寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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主人公である豹は、得意魔術に関してはチートです。
逆に、苦手な魔術に関してはまともに使えません。

攻撃魔術が不得手なので、常時逃げの一手です。要するに弾幕ごっことかできません。


第2話 罪状:人形誘拐

状況は最悪だがまだ運に見放されてはいなかったらしい。屋根を駆け抜け人里の外に飛び降りるまで、俺を視認できた相手はほぼいなかったようだ。見つかっていたらもっと騒ぎになるはずだからな。

 

俺を見失わせないよう追手に合わせて速度を調整していたが、ここからは相手の出方が絡んでくる。まず人里の外まで追ってくるかどうか。引き返されると隠れ家への帰還は簡単になるが、のちのちあの優秀な人形を含めた戦力から逃げなくてはならなくなる方が危険なのだ。あの一体だけでも孤立してるうちに無力化しておきたい。理想は確保した上で囮に使い時間を稼ぐこと。

 

実際のところ必要以上の恨みを買う可能性がある以上、破壊という選択肢は取れないのだ。彼女の操る人形だけでも逃走が難しいところへ、余計な火種を作って協力者を募られたらまず逃げ切れない。例えば紫さんや藍に協力されたら即終了だ。俺も空間系魔法の心得はあるが、彼女たちにスキマを駆使されたらどう足掻いても捕まる。

 

次に人形が高度を落としてくれるか。人里から離れたとはいえ、遮蔽物のない上空で仕掛けるのは目撃者の点でリスクが高い。さらに言えば飛行能力を持つ相手=要警戒対象なのがほとんどなのだから、下手を打つと全く別の追手が増える。実例を挙げれば取材と称して俺の尻尾を掴もうとしてる天狗とか。逃亡者が記事にされるとかネタにもならない。

 

人里から死角となっている障害物…大岩に向けて仕込みを放り投げる。降りてこなかったら無駄使いだが、今はそんなこと言ってられない。むしろ使わなかった場合に他者に回収される方が怖いのだが…どうやらそう上手くはいかないようだ。

 

(ここまで追っては来てくれたが…地上まで降りてはくれないようだな)

 

途中から意図的に誘導したとはいえ、寺子屋から迷わず付いてこれるのだ。追跡は上空からでも十分ということだろう。となるとリスクを負って上空で仕掛けるか、隠れ家近辺まで引き込むかだが。

 

(驚くほどルナサが長々と足止めしてくれてるんだよな…)

 

寺子屋からアリスがこちらに向かってくる気配がないのだ。というかいまだに二人で話し込んでいるようで反応が動いていない。俺の身の上話なんてルナサに聞かせた覚えは無いのになぜ話題が尽きないのか。

…いや、逆か?アリスの方が俺の情報を先に得ていたのか…!?

 

「そうだとすると本気でまずい」

 

思わず口に出してしまったほどヤバい見落とし。直接俺に会いに来なかったから考えから外してたが、彼女が俺への追手でルナサに協力を求めてる可能性があった!ルナサ自身はともかく楽団のファンなら平気で俺を売りかねない!

平和ボケどころじゃない、完全に油断と慢心だ。自分がいかに堕落してたのか思い知った。

 

(だが、逆にこれで覚悟は決まった。悠長にしてる場合じゃない!)

 

…豹が完全な勘違いだと知るのはもうしばらく先の話である。

 

 

 

 

 

時間は少し巻き戻り、こちらは2人の金髪美少女。

 

「そう言われても、豹のことは私もよく知らないわ」

 

豹は私にとって特別な存在なのは事実、でもそれは一演奏者としての話。本当に追われる身だったというのを今初めて知った程度の付き合いでしかないのだ。…妹たちには「奥手すぎる!」とか好き放題言われてるけれど。

 

「鬱の音の影響を受けず、ソロでも普通の音楽として聴いてもらえる。私にとってはそれだけで気を許したくなる相手。距離を取られたくないから、豹が話そうとしないことは聞いてないのよ」

 

…自分で言っておいて妹たちに何も反論できないのに気付くのが悲しいわ…

 

「あなたの音に影響されない?それは妹の音にも?」

「メルランも驚いてた。…その反応だと、魔界人の種族特性というわけではないのかしら?」

 

豹が話してくれた数少ない彼自身の話。

 

「他者からの精神的な干渉・影響を受けない、と豹は言っていたわ。元は洗脳や催眠を防ぐためとも」

「少なくとも魔界人の特性にそんなものはないわ。というかどういう状況を想定して与えられた能力なのよそれ…」

 

なぜかアリスが頭を抱えている。

 

「幻想郷に逃げ込んできたと聞いてるから、そういった魔法が飛び交ってる世界出身だと想像してた。違うの?」

「魔界はそんな物騒なところじゃないわ…まあ使える存在はいるだろうけれど。そんな魔法を悪用したらさすがに母さんが…」

 

