寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第20話 満場一致の厄介者

「紫さま、それではお世話になります」

「ええ、今までで最も重い案件になるでしょうけれど、橙にとって良い経験になるはずよ。

今の自分に出来る限りの力を尽くしなさい。及ばなければ藍だけでなく私も補助するわ」

「はい!とっても心強いです!」

「ああ、頼むぞ橙。そういえば夕食はどうする?」

「あ、しばらく留守にするのでマヨヒガの仲間と食べてきましたので、大丈夫ですよ」

 

夜も更けた八雲邸。準備を済ませた橙も合流して、状況の整理。

 

「ルナサからの接触が無かったということは、豹の早とちりで決まりのようね。私たちとしては少し余裕ができた…予断は許さないけれど」

「はい、私の方で様子を見に行きましたが、さっそく藤原妹紅のもとへ向かっています。初手はうまく動いてくれたようですね…ただ、その後になぜ命蓮寺へ出向いたのかまではわかりません」

「命蓮寺、ねえ。豹の足取りを知るはずが無いから問題は無いでしょうけど、神綺と繋がりがある可能性はゼロじゃない、と。…明日、揺さぶりを掛けに行きましょうか。交渉しておきたいこともあるしね」

 

今の段階でアリスが命蓮寺に向かう理由は、魔界に封印されていた聖白蓮しか見当たらない。封印から解放までの時期を照らし合わせれば、豹が命蓮寺に集まる面々と関わりがある可能性はほぼゼロ。警戒する必要はないけれど…神綺とあの住職が協力関係にある可能性は見ておくべき。それならば幻想郷の管理者として、先に脅迫して手を切らせなければね。

 

「交渉、ですか?それも紫様が直々に向かう必要があるほどの?」

「ええ、神綺との繋がりを断てるなら、あの寺の地下は豹にとって実に都合の良い場所になるわ」

「夢殿大祀廟ですか。たしかに、豹からすれば隠れることにもおびき寄せて脱出するのにも使える立地ですね。

そうなると、私は引き続きアリスたちを追いますか?」

「いえ、それは橙に任せるわ。アリスはもうしばらく夢幻館という答えに達することは無いでしょう。魔界と連絡を取るような様子が無ければ危険視する必要は薄い。ただ…橙、アリスが風見幽香のところに向かいそうであればすぐに藍に取り次いで。あと、二手に分かれた場合はルナサが居ない方を優先して追って頂戴」

「わかりました!」

 

藍には幻想郷屈指の厄介者を押さえてもらわなきゃならないのよ。昔の一件があるから、大天狗への使者として適任だしね。

 

「藍は龍に手を回して頂戴。例のブン屋が豹をしぶとく狙ってたようだけど、今となっては嗅ぎ回られるだけでリスクになる。余計な事を言う奴も黙らせておきたいから、お願いするわ」

「お任せください」

 

明後日には豹と接触して、神綺をおびき寄せる日を決めておきたい。出来ることなら、冬が来る前にある程度の目途は付けておきたいけれど…どうなるかしらね。

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日の収穫はこんなところね」

 

 

 

・藤原妹紅は考慮に入れなくていい。立地的に豹が頼ることは無い。

・永遠亭も考慮の必要なし。ただし人里に顔を出す兎の薬売りは要注意。豹の話題は避けること。

・命蓮寺もおそらく無関係。念のため週末にナズーリンと接触はする。

・エリーに関しては手掛かりなし。

 

 

 

「…新しい情報は永遠亭に気を付けるべき、ということぐらいかしら。わかってはいたけど、前途多難になりそうね」

「元々の情報が少なすぎるからね~。まあ今日は地下室でも時間取られちゃったし、仕方ないよ」

「私が頂いた記憶も、僅かでしかないですから…地道に探していくしかないのでしょう」

 

仕方ない、その通りではあるのだけれど。これではすぐ手詰まりになりそうなのよね。母さんに聞くことを避けるとなると、もう少し視野を広げる必要がある。

 

「とりあえず、明日は鍵山雛に話を聞く。それで駄目なら八雲紫か春告精になるのだけれど、この二人は簡単に会えると思えない…だから次の当ても付けておきたい。

―――私は、この次はレミリアに話を聞こうと思うのだけれどほかに意見はあるかしら?」

 

手当たり次第になるなら、少しでも繋がりのありそうな相手から。

 

「なるほど、エリーという名前からね」

「そうよ。妹紅はあれで慧音と親しいから、人里にいないという信憑性はかなり高い。となると妖怪になるのだけれど、魔界人である私とルナサたちを除けばもう西洋に所縁のある妖怪はレミリアぐらいしか思い浮かばないわ。

…というより、これでレミリアが知らなければ母さんを頼るのが一番現実的になる。接触の困難さという問題でね」

「そうなるよね~。リリーはともかくスキマ妖怪はどうやってコンタクト取ればいいのか…」

「ルナサさん、昨日接触した際に、豹さんを見つけたらどうやって連絡を取るかの指示はあったのでしょうか?」

「…マヨヒガに来れば私か橙が気付くはずだ、とは言っていたわ。ただ、アリスに協力した私と素直に会ってくれるかどうか。今日聞いた限りだと、魔界神がアリスに会いに来てるというのは知られているのよね?」

