寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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誤字報告により2話と121話を修正しています。いつも助かっております、ありがとうございます。


第203話 その頃地底は

「あらあら…豊聡耳様らしくもない。何も利を得ることなく立ち去らせてしまうなんて」

「…言い逃れの出来ん失態だなこれは。魔界人という種族の本質を読み違えていた―――まさか、あれだけの力を持つ者が甘過ぎる理想を語るとはな」

「我だけでなく太子様と屠自古も加わった妨害を、歯牙にもかけず異界へ逃げるほど…河勝殿が我らに協力を求めて来たのも納得せざるを得ませぬ」

「というか青娥、お前あの夢子とかいうの止めなかっただろ。どういうつもりだ?」

「私の目的はお話ししたとおりですわよ?あの方の子供を頂くためには、夢子さんを逃がすべきだと判断しただけのこと」

 

夢子さんがあっさりと仙界を去ってしまったことで、私が摩多羅隠岐奈様に手を貸す理由がまた一つ減ってしまいましたわね。豊聡耳様と協調出来るようであれば、地底の妖怪たちの迎撃に加わって頂こうとも思っていましたが…八雲紫と摩多羅隠岐奈という管理者同士の対立は予想以上に根深いようで。

 

それこそ私は魔界神に直接交渉するべきなのでしょうね。幻想郷の管理者側で対応が割れてしまっている以上、どう転がろうともあの方が幻想郷に留まれる可能性は低いのですし。

 

「私としては地底勢力が数も揃えて侵攻してきた際の戦力としても期待していたのですが、そう上手くはいきませんわね」

「まあ、今回に関してはその言葉に嘘は無いようだが…青娥はもうこの一件が終わるまで勝手な行動は控えろ。これ以上は流石の私も見過ごせんぞ」

「畏まりましたわ。少なくとも地底の迎撃を終えるまでは仙界に留まりましょう……いらっしゃいな、芳香」

「ほいよ!」

 

まあ、先に私は激怒した鬼の四天王を捌き切らなければならないのですけれど。無傷で済むはずがありませんし、長らく使うことのなかった治癒の秘術が必要になってしまいますわね。

 

 

 

 

 

 

 

 

「もー!!どーしてわかってくれないのよお姉ちゃん!!」

「何度も言わせるんじゃないわよ。八雲の隠者にして魔界からの逃亡者なんて危険すぎる爆弾を、地底に持ち込まれるなんてたまったもんじゃないわ」

 

お姉ちゃんの悩みの一つも解決できるから、ちゃんと説明してあげたのにお姉ちゃんは駄目の一点張り。ほんっとに頭が固いなあ!勇儀さんを見習ってほしーよもう!

 

「さとり様ー?こいし様を簡単に見つけられるなんて、私たちにとっても助かるじゃないですか。なんでダメなんです?」

「お空もこう言ってるじゃん!豹は絶対に地霊殿に来てもらうべきだって!」

「お空も相変わらずね…こいしに何度も説明したことを理解できない、覚えていられないなら仕事に戻りなさい。何度も話すのもいい加減億劫だわ」

「うにゅ…」

「そうやってすぐ面倒臭がって話を打ち切るんだもん!それなら私は勝手にするだけよ。

お空、ついてきて」

「だ・か・ら!勝手な真似をするなって言ってるの!!

こいしを見失わないというのはたしかに助かる能力だけど、そのためだけに八雲紫や魔界を敵に回すなんて出来ないわ!地霊殿ごと私たちが滅ぼされる危険さえあるのよ!!」

「そんなの私たちで追い返せば済む話じゃん!!

勇儀さんと私とお空にお姉ちゃんが揃えばどうにかなるって!」

「弾幕ごっことは訳が違うのよ?八雲紫や地上の有力者ならそれで済むかもしれなくても、魔界がスペルカードルールを知ってるはずがないわ。魔界と戦争になったら先制攻撃は防げないということを、忘れてるとは言わせないわよ!昨日あんたから私に伝えてきたのだからね!!」

「あっ」

「―――もう!!これだからあんたの記憶力は…!!」

 

そういえば昨日の宴会でそんなこと言ってた。

…だからといって、引けないけどね!

