寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

208 / 289
第208話 致命的な一手

「…やる気がないのなら魔界に帰りなよ!」

「フン、アタシがそっちの都合に合わせてやってるのに随分と偉そうだな。

…もっとも、迂闊に開けないだけの力はあるみたいだけど」

 

藍からはメルランを保護してくれって頼まれたんだけど、思いっきり私は足止めを食らっちゃった…!たぶん、メルラン一人ならエリスって悪魔だけで十分だって思われてる。だからこいつ…幽玄魔眼は私の移動妨害しかしてこない!

 

「別にアンタの邪魔するだけのために、下に流れ弾が漏れるように撃ってもアタシはいいんだぞ?

これでも幻想郷に気を使ってやってるんだけどな」

「本当にそう思ってるなら、人里で仕掛けてくるはずないでしょ!!」

「その文句はあの騒霊に言え。周りに余計なのが居なくなったのがここだっただけ、ここに一人で逃げ込んだのが悪い」

 

そう言いながら会話のための幻影を映し出すための魔眼は、私より下方に展開するのが抜け目ない!それに、あれ一つだけ斬っても意味が無いのもすぐわかった。開かれる魔眼全部を斬らないと駄目なんだろうけど、移動妨害を行うとすぐに閉じてしまう。

 

「くっ、こんなに厄介な相手だったなんて!」

「アタシも幻想郷を舐め過ぎてたってのを痛感してるところだ…まさかアンタ程の戦力を、切り札じゃなく即座に動かせる手駒として使えるなんて思いもしなかったぜ」

 

そう、ハッキリ言ってしまえばこの幽玄魔眼、()()()()()()()()()()()()()()()()()私一人で問題なく斬れる…だけどあっちもそれをわかってるから、弱点の魔眼を開くのは最小限で私の攻撃が間に合わない!

本気で私を狙ってくるには、それだけ長い時間魔眼を開く必要があるはず。でも私ならその隙で斬り捨てられるからこそ、護身を優先して移動妨害しかしてこない。

 

―――そして、魔眼が開かれない限り私は幽玄魔眼を斬れない。魔眼が本体だってことはすぐに見抜けたんだけど…攻撃手段が無い以上、時間を稼がれるだけ!

 

「だから悪いが、アンタはここで大人しくしててもらうぜ。もう一人釣れたそっちもな!」

「く、空間魔法だと!?これだけの上級魔法の使い手が、何故人里に!?」

「っ!?慧音…!」

 

私が二人を止めるはずだったのに、逆に私と慧音が幽玄魔眼一人に足止めされるっていうまずい状況になっちゃってる…!どうにかして、切り抜ける方法を考えないと!

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほらほら、どうしたのよ!人里を巻き込まないようにしてあげてるのに、こんなものなの!?」

「私は元々戦闘員じゃないのよ!好き放題撃ってくれちゃって…!」

 

私が意識的にこの悪魔―――エリスの頭上を取ってるし、エリスもそれに乗って来てるから人里に被害は出てないんだけど。それは人里に被害を出さないように手加減してても、私を追い詰められるってことなのよね…!命蓮寺に逃げ込もうと思ってたんだけど、私の進行方向を先読みしたように弾幕を展開してくるからまったく違う方向に逃げることになっちゃってるわ。

 

「もう、この程度でヒョウと関わってたなんてね。あの見境なしも平和ボケしたのかな?

こんな弱点にしかならないレベルのを侍らせてるなんて」

「っ!」

 

言われたくなかった言葉だった。豹を助けるために力を貸してくれてるみんなに比べて、私たち姉妹は戦力として劣ってる。だからこそ狙われて、追い詰められちゃってる。

それはエリスの言う通り、()()()()()()()()になってしまっているという現実。

 

「…だからって、そう簡単にあきらめるわけないでしょ!」

「それならもっと頑張りなさいよ!ピンチに見えなきゃヒョウは釣れないんだから!」

 

そう言ってステッキからエリスが魔法を放ち、私はまた命蓮寺とプリズムリバー邸(うち)から離れるように逃げることになる。このままじゃ、孤立するどころか…

 

(―――ああっ!?この方向って!!)

 

この時になって、私はようやく【一番向かってはいけない方向】に逃げてしまっていたことに気付いたわ。

 

「―――いた!!本当に人里まで侵入してきてるなんてね!

