寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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誤字報告により206話の誤変換を修正してます。いつも迅速なご指摘ありがとうございます。


第207話 人里上空を逃走中

(…ここまで来たら、私も撹乱に回るべきかしら?)

 

豹からの頼まれごとを無事に終えた後、私は毎年冬の間使っている寝床へ向かっていたのだけれど…その途中で離れたばかりのプリズムリバー邸に向かう妖怪たちを見つけたわ。まさかと思って様子をうかがっていたら、嫌な予感は当たりで襲撃者たちだった。私で戦力になるかは怪しかったけれど、ついさっき話したメルランが人里へ向かって来たから合流しようとしたところで、その人里方面からメルランを狙って来た玉兎が二匹いた。

 

片方が随分と私をナメてたから、あっさり1対1の撃ち合いに持ち込めた結果足止めは成功。メルランが人里に辿り着いたところで氷の牢獄に閉じ込めてた青い方の玉兎も解放して私もその場を離れたのだけれど…寝床に向かう途中でその反応に気付いてしまったのよね。

 

(呪珠と、さっきミケの店にいた明羅…たしか博麗神社に向かってたはず。つまり、何かあった帰り道ってことよね)

 

呪珠と明羅がなぜか博麗神社に2人だけで向かってるわ。魅魔っていう如何にも大物な悪霊がいない、つまり再度情報収集に出てたってことでしょうけど…

 

(どうせあっちから探してくるのなら、私から先に出向いた方が後々動きやすくなるわよね)

 

そう判断した私は、2人と合流するべく進路を変えた。

 

 

 

「呪珠、明羅。待ちなさい」

「あれ?レティからあたしに会いにくるなんて珍しいじゃん、どうしたのよ」

「どうしたのって、話を聞かせてもらうとか魅魔ってのが言ってたじゃない。呪珠がまたふらついてるってことは用件は済んだのでしょ?そっちが私を探すのも手間だろうから、気付いた私から出向いてあげたんだけど?」

「ああ、そうだったのか。

…これはどうするべきか」

 

…あら?何も言わずに博麗神社まで付いていくことになると思ったけど。明羅が足を止めて何か考え始めたわね。

ちょっと探りを入れてみようかしら。

 

「何か問題があるなら私は帰るけど。ただ、私から出向いたのを断るんなら、貴方たちから出向いても私が断るのも認めなさいよ?」

「待って待って、それはちょっと困る!あたしはともかく魅魔様じゃ実力行使に出ちゃうから!

…明羅は何を迷ってるのよ?」

「いや、大したことではないが…

レティを連れて行ったとして、あの巫女が問答無用で攻撃する可能性を考えると、な…」

「「ああ…」」

 

味方に付いてる明羅からもこの言われようなのね、あの巫女…まあ日頃の行いか。

 

「ま、まあそれを言うならあたしだって妖怪だし、幻想郷でも最上位に位置する鬼まで居座ってたから大丈夫でしょ。流石に今の状況で情報提供しに来た相手を追い返すような真似は流石にしないと思う」

「それもそうか…」

「というか、二人は何をしてたのよ?私のように冬に力を得る存在以外が出歩くような時間でも寒さでもないけど」

「…情報収集だ。そちらから出向いてくれたレティを無下に扱うのは本末転倒だったな…

手間をかけるが、博麗神社まで付き合ってもらっていいか?」

「最初からそのつもりだったわよ。ただ、戦闘はゴメンだから巫女達をちゃんと止めなさい」

「あ、あたしじゃ無理なのわかって言ってるよねえ!?」

「そこは私が師匠にしっかり掛け合うさ。

…私は、まだ諦めたくないしな…

「え、最後何て言った?」

「いや、独り言だ。気にしないでくれ。

…行くぞ、呪珠」

「はーい」

 

…どうも、明羅っていう女侍はちょっと微妙な立場みたいね。迷いを感じるわ。

まあ、私が何かしたところでどうにもならないだろうし…気にしなくていいわね。

 

(とりあえずは…玉兎たちの襲撃を伝えて、博麗神社の目線を豹から逸らすことができれば上々かしら)

 

そんなことを考える私は、最早手遅れになっていたのに気付けなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…人里で暴れられるのは困るわ~。それは魔界にとっても同じじゃないのかしら?」

「困るのは神綺様と夢子ぐらいよ。幻想郷も守りたいなんて考えてる魔界の住人なんてごく少数なの」

「先に侵入したのが魔界側だったとしても、あれだけ魔界で暴れておいてお咎めなしじゃ納得できる奴の方が少ないことぐらいわかるだろ?

