寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第190話 暗躍者動く

「鬼の四天王が地底に戻った、ねえ」

「我ら天狗の立場からすれば、そのまま地底に引っ込んでもらえるのが最上だ。すなわちこのまま放置するのでも問題はない。

だが、情報源として見るのであれば動いてもらいたい。地霊殿と繋がりがある守矢神社にね」

 

典を従えて守矢神社に降り立つと、既に玄武の沢から帰っていた八坂神奈子が待ち構えていた。隠れるつもりなど無かったから、動きを察知されるのも当然か。

 

「諏訪子、地底の動向を見てきな。まだ地底の方が気温はマシだろう」

「しょーがないなー。とりあえずこいしと鬼の四天王の動きだけ調べりゃいいのね?」

「ああ、喧嘩を売られた場合を考えると私の方が面倒事になる。流石に直近の異変で地底に侵入した私がまた暴れるのは、地底の妖怪共だけじゃなく管理者共も煩くなりそうだしね」

「ま、そうなったら私も遠慮なく返り討ちにするけどね!

早苗のフォローは任せたよ神奈子」

 

そう返して二柱の片割れ・洩矢諏訪子が飛び立つ。案外すんなり動いてくれたね…もっと警戒されると思ってたが。

 

「ん?あっさり諏訪子を向かわせたのが意外かい?」

「…そうだな、情報不足で動いた私の意向など無視される可能性も考えていた」

「お前さんが持ってきた情報に気になるのがあるからね。摩多羅隠岐奈…そいつも管理者として豹を排除しようとしてるのであれば、それこそ八雲紫と協調するのが筋ってもんだろう?

それなのにわざわざ敵対してるお前さん達天狗を動かそうとしたってことは、そいつの戦力だけでは不足してる状況…つまり八雲紫に協調を断られたんだろうさ。それは八雲紫が【最初から豹の排除を考えていない】可能性すらあるってことだ」

 

…流石だな。摩多羅神の介入だけでここまで読み切れるか。

 

「そうなると豹をどう扱うのが正解なのかがわからなくなるからね。早苗に余計なリスクを負わせないためにも、集められるだけの情報は持っておくべきだ。前線を任せてる早苗を援護するためにもな」

「ふっ、相変わらず過保護なものだ」

「過保護にもなるさ。永い時を重ねて産まれてくれた、早苗自身が信仰されてもおかしくないほどの力を持った現人神―――それを魔界との対立や幻想郷内の政争で失うわけにはいかないよ。

早苗の成長のために最前線には出すが、危険を少しでも少なくするために後方で動くのは当たり前だ」

「たしかにそう見つかることはない逸材ではあるか…」

 

守矢の二柱の加護があるとはいえ…つい最近まで神霊や妖怪による脅威が少ない外界で暮らしていた少女が、ここ幻想郷においても実力で大半の妖怪を黙らせることが出来るのだ。それこそ幻想郷の人里を探してみようが、与えた加護を十全に使いこなせる人間など見つからないだろう。

 

信仰を失い弱体化しながらも、幻想郷において再起を図るだけの信念と野心をまだ持ち合わせている戦神…そんな存在からすれば、その成長に手を尽くすのは当然か。

 

「ま、そういうわけだ。早苗の手に負えなくなりそうなら私も出張るよ…管理者も好き勝手動いてるんだしね」

「そうだな、私も高見の見物とはいかないようだ。祟り神が戻ったら情報交換にまた足を延ばそう」

 

我らの天敵たる摩多羅神が動いた以上、静観を装ってもこちらにまで飛び火する可能性は十分にある。それならば、拾えるだけの情報は掴んでおくべきだろう。しばらく典を動かせない以上、私もそれなりに動く必要はあるだろうが。

 

「では、失礼する」

「おう、急ぎの話が出てきたらそこらの天狗を捕まえる」

 

さて…まずは典を仕事場に連れ帰ってからだな。結局守矢の祭神相手には一言も喋らなかったあたり、本当にこれ以上動く気は無いようだしね。

 

「それはそうです。摩多羅神やら守矢の祭神やら鬼の四天王やらに余計なことを吹き込むのは怖すぎます」

「典、まだ何も言ってないぞ」

 

