味では彼女が中心になるのは必然よね。

 

「でも、不思議なところね~。これだけ妖怪が集まってるのに、人里にあるなんて」

「…私たちのライブ以外で、人間と妖怪が平然と同じ場所に集まるのはほとんど見ない。幻想郷においても特殊な場所でしょうね。そういう意味では、あの異変も幻想郷の変化を象徴する異変だったのかもしれない」

 

レイラによって生み出された私たちが自我を持ち始めてから、それほど長い時が流れたわけではないのだけれど。結界によって隔絶された幻想郷にも変化は訪れる。

豹は、どれだけの変化を見てきたのかしら。

 

「お待たせしました。聖も人払いして話したいそうですので、こちらによろしいですか?」

「助かるわ。それじゃ、行きましょうか」

 

 

 

 

 

「はじめまして、ここ命蓮寺の住職を務めさせていたただいている聖白蓮です」

「あらためて私からも挨拶を。毘沙門天様の代理を務めさせていただいている、寅丸星です」

 

和室に4人通されたけれど、私たち皆洋館住まいなのよね。正座にあまり慣れていないのだけれど…仕方ないか。

 

「魔界神の末の娘、アリスよ。急に押しかけて悪かったわ」

「…ルナサ・プリズムリバー。理由あってアリスに協力してるわ」

「騒霊のカナ・アナベラルよ。よろしく!」

「上海です。ご主人様共々よろしくお願いします」

 

あ、アリスが伝える前に上海が…案の定二人の目が点になってしまったわね。

 

「…さ、流石は神綺様の娘を名乗るだけありますね。ここまで自然に会話できる人形は見たことがありません」

「あー…上海がこうなったのは私の力じゃないのよ。ここに来た理由と無関係ではないのだけれど。

でも、私がまず確認したかったことに答えてくれた形になるわ。エソテリアから解放された教え子というのは、貴方のことで間違いないようね」

「はい、神綺様にはお世話になりました…封印された地であれだけ自由に過ごすだけでなく、魔法のご教授までしていただいて。数百年の時を、有意義に過ごさせていただきました」

「私からもお礼を言わせてください。ここ幻想郷で命蓮寺が再興できたのは聖が無事でいたからこそです…

本当にありがとうございました」

 

なんというか…腰が低くて逆にやり辛いわね。幻想郷の有力者には珍しいタイプ。

 

「それは母さんに直接伝えて頂戴。私に解放されたことをわざわざ教えるぐらいには、大切な教え子と思っていたようだし。

―――なんなら、今度こっちに来た時にここを教えるけれど?」

 

私だけでなく上海もカナも驚いていた。こんな真正面から聞き出すつもり!?

 

「ちょ、ちょっと待ってください。神綺様が、幻想郷にいらしてるのですか!?」

「子離れできない過保護な親でね…私が少し特別扱いされてるのも理由の一つでしょうけど…

何かと理由を付けては、私に会いに来るわ。八雲紫が直接待ち伏せしたぐらいには迷惑がられてるみたいよ」

 

…思ってた以上に、アリスはこういうことに慣れてるみたいね。本当に、私には高すぎる舞台。

 

「…もしかして、直近でこちらにいらしたのは先月でしょうか?」

「あら、わかってたの?基本私の都合関係なしにやってくるから、間の悪い時に相手してもらえると助かったのに」

「確信があったわけではなかったもので…ただ、魔界と幻想郷を繋ぐような魔力を感じました。それだけの魔法を行使できる魔法使いなどそう何人もいないはずなので、気になってはいたのです。

まさか、神綺様が直々に来ているなんて思いもしませんでした」

 

普通はそうよね。魔界の創世神なんてスケールの大きすぎる存在が、そんな気軽に異世界に顔を出すとか思うはずがないわ。

 

「次にいらっしゃった時は、ぜひここを教えておいていただけませんか?私と聖だけでなく、今ここに住み込んでいる仲間たち全員がお礼を言わせていただきたいです。私たちは、聖によって繋がっていますから…

それこそ次に来られる時期がわかるのでしたら、お迎えにあがりたいです」

「悪いけど、本当に何の連絡もなくやってくるのよ…次がいつになるかはわからないわ。あれで一応創世神だから、それなりに忙しいはずなのよね。

だからここのことは私が伝えておくわ。その代わり、二点ほど私の質問に答えてもらえるかしら?」

「はい、私たちにわかることであれば」

 

…本当にすごいわねアリス。私もカナも上海も挨拶しかしてないのに一人で目的を果たしてしまったわ。

 

「本題に入る前に確認させて頂戴。最初に伝えたけれど、他人の耳には入れたくないのよ。人払いというのは、ここに住み込んでいる妖怪も含めているかしら?できればあなたたちと、ここにいないナズーリンだけに留めておいてほしい…頼めるかしら」

