「筋は悪くない、でも経験不足だね!スペルカードルールも良し悪しってことかな?」
「くっ、何も言い返せませんね…!」
「随分と余裕じゃない…!私なんて本気を出さないで十分とでも思われてるわけ!?」
「私は集団戦に向いてないのよ。
妹紅さんと咲夜さんはそれぞれ東風谷早苗さんと鈴仙・優曇華院・イナバさんを1対1で食い止めて下さっています。巨大化を解除しても後方からの援護射撃はすると約束したのですが、必要なさそう…というより私の未熟な魔法ではむしろ邪魔になってしまいそうです。
それを妹紅さんも咲夜さんも理解していただけたようで、お二人が逆に指示を出してくださいました。今の私たちの状況なら―――!
「爆ぜろ!『トライアングルグレネード』!!」
「スーさん、合わせて!!」
「くそ、どんどん息が合ってきてやがる!こんな人形共を放置してたら手に負えなくなるぞおい!」
「やる気がないのなら帰ってくれないかしら」
「わっと!?無事に帰す気ないだろお前らは!?」
「そりゃ、ケンカ売ってきたのそっちだし!二度と来る気にならないようにしなきゃ意味ないもの!」
前衛に出て来た二人より戦力的に劣る河童と山童を、人数差で先に押し切ってしまう!!私とメディは経験不足ですし、カナさんとルナサさんも全力を発揮できる状況ではありませんが…二人で一人に当たることを徹底すれば勝機は十分にあるのですから!!
「上海、上お願い!」
「わかりました!カナさん!左側の流れ弾に気を付けて下さい!!」
「OK!ルナサ、突撃の援護頼むわね!」
「任せて…!《ストラディヴァリウス》!!」
メディが毒霧を散布したエリアを利用することで、巨大化を解除した本来の大きさの私でも前衛に回れます。それを利用して前衛後衛を頻繁に入れ替えることで、たかねと呼ばれていた山童さんを追い詰めていきます!逆にカナさんとルナサさんは、カナさんが前衛・ルナサさんが後衛を徹底的に維持することであまり戦闘に乗り気でない河城にとりさんを上手く封じ込めてくれています…!
このまま、押し切れる。そう考えてしまったのが、私の経験不足で。
「おいにとり!こうなったら止む無しだろ!
手を貸しな!」
「ちっ!仕方ないな!
ちゃんと決めろよ!!」
ここに来て覚悟を決めたのか、後衛に徹していた河城にとりさんが前に出てきました。ですがそれに惑わされることなく―――
「これも実体がある武器だからね!機械壊しちゃっても謝らないわよ!!」
「ふざけんな!修理代はキッチリ請求してやるさ!!」
カナさんが道路標識を構えて迎え撃ち、ルナサさんはたかねさんも巻き込めるように弾幕を再展開。下方の植物を利用したメディの毒霧と挟み撃ちになるように、私も舞い落ちる雪を利用した青の魔法を―――
放とうとしたところで、まんまと引っ掛かってしまいました。
「ハッ!これなら騒霊にも効くだろうよっ!!」
――カッ!!
「「「「キャッ!!?」」」」
にとりさんとたかねさんが前衛後衛を入れ替わるため交錯する、私たち全員の視線が集まるその時。戦闘慣れしていない私たちは完全に乗せられてしまったのです。
凄まじい閃光と爆音が発されて、一時的な行動不能に陥ってしまいました。
「うおっ!!」
「きゃあっ!?」
「くっ、
あの山童、こんな近距離でなんてもの使ってくれるのよ!?私は最高のタイミング…完全に光源に背を向けた位置だったから爆音による最小限の被害で済んだんだけど、付き合わされてる相手が悪い!
「…やられたわ」
光源に背を向けた私を相手にしてたってことは、咲夜は思いっきり聴覚だけじゃなく視覚にもダメージを受けたはずなんだけど…何の影響もなかったように平然と私を見据える。
(本当にルール無しだと強過ぎるわよ、咲夜の能力は!)