鈴瑚、アイツがえりよ!!」

「まさか本当に悪魔が侵入するとは思ってなかったけど…これは利用できそうかな?」

 

さっきレティさんが足止めしてくれた、月の玉兎二匹…!霊体化してた私を遠距離からでも探知できてたのだから、人里の私の動きも急に出て来た侵入者も見つけられてて当たり前。

―――私が逃げた方向には、迷いの竹林が広がっている!!

 

「あー、昨日の兎じゃん。悪いけどもう用なしだから、さっさと帰れ」

「私の方は大有りよ!!昨日はよくもやってくれたわね!」

「やれやれ…

メルランだったっけ?とりあえずあの悪魔を排除するのに協力してくれない?」

 

前に玉兎、後ろに悪魔。状況がもっと悪くなっちゃった…!

でも、こいつらを頼るわけにはいかない。それに、どうもお互いに険悪っぽいから―――!

 

「悪いけれど、あなたたちも信じられないわ!!」

「「っ!?」」

 

こいつらをやり合わせて私だけ逃げ切る!!そう覚悟して全速力で命蓮寺に向けて飛ぶ!!

 

「あきらめが悪いわね!逃がすと思ってるの!?」

「って、おいコラ無視するな!」

「清蘭、追うわよ!!」

 

なのにこいつら私を優先してきたわ!上手くいかないものね…!

 

「憎い月の兎なら、巻き込んでも大丈夫だから…ちょっと本気を出してあげる!!」

 

そうエリスの声が聞こえたと思ったら、その魔力が膨れ上がったわ!大技が来るっ!?

 

「えっ!?」

 

それは、私にも視認できる密度を持った魔力円。それが私を中心に描かれて―――ッ!!?

 

「っとと!?」「ちっ!」

「キャッ!?」

 

その魔力円近くに光弾が降り注ぐ!!とうとう人里への被害もお構いなしになった…と思い込んだ私はエリスを甘く見過ぎていたわ。いくつも掠ったけど、被弾と言えるほどのダメージは無い。私だけじゃなく玉兎二匹への牽制も兼ねてたらしいから、飛行に影響することはなかった―――けれど!

 

「『リターン』」

「…っ!!?」

 

人里に降り注いだ光弾が、そのエリスの言葉と同時に魔力円に向けて戻って来た!!?

 

「ううっ!!」

 

無理、これは避けきれない!!跳弾みたいな動きをすると思ってなかったから、何発も被弾して足が止まる!

 

「『ラビットファルコナー』!!」

「『ダンゴインフリューエンス』!!」

「ふーん、やる気なんだ。

サリエル様を傷付けた罪の重さ、思い知れ!!」

 

…でも、私が捕まることは避けたい玉兎二匹が息を合わせて弾幕を放つ!それに反応したエリスは私に向けた魔力円を玉兎二匹にも展開して…って!?

 

「ちょっ…!?何よこの数は!!」

「騒霊相手には手加減してたっての!?」

 

私に向けたのとは比べ物にならない数の光弾が、玉兎二匹に向けて降り注ぐ!!

でも私にとっては大チャンス…!今なら逃げら――!?

 

「逃がさないって、言ったわよ?」

 

空間魔法を行使したらしいエリスが、私が逃げようとした方向に現れて。

迂闊にも()()()()()()()()()()私の意識は、ふっつりと切れてしまったわ。

 

 

 

 

 

「おっとっと!王手にはまだ早いよ!」

「ようやく尻尾を掴んだわ!不法侵入は強制排除しろってお師匠様からの命令よ!」

 

先に騒霊へ向けて撃たれてたから、回避が二度必要ってことがわかっててもかなり被弾したわ…!私も鈴瑚も撃墜されるのは何とか避けたけど。サリエルの部下って言葉は嘘じゃなかったみたいね!

でも、ここに来て私たちに運が向いて来たみたいで。

 

「空間魔法…とはちょっと違うみたいだけど、こういうことが出来るのもいるってことね。

ヒョウをあんたらが始末してくれるっていうんなら、魔界に帰ってあげてもいいけど?」

「里乃の話を聞いてないね?強制排除って命令なんだ、アンタの都合は関係ない」

「丁度いいわ、月の玉兎ってことは永遠亭の関係者よね?この騒霊、急患として永遠亭に放り込んどいて。

侵入者ならそう簡単にあの竹林を抜けられないでしょうし」

 

なんか珍しい帽子を被った少女二人組が、昨日の私と同じように眠らされた騒霊を放り投げて来たわ。…いつ出て来たのかとか誰なのかとか色々あるけど、ここまでの汚名返上には十分な戦果よね!ありがたーく貰っときましょ!

