寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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誤字報告により157話の「無月」を修正してます。ここだけなんで誤変換になったんだろ…?推敲ちゃんとしないといけませんね。
誤字報告は本当に助かっております、ありがとうございます。


第195話 先に動いた最後の手段

「まったく…お兄様も意地が悪いわ。こんなに楽しめそうなパーティーに私を招待しないなんて」

「…あのー、そういう考え方だから豹さんはレミリアさんを頼らなかったんじゃないですかね?」

「その通りでしょうね。潜伏目的でレミィを当てにするはずがないわ」

 

パチェが何気に失礼なこと言ってるわね。流石の私もしっかりとした理由があれば自重ぐらいはしてやる…ま、私直々に出張るまで何も伝えてこなかった以上、ここから先は好きにさせてもらうけれどね。

 

「…私からも、レミリアさんに一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「構わないわよ。お前たちの話だけでも十分楽しめたし、隠す必要が無いことは教えてやるわ」

「ありがとうございます。

…その、何故ヒョウ様のことを『お兄様』とお呼びしているのでしょうか?」

 

吸血鬼(同族)のくるみと堕天使のリィス。くるみはここ数日のお兄様の逃亡生活を支えていた一人だったらしく、昨日までのお兄様の足取りは完全に掴めていた。リィスはお兄様が魔界から幻想郷に逃亡していた理由である【魔界と月の因縁】の当事者だった。

 

私に多くを語らなかったお兄様の話は、実に面白いものだったから。その礼として答えてやりましょう。

 

「お兄様は私に…正確にはここ紅魔館で暮らす住人には名前を伏せていたのよ。いちいち八雲の隠者なんて呼んでられないから、面白くなりそうな呼称を考えた結果がお兄様。

なにしろ八雲の隠者と言いながら、あの八雲紫すら妹扱いしていたのだからね。敬語を使いながら年長者目線で振舞うなど中々見れないでしょう?だから私は逆に上から目線で妹ポジションに収まってみただけ」

「そういうことですか。あのメイドさんが感慨深げに『豹様…』と言葉を漏らしていたのは、あの時初めて名を知ったからだったのですね」

「というか…そんな理由で豹さんに特効が掛かる呼び方してるんですか?」

「名乗らなかったお兄様が悪いわ。

 もっとも、伏せるだけの理由があったのはお前たちの話で理解したけれど」

「そうですね、まさかお兄さんが反逆者ヒョウその人だったなんて…

私がここの図書館で使役されてることを知っていれば、名乗るわけにはいかないわけです」

 

魔界出身の小悪魔からすれば、私以上に驚愕の事実だったようね。

 

ここ幻想郷に乗り込んでまず行った、管理者たち相手の紛争―――人里では吸血鬼異変と呼ばれてるらしいわね。幻想郷の支配を目論んだなんて伝わってるけれど、それが不可能なことは最初から理解していた。どう言葉で取り繕おうと、私は外の世界から幻想郷に逃げ込んできたことに変わりは無い。ここ幻想郷を支配できるような力があれば、そもそも逃げずに外界に留まっていたのだから。

 

本来の目的は、『ある程度自由に動ける立場を確立させる』こと。そのために腑抜けた妖怪を片っ端から手駒として従えたのだけど、先住民ばかりを最前線に送っては管理者だけでなく他の有力勢力からも不興を買うと判断したわ。それを避けるため鎮圧直前に悪魔を十数人召喚して前線指揮官扱いしたのだけれど…大きな被害なく無事に【幻想郷においての立場と協力者を得る】という目的を果たした私は召喚した悪魔を魔界へ送り帰した。ところがただ一人だけ、ここ紅魔館に留まって仕えたいと頭を下げて来たのがこの小悪魔。

 

パチェが図書館でこき使うって言い出したから、召喚主が私で契約者がパチェという二重の呪縛を受け入れてまでここに留まる気があるのかと確認したのだけど。『姉妹が多過ぎるので衣食住が保証される雇用先は魅力的過ぎるんです!』なんて理由で何の迷いもなく受け入れたから、そのまま図書館の司書という肩書で雑務をやらせている。最近は妖精メイドに任せられない作業を咲夜が頼んでることもあるようだけれど、何の文句も言わずにこなしてるみたいね。仕送りついでに家族と顔を合わせるため時たま魔界へ里帰りする以外は、図書館と紅魔館の維持に尽力している優秀なスタッフだわ。

 

そして…魔界から帰って来た際、紅魔館に魔界との取引先を一つ仲介した功績がある。つまり小悪魔は魔界の事情にもそれなりに通じていたということなのだから、お兄様の過去を知っていてもおかしくない。逆にお兄様もそれを警戒して、小悪魔だけでなく私たち紅魔館全体に名を伏せたということ。

 

「…あれ?反逆者の名前は魔界神が伏せてたって聞いてるんだけど。あなたはどうして知ってるの?」

「えーっとですね…幻想郷と魔界を行き来するのにお世話になったギャングさんがいるんですけど、異世界から魔界に引っ越して来た最古参の移住者なんだそうです。異界間移動に使わせてもらってる補助祭壇が、どんな経緯で造られたのかを聞いてみたら『ヒョウさんの遺産…って言えばいいのかな』って答えてくれまして。

魔界神に反逆した漢達のお話を聞かせてくれたんです」

「最古参の移住者にしてギャング…?