まったく…いざとなると本当にわかりやすいな、典は。相変わらずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

酒臭い鬼に明羅が例の秘神との契約を説明し、頭数に数えなきゃならなくなる状況のことも考慮してとっ捕まえた天人にも軽く説明を終えたところで。霊夢の亀が戻ってくるのとほぼ同時に摩多羅隠岐奈本人が直々に情報を持ってきた。ますます面倒事が増える方向だったが。

 

「は?つまり衣玖が嘘ついてったってこと?」

「それを確認すべく私がここまで出向いたのだ。

―――魅魔よ、今朝方お前を訪ねていた客人がいただろう?そやつから幻想郷に侵入した悪魔のことを聞いておらんか?」

 

そして私に問いかけて来た。つまりこの秘神、リィスが幻夢界から幻想郷に侵入する動きも察知してたってことかい。幻想郷の管理者を名乗るだけはあるってことか。

 

「リィスはサリエル側近の悪魔・エリスと、サリエルの使い魔・幽玄魔眼とか言ってたな。

つまり昨夜侵入してきたのはこの二人で、少なくとも夜明けまでは幻想郷に留まってたってわけだ」

「そういうことだ。つまりあの竜宮の使いは魔界からの侵入者2名を見逃しただけでなく、お前たちに誤情報を流したということになる。

…だが、天界の住人が魔界に協力する理由に皆目見当が付かないのでな。丁度良く捕獲されたお子様に口を割らせようと思ったわけだが」

「誰がお子様だ!!私が衣玖の都合なんて知るわけないわ。さっさと放しなさいよ!!」

 

ついさっきこの天人とは思えないガキをとっ捕まえに来てた竜宮の使いの方が、どうも私達の敵だったらしいね。おそらくは―――

 

「こいつが魔界に興味を持つことを避けるために、侵入者ではなく帰還者だとあの竜宮の使いは伝えたが」

「天子はそのぐらいじゃ諦めずに降りてきたところを」

「私が返り討ちにしてこの格好ってことね」

「アッハッハ!こいつが無様なのは変わらないってことだ!」

「うががが…!!」

 

魔理沙と霊夢が続けた結論に、鬼がオチをつけて嘲笑する。まったく…相変わらず出来上がってるねえこの鬼は。酒が抜けてるとこを見たことが無いから、むしろこれが普通なんだろうけど。

 

「そして、その竜宮の使い・永江衣玖だが…どうやらまた地上に降りてきている。本命の豹が釣れるまで動きたくはなかったのだが、私が数に入れていなかった戦力が増えているからねえ。

 魅魔よ、連れてきたその二人を動かしてくれないか?戦闘はこのお子様にやらせればいい」

「む、私のことか?」「げ、あたし!?」

 

そう来たか。私が一蹴したあの二人組は豹を誘き出すのに使う気でいるから、優先度の低い情報収集に回す気が無い。そして豹を釣り上げた後に私と魔理沙、霊夢の出番がある以上私らも動かせない。かといってあうんと玄に鬼がこの時間に動けば余計な連中まで反応する可能性がある。

 

そうなると動かせるのは明羅と呪珠だけだ。副次的に博麗神社にいるのが不自然な明羅と呪珠の反応を誤魔化すことにもなる。問題は、明羅はともかく呪珠は戦闘になると見劣りする点。そしてこの天人が裏切って明羅と呪珠を襲う可能性か。

 

「コイツが裏切る可能性を潰せるならいいだろう」

「裏切るのは防げずとも、私の元に緊急脱出させることは可能だ。これで手を打ってもらえないか?」

「おいお前ら!私を無視して話を進めるな!」

「五月蠅いぞ天人くずれ。今のお前に選択の余地は無い。

私の指示に従うか、そのままここで見下され続けるかだ」

「ぬぐぐ…!」

「ま、それはその通りだな。

天子だったかい?あの竜宮の使いに報復しに向かうってんなら解放してやるよ。逃走防止役として明羅と呪珠も付けてやる。このままここで転がされてるのとどっちがいい?」

「―――っ!!!

やってやるわよ!衣玖に痛い目見せておく必要もあるし、妥協してやるわ!

