寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第201話 天界・夢の世界・仙界

「お礼参りするべきは私の方なのですが?総領娘様はどれだけ天界の規則を破っているのか自覚が足りていません。その後始末に駆り出されているのが我々竜宮の使いだということを知らないとは言わせませんよ?」

「ああん?そんなの私には関係ないわ。歌って踊ってを延々繰り返すだけで侵入者に反応すらしない役立たず共が、規則なんてものを語るのはお笑い種よ。霊夢たちからある程度話は聞いたけど、下手すれば魔界との全面戦争になるんでしょ?

そんな面白い…いや一大事に気付くことすら出来ずにいる無能な天人の代わりに、私が動いてやってるの。気付いておいて利己的に動いた裏切り者を粛正するためにね!!」

 

…本当に面倒なことになってしまいましたね!総領娘様は傍若無人の権化ですが頭は良い。博麗の巫女から得た情報と、天界に蔓延る停滞を自分本位にこじつけることで己の行動を正当化しています。これはそう簡単に天界に戻る気は無いということです。

 

「おやおや、この竜宮の使いが裏切りですと?これはとても良い記事になりそうですな!何があったのか聞かせていただきましょうか」

「そうだな、記事として広まることで私が正しいことを知らしめることになる。好きに書くといい…

いや待て。お前の新聞だとむしろ信憑性が落ちるか?」

「何を仰いますか!?私は日々幻想郷の真実を伝えるべく」

「捏造、脚色なんでもありだと聞いているぞ…人間にも妖怪にも顔が利く魔理沙にそう評されている以上、あんたの新聞の評判はそんなものだ」

「なんですと!?」

 

そして博麗神社に集まっていた一人、侍装束の男装少女も同行していました。案の定あのコソ泥もとい魔法使いの関係者のようですが…どちらにせよこの状況を作り出してしまったのは私です。その責任は取らなくてはなりません。

 

―――そして、援護が私たちに向かって来てくれていることを把握できていたことで。私はすぐ覚悟を決められました。

 

「リリカさん!雷鼓さんと一緒に合流を優先してください!!」

「ッ!?ごめん衣玖さん、お願い!」

「なるべく早く戻るわ!なんとか持ちこたえてよ!!」

「「「っ!?」」」

 

ルナサさんが戦力を引き連れて来て下さっていることに私の言葉で気付いたお二人は、何の迷いもなくリリカさんが来た方向に飛び去ります…!少なくとも総領娘様は私を無視して追いかけることはありません。こうすることで、敵戦力を分散させることは出来る。

 

最悪の事態を招いた私が空気を読んで、捨て駒になりましょう!

 

「あ、待てー!!逃げるなヒキョーものー!!」

「むむむ…!これはどちらの方が重要な情報に」

「あんたは追撃するべきだろうな。この竜宮の使いの退路を断つのが私に命じられたこと…私はあの二人を追う気は無いぞ」

「それは良いことを聞きました。私のためにも上手く動くのですよ、明羅!」

 

背中を向けた相手を反射的に追った氷精は放っておくとして、烏天狗を引き付けられなかったのは申し訳ないですね…!ですが、あの男装少女の名前がはっきりしたのは大きい。先程神社で魅魔さんを師匠と呼んでいたことからも予想出来ていましたが、彼女が明羅―――豹さんを一時的に匿っていた少女。それはつまり、交渉の余地があるかもしれないということです…!

 

「あなたが明羅さんなのですね。メルランさんから貴方が豹さんを匿っていたと聞いています。何故豹さんを幻想郷から追放する派閥に回ってしまったのですか?」

「は?何よそれ。あんたも裏切り者だっての?」

「…そうだな。私は豹にとって正しく裏切り者だ。

だが、魔理沙と師匠を切り捨てて豹を取ることは出来なかった。それだけの話だ…」

「何故でしょうか?豹さんが逃げ切りさえすれば、今まで通り何も変わらない日々を過ごせるはずだと思います」

「ここ数日の豹の動きは、魔理沙にとってはもう《異変》なんだ。こうなった以上魔理沙が大人しくすることは無い。そして、私に魔理沙を止める力は無いんだ…姉弟子として情けない話だがな。

魔界人が魔理沙を許さない以上、私は魔界に手を貸すことは出来ん。師匠と共に姉弟子として、魔理沙を守るべく私も動く。

豹を幻想郷に留めようとしている者の怨嗟を、この身に受けることになろうともな」

 

…駄目ですか。あの魔法使いは本当に好かれていますね…博麗の巫女もそうですが、暴力的な解決が大前提だというのに、被害に遭った方々が簡単に心を許してしまうことこそが彼女たち最大の能力なのかもしれませんね。

 

「逆に私からも聞かせてもらおう。天界の住人であるあんたが、何故豹の力になろうとしている?

私が豹のことを語るのは滑稽なのだろうが…豹が天界と関わることなど無かったはずだ」

「メルランさんのライブを裏方として支えていたという事実だけで、私が豹さんの力になる理由になります。数少ない私の息抜きを提供してくれていたということなのですから」

「はあ?衣玖はそんなことで私を騙したってわけ?」

「そんなこととは何でしょうか総領娘様?

