…集中力が切れかけてますね、気合を入れ直さないと。
(…まあ、レミリアが動かないはずがないよな。東風谷早苗に鈴仙・優曇華院・イナバ、加えて射命丸なんて異変解決に動いておかしくないのが3人纏まってプリズムリバー邸に向かうなんざ、ほど近い紅魔館から足を延ばす価値がある見世物としか思わんだろうし)
ルナサが霧の湖対岸に空間魔法…もしくは紫さんのスキマで戻って来たのを察知できていたのは、探査・索敵魔法に集中できていた俺だけではなかった。霧の湖近くに位置するもう一つの洋館・紅魔館の主も幻想郷の実力者が集結しようとしていたプリズムリバー邸に興味を持って動いていたのだ。
だがその途中で突如現れたルナサとくるみの方が「面白そう」と判断して、レミリアは進む方向を変えた。
(消去法で決まる。ルナサとくるみではないもう一つの反応…レミリアにすれば興味津々な存在だろう。
―――リィスさん…サリエル様を追って堕天したという天使)
麟から伝えられた俺の想定外だった協力者。サリエル様が夢幻館まで出向いてくれていたというのも驚きだったが…月から堕天した後に魅魔に協力していたという、俺にとって都合が良すぎる存在が力を貸してくれていたのだ。
…あのタイミングでカナと上海を狙ったのは、魅魔にしては考えが浅いと思ったが…俺が思ってたより魅魔に余裕がなかったからこその強硬策だったってわけだ。そりゃ戦力として呼び寄せた里香とリィスさんが逆に俺と協力することを選んだとなれば、リスクがあっても即効性がある手段を取ってもおかしくない。それこそ里香を戦力として扱えるのはあの時が最後だったということなのだから、強硬策を取るのも理に適っていたワケだな。
(同族のくるみに天使のリィスさん…レミリアがルナサだけ見逃したってのも納得だ。それこそ異変解決者3人よりもずっと面白そうな存在―――『お前は見逃してやろう、残りの2人を置いて行けばな』とでも言ったんだろうな)
そしてくるみとリィスさんは上手くレミリアを動かしてくれたらしい。紅魔館に移動してそれほど経たないうちに、咲夜がプリズムリバー邸に向かってくれていた。その途中でルナサ・メルラン・リリカがプリズムリバー邸を放棄し分散して逃げたことで、一番距離の近いルナサと合流してくれている。
妹紅と咲夜が加わってくれたことで戦力的にも人数的にもルナサは危機を凌げたと見ていいだろう。人里に逃れようとして孤立していたメルランにも永遠亭から出て来た二つの反応が向かっていたのだが、レティがメルランを逃がしつつ一人で足止めしてくれたらしい。メルランは無事に人里の自警団詰め所に辿り着けそうだ。
レティがメルランの援護に回ってくれているということは、おそらくミケは俺のために魔法具をキープしてくれてたんだろう。レティもすぐさま俺の依頼を果たしてくれただけでなく、顔を合わせたメルランの救出までやってくれたってことだ。一段落したら礼を言いに行かないとな…
(となると問題はリリカか。雷鼓はともかく永江衣玖まで力を貸してくれてるのは驚きだが…射命丸が逃げに徹すると粘り切られる可能性は十分ある。比那名居天子がどういう目的で動いているのかがわからないが…アレはどう転んでも邪魔にしかならねえ。オマケに博麗神社から出て来て明羅も同行してるってことは敵と見るべきだろう。
射命丸と合流されると面倒なことになる。戦力が集中してるルナサ達が撃退し終えたら援護に向かってくれるとは思うが…)
どういう意図で明羅と比那名居天子…それにもう一つ知らない魔力反応が行動を共にしているのかが読めない。もう一つの反応は確証は無いが、里香と明羅が魅魔に呼び出されていることから考えると魅魔の博麗神社襲撃に加わった際、妖怪のまとめ役として参加していた少女がいると聞いているのでおそらくはその少女だろう。
つまり、魅魔の指示で監視役として同行しているのであれば同士討ちもしくは引き抜きを狙えるかもしれないのだ。
(もっとも、俺が比那名居天子の手は借りたくない以上同士討ち以外に利用価値は無いんだが)
アレは幻想郷を崩壊させかねない暴挙を仕出かした挙句、全く反省していないクソガキなのだ。紫さんが本気でキレた数少ない案件で、俺の存在を知られた場合『その場で口封じして構わないわ』と言い切るほど嫌っているのだ。幻想郷に永く関わって来た俺個人としても嫌悪感しか持っていない相手…戦力化できるとしても本当に万策尽きた時だけにしたいのだ。
そしてリリカの援護に来てくれている永江衣玖の目的が【比那名居天子の保護】だった場合、俺が責任を負う形で夢幻姉妹や妹紅・レミリアと袋叩きにして始末するという手が使えない。味方に付けたく無い上に敵に回して始末することも出来ない、オマケに精神の未熟さに不相応な実力があるという凄まじく厄介な存在。
