(アイツ等やりやがった…!あえて人里で仕掛けてくるとは。摩多羅隠岐奈が陰で糸を引いてる以上、人里に被害が及ぶような策は使って来ないと踏んでたんだが…!)
少ない時間で端的に麟が伝えてくれた重要な情報…フラワーマスターが動いた理由にして、エリーとくるみの名が騙られていた真相。
エリスから俺の存在と名を騙ったことを風見幽香に伝える―――これはたしかに摩多羅隠岐奈とエリス・幽玄魔眼が繋がっていなければ出てこない手段だ。魔界と幻想郷双方の状況だけでなく、俺の協力者の状況も深いところまで把握していなければこの発想は出てこない…特に最後の俺に力を貸してくれている皆のこと。夢幻館を半日以上監視していた幽玄魔眼がいなければ、エリーの忠誠心が俺に移りかけていたことは知り得ない。
(だが、どうやって繋がったのかがわからねえ。エリスと幽玄魔眼が摩多羅隠岐奈の存在を知ってたとは思えんし、今朝の状況で摩多羅隠岐奈がエリスと幽玄魔眼を手駒にする必要性は薄い…つまり、紫さんと違って表に出ることを極力避けている摩多羅隠岐奈から接触するとも考えにくいってことになる)
そこを踏まえるとエリスと幽玄魔眼から接触したとしか思えないんだが、どうやって摩多羅隠岐奈の存在を掴んだのか皆目見当が付かない。それこそ、摩多羅隠岐奈の指示ではなくエリスと幽玄魔眼の独断専行って線もあり得る。
…もっとも、俺が考えたところで正解に辿り着くことはないんだろうがな。
(それよりも問題はフラワーマスターだ…!思ったより丁寧に探知魔法で探ってるからまだ動いてねえ、つまり俺が救出に動くどころかイヤリングで救援要請を出すことすら不可能…
いや、逆か!?不得意な探知魔法だから無駄に時間がかかってるのか!?)
探査・索敵系魔法は空間魔法と並ぶ俺の得意分野だから、この発想がなかなか出てこなかった。これが当たってるとすりゃ、最悪なタイミングでアイツ等に動かれたってことだ…!
(クソ…急いでくれ!!)
風見幽香だけでなく、俺に力を貸してくれている皆に対しても。意味は違うが同じことを祈る…
今の俺には、これしか出来ないのだから。
メディと咲夜さんを豹さんの隠れ家まで案内すると、麟さんが外までお迎えに出て来てくださいました。
「おかえりなさい、上海ちゃん。魔力の補充ですか?」
「はい、それだけならここでも大丈夫なので。補充し終えたらメルランさんをお迎えしに行きます。
…それで、椛さんとリリーさんにも顔を合わせておいてもらっていいでしょうか?」
「私の方からお願いしたいぐらいです。豹さんの力となるには、私とリリーでは力が足りないので」
椛さんとリリーさんもすぐ隠れ家から出て来てくれました。皆様あまり時間に余裕がないことをしっかりと理解してくださっています。
ですからこそ、私も手早く補充を終えないといけません。
「…お久しぶりです、咲夜さん。
とはいっても、忘れてしまっていると思いますが」
「あら?どこかで会ったかしら?」
「私は冴月麟といいます。吸血鬼異変が解決し少し日が過ぎた時期に、豹さんに連れられて2回紅魔館にお邪魔させていただきました」
「………あっ!
