寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第193話 逃亡側も腹を括る

マズい、思ってたより早くあの天狗のブン屋が私を追ってきてるじゃん!この位置じゃ雷鼓と合流する前に追い付かれる…!

私一人で追い返せる相手じゃないから、さっきみたいに罠に嵌めるかカナとやったみたいに数で袋叩きにしなきゃ逃げ切れない。いっそのこと降参するフリして天狗の連中から情報を引き出す方が安全かも…?

 

(でも守矢神社ならいいとして永遠亭に連れてかれるとアウトなんだよなー。あそこってたしか行くのも帰るのも道案内がないと不可能って話だし)

 

そのリスクを考えると降参するフリもダメだもんなー。ヤバい、どうしよこれ!?

というか、逃げ切れないし勝てもしない、降参もダメってなったら選択の余地が無いわ。あーもう、こうなる気がしてたからなるべく楽そうな役目だけ貰ってたのに!

 

(…私も腹括らなきゃダメか!

 逃げ切れないなら、来てもらうしかないもんね!)

 

ラッキーなことに、呼び出すのが雷鼓だからこその不意打ちが狙える。まず逃げ切れない格上を追い返さなきゃならないんだから、打てる手は全部打っとかないとね!

 

 

 

 

 

 

 

 

(―――っ!?

 リリカの幻想の音…!つまり、あの天狗はリリカを狙っちゃったのね)

 

姉さんに任せて人里に向かってる途中で、リリカが大音量で幻想の音を鳴らしたわ。私たち姉妹の他にこの音を聞き取れるのは、同じ騒霊のカナや幽霊やゾンビみたいなもう死んじゃってる【幽霊の音を聞き取れる】存在。それに―――楽器たち。たぶん雷鼓のところに着く前に追い付かれると判断したから、雷鼓の方から援護に来てもらうために大音量で鳴らしたんでしょうね。

 

(姉さんとカナが戦闘に入っちゃってたら、これに反応して集中を乱しちゃうかもしれないわ…

上手く上海がフォローしてくれてると助かるのだけれど)

 

ほぼ逆方向に移動してる私に聞こえたってことは、姉さんと合流してるはずのカナにも聞こえちゃってるはずだから。これが隙になって押し込まれるなんて可能性もゼロじゃないわ。

 

―――そんなことを考える余裕なんて無いことを、すぐに思い知らされちゃったんだけど。

 

(…え?私の方に真っ直ぐ向かってきてるのが二人も!?

 失敗だったわ…!完全霊体化し直して移動するべきだった。今からでも間に合うかしら!?)

 

慌てて姿を隠すけれど、遅すぎた気がするわ…!どうしてかっていうと、私の方に()()()()()()()()()()()()から。たぶん豹みたいに、魔力反応か何かで私を遠くから見つけてないと一直線に向かってくることなんてできないはずだから。

つまりは、私が人里に逃げようとしてるのを見破ってこっちに来ちゃってるのが二人もいるってこと!

 

(そのまま気付かれずにすれ違えればいいのだけど…!)

 

プリズムリバー邸(うち)でかなり魔力を使っちゃってるから、2対1で戦えるような状態じゃないわ。少し移動ルートを最短距離からずらして迂回してみたけれど…それで逆に確信できてしまって。

 

(ダメ…!やっぱり姿を見て追ってるんじゃない。遠くから私の位置を探知できてるわ!)

 

迂回しようと進行方向を曲げたら向こうも合わせて来た、つまり私の位置は完全にバレちゃってるってこと。

どうしようかしら…!?

 

(今から姉さんたちと合流するために引き返すか、強行突破するかの二択ね…!