ただし、情報を渡したら即刻お前らにもやり返すからな!!」

「くくく、取引成立だな。

では悪いが…明羅に呪珠だったか?お前達にも動いてもらうぞ」

「悪いね、明羅。呪珠を頼んだ。

竜宮の使いの目的を聞き出したら二人ともすぐ戻って来い」

「は!師匠の仰せのままに」

「は~い。それじゃさっそく秘神サマ?脱出方法を教えてもらえる?」

 

やれやれ…魔界だけでなく天界すらも巻き込んだ大事になるとはねえ。

ま、ここまで来たら今更だ。魔理沙に危険が及ぶ前に、ケリを付けたいところだね。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――というお話でした。ですので、鬼の四天王を筆頭とした地底の妖怪たちは一度地底に戻り仙界へ侵攻する準備をしているはずです」

 

星から夢殿大祀廟で起きた騒ぎの結果を詳しく聞いたのだけれど、予想外な方向に事態が動いていたわ。まさか、地底だけじゃなく仙界まで巻き込むことになっているなんて…!

 

「アリス、仙界ってどんな世界なの?」

「私も詳しく知らないのよ。創られたのすらつい最近だから」

「私から説明します。仙界は、豊聡耳神子が仙術で空間の隙間に開いて創った異世界。仙人である彼女たちが道教の修行のために築いた道場が存在する世界です」

「道教由来の仙人が過ごす世界、か。

捨虫・捨食の魔法を習得するのが当たり前な魔界人が言うことではないけれど…人間は本当に生への執着が強いわね。寿命が短いせいでもあるのでしょうけれど」

「耳が痛いですね…私も死への恐怖から魔法に手を出してしまいましたから。ですが、豊聡耳神子が尸解仙として生き続けることを選択した理由は恐怖ではなく不満。そう言う意味では、私より強固な意志を持って永く生きることを決めたのだと思います」

「ある意味、ここ幻想郷で活動しておる《人間を捨てた有力者》の中では一番人間らしくもあるがの。寿命の短さに不満を持った、支配階級の天才。その在り方のまま仙人として復活しよったからに、多くの有力者からは【抜け目なく幻想郷を支配しようと活動する野心家】と見られておるわ」

「私たちは仏教の門徒として、その支配を受け入れる気はありません。実力行使に出てくるのであれば、私も命尽きるまで戦い抜きます」

 

…そう言い切った星は、今まで私が見て来た温和な星ではなく。毘沙門天代理としての威厳を持つ存在だったわ。本気になることで、ここまで印象が変わるものなのね…

 

「ですが、幻想郷で異変が起こらない限り彼女たちは仙界から出てくることは稀です。人里で信仰を得るために講演会などを行うこともあるのですが…わかりやすく異変解決に参加する方が効率的という判断なのでしょう。

だからこそ…これまでに集まった情報をまとめてみても、豊聡耳神子が豹さんの存在を知ることは無かったはず。しかし、ここに来てその存在が知られることになってしまったということになりま―――っ!?」

「「「「「っ!?」」」」」

「あら、あら…流石はあの方を追っていらっしゃる皆様。先に気付かれてしまいましたか」

 

星も含めた全員がその侵入に気付いて、和室の外に視線を向けると。

どこか禍々しさを感じる、青い女性が虚空から降りて来たところだったわ。

 

「皆様がお察しの通り、豊聡耳様もあの殿方に興味を持たれましたわ。

『豹とやらが何故私をそこまで嫌っているのかも気になる』とのことでしてよ?」

「霍青娥。お主がここに何の用じゃ?」

「ッ!?こいつが…!?」

 

マミゾウが真っ先に言葉を返し、ユキも思わず反応してるけど…まさかここ命蓮寺における騒ぎの当事者が出向いてくるなんて!

 

「魔界の皆様とお話をさせていただきたくて参りましたわ。

今でしたら、私に有利な条件を呑ませることが出来そうですので」

「―――っ!?」

「…そういうこと。これはたしかに、不味い状況になっている様ね…!」

 

探査・索敵魔法を広範囲に展開していた私と、夢子が気付いたプリズムリバー邸の状況は。

 

メルラン・リリカが単独で別方向に離脱して、ルナサもカナと上海に合流しようと動いている。つまり、プリズムリバー邸は放棄したってことだわ…!

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