 

「それじゃお姉ちゃんは豹を見捨てろっていうの!?勇儀さんも地底に連れ帰る気満々だからね!

私は勇儀さんについてくことは曲げないよ!!」

「勇儀さんも本当に脳筋なんだから…!

地底と地上は相互不介入の原則を、自分の喧嘩のためだけに破らないで欲しいわね」

「地上の方がずっと破ってるじゃん!お空の時もこの前の畜生界の時も、巫女やら神様やら吸血鬼やらが先に乗り込んできて暴れてたよ?私はなるべく地上では暴れないようにしてるのに」

「地上にまで出てふらついてるあんたにそれを言う資格は無いわ」

「でも勇儀さんなら言えるよね♪」

「屁理屈を…!

とにかく豹とやらのことはもう放っておきなさい!地霊殿の手に負える相手じゃないわ!!」

「やーだよーだ!私の運命の相手なんだから、そう簡単に諦められないもん!」

「諦めなさい!!」

 

お空を連れてくってちゃんと一声かけてからずーっとこの調子。全っ然話が進まないわ。

―――それを動かしてくれる意外な相手が、地上から来てくれたんだけどね。

 

「あのー…さとり様?こいし様も一緒に会ってもらった方がいいと思うお客様が来ましたよ」

「へ?私も?」

「はい…守矢神社の諏訪子様がいらっしゃってます」

「…そう。お燐、こちらに案内して」

「はーい。

…一応言っておきますと、さっきから続いてる口喧嘩、聞かれてます」

「………」

 

あ、お姉ちゃんが頭抱えてる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で?それに仙界の何が関係あるんだい?」

「いくら貴方でも理解できないはずがないでしょう。魔界と全面戦争になれば幻想郷は崩壊の危機に陥る…それを防ぐために、幻想郷の戦力を無駄に消耗させる行動を見逃すわけにはいきません」

「知らないね!私の喧嘩を邪魔しておいて高跳びした奴を、お咎めなしで見逃すなんざ鬼の名折れだよ!!

幻想郷の危機なんかより、私の矜持の方がずっと大事さ」

「これだから鬼は…!」

 

四季様のお言葉を真正面から否定した上、はっきりと言い返せる勇儀さんは流石ですね…

私が思いとどまらせることなんて出来ませんから、悪い意味で勇儀さんに便乗して暴れそうな妖怪たちを把握しておくぐらいしか私に出来ることはありませんでした。遅れて到着した小町さんとこころも同様でしたが…私は見逃しても小町さんとこころは見逃してもらえず。喧嘩を売って来てしまった地底の妖怪をあっさり返り討ちにしてしまったことで、いつもの皆様も出てきてしまっています。

 

「こりゃ長くなりそうだ。四季様にあれだけの啖呵を切れる肝っ玉こそ、四天王たる所以かい」

「まぁ、話を聞いたら勇儀が本気でキレるのも仕方なかったからねえ。そういう意味ではさ、あんたら二人が若い連中の頭を冷やしてくれたのは助かったよ」

「地底に私の熱狂的なファンがいたのかと驚いたぞ。機会があれば地底でも舞ってみたいものだが」

「どいつもこいつも相互不干渉を何だと思ってるのよ…その奔放さが妬ましい」

 

幸いなことに小町さんとヤマメさんが上手く対応してくれたことで、好戦的な地底の方々は引き下がってくれましたが…子供っぽいところのあるこころといつも通りのパルスィさんはちょっとしたきっかけで衝突しそうな危うさがあります。当面は私が間に入っておくべきですね。

 

「しかし、とんでもない大事になってるんだねえ。仙界なんてもんが出来てるなんてことも私らは知らなかったけど、それはつまり異世界を創り出すような連中まで豹ってのを狙い始めたってことかい?」