戦力の集中にはなるけど、ここから引き返す途中で追い付かれると私が消耗し過ぎて戦力にならなくなっちゃう可能性があるのよね。そうなるとむしろ足を引っ張っちゃうわ。

でも強行突破に手間取ると、豹が単独行動してる私の援護に来ちゃう可能性もある。それは一番避けたいリスクだわ)

 

迷ってる時間なんてない。そもそも引き返したところで、人里の方から来てる二人と同じようにプリズムリバー邸(うち)を襲って来たのも私の位置を把握できてたら…私が挟み撃ちされちゃう危険さえあるわよね。

 

(それなら…すれ違えるのを祈って強行突破すべきよね!)

 

 

 

 

 

 

 

 

(…よし、なんとか雪は凌げるようになった。後は風見幽香がどう動くかだが)

 

メディスンを上海の元へ送った俺は、その場で簡易式神を2匹…紫さんから貰ったお札を核にした白鳩を使役して別方向に飛ばした。

 

俺の空間魔法を探知できるのはユキと夢子だけじゃない。無名の丘の鈴蘭畑は、太陽の畑にほど近い位置にある…つまり俺が交戦しちゃマズい相手の一人、四季のフラワーマスターも探知できる位置にいたということだ。

 

風見幽香の行動は読めない。大妖怪らしく気の向くままに動くので、基本的には動き出してからじゃないと対応策が打てないのだ。だが今の俺の状況で後手に回るのはハイリスク過ぎる…そのため撹乱として簡易式神を使うことにした。無駄遣いになると勿体ない貴重なモノの一つだが、出し惜しみするべきじゃないと判断した。

 

(吉と出るか凶と出るか…麟が紫さんと接触出来そうなら、余ってる札があれば融通してもらえるよう頼んでおいてもらうか。麟が持ってたらそれを貰って、紫さんに補充を頼むのがベストだな)

 

それぞれの簡易式神に出した指示は単純だ―――『永遠亭を監視せよ』『博麗神社を監視せよ』だけ。

そして永遠亭に向かう際に太陽の畑上空を通るように命じてある。この動きに引っ掛かって風見幽香が動いてくれればそれでよし…要するに《空間魔法が行使された位置》から発生した存在に気を引かれて、俺がこの小屋に潜伏してることに気付かれなくすることが目的だ。

 

風見幽香の性格を聞く限り、簡易式神を発見したらそのまま破壊するだろう。そして対になる二羽の白鳩の片割れを破壊したことでもう片方の存在に気付いて、そちらまで破壊しに動いてもらえればかなりの時間が稼げる。

 

(そう動いて博麗神社の面々と闘り合ってもらえれば理想的なんだが…

最悪は博麗の巫女の勘のように直感だけでこの小屋に来られる場合。そうなったら空間魔法で隠れ家に戻るか、早目にこの小屋を捨てて高度を取り逃げるかの二択を迫られる)

 

どちらも発見されるリスクがあるが、風見幽香と戦闘になることは絶対に避けなくてはならない以上そうせざるを得ないのだ。もっとも、この雪の中わざわざこの小屋まで足を延ばしてくる可能性は低いと踏んだからこそ、空間魔法を行使した上で移動先をこの小屋から変えなかったのだが。

 

もう一つの可能性として、理想的ではないが対応が楽になるのは【風見幽香が興味を示さず放置する】パターン。これなら少なくとも明日の朝まではここで凌げるはず…風見幽香は昼行性かつ睡眠をしっかり取る妖怪なので、夜に活動することは少ないからだ。そして白鳩二羽もあくまで簡易式神、破壊されずとも日付が変わるぐらいにはこの雪に濡れて融け落ちる。これに関しては本当に勿体ない使い方だが、今の手持ちと状況ではこれしか思いつかなかったのだ。メディスンを送ってすぐに浮かんだ手段を熟考せず採用したからこそ、最善ではないだろうが…

 

(逆に風見幽香じゃなく博麗神社の面々が先に片割れを破壊した場合も、この小屋に向かってくれりゃ風見幽香、永遠亭に向かってくれりゃ月の連中とぶつけられるからな。俺が適切なタイミングで離脱出来れば最高の形で同士討ちさせられるワケだ。そこまで持ってけたら勿体ない使い方じゃなくなる)

 

まあ、そんな上手く事が運ぶとは思ってないが。可能性はゼロじゃない…それなら理想通りになるように祈るぐらいはいいだろう。

 

―――そう考えていたところで、事態が動く。

 

「…ッ!