多少の被害が出たとしても、魔界の大多数はアタシらの肩を持つだろうよ」

 

ダメ、話が通じそうにないわ。この二人、聞いてた以上に敵意が強い…なにより、私を『釣り上げるためのエサ』なんて言ってる。つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()状況を作り上げようとしてるってこと!

 

(豹の隠れ家に向かうわけにはいかないし、私の家は思いっきり進行方向が塞がれてる。どこか、援護が来てくれるまで匿ってくれそうな場所ってなると…ここから近いのは命蓮寺かしら!?)

 

迷惑をかけることになるけれど、私だけでどうにかなる相手じゃないわ!そう逃げ場を決めたんだけど、相手にも私は逃走を優先するってことを見抜かれてて。

 

「そういうわけだから、覚悟してね?

 ヒョウが出てくるまでは死なないでよ!」

「せいぜい足掻きやがれ!」

 

その言葉と同時に撃って来た!私が高度を上げてたから地上への流れ弾は無いけど、この弾幕じゃ背を向けて逃げるのは厳し過ぎるわ!さっき玉兎二匹にやったみたいに爆音で怯ませようとも思ったけど、こんな夜中に人里でそんなことしたら迷惑になる上に自警団のみんなを巻き込んじゃうかもしれない―――そんなこと言えるような力は持ってないのに、今の人里が大好きな私はそれを優先してしまって。

 

「うぅっ!でもこれぐらいならまだっ!」

 

回避しつつ命蓮寺の方角へ逃げることを選んでしまう。でも、このタイミングで思いもよらない援護が入ってくれて。

 

それで私は…まだ逃げ切れると思い込んでしまった。

 

「メルラン!援護するよ!」

「っ!ごめん、お願いね妖夢!」

「あん…半霊か?」

 

流石に人里での騒ぎは八雲としても不干渉を貫くことは出来なかったみたいね!アリス達が白玉楼で得た一番大きな成果…本来は巫女や魔法使いにぶつけたかった戦力なのでしょうけど、異変の解決者として動くこともある実力者を人里に回してくれたみたいだわ!

 

「魔眼、騒霊の追撃は私がやる!スピードは私の方が速いからね!」

「頼んだぜ。なら半霊の剣士、付き合ってもらうぞ」

「っ!?空間系能力か!」

 

でも流石は豹すら警戒してた相手、二人まとめて抑えようとした妖夢を幽玄魔眼が空間魔法で引き付けることで私と妖夢があっさり分断されちゃったわ。でも、私にとってはだいぶ楽になった!

 

「一人相手なら、逃げるぐらい!」

「生意気言ってくれるじゃない!逃がすと思わないでよ!」

 

命蓮寺までエリスさえ凌げればいい…これぐらいはやって見せないとね!

 

―――この時、人里全体を戦場だと考えるべきだったのに。私の経験不足でそれを見落としちゃったことが…一番避けなきゃダメな状況を作ってしまったわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…どうして私の方に来た、小兎姫」

「妖夢さんなら心配は無用ですし。情報は間違いなくあなたの方が持っているし。

なにより、本来なら魔界絡みの案件は私の管轄外。幻想郷の管理者に文句を言わせてもらう権利はあるわよね?」

「それは否定できんな…だが、それなら紫様より先に文句を言うべき者の方が多いだろう?神綺の侵入に対し何も手を打たない管理者達がな。

今この時人里の驚異となる侵入者を放置してまで、魔界神と伝手のある我々八雲との接触を優先する…人里を守る警官として優先順位が間違っているぞ」

「中々痛いところを突いてくれるじゃなぁい。でも、今を逃すと次に八雲と接触できるのがいつになるかわからないから、先に来させてもらいましたわ」

 

紫様が幻想郷から目を離した絶妙なタイミングで、エリスと幽玄魔眼が動いた。それも空間魔法で直接人里に侵入するという、魔界人に知られてしまうと幻想郷にとって致命的な方法でだ。流石にこれは私も静観するわけにもいかず、妖夢に動いてもらい私も後詰として幻想郷に出向いたのだが…状況を把握しきれていない人里の戦力・小兎姫は、妖夢と合流して迎撃するより私から情報を得ることを優先してきた。

 

(妖夢という異変解決者の一人を派遣したことで、人里の戦力集中を避けられてしまったか…!