そういえば、豹様とスキマ妖怪が連れて来てたわね」
「思い出してもらえただけで嬉しいです。名前を聞いていなくても、姿形を思い出してもらえたのは咲夜さんが初めてですが…今は私のことを話す時間はありませんね。あなたは…メディスンちゃんでしたよね?」
「ええ、上海を助けに来てるわ。上海を雑に扱ったら許さないわよ」
「安心してください、私も麟も上海に助けられている身です。豹さんを支えてくれている数少ない仲間なのですから、雑に扱うなんてことは絶対にしません」
「リリーもですよー。リリーは皆さんがいなければ逃げることすらできないのです。上海さんを頼ることがあるのですから、リリーも上海さんの力になるのはあたりまえなのですよー。
…今のところは、ぜんぜんお役に立ててないのですが…」
「そんなことは無いですよリリーさん。妹紅さんをここに連れて来てくれたのはリリーさんです。そのおかげでルナサさんの救出は成功したのですから」
冬というこの季節、リリーさんは力をほとんど失っています。それにもかかわらず積極的に豹さんのために動いてくださっているのです。そんなに気にしないでも平気なのですが、力が弱まっていることで気弱になってしまっているのかもしれませんね。
「それにしても…まさか白狼天狗が妖怪の山から抜け出して動いているなんて。
流石は豹様、と言うべきなのかしら」
「はい。下っ端天狗でしかない私が妖怪の山を捨てるだけの覚悟を決められたのは、豹さんが私の師として様々なことを教えてくれたからです。豹さんとの出会いが無ければ、私は妖怪の山の一員であることを優先していたでしょう。
あらためまして、私は犬走椛です。どうか豹さんのために、力を貸してください」
「最初からその気で動いているわ。これはお嬢様も同じ考えよ。
貴方たちも逃亡先に困ったら、紅魔館を頼って構わないわ。お嬢様に豹様とのあれこれを深ーく追及されることが宿泊費になるでしょうけど」
「…それだと私は払えないわよ?ヒョウさんと話したのってついさっきだけだし」
…心配なんて要らなかったですね。豹さんのおかげで、種族も所属も違う皆様が何のわだかまりもなくこうして会話することが出来ています。排他的なメディすらもです。
この繋がりを作ってくれた豹さん本人だけが、この輪の中に加われないなんて悲し過ぎます。隠れ家さんの意志ではなく、上海という私の意志として。豹さんもこの繋がりの中に入ってほしい…ご主人様や夢子さん、ユキさんにも加わってもらってです。
皆様も、豹さんのことをお慕いしているのですから。
(そのためにも、幻想郷の皆様と魔界の皆様…お互いが納得できる豹さんの処遇を話し合いたいのですが。
神綺様が幻想郷にいらっしゃってくださいましたら、八雲紫さんと協力していただいてそんな機会を作れないでしょうか…)
―――こんな甘い理想で、集中を切らしてしまった私は。
魔力の補充を終えたところで、ようやく事態の急変に気付いたのです。
「皆様、お待たせしました。魔力の補充が終わりましたので、メルランさんを―――っ!?」
「上海ちゃん?どうかしまし…これは!?」
麟さんも挨拶をしていたことで少し集中を切らしてしまっていたようで、私の反応を見て把握できたようですが…気付くのが遅かったようです!
突然現れた時点で気付くべきだった位置に、二つの反応が出てきています!
「皆様、人里のメルランさんが急に現れた二つの魔力反応に囲まれてしまっています!!」
「っ!あれは!?
急ぎましょう!包囲しているのは昨夜地上に降りて来た悪魔…エリスと幽玄魔眼です!!」
「「「っ!?」」」
そして人里に被害が及ばないようにするためでしょう。メルランさんが人里上空で対応しようとしていたことで、椛さんが千里眼で襲撃者を視認できたようです。
それは、唯一【人里を巻き込む】という選択を躊躇いなく取れる存在。神綺様の許可なく魔界から幻想郷へ侵入していた、もっとも警戒するべきだった相手。
メルランさんのお迎えは私たちの役目なのですから、急いで向かいませんと!
「行くわよ」
「とりあえず、誰が敵なのかはすぐ教えてよ?私は敵と味方の区別、全然ついてないから」
「わかりました、メディ!」
咲夜さんとメディは即座に意識を切り替えています。私もすぐ返事をして飛び立とうとしたところで。
「椛さんと麟さんも、行ってください!」
「リリー!?もしここが襲われてしまったら…!」
「リリーだけなら何かあっても、一回休みだけで済むのですよー!
とっても大変みたいですし、皆さんで助けに向かってほしいのですよ―!!」
…リリーさんも、私なんかよりずっと覚悟が決まっていて。
妖精という存在だからこそ出来る判断をしてくれました。
「…リリーさん、誰か来てしまったら、隠れ家さんの中で隠れてください!
隠れた場所を、隠れ家さんが護ってくれますから!」
「わかったのですよー!」
「決まりですね、私も行きます!私を狙う勢力が動いてしまうことより、メルランさんの救出を優先するべきでしょうから!」
「私もリリーの言葉に甘えます!回復役としてなら邪魔になりませんので!」
迷っている時間はありません。それは全員が理解できていましたので、誰も反対せずに。
「それじゃ、急ぎましょう」
「「「「はいっ!」」」」
咲夜さんに続いて皆様と共に人里へ向かいます!お願いですから無理はしないでくださいね、メルランさん…!