もしかして、カムさんのことですか?」

「あ、リィスさんもご存じなんですか。あの方やっぱり只者じゃないんですね」

 

へえ、あのお人好しギャングがねえ。どう考えても裏稼業で稼ぐより堅気として普通に事業を起こす方が成功すると思うけど…魔界の政治や経済に無知な私が口を挟むことじゃないわよね。

 

「リィスさん、最古参ってことはそのカムってのは…?」

「はい、サリエル様が魔界に移住する以前から、神綺様が表立って動けない案件を任されていたと聞いています。それはつまり、ヒョウ様の反乱の生き証人の一人ということ…それどころか裏の仕事を受け持っていたのですから、粛正請負人としてのヒョウ様と繋がりがあるはずです」

「…そこまで大物とは思ってなかったけれど。

でも言われてみれば、異界相手に取引するような闇商人がただの一般人なんて有り得ないわよね」

 

魔導書や実験材料の取引で直接顔を合わせたことがあるパチェも、私と似た印象の様。でもあらためて言葉にされた通りで、魔界と幻想郷の私的な行き来が制限されているのにもかかわらず異界間交易を行えるだけの立場だということ。それを魔界に通じている堕天使が肯定する。

 

「はい、今でも神綺様が汚れ仕事を依頼することがありますので、【魔界中枢と癒着しているギャングのボス】というのが適切な方です。

…私どころかサリエル様も、どうしてあれほど温厚な方が普通に事業を起こさないのか不思議に思っているのですが」

「堕天使にすらそう思われてるのねあの男…

少し話が逸れたわね。それで、まだ何か聞きたいことはあるかしら?」

「ついでね、私からも聞かせなさい。フランを蚊帳の外にしたのはどうしてよ?」

 

客人ではなくパチェが質問してきた。本来なら紅魔館の参謀ポジションになる以上、把握しておいて貰いたいところなのだけど…パチェにそれを求める方が間違いなのは私が一番よく知っている。

 

フランには美鈴に命じて「急遽業者との商談が入ったから応接室には近付くな」と伝えてある。フランが地下に引きこもることになった理由の一つが【紅魔館の当主の座に興味などない】こと。要するに食料や生活用品の調達や、侵入者への応戦で破損した内壁・家具類の補修といった事務・財務処理が必要な仕事は絶対にやりたがらないのよね。

それを毎日のようにこなす当主なんてやらされてたまるか!!と言わんばかりに『自分の狂気で余計なトラブルを起こさないため』という口実で引きこもった結果、当主の座は私に回ってきた。…まあ、あの薄情な(役立たず)どもがフランを恐れて逃げ去って以来、私がやる羽目になってたから苦じゃないのだけど―――スカーレットの家名を背負わなかった私という可能性に興味はある。少なくとももう500年は待たないとフランの気は変わらないだろうけど。

 

今回に関してはそれを逆用してフランをこの二人から遠ざけた。リィスはともかく同族のくるみは地下からでも気配を察知して興味を持たれると会いに来るかもしれなかったから、先手を打って業者との取引と誤魔化すことにした。商談なんて絶対にやりたがらないし、余計な首を突っ込んで破談にさせると生活の質が落ちるリスクがあるってことぐらいは理解してるしね。

 

「お兄様と八雲紫にとって、私はトランプのジョーカーなのよ。厄介な相手を釘付けにするためのね。

そして、ハイリターンを得るためにはフランが必要。今はまだ、お兄様が危機に陥っていることをフランに伝えるのは早い。フランを連れ出してくれれば、逆に奴の位置が簡単に割れる…これを利用しない手はないでしょう?」

「…ああ、そういうこと。摩多羅隠岐奈ってのにケジメを付けさせる気なのね」

「えっ!?そいつってたしか…!」

「やはり奴も動いているのだな?