動いたか、風見幽香」

 

俺が空間魔法を行使した位置には反応しなかったようだが、太陽の畑上空を横切った簡易式神には興味を持ったようだな。ゆっくりと白鳩を追い始めている…しばらくはフラワーマスターの反応を最優先だ。エリーとくるみだけでなく幻月と夢月からも『幽香最大の弱点はスピード』と教えてもらっている。つまり俺が最高速で逃げれば空間魔法に頼らずとも振り切れるワケだ。

その移動を探知されると厄介なことにはなるが…風見幽香はユキと夢子が応戦できない相手の中でも最大のリスク。だが逆に言えば…ユキ・夢子・風見幽香が同時に釣れた場合は【俺とユキ・夢子の3人掛かりで風見幽香を葬る】というハイリスクハイリターンな選択も取れるのだ。

 

あの4名の中で魔界に最も大きな被害を与えたのは、フラワーマスターだったというのは紫さんから聞いている。それは魔界で最も恨まれている存在とも言える…そして俺とユキ・夢子の3対1なら苦闘になるだろうが仕留められる。亡骸を夢子が利用すれば魔界の大衆感情の軟化に利用できるはず。問題は幻想郷側で風見幽香を慕っている者…すなわちエリーとくるみや夢幻姉妹と敵対関係になるだろうから最上の手段ではないが。

 

(使いたくない手段だが…神綺様の到着前に風見幽香が俺を通り越して直接ユキもしくは夢子を狙って来た場合は躊躇ってられんしな。

もっとも、仕留めたとしてもこちらの被害も甚大になる。そこをハイエナされるリスクもあるから、そうならないことを願いたい)

 

俺一人に被害を集中させようと戦おうが、ユキと夢子を無傷のままで葬れるような相手じゃない。そしてフラワーマスター相手では全力での戦闘になる以上、博麗の巫女や魅魔に察知されずに終わらせることなど不可能…その状況から逃げ切るのはそれこそ神綺様や紫さんの助力が無いと厳し過ぎるだろう。

―――そう考えれば、全くリターンが見合っていない。風見幽香との交戦はやはり避けたいところだ。

 

(そのためにも、この小屋に向かって来ないことを祈るしかねえな)

 

永遠亭上空で八意永琳の配下とやり合ってもらえれば更に時間が稼げるんだが、永遠亭の玉兎が既に実働部隊として動いている以上迎撃に出てくることは無いだろう。八意永琳が竹林の姫を風見幽香にぶつけるはずがないし、八意永琳本人が直々に出張る可能性も低い。そして地上の兎では数がいたところで殲滅されるのがオチだ。

現状永遠亭に残る戦力を考えれば、迷いの竹林から出てこないだろう。流石のフラワーマスターでもこの雪夜に案内無しで迷いの竹林へ突撃するとは思えないからな。

 

―――祈るしかねえのがキツいな。だが俺が出張るわけにはいかない…

 

「…ホント、俺は護衛でしかないな。

 仲間を指揮する側には向いてなさ過ぎる」

 

兄であることは止めるわけにはいかない。

だが、護衛は止めるべき。逃亡生活を送るのであれば猶更だ。

それが出来ない限り、俺は逃げ切れないのだろう。

 

(…まったく、我ながら未練がましい。見苦しいほどにな…)

 

崩れかけた窓から降りしきる雪を眺めながら、己の愚かさを噛みしめるのだった。




申し訳ありませんが、今週土曜(11/4)の更新は休ませて頂きます。
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