時間を操る程度の能力。今回は【時間を止めることで視界と聴覚の回復を自身一人だけ済ませる】って使い方でしょうね…!メインターゲットの騒霊と人形だけでなく、妹紅さんすらまだ視界を取り戻してないのに咲夜は既に態勢を整えてる。被害の小さかった私が隙を突いて一人だけでも脱落させられれば少しは楽になったんでしょうけど、咲夜を無視して別の相手を狙うのは無謀過ぎるわ。
…もっとも、その無謀を通せなかった時点で私の敗北は決まってたんだけど。
「―――で、まだやるの?鈴仙」
「あまり舐めないでよ。多少聴覚をやられたぐらいで降参するわけないでしょ」
「そう。
なら、集団リンチも覚悟の上ってことね?」
そう咲夜に言われて、やっと気付いたわ。
「―――っつー…そうだったな。陸に上がった河童が山童、山童が化学兵器を持っててもおかしくなかった」
「うぅ…音は耐えられても、光は防げなかった。皆、大丈夫!?」
この中で一番修羅場を潜り抜けて来ただろう妹紅さんと、音に関する能力を持っているらしい私たちの主目的だったルナサ・プリズムリバー。この二人もそれほど時間を経てずに回復して戦闘態勢に戻る…
私に向けて。
「じょ、冗談じゃないわよ…」
「―――!!うう…人形の私でさえこれだけの効果があるなんて。メディは大丈夫ですか…?」
「あ、あまり大丈夫じゃないわ…妖怪化することで、逆に弱点になる攻撃もあったのね…!」
人形二体も行動不能状態からは復帰する。妖怪化したとはいえ、元々は生命を持たない無機物だったせいか五感への攻撃には多少耐性があるみたいね。
…現実逃避に、こんなことを考えてしまうぐらい、追い詰められていて。
「や、やられたわ…ルナサごめん、フォローお願いしていいかな…?」
「ええ、大丈夫そうよ。
…一時撤退を選んだようだから。少なくとも河童と山童はね」
「やれやれ…義理堅いんだか薄情なのか。守矢の風祝は連れ帰るのに鈴仙ちゃんは見捨てるとはね」
「見捨てざるを得なかっただけじゃないかしら?鈴仙の相手が私だったから」
「――!
咲夜さんの能力には、そんな使い方もあるのですね!」
接近戦に持ち込もうとしてた子供っぽい方の騒霊は、まともにくらって戦列にまだ戻れそうにないけど。
「ふざけないで…こんなのどうしろってのよ!?」
「悪いけれど、貴方は豹が最も警戒してた相手の一人なのよ。
このまま逃がすわけにはいかないわ。もしかしたら、あの河童と山童はここを理解できてたのかもしれない」
「月の関係者は、魔界の皆様以上に豹さんと会わせてはいけないのです…!
先に手を出してきたのですから、厳しい対応をされても文句は言えないですよね!?」
「そういうわけでさ。悪いね鈴仙ちゃん、しばらく引っ込んでてもらうよ?」
咲夜一人相手でも本気を出されてなかったのに、姫様と日常的に殺し合ってる妹紅さんまで私に狙いを定めてる。加えて巨大化術式を使いこなす自立したアリスの人形に、後方からの援護なら十分な戦力となる騒霊。こいつら相手の1対4で戦闘になるわけがないわ…!咲夜の言った通り、一方的に蹂躙されるだけ。
ダメ元でテレパシーを使って清蘭と鈴瑚に救援を頼んだとしても、メディスンともう一人の騒霊の復帰の方がまず早いわ。完全に、詰んでる。
「それでは、鈴仙にはここで退場してもらいましょう」
咲夜が終わりを告げるように、私との1対1では出さなかった量のナイフを用意する。
だめ、咲夜がいる時点で逃げることは不可能。妹紅さんがいる時点で戦闘に勝つことも不可能。
あーあ、永琳様に治療されながらの長ーいお説教が確定だわ…
「まあ待ちな。私が拾った情報をくれてやるから、その兎も見逃してもらえないかねえ?
早苗たちも状況がはっきりするまでは大人しくさせるからさ」
―――ここに来て、ついに出向かれてしまったと言うべきかしら。背中に注連縄を背負った神…八坂神奈子が割って入って来た。
「ルナサちゃん、どうしたい?今ここにいる中で一番広い視点を持ってるルナサちゃんが決めてくれ」
「そうね。私はまだ情報不足だから、全体の判断は任せるわ」
妹紅さんと咲夜…私より格上の二人が判断を任せてくれたわ。本来であれば妹紅さんが方針を決めるべきなのでしょうけれど、この戦闘に関しては襲撃されたのが
「わたしもルナサに任せるよ。この神様がどこまで信用できるのか全然わからないし」
「私が口を挟むべきではないと思います。ルナサさんが確認したいことがありましたらお答えしますが」
「上海が納得してるなら、私もそれでいいわ」
カナと上海とメディスンも、私に決めさせてくれるみたいね。満場一致…その分責任は重大だけれど、ここまで信頼されて裏切るわけにはいかない。
今ここに豹が居たなら、何を要求するかを考えると…
「―――見逃すでは足りないわ。
ここからその兎を連れ帰るというのであれば、魔界神が幻想郷に到着するまで【その兎を守矢神社で拘束して永遠亭に返さない】のが条件よ。
それが出来ないのであれば、貴方とここで戦ってでもその兎を連れ帰るわ」
「――っ!?」
「ははっ!楽団と聞いていたけれど、私と戦う選択が出来るだけの肝が据わってるなんてねえ!