「霍青娥個人で動いている可能性もありますが、一度撤退している以上仙界の面々にも状況は伝わっていると見るべきでしょう。出来れば穏便に済ませたくはあるのですが…」

「勇儀が引き下がるはずないわ。その仙界ごと潰してしまいなさいよ」

「好き放題言ってくれるねえ。あたい個人としちゃあそれも悪くないとは思うけど、四季様が断固反対するだろうさ。いけ好かない連中だけど、四季様はなんでかそれなりに評価してるみたいだからね」

「私にとっては親のような存在であり、新たな希望の面を作ってくれた神様でもあります。

ですが…あのお兄さんには色々お話を聞きたいので。出方次第では戦闘もやむなしです」

「こころもですか…本当にヒョウは他者を惹き付けてしまうのですね」

 

困ったことに仙界に侵攻してでもヒョウを援護すべきと考えているのは勇儀さんだけではない…こいしとこころも引き下がりそうにないのです。四季様一人でこの3名を押さえるのは流石に無理でしょうから、状況次第では私が地底を大人しくさせるために動く必要も出てきてしまう。

 

「小町さん、茨華仙様はどれほどでここに?」

「悪いけど予想できないよ。摩多羅隠岐奈から情報を引き出すことも必要だから、それなりに時間を取られると思うべきだろうね」

「そいつなら勇儀を止められるのかしら?」

「少なくとも、私たちよりは抑止力になります」

「それじゃ時間稼ぎは閻魔様にお任せしちゃって、その仙人を待つとしようか。

どうせ私たちじゃ止められないしね」

 

…そうせざるを得ないですよね。やはり、私もまだまだ力が足りませんか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…つまり、見事に取り逃がしたのね?」

『しょーがないでしょ!!冬の雪女があんなにヤバいなんて知らなかったし』

『そもそも鈴仙も同じ状況じゃない。そんな詰めるように言われる筋合いは無いんだけど?』

 

テレパシーを使って清蘭・鈴瑚と情報共有したのだけど、結果は惨敗。私は守矢神社で捕虜扱い、清蘭と鈴瑚は強力な雪女に足止めされてメルラン・プリズムリバーを捕まえられず仕舞い。永琳様と姫様に怒られるだけで済むかしらね…

 

「でも足止めで済んだってことは、清蘭と鈴瑚は動けるってことよね?」

『思いっきり舐められてて悔しいけどね…レティとかいう雪女は氷の檻を壊したら、この雪に紛れてどっか行っちゃったわ』

『…八意様へ報告しに戻れ、ってことね?』

「仕方ないでしょ?私は帰還すらすぐには出来そうにないんだから」

『うげー…八意様に怒られそう』

『先に私と清蘭で鈴仙を助けるんじゃ駄目なのかな?』

「私が交戦した奴らや哨戒中の天狗に見つかると問答無用で攻撃されるわよ。清蘭と鈴瑚にその覚悟はあるのかしら?」

『やってもいいけど面倒よ。仕方ないか…鈴瑚、一度戻りましょ?』

『それしかないみたいね…』

「じゃ、なるべく早く助けにきなさいよ!」

『てゐがすぐ見つかるかどうかわからないから、期待しないでよ?』

「さっきみたいに、わざと落とし穴に嵌ればてゐはすぐに来るわ」

『わざとじゃないわよ!!』

『おい清蘭、それは思いっきり落とし穴に嵌ったのを認めたことになるわよ。それでいいのかしら?』

『ぐぬぬ…!』

「呻ってないでさっさとして頂戴。私だって早く戻りたいんだからね!!」

 

それだけ言ってテレパシーを切る。本当にルナサは余計な事してくれたわ。

 

「で、どうなったんだい?」

「どうもこうもないわよ。あっちも任務失敗したから、一度永遠亭に帰らせたわ」

「まあ、妥当な判断だな。

…よし、早苗も無事に帰って来てるな。それじゃ、守矢神社(うち)で情報のすり合わせをしようか」

 

―――このテレパシーは、上手く泳がされていたという点で…戦闘の敗北を上回る大失態だったわ。




申し訳ないのですが、去年同様12月はリアルの諸事情につき土曜日の週一更新になります。年が明けたら火・木・土の週3回更新に戻せると思いますので、しばらく更新ペースを落とす慈悲をお恵み下さい。
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