私が息抜きしたくなるほどのストレスを与えているのは総領娘様ですが?」

「知らないわよ、私のやることで勝手にイライラする衣玖が悪い」

「―――呆れるしかないな。魔理沙やあの鬼の対応がよくわかった…手を貸す気にはとてもなれん」

「はん!むしろ衣玖をお仕置きするのに手助けなんて必要ない、引っ込んでろ」

「言われなくともだ。後は勝手にしろ」

 

…味方に付けることは出来ませんでしたが、総領娘様と共闘することを防ぐことは出来ましたね。これだけで十分です。

―――総領娘様一人であれば、問題なく時間稼ぎ出来ます。助太刀に入られることが無いように、なるべく劣勢に見せなければなりませんが…意識せずともその状況になる。この比那名居天子(甘やかされたお子様)は、実力だけはあるのが腹立たしいところですからね!

 

「それじゃ覚悟しなさい衣玖。しっかり借りを返させてもらうわよ!!」

「八つ当たりを大人しく受けるほど私は寛大ではありません。私も遠慮なく日頃の恨みを晴らさせてもらいます!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「お久しぶりですわね。その節はお世話になりましたわ」

「お気になさらず。現の世界の案件に関しての私は力不足…独力で異変を解決することは不可能でしたから。元はと言えばサグメが黒幕だったわけですし、その計画の片棒を担いだ私をお咎めなしで見逃して頂いた恩もありますしね」

 

藍と共に八雲邸に戻り、早速客人との応対に移る。幸いなことにドレミー・スイートは好戦的というわけではないから、交戦を想定しないでいいのは楽ね…夢の世界の支配者である彼女が実力行使に出るのであれば、橙の夢からわざわざ現に出てくる必要が無いのだから。

 

「ふふ、別にお咎めなしというわけではないわよ?私は貴方の存在を報告しなかっただけ…他の管理者が情報収集することで、夢の世界の支配者に辿り着くかもしれないわ」

「あら、それは少々困ってしまいますね。私は現の世界であまり名を知られたくないのですが」

「もっとも、ここまで足を延ばして頂いた用件次第で我々八雲が隠蔽工作を行うことも吝かではありませんわ。ここに私か藍が迎え入れる以外の方法で入り込む者なんてそういない…何か重要な案件をお持ちしたのでしょう?」

「ええ、正直に言いますと私の手には余る現の世界の案件です。ですが、個人的な付き合いのある者が関わっておりまして。仲介役として動くべきと判断しましたわ」

 

―――成程、ドレミーも豹を好意的に見てくれている様ね。そうでなければ仲介役なんて言葉は出てこない。それなら…

 

「隠岐奈に盗み聞きされないよう、念には念を入れましょうか。

詳しい話は夢の世界でもよろしいかしら?」

「私は構いませんが…いえ、そういうことですか。

貴方と同格の管理者であれば、ここに侵入することも可能だと」

「そういうことよ。でも私が眠ることで見る夢の中であれば、貴方が侵入させないことが出来るでしょう?」

「それでは、貴方の夢にお邪魔させていただきましょう」

 

そう答えて姿を消すドレミー・スイート。私の動きだけでなく永遠亭の動向も話すことになる以上、隠岐奈に聞かれるわけにはいかない。それならば使者としてここまで出向いた夢の世界の支配者に、隠岐奈でも介入不可能な場所を創ってもらえばいい。

 

「そういうことになったわ。私の夢の中で話を付けてくるから、藍は幻想郷の状況把握に戻って頂戴。豹の覚醒魔法の術式は二人とも覚えているわね?」

「はい、見過ごせない状況になればそれで強引に紫様をこちらに戻すということですね?」

「ええ。それと橙は眠りについた私の護衛としてここに残りなさい。隠岐奈が直接乗り込んでくる可能性も零ではない。この空間に侵入しようとするものを察知したらすぐに私を豹の覚醒魔法で起こしなさい」

「わかりました!」

「それじゃ藍、しばらく皆のフォローは任せるわ。風見幽香の他に大物が動いた場合でも、夢幻姉妹とサリエルを頼って構わない。地底の鬼が好き放題したと思えば、守矢と永遠亭に天狗も派手に動き、あの愚かな天人くずれまで首を突っ込んできた…ここまで来ればもう誰が動いても変わらないわ」

「仰せのままに」

 

そう返して藍が幻想郷へスキマで飛ぶ。交渉という点では、ここが私の正念場。

豹が最も避けていた相手、永遠亭。これ以上余計なことをしないように、上手く私が誘導しないとね…!

 

 

 

―――この、私が幻想郷から目を離した最悪のタイミングで。

豹にとって、致命的な一手を打たれることになってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ここが仙界ですわ。どうやらまだ地底の侵攻は始まっていない様子…会談の時間はありそうですわね」

「…成程ね。取引に応じた理由の一つは、私が予想していたより修行者の数が多いからか」

 

邪仙と共に異界の道場に降り立つと、この時間でも修行に励んでいた数名が私に訝し気な視線を向けたわ。もっとも、私が気にするべきは視界に入った彼らではなく奥にある3つの強い反応。先輩の包囲に必要な戦力…すなわちこの異世界を創れるだけの空間系魔法に類する能力を使いこなす者。

 

この邪仙も含めて、侮ってはならない相手。

 

「それでは参りましょうか。豊聡耳様も魔界の重鎮である貴方でしたら、会談を拒むことはありませんでしょうし」

「ええ、案内をお願いするわ」

 

さあ、先輩が魔界に帰って来れるよう…私も力を尽くしましょうか。

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