慧音は妖夢と合流しようと動いたのも逆風、メルラン一人でエリスを凌ぎ切れるか…!?)

 

私にとっての理想は妖夢と慧音・小兎姫で侵入者を抑えてもらう間に、プリズムリバー邸で分散した面々にメルランを保護してもらうことだった。しかし慧音は初弾が放たれた地点へ向かってしまい、妖夢の援護でメルランが離脱を図ったため再度孤立してしまったのだ。

 

人里で戦力に数えられるもう一人―――この小兎姫が別行動で分散した侵入者を迎撃してもらえれば問題は無かったのだが…!

 

「まあ、二手に分かれた片方は私が逮捕してもいいですけど。その前に詳しい状況を聞かせなさい、手短にでいいですから」

「その時間も惜しいんだがな…!目下最大の問題は風見幽香が太陽の畑から離れていること、そして奴が侵入者を攻撃すると魔界相手の全面戦争になだれ込む危険が一気に増す。私直々に撃退に向かっていないこの理由だけで、人里どころか幻想郷全体の危機だと理解できるはずだ」

「その危険性は魅魔さんからも聞いてますが、それであればあなた方はこうなる前に豹を捕えるべきじゃなかったかしら?

豹を庇護下に置いていた八雲が潜伏先を知らないはずがないし」

「…言ってくれるな。八雲が豹を切ったということを端から信じていないと」

「ええ。その矛盾に目を瞑ってもらいたかったら、細かい状況を聞かせなさいな。

ここ半日だけで魅魔さんに人形遣いとその客人から話を聞き出してるわ。後はあなたから話を聞ければだいぶ話が見えてきそうです」

「仕方ないか…だが手短にだ。話を聞いたら整理する前に侵入者の撃退に向かえ、これは八雲としての命令だ」

 

霊夢と魔理沙、魅魔は博麗神社から動いていない。それこそ突如乱入してきた天人くずれを戦力として動かすという、霊夢と魔理沙では考えられないような手を打ってきているのだ。まず間違いなく、一度直々に博麗神社まで出向いていた隠岐奈様の差し金だろう。

逆に言えば、まだ隠岐奈様は霊夢たちを動かす時ではないと判断しているということだ。つまりエリスと幽玄魔眼を狙うと問題になる4名のうち、今現在動向を注視するのは風見幽香だけでいい。しかしその風見幽香がこの時間には珍しく自宅から離れているのだ。私はこちらを優先しなければならない…!

 

紫様直々に交渉に向かってくれた以上、夢幻館に集まっている雛と夢幻姉妹、サリエルにエリーは窮地と理解すれば自己判断で動いてくれる。だが白玉楼の妖夢は八雲から指示しなければ動けない…幻想郷全体の状況を把握できるような探査・索敵の手段を持っていないからだ。それ故に私は夢幻館ではなく白玉楼へ向かい妖夢を人里に連れてきた。

 

戦力を遊ばせておく余裕などないし、人里まで出向いてくるか不確定な風見幽香のために夢幻姉妹を連れて来るには位置が悪い…人里近くに突然夢幻姉妹が片割れだけでも現れては、静観している管理者達まで介入して来る可能性もあった。

だからこそ妖夢の参戦を優先したのだが、この選択は風見幽香がエリスと幽玄魔眼に興味を持って動いてしまった場合、足止めできるのが私だけなのだ。だからこそ私がエリスと幽玄魔眼の排除に向かうわけにはいかない…風見幽香をこの2名と接触させないことが最優先なのだから。

 

幸いなことに、紫様と豹のおかげで夢幻姉妹の協力は得ている。そのため少なくとも私と風見幽香が交戦状態に入った時点で夢幻姉妹は動いてくれるだろう。もし気付けなくても豹が通信用のイヤリングで雛に救援要請を出してくれるはずだ。この点を見ると、雛の協力と夢幻館への移動は大き過ぎるな…

 

「いいわよ、取引成立ね。それじゃ手短に八雲と魔界と、豹の状況を教えてもらいましょう」

 

小兎姫に最低限の情報だけ渡して、エリスを撃退させる。それでようやくプリズムリバー三姉妹は窮地を脱する。

―――その理想的な状況に持っていくには、ここのタイムロスは致命的だったのだ…

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