「…皆さま、どうかお願いするのですよー」
魔力を使い切ってしまっているリリーでは何のお役にも立てません。ですので一人でお留守番することが一番皆さまの邪魔にならないと思ったので、そのまま豹さんのお家で一番広い部屋に戻ったのですが。
机の上に、この前遠くの皆さまとお話しするのに使っていたお人形さんが置きっぱなしになっていたのですよー!
「わ、忘れ物ですよー!?」
もう間に合わないとは思ったのですが、リリーが家の外に出たことに気付いてもらえればもしかしたらひとりだけで戻って来てくれるかもしれないかもって。大慌てでお人形さんを抱えて外に出ようとしたのですが。
『アリス、聞こえるかしら?』
「ふえっ!?」
リリーがお人形さんに向けて声を出してしまったので、お人形さんがお仕事を始めてしまったみたいです。聞いたことのない女の人の声が聞こえるのですよー!
時間は少し巻き戻る。エリスと幽玄魔眼が、人里に現れるより少し前。
「―――こんなところかなー?これ以上詳しいことは兄さんと無関係になってくるし」
「…はい、ありがとうございました。
『護るべき者は間違えるな』…豹さんの言葉だからこそ、とても重いのですね…」
白蓮が詳しく聞きたがったのは、豹の反逆の詳細。リリーを連れて脱出してきた豹本人から軽く聞いていたそうだけど、逆にそれで詳しいことを知りたくなったようね。
これに関しては私から教えられることは何もないから、ユキに話を任せたわ。昨日夢子とユキから聞いた反乱の詳細を、ユキが掻い摘んで伝えたことで聖の口から出た感想がこれ。
魔界神の護衛だった男が、護るべき者を間違えた末路…私も昨日は聞き入ってしまったように、星だけでなくマミゾウさえ一言も口を挟まずに聞いていたわ。
「…誰も望んでいない責任の取り方を、豹さんだけが望んでいるということですか」
「女々しいのか男らしいのかハッキリせん奴じゃ。
まあ、盲信的な妹がゾロゾロ居るというのもわからなくはないがの」
「女々しいとはちょっと違うけどね。【誰か一人を特別扱いできない】っていう兄さん最大の欠点が、わたしたちと兄さんをすれ違わせた結果が今の状況だよ」
「この話で命蓮寺がどう動くかに影響は出ないとは思うけどね。満足したのかしら?」
「はい。神綺様と直接お話しする前に、豹さんのことを詳しく知ることが出来たのは…私にとっては意味がありました」
「それじゃ、もう大丈夫かな?
…なんだか夢子と邪仙の魔力反応を危険視しちゃったのがいるみたいだし」
「え?…あっ!」
どうやら星だけは気付けてなかったみたいね。もっとも、逃げるように移動する方が面倒になりそうな相手だから私は何も言わずにいたのだけど。
「あの反応、誰か知ってる相手?」
「小兎姫だわ。聖たちは彼女と面識はあるのかしら?」
「はい、経過観察や家宅捜索という名目で何度かここ命蓮寺にもいらっしゃっています。とても変わった方ですが、人里を守るという信念は信頼できる方ですので普段通りの対応をさせていただいていますよ」
「警官という職務に忠実過ぎて少々困るところはありますが…悪い人ではありませんので。信徒の帰りが遅くなってしまった時などには頼らせていただくこともありますね」
「じゃが儂はあやつの相手をする気は無い。悪いが奥に引っ込ませてもらうぞ」
「ふふ、マミゾウさんにも苦手な方がいるのですね…
私たちで対応しますので大丈夫ですよ。こんな時間までありがとうございました」
「うむ、では任せたぞい」
そう言ってマミゾウは言葉通り奥へ姿を消したわ。
…まあ、相手をしたくないってところには同意できるから止められないか。ただユキがいる以上、私はしっかり説明しないといけないわね…面倒でしかないけれど。
「…なんだかちょっとクセのある人なのかな?」
「ちょっとどころかクセしかないわ。ユキ自身から言わないと納得しないこともあるでしょうし、悪いけど付き合いなさい」
「アリスがそう言い切るのかぁ…やっぱり幻想郷は甘く見れないね」
「あまり心配はしなくても大丈夫ですよユキさん。ユキさんも神綺様も幻想郷と魔界の戦争は望んでいないのですから、小兎姫さんもある程度融通していただけると思いますので」
そうだといいのだけど…豹の隠れ家のことを知ってる一人だから、余計な情報は渡せない。なるべく短く話を済ませたいわね。
お伝えした通り、今月は土曜日の週一更新になります。
次の更新は12/9(土)になります。