何か言いかけたけど言葉を飲み込んだわね。というより…

 

「随分と魔界や魔界人について詳しいみたいだけれど、アリスは何を知っているの?」

「知っているも何も、私はもともと魔界から幻想郷に来たのよ」

「…ああ、そういうこと。豹はアリスを追手かなにかと判断したのね」

 

 

 

「話も聞かずに追手扱いして逃げるって、彼はいったい何をしたのかしら…」

 

彼を見かけたのは偶然だった。寺子屋で人形劇を開いてほしいと依頼があり、話を聞くと大道芸の形で開かれる劇を見るのを止められている過保護な親を持つ少女がいると。寺子屋内であれば大丈夫なんじゃない?と思い至った別の少女が慧音に頼んだそう。

 

過保護な親という話で状況を察せたのは複雑な気分だけれど、断る理由もないから引き受けた。意外なことに少年もそれなりの数が楽しみにしていたらしく、今日は欠席が居なかった!と慧音がご機嫌だったけれど…私が思ってるより出席率は悪いのかしらね。少年少女問わず受けの良さそうなヒーローとお姫様が結ばれるハッピーエンドの物語はとても好評。また来てねお姉ちゃん!と私もいい気分になれたところで、懐かしい魔力を寺子屋の奥から感じたのだ。

 

「私からすれば、本当に逃げなきゃいけないというのが驚き。親しいなんてとても言えない付き合いだけど、豹が悪事を働くとは思えない」

 

…自覚してないみたいだけれど相当やられてるわねルナサ。本当に悪党だったら手遅れじゃないの?

楽団のリーダーらしいけどコロッと騙されそうで不安になるわ。

 

「少なくとも、今の魔界は幻想郷とそう変わらない程度には平和よ。霊夢たちが乗り込んできたら大惨事になったぐらいには」

「…風の噂で耳にはしたけれど、あの巫女がまず実力行使なのは昔からなのね」

 

当時は靈夢だったからもっと酷かったのだけれど、そこは教える必要ないわね。今ではだいぶ丸くなったというのを信じるのは幻想郷にどれだけいるのかしら…

 

「だからこそ私も予想がつかないの。今の魔界から逃げなきゃならないようなことをしたのであれば、私が把握できていないとは思えないのに。心当たりが全くないのよ」

 

可能性としては私が魔界から出てきた後の話だけれど、そうだったらあの過保護な母さんが伝えないはずはないのよね。…こういう方向では本当に信頼できるのが何とも言えないわ…

 

「……ひとつ、聞いていい?アリス、実は見た目通りの年齢だったりする?」

……あ。

 

「そういえばその可能性の方がありそうね…ということは彼、それなりに長く幻想郷にいるのかしら?」

「私と知り合ったのはそれほど昔というわけではないけれど、竹林の案内人と古い付き合いとは言ってたわよ」

 

予想以上に大物の名前が出てきた。あの蓬莱人と古い付き合いって…とんでもない危険人物の可能性があるじゃない。

いえ、ちょっと待ちなさい。魔界人でありながら随分と魔力を抑えてるとは思ったけれど、私、上海単独で追わせたわよね。本当に彼が悪人だとしたら―――ッ!?

 

「やられたっ…!とんでもないやり手だったらしいわねっ!」

 

上海との魔力のパスを断たれた!上海の位置を把握すると人里を出てすぐに動いてる。つまり完全に泳がされたということ。残留した魔力を使い切ると追えなくなる!

 

「ルナサ、今度また話を聞きに行くわ。出来れば少しでも情報を集めておいて頂戴」

言うが早いか私も外へ飛び出す。自業自得だけど面倒なことになりそうね……!

 

「ちょっと待っ…!」

後ろからルナサの声が聞こえたけれど、流石に返す余裕はなかった。

 

 

 

「何が起こってるのよ…」

豹に続いてアリスも飛び出していった。それにあの様子を見る限り衝突は避けられなさそう。私も追うべきなのだろうけれど…

 

「私がそれを聞きたいんだが…どういう状況なんだこれは」

寺子屋の先生が戻ってきていた。私が口止めしておかないと、余計騒ぎが大きくなる。

 

(…無事でいて)

 

今の私には、そう願うことしか出来そうになかった。

 

 

 

 

 

なんの予兆もなく高速で反転した俺に対し、人形は急停止しようとした。…声を発したように聞こえたのは幻聴だろうか。しかし風魔法も利用した高速移動だ。追跡中の速度を基準と判断していただろう人形との距離はすぐに詰まる。

 

\…!!/

 