(理想は生け捕って永江衣玖に天界へ連れ帰ってもらうことだが…レミリアの介入を察して守矢の二柱まで出てきちまうと妹紅と咲夜でも奴の生け捕りは難しくなる。それこそ守矢の二柱が比那名居天子を天界に追い返してくれるのが理想形か)
少なくとも今の時点では博麗の巫女と魅魔は比那名居天子を天界に追い返す気が無いのだから、奴の撃退は俺の協力者か守矢神社・永遠亭連合で行う必要がある。だが奴の目的が守矢神社・永遠亭と協調出来るものの場合、敵の敵は味方で博麗の巫女・魅魔一派と守矢神社・永遠亭連合を協調させられる立ち位置にいるのだ。そう動かれるのが最悪のパターン。
比那名居天子と射命丸なら簡単に協調という話にはならないとは思うが…守矢の二柱と飯綱丸が出張ってくると一時停戦から明羅を通じて博麗の巫女・魅魔一派が妖怪の山と協調する可能性が出て来る。そうなる前にリリカ・雷鼓・永江衣玖がルナサ達と合流出来ればいいんだが…
(厳しいだろうな。
そうなるとやっぱレミリアを頼るしかないか…神綺様がこっちに来てから力を貸してもらうつもりだったんだが)
俺にとってレミリアは最後の手段。刹那的で享楽的なレミリアを頼ると潜伏にならなくなる…攻撃は最大の防御とばかりに俺の追手から逃げるのではなく、追手を潰す方向に動いてしまうからだ。紅魔館全体が俺の協力者となってくれるから、一気に戦力は増えるとはいえ…それを潜伏ではなく撃退に使われるのは俺にとって不本意なのだ。
俺を幻想郷から追放しようとしている相手はともかく、魔界に連れ帰ろうとしている皆になるべく実力行使はしてほしくないのだから。
…『甘えたことを言わないようにねお兄様?』と返されるのが目に見えてるが。
どちらにしろなるべく早く紅魔館に出向く必要がある。余計な相手にまで喧嘩を売ってこれ以上敵を増やさないために【戦うべき相手と放置する相手】を伝えなければならないのだから。
自ら動き咲夜を派遣した時点で、レミリアも俺が紅魔館を訪ねることを前提にしてくれるだろうが…俺がレミリアに会いに行くのが遅れるほど
これは俺にとってもありがたい指示だが、次もありがたい指示を出してくれるとは限らないのだからな。
そう次の目的地を決めたところで、予想外の動きが続く。
(―――ッ!?
夢子があの邪仙と共に異界に向かったのか?相変わらずハイリスクな行動も躊躇わないな)
ユキと夢子がアリスと共に命蓮寺に向かったことは把握していたし、そこに霍青娥が乗り込んだのも察知できていた。流石にあの邪仙も6人相手に単身で戦うことはないと踏んだから気にしないでいたが、夢子単独で霍青娥の誘いに乗るというのは予想していなかった。おそらくは何かしらの取引に応じて仙界に向かったということだろうが…
(ユキを護衛に残して単独行動を選ぶか。夢子がここまで過保護なのであれば…やはりアリスは特別な存在ってことだな)
神綺様が個人的に目をかけているだけでなく、夢子もアリス個人を気にかけている。そして、魔法使いではなく人形遣いとして幻想郷で過ごしている…
(条件が揃い過ぎてるな。それなら、別の使い道もあるってことか…―――ッ!?)
そして本命も動く。永遠亭を監視するよう命じていた白鳩がフラワーマスターに壊された。案の定永遠亭は動かず。博麗神社に向かわせた白鳩は放置されている…正確に言うと摩多羅隠岐奈本人が直々に博麗神社に出向いていたので、先程まで気付かれない位置で一時停止の命令に出し直していた。摩多羅隠岐奈は既に神社を去っているが、魅魔が連れてきた戦力を動かした以上博麗神社の面々は警戒度を上げているはず。その状況で白鳩を近付けるのは危険。そのため中途半端な位置で待機しているのだが…
(あの位置じゃ囮だって言ってるようなもの…これはどうするべきだ?
近寄らせて警戒を上げたであろう魅魔に壊させるか、風見幽香がもう一つも壊しに動くことを信じて博麗神社まで誘導するかだが…)
俺にとっての理想は風見幽香を博麗神社に集まる面々と争わせることなのだが、白鳩をどう見るかによっては逆に協調される危険もあるのだ。フラワーマスターを博麗神社まで誘導するのはハイリスクハイリターン。しかし誘導するよりも先に白鳩が魅魔たちによって壊されると、風見幽香がこの小屋周辺を捜索する可能性もゼロではない…
(迷ってる時間は無い、魅魔に壊させるなら急ぐべき…)
そして、俺はここで最悪の出目を引くことになるのだ。
レミリアは責められないし、永江衣玖も責められない。ただただ、最悪のタイミングが重なっただけ。
誰が悪いかと言ったら、一人だけ探査・索敵に集中していた俺。ほぼ同時に3ヶ所で起こった衝突だけに気を取られ過ぎたことで―――最も危険視すべき相手への警戒が緩くなっていたのだ。
ここに来て…皆の助力が水泡に帰す、致命的な一手を打たれることになる。