「ええ、そう考えると私は敵視されてると見るべき…ルナサが手を貸してくれたのはありがたいけど、少し間が悪かったわね。昨日の時点で詳しい話をしておければ…」

「…そこは悔いても仕方ないわ。でもあちらも豹を探しているようだから、情報交換ぐらいはしてくれるかもしれない。そのためにも、魔界神に聞く前に出来る限り幻想郷で情報を集めるべきじゃないかしら」

 

そうなるわよね。このタイミングで私から魔界に連絡を取れば、私が豹を捕らえるために応援を頼んだと見られるでしょう。その状態で豹に会おうとすれば、下手すると霊夢まで加わって妨害される可能性が出てくる。さすがにそれは割に合わないわ。

 

「私も昨日の時点で妹と雷鼓に協力をお願いしてるけど、はっきり言って期待は出来ない。けれど、一つ試したいことができた…カナ、例の二胡だけれど私が持ち出していいかしら?」

「大丈夫だと思うよ。楽器に関しては、私よりルナサの方がずっと大切に扱ってくれるだろうしね」

「うん、それは約束する。それでなのだけれど、一度私にも付き合ってくれる?弾けるかどうか、試してもらいたい相手が二人いるわ」

「え、二人も?」

「琵琶の付喪神と琴の付喪神の姉妹が雷鼓の知り合いにいるのよ。私が弾けるのであれば、同じ弦楽器の彼女たちならもっと詳しいことがわかるかもしれないわ」

「いいわよ、えっと………」

「冴月麟さんかな?」

 

カナが答えてくれたけれど…もしかしてこれが忘れてしまうということ?

だとすれば、恐ろしいわね。私は全く自覚出来てなかったわ…

 

「そう、冴月麟。彼女のことは全くわからないから豹と同じく当たれそうなところは総当たりしていいと思うわ」

「ありがとう。それと妖怪の山だけれど、出来れば私は全員で向かいたい。というのも天狗のブン屋が豹を狙ってるから、まず間違いなく私が出向けば飛んでくると思うわ。そこをここにいる4人がかりで脅して余計なことをさせないようにしたい」

「ああ…文が狙ってるのね。わかったわ、たしかに今の状況で騒がれるのは困る。どうせ目を付けられるなら、一番厄介なのを黙らせる機会にするのは合理的。その方向で動きましょう」

「ありがとう、助かるわ。私たち姉妹じゃ引き下がらなくて困ってたのよ」

 

相変わらずあのゴシップ記者は…誰に対しても迷惑をかけてるのね。

 

「それでは、明日もここで皆様と合流ということでいいのでしょうか?」

「そうね、ただ集合は午後になってからにしましょう。妖怪の山はともかく、春告精の方の当てが博麗神社なのよ。だから私一人で朝のうちに行ってくるわ。大人数だと霊夢に感付かれかねないから」

「…それは確かに。なら私も先に雷鼓に姉妹の居場所を聞いてからここに来るわ」

「わかった、それじゃわたしは待ってるね~。

…ごめんね、あまり力になれなくて」

「気にしないでくださいカナさん。一緒に探してくれているだけで、私は嬉しいです」

「そっかあ。それじゃ、明日もよろしくね上海ちゃん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…二胡が、持ち出された?」

 

こんな状況になってしまったのに、豹さんと無事話せて、次の機会も貰えて。

私は浮かれてしまっていたのかもしれません。それに対する罰だったのでしょうか。

豹さんに贈った二胡が、移動しているのに気付きました。

 

(誰が、何のために?カナさんは止めなかったのでしょうか)

 

豹さんに教えてもらった探査魔法で反応のある方角を調べてみると、誰が持ち出したのかわかりました。

 

「ルナサさん、ですね」

 

豹さんは霧雨魔理沙を警戒してほしいと言いましたが、動かないでいてほしかったとも言いました。

つまり、まだ彼女は動いていない。逆に言うと、これから動く可能性を低くさせる…それが私に求められた【攪乱】でしょう。そうなると、今私が気にするべきは彼女本人ではなく、彼女に情報が流れるような行動をする相手。

 

(カナさんの話からすると、アリスさんとカナさんは協力して豹さんを探すことにした。

 でも、ルナサさんが二胡を持ち出したということは、ルナサさんも協力している?)

 

カナさんには何かわかればここに来ると言ってしまいましたが、元々人付き合いの皆無な私です。そう何人も相手にして、豹さんの行方を上手く誤魔化すことなんてできないでしょう。すぐに忘れ去られてしまうとしても、あまり危険は冒したくない。

 

「…アリスさんといるのであれば、今は協力できないんです。ごめんなさい、カナさん」

 

私は豹さんを失いたくないから。一人取り残されるのが怖いから。

わがままに、ならせてもらいます。

 

 

 

 

 

 

 

 

「夢子ちゃ~ん、ルイズちゃんが幻想郷に旅行に行くんだって!ついて行っていい?」

「駄目です。そもそもなんで許可してるんですか?神綺様がルイズを止めてください」

 




次の更新は火曜日です。
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