人形が騎兵用の馬上槍を模した得物をこちらに構える。だが遅い、俺の本命はこちらだ。

接近と同時に指で弾いた指輪が人形の背後に達したタイミングで魔法を発動。

 

\ッ!?ヤメロバカー!/

 

…幻聴じゃなかったか。普通に喋っているな、この人形。魔力供給用のパスを空間ごと強引に断ち切ったのだから、残留した魔力が切れると何も出来なくなるはずだが…ジタバタするのと俺を罵倒することに魔力を使うとは。優秀ではあるが経験が足りていない。そもそも人形が経験を得ること自体普通は無理なのだから仕方ないが。

 

まともな攻撃魔法を使えない俺の基本的な戦闘方法…空間魔法の応用。今回は対になる指輪を核にワームホールを創り出し、手元に残した指輪から入って人形の後方から出てきたのだ。魔力供給用のパスには視認阻害魔法をかけているようだが、俺が通れるサイズのワームホールをアリスのいる方角に発生させればこの可愛らしい小さな人形への経路は切断できると踏んだ。読みが当たって幸いだった。

 

「言葉が話せるのなら、俺の言葉も通じるな。これ以上手荒な真似はしないから、魔力を温存するためにも大人しくしていろ」

\…ハイ/

 

全力で隠れ家のある森へ向かいつつ、後ろから首根っこを掴んだ人形の周囲にピラミッド型の魔力遮断領域を展開する。これでアリスが人形の魔力反応を追うことはできないはず。人形の落としたランスと使う機会のなかった仕込みを置いてくのはリスクを伴うが、早速アリス本人がこちらに向かっている。とりあえず視認されないよう森へ逃げ込むのが最優先だ…!

 

 

 

「間に合わなかったわね…」

 

上海に持たせていたランスを拾い上げながら、彼らしき魔力反応が消えていった森を眺める。人形劇を演じた直後だったので、戦闘に耐えうる人形が少ないのも運が悪かったわ。まだ昼といえる時間ではあるけれど、森を捜索するとなると夜になってしまうでしょうね。

 

(仕方ないわ。しっかり準備して出直しましょう)

 

上海のことは心配だけれど…今は彼が理性的であることを信じるしかない。ルナサによれば悪人とは思えないということと、初手で私と上海のパスを切ったという行動を合わせて考えれば、上海が壊されるという可能性は低いはず。そう仮定するなら私がまともに戦える状態にすることを優先するべき。

 

「でも本当に間が悪い…先月母さんが来てたのに」

 

過保護で自由な母親だけれど、あれでも魔界神。こちらに来るのは不定期だし、そう頻繁に来ようとしても夢子に止められるはずなのよね。かといって私から連絡したら話を聞くだけと言おうが即日こちらに乗り込んでくるでしょうし…

 

(サラに頼もうかしら。でもあの扉まで遠いのよね…こうなると上海を連れ去られたのが痛いわ)

 

上海になら伝言と手紙を持っていかせるという手が使えたのだけれど。蓬莱は上海ほど不測の事態に対応できないのよね。今の状況で単独行動させるのはリスクが高い。

 

(上海を救出して、それでも逃がしたらサラに聞きに行きましょうか)

 

アリスも戦支度のため一瞬の戦場を去る。そして…

 

 

 

「ふむ、これは…」

 

ダウジングロッドを携えた少女が、使われることのなかったリングの片割れを見付けていた…

 

 

 

 

 

「なんとか撒いた…か」

 

アリスの反応が魔法の森の方角へ向かっていく。おそらく戦力を整えることを優先したのだろう。

 

\ソンナア…/

 

心なしか人形がしょんぼりしている。…恐ろしく精巧な人形だな。完全自立するのも時間の問題じゃないだろうか。

そう感じて、一つの仮説が頭に浮かんだ。

 

(そうか、彼女こそ神綺様の…)

 

もしこの予想が当たっているのなら、俺が今すべきは。

 

「落ち込むことはない。全力で君を助けるための準備をしに戻っただけだ」

\エ?/

「アリスは君を見捨てるような主人じゃないだろう?それは俺より君の方が知ってるはずだ」

\…ハイ/

 

しばらくここには戻れない。となると…これは解除すべきか。ここからは時間との勝負。まずは説得しないとな。

隠れ家を覆っていた領域を解除する。するとそれに気付いたらしく、カナが珍しく外まで出てきた。

 

「おかえりー。なにかあったの?豹。って、かわいいお人形さん!わたしへのプレゼントね!」

\チガウ!/

「とりあえず時間がない。準備しながら話すから、カナはどうしたいか聞かせてくれ」

 

 

 

いつの間にか隠れ家に取り憑いたルナサの同族…騒霊の少女、カナ・アナベラル。彼女は主人不在の家で留守番を引き受けてくれるだろうか…

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