 

「ちょっと!?なに勝手なことやってんの!!」

「貴方の相手は私と舞。魔界に追い返してあげるわ!」

「鈴瑚!八意様のところに送るわよ!」

「はいよ!結果オーライってね!」

 

騒霊楽団の一人を捕縛完了!とりあえずこれで鈴仙よりは仕事したってことになるわ。実体持ちとはいえ騒霊、私でも持ち帰れる重さでラッキーだったわね!

 

こうして、情報不足が過ぎた私と鈴瑚は。まんまと策通りに泳がされたことを知ることもなく、迷いの竹林に駆け込んだわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

(…ッ!?

ここから単発の魔力弾で撃ち落とすだと…!威力や範囲に極振りした魔法だけじゃなく、超長距離狙撃もこなせるのか。最強妖怪の呼び名通り、攻撃に関しては不得手な分野が無いってことだな…!)

 

ようやく諦めがついたらしく、探知魔法の行使を止めた風見幽香だったが…直後に光弾を一発放つ。それは正確無比に残された白鳩の片割れを消し飛ばした。探知魔法を解除したとはいえ、回避の指示を出すことで俺自身の魔力反応を捉えられるリスクがある以上白鳩は見捨てることになったが…悪くない仕事をしてくれたと思うしかないだろう。

 

―――そして、風見幽香はそのまま人里へ向かう。それとほぼ同じタイミングで、俺は最悪の事態になったことを思い知ることになるのだ。

 

(くっ、メルランがエリスに追い立てられたせいでレティが足止めしてくれた二つが追い付いてきてる…!これは藍がフラワーマスターを抑えてくれることを信じて、俺が動くべきか…!?)

 

藍はエリスと幽玄魔眼が人里に侵入してすぐ、昨日ユキを抑えようとしていた協力者…魂魄妖夢を連れて援護に来てくれていた。彼女をメルラン救出に向かわせ、藍自身は太陽の畑方面の人里入り口上空で待機しているのだが…足止めに徹すれば幽玄魔眼はこれ以上なく有能だったのだろう。幽玄魔眼は魂魄妖夢だけでなく侵入に気付き出向いてくれた慧音も二人まとめて足止めしていて、メルランは再度孤立してエリスから追われる羽目に陥っていたのだ。

 

その結果、メルランは迷いの竹林方面の人里入り口付近に逃げることになってしまい…永遠亭から現れた二つの反応と挟撃される形になってしまった。プリズムリバー邸で分散した咲夜達はおそらく上海の魔力補充のために俺の隠れ家に寄ったことで、ようやく人里に辿り着こうとしているところ。状況の悪化を察知して椛と麟も来てくれてるが…間に合うかは微妙。

 

ここで、致命的な一手が打たれる。

 

(―――ッ!!

摩多羅隠岐奈の二童子…!ここでメルランの確保に動くだと?エリスと幽玄魔眼と繋がってなかったってことか?永遠亭よりは魔界か摩多羅隠岐奈の方がマシだが…状況が読めん!)

 

あくまで俺は探査・索敵魔法で魔力反応を拾っていただけ、要するに交戦中の面々がどのような会話をしていたかまでは把握できない。それゆえに初動が遅れ…今後の選択肢を一気に狭める決断を取らざるを得なくなったのだ。

 

(藍は人里に被害が出ない位置まで動いてくれた、となればフラワーマスターは藍と夢幻姉妹に任せてしまっていいだろう。咲夜達がメルランのところに間に合うかどうか…ッ!!?)

 

その遅れた初動を嘲笑うかのように、メルランの反応を永遠亭から出て来た二つの反応が連れ去っていく…永遠亭に向けて!!

 

(間に合わなかった!?クソ、潜伏してる場合じゃねえ!!)

 

動くにしても風見幽香が藍と交戦し始めるまでは待つべきだろうが、もうそんなこと言ってられねえ!月の連中がメルランに何かする前に助けなければ!!

 

 

『皆、メルランが永遠亭に拉致された!!手の空いてるメンツは妹紅の家に集まってくれ!!

雛、幻月か夢月にフラワーマスターの相手を頼んでくれ!!人里と太陽の畑の間で藍が交戦に入る!!』

 

 

通信用のイヤリングに用件を伝えて小屋を飛び出す。好戦的な風見幽香なら、あそこまで藍が接近していればこの通信と俺の反応に気付いても引き返してくることは無いと信じるしかねえ!

 

 

―――こうして、俺は見事に摩多羅隠岐奈の掌の上で踊ることになるのだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。