安心しなさい、お兄様が奴から危険視されていることはお兄様だけでなく八雲紫からも聞いている。それに私個人としての因縁もある…摩多羅隠岐奈は私が押さえてやるわ。だからリィスとくるみは他の協力者と共同して、奴の手駒と魔界の面々に当たれ」

「ありがとうございます…!私たちはその秘神のことをほとんど知りませんので、ぜひお願いします!」

 

変わった堕天使だな、リィスは。堕天したとはいえ天使からすれば吸血鬼の私など下位種としか見ていないだろうに、ここまで腰を低くして対応できるなんてね。もっと高慢なイメージを持っていたけれど。

 

「それじゃ、私たちはそろそろルナサの援護に戻ってもいいでしょうか?」

「いや、お前たちは先に話に出て来た里香とやらを連れて来い。咲夜は既にルナサと合流しているし、もう一つ強力な反応も援護に入っているから問題ないだろう」

「え、里香さんをですか?」

「お前たちの話を聞いた限り、幻夢界とやらに最短時間で向かえるのはリィスだけなのだろう?本格的な衝突に咲夜を派遣した以上、私の関与は幻想郷全体にすぐ広まる…私も咲夜も名が通っているからね」

「あー、つまり堂々と動くことで陽動になるってことですか?」

「それもあるが、お兄様であれば咲夜の介入を察知できる。となればお兄様の方から一度ここに足を延ばしてくれるさ。なにしろ私はお兄様にとって切り札の一つ…勝手に動かれては困る戦力よ。今後どう動いてもらいたいかを説明するため必ず一度はここに来るわ。

その時点で協力者を遊ばせておくのは勿体ないでしょう?戦車の駐車スペースもこの辺りなら問題ない。だからお前たちは里香とやらを先に戦力化して来い。お兄様の指示を聞く集合地点としてここ紅魔館を提供してやる」

「レミィ?戦車なんて持ち込んだら流石にフランも気付くでしょ。そこはどうする気なのよ」

「そうなったらその時よ。摩多羅隠岐奈がフランを使わずに策を進めてる可能性だってあるのだから、フランが連れ出されない形での方針も考えるべき…それこそパチェに考えさせるつもりだったのだけど?」

「…はあ、仕方ないか。今日の実験は中断ね」

 

とは言っても、私もパチェも今リィスとくるみから聞き出した話しか情報が無い。だから咲夜がルナサを連れ帰ってくるまでは大きくは動けないだろう。

まあ、咲夜一人の援護だけじゃ不安ということなら…

 

「小悪魔、この反応がプリズムリバーの末っ子よ。どうやらこちらにも二人援護に来てるけど、先に状況を説明した方が早く話が進む。戦闘に巻き込まれない位置で待機して、決着が付いたら説明をしてきなさい」

「わかりました!

パチュリー様、しばらく図書館を離れますね!」

「残った次女だが位置が悪い。人里に逃げ込んでやり過ごす算段なのだろうが…二人相手の挟撃を凌げるかどうかだな。咲夜がさっさと片付ければそちらのグループから数名援護に回すだろうが、今はこれ以上紅魔館から戦力は出せないわ。

―――これでも、私の指示を聞けないかしら?」

「いえいえ!?ここまでやってくれるなんて思ってなかったですよ!

里香の戦車がすぐに動かせるのかはわからないんで、時間かかりそうだったら私だけ先にルナサ達と合流します。リィスさんは里香と一緒にここ…紅魔館に移動して待機ってことでいいですかね?」

「いいだろう。リィスもそれで異論は無いな?」

「はい、どうかお願いします!」

「なら早速動け。パーティーはもう始まっているのだから」

 

さ、だいぶ遅れたようだけれど。私も楽しませてもらいましょうか。

 




この作品において吸血鬼異変はとても重要な位置にあるので、その中心だった紅魔館組も独自設定がかなり強いです。
その結果、吸血鬼異変の首謀者だったレミリアお嬢様はカリスマ仕様。読者様によってはこの作品で一番違和感があるキャラかもしれません。

そしてオリキャラの補足です。名有りオリキャラはこれで最後になります。
…とはいっても辻褄合わせの黒子のようなキャラなので、モブに近いキャラなのですが。



カム

ルビーの両親が引っ越した異界から魔界に移住してきた、文字通り最古参の魔界移住者にして魔界の裏社会を取り仕切るギャングのボス。
…なのだがその性格は裏社会でやって行けるのか不安になるぐらい温厚で、実体はパンデモニウムに雇われた便利屋のようなオッサン。だがそれゆえに部下や顧客からの信頼は厚い。
最重要機密保管庫への証拠品運搬を依頼されるぐらいの大物ながら、ヒョウ逃亡の裏でガチギレしたエリーの大暴れに巻き込まれたり、夢幻姉妹の流れ弾で別荘が半壊したりと結構な被害を受けている。ヒョウが紅魔館に名を明かさなかった最大の理由は、ミケと取引した魔法具に魔界の技術で創られた新品が混ざっており、出処が紅魔館と確認したことで彼と小悪魔の存在を思い出したため。
そして…魔界の重鎮が幻想郷に向かうにあたって、彼に情報が無いか尋ねるのは当然の成り行きだった。
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