「私からもお願いします。聞き耳を立てている方が、そこにいらっしゃる様です…ここまでのご主人様のお話では、まだ信用できないでしょうか?」

 

え、どういうこと?と思えば、答えの方から姿を現した。

 

「へえ、人形のくせに私を見破るか。魔界神なんて眉唾だと思ったけど、あながち冗談じゃないみたいね」

「ぬえ!?いつの間に!?」

「最初からさ。聖は護衛が私だと理解してたから知らんぷりしてたみたいだけど、星は気付かなかったみたいだねえ。大丈夫なの?魔界人が相手じゃ、弾幕ごっこみたいに正面から正々堂々なんていかない可能性があるんだけど?」

「うう、その通りですね…私もまだまだ修行が足りません」

 

和室の隅に置かれていた行燈が、黒い少女に姿を変えた―――最初からそこにいた、ということ。私はまったく気付かなかったわ…

 

「び、びっくりしたあ…それだけ動かせそうになかったから変には思ってたけど、化かされてたのね」

「はは、そう驚かれると悪い気はしないよお嬢ちゃん。でもなんか違和感を感じたのはそういうことね。騒霊…取り憑いてる家じゃなくても、室内なら物を動かすぐらいわけないってことか」

「そうだよ~、わたしたちが一番力を活かせるのが屋内だからね。でも、お互いこれで敵意は無いって信じてもらえないかな?」

 

…もしかして、ここでの交戦を考慮に入れてなかったの、私だけ?

星と目が合った。あ、良かった。私だけじゃなかった…こんなことで通じ合うのは悲しいけれど。

 

「ごめんなさいね。私は神綺様のことを知っているから疑っていたわけではないのですけれど、皆が私を心配して…謝罪の代わりにその条件を受け入れます。

ぬえ、大丈夫だから夕食とお風呂の準備をしておくように皆に伝えておいて」

「相も変わらずお人好しだね。まあいいさ、星はもう少し警戒心を持ちなよ」

「肝に銘じます…」

 

ぬえと呼ばれた少女は出て行った。これで本題、ね。

 

「早速だけど、まず一つ。豹という魔界人と、エリーという名前に心当たりはあるかしら?」

「豹とエリー、ですか?申し訳ありませんが初耳です。そもそも私が幻想郷に解放されてから、魔界人と顔を合わせたのはアリスさんがはじめてです」

「私の知り合いにもいませんね…それに、私と聖もここにいる中では幻想郷に来てからの日が浅い方なんです。先程のぬえと、村紗か一輪が長くなるのですが、聞いてみるのと私たちだけに留めるのはどちらが良いでしょうか?」

 

まあ、これは予想通りね。魔界神と面識があると言っても、封印されていた彼女が重要な情報を持っている可能性は低かった。仕方ないわ。

 

「いえ、私たちもそう簡単に見つけられるとは思っていないから、貴方たち二人とナズーリンだけに留めておいて頂戴。

もう一つが、そのナズーリンに関して。昨日の昼過ぎぐらいに人里の外からこちらに戻っていったようなのだけれど、何かここで済まないような用でもあったのかしら?」

「昨日の昼過ぎですか?たしかに昨日ナズがここに来たのはそのぐらいの時間でしたが…

昨日は午前中いっぱいダウジング作業に費やしていたはずなので、それが長引いたのだと思います」

「少なくともあなたたちが何か指示を与えていたわけではないのね?」

「はい。ナズーリンは少々特別な立場でして…星からはともかく、私が住職として指示を与えることは滅多にありません」

「わかったわ、直接聞くしかないようね。今日はもう帰ったというけれど、逆にいつぐらいの時間ならここにいる?」

「私が呼び出さない限りは、そもそもここに来ること自体少ないのです。ナズが自発的に来てくれた場合は、午前中から日が傾き始めるぐらいまでですね。

ですが週末はナズもここで夕食を共にしていくので、そこに合わせて来ていただければ。急ぎでしたら、明日にでも私がナズのところまでご案内しますが?」

「そうなの…それなら週末のこの時間に合わせてまた来るわ。迷惑をかけるわね」

 

 

 

 

「それで、アリスから見て彼女たちはどうなの?」

 

命蓮寺を出て一度豹の隠れ家に戻ることにした私たちは、夜空の下を飛んでいる。

 

「嘘は言ってないでしょう。ぬえという味方まで騙した伏兵を配置していたのを見る限り、私たちが敵か味方か判断できていなかった。最初から敵視していたのであれば、星とも情報を共有するはずよ。

だから豹とは何も関係ないのだと思うわ。ナズーリンに話を聞くのは急がないでいい」

「じゃあ、明日は妖怪の山?」

「そうね。ただ、この人数であそこに行くのは面倒なことにしかならないでしょう。だから今日、もう少し相談させて頂戴」

 

つまり手分けするということね。私にとっては不都合。

難しいでしょうけど、少しでも妨害しないと。

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