面白いじゃないか…早苗が不覚を取りかけるのも仕方ないわ。いいだろう、神綺が幻想郷に来るまではこの玉兎、守矢神社で預かろう」
「玉兎はテレパシーを使えると豹から教わってる。それも防いでもらいたいのだけど、何か手段はある?」
「っ!?どうしてそれを!?」
「諏訪子の呪いでどうにかしよう。ただし、帰り道で使われるのまでは防げないよ?」
「…それは仕方ないわね。皆は、他に何かある?」
「ちょっと!?勝手なこと「少し黙ってな玉兎、この場に取り残されたくなかったらね。
お前は地上の弱者を見下しているのが隠し切れていない。早苗だけ助けられた理由が、自分にもあるということを自覚しろ」
「…っ!!」
―――怖い。私が真正面から立ち向かえるような相手じゃない…兎を黙らせるために出したその
でも、今私が気圧されるわけにはいかない…!妹紅さんと咲夜は平然と受け流している。それなのに交渉を任された私が動揺を表に出しては、信頼を裏切ることになるのだから。
「そうだな、リリカちゃんを追った烏天狗もどうにかしてもらおうか」
「悪いね、私はあくまで大天狗の依頼に早苗を派遣しただけの立場なんだ。だから早苗の危機には出張れても、天狗の動きに介入することは出来ないのさ。契約ってのはそういうものだ」
「それなら長々と話すべきではないわね。ルナサ、手短に終わらせましょう」
「そのようね…!それじゃ、貴方が拾った情報を教えてちょうだい。それだけ話せばその兎を連れ帰って構わないわ」
「交渉成立だな。
まず一つは、日暮れごろに豹とやらを襲った鬼・星熊勇儀は地底に帰ったのを確認した。それからしばらく後に、茨華仙も地底に向かっている」
「「――!」」
カナと上海が何か反応してるわね。たぶん、椛からある程度の状況を聞いていたってことだわ…予測の裏付けになっているのかだけ後で聞いておきましょう。
「もう一つは、摩多羅隠岐奈という幻想郷の管理者が魔界と繋がっている可能性がある。大天狗の腹心に接触してきた魔界の使い魔が居て、軽く探りを入れたら該当者が少な過ぎて特定できたそうだ」
「「「えっ!?」」」
それは私とカナ、上海にとっては思わず声が出てしまうほど不意打ちが過ぎた情報。摩多羅隠岐奈が動き始めていることはメディスン以外はもう把握しているはずだけれど、妹紅さんと咲夜にはエリスとフラワーマスターの件がまだ伝わってなかったみたいね…!
エリスっていう悪魔がフラワーマスターを利用したというのは、あくまでエリス個人の行動という可能性も残っていたのだけれど。くるみとエリーが一番警戒していた幽玄魔眼…そいつも幻想郷で暗躍していたのであれば、エリスと幽玄魔眼が摩多羅隠岐奈と繋がってしまったのが確定したということだわ!!
「どうやらこっちは役に立ったみたいだね。
これは私がお前さんたちとの停戦交渉に来た理由でもあるのさ。摩多羅隠岐奈が魔界と繋がろうとした、それはつまり八雲紫と摩多羅隠岐奈で豹への対応が割れているということだ。情報を集めないと豹への正しい対応が分からん。だからしばらく早苗は大人しくさせるよ、ついでにこの兎もね」
「…ええ、それは守ってもらうわよ。
貴重な情報に感謝するわ」
「あと、全く関係ないかもしれんが教えておこう。お騒がせ者の天人くずれが例の烏天狗の元に向かっている。騒ぎに巻き込みたくないなら急ぐんだね。
それじゃ私も帰らせてもらうよ」
「「「「「なっ!?」」」」」
これに反応しなかったのはメディスンだけだったわ…!ここに来てとんでもない厄介者が絡んで来るなんて!
私たちとこれ以上話す気は無いと言うように、話を切り上げ玉兎の首根っこを掴んだ八坂神奈子が守矢神社に飛び去る。それを呼び止める暇なんてなくなった…!
「まずいよね!?リリカのところに急がないと!」
「カナ、落ち着け。これは少し情報を整理するべきだ」
「そうでしょうね、とても厄介な状況になっているようです。
手短にミーティングをしておくべきですわ」
妹紅さんと咲夜がカナを落ち着かせてくれた。でも時間が惜しいのに違いは無い。
「ええ。少なくともここにいる皆全員で動くのは避けて、分散した方がいいようだわ」
だからこそ、視点が広い私が中心になってミーティングを進めないと…!