「―――というわけで、くるみさんとリィスさんの代わりに私が来ました。あまり戦力にはなれないのですが、後のことを考えれば良い判断になると思います!」
「そうだね、豹が足を延ばす理由も納得できるし、里香を最短時間で戦力に加えられるなら優先するべきだしな」
「それにあのお騒がせ天人は今孤立してる…つまり衣玖を助け出すなら今のうちってことよね!」
紅魔館からやって来た赤髪の彼女―――使役される立場を明確にするために【幻想郷において名乗ることは許されない】契約を交わしているそうで、小悪魔と名乗った悪魔がくるみとリィス、レミリアの動きを伝えてくれた。妹紅さんの話を聞くという判断は正解だったようで、私たちとリリカ・雷鼓の状況と合わせれば【衣玖さんの救出は今なら難しくない】ってことがわかったわ。魅魔の部下二人、明羅と呪珠がお騒がせ天人を見捨てたことで再度孤立していることを、合流する前に確認してくれてたから。
「それなら、急いで衣玖さんを助けに戻ればいいね!」
―――そうリリカが結論を出した時だった。すでに最悪な状況に陥っていることに気付かされたのは。
『皆、メルランが永遠亭に拉致された!!手の空いてるメンツは妹紅の家に集まってくれ!!
雛、幻月か夢月にフラワーマスターの相手を頼んでくれ!!人里と太陽の畑の間で藍が交戦に入る!!』
「「えっ!?」」
イヤリングから聞こえた豹の言葉で、私とカナが同時に声を上げてしまう。慌てて探査魔法を人里に向けてみるけれど、ここからだと私の魔法では範囲外。でもカナはギリギリ届いたみたいで。
「そんな!?上海ちゃんたちが間に合わなかったの!?」
「なんだと―――っ!?」
「どうかしたんですか?」
豹の言葉が届いてたのは、私とカナだけ。でも妹紅さんは私とカナの反応で状況を察知できたみたいで、すぐに意識が人里の方へ向いている。でも小悪魔のように状況が理解できていない皆もいるから、手短に説明しないと…!
「豹から渡された通信具で、メルランが永遠亭に拉致されたって通信が来たわ…!
咲夜たちに渡すのを忘れてたから、幻聴じゃないっていう確証がある!私とカナが同時に気付いたのだから!」
「上海ちゃんたちは今人里に着いたぐらいだけど、手が空いてたら妹紅さんの家に集まってくれって…!」
「ちょっと!?まさかメル姉捕まえるためだけに人里で仕掛けて来たっての!?」
「考えが甘かったな…!迷いの竹林を抜けるためにも、私は人里に向かわなきゃならないか!」
そう、永遠亭に連れ去られてしまえば道案内が出来る妹紅さんがいないと何もできなくなってしまう。でも、こちらの最高戦力でもある妹紅さんが抜けてしまうと…!
「くっ…衣玖を見捨てることになるかしら」
雷鼓が苦々しく言葉を絞り出す。そう、妹紅さん以外にあのお騒がせ天人と真正面からやり合える戦力は…
「ルナサ、リリカ!妹紅さんと一緒にメルランを助けに行って!!
衣玖さんはわたしと雷鼓で助けて来る!」
「私も協力しましょう!私にも姉妹がいますから、その大切さはよくわかってますので!!」
「っ!
迷ってる時間は無いわ!ルナサ、リリカ、行ってちょうだい!!」
「私は全速力で先行するよ!」
「「ッ!!」」
カナだけでなく雷鼓と妹紅さんも、今初めて顔を合わせた小悪魔まで背中を押してくれたわ。ここまでされて、期待を裏切るわけにはいかない…!!
「ありがとう!衣玖さんは任せるわ!!」
「ごめん、後はお願いするよ!!」
いくらあのお騒がせ天人とはいえ、カナと雷鼓も加わる4対1なら押し切れるはず。私とリリカは一刻も早く、メルランを助けないとね…!!
「―――っ!?そんなっ!?」
「ッ!?どうかしましたか、くるみさん!?」
私に豹さんの救援要請が伝わったのは、リィスさんの案内で丁度幻想郷と幻夢界の境目辺りに辿り着いたところだったわ。要するに、かなりの距離が出来ちゃったタイミングで通信が来たってこと…!
「人里に向かったメルランが狙われちゃったって豹さんから通信が入ったわ!ここからじゃ遠過ぎるけど…!」
「くるみさんは援護に向かってください!里香さんは私が責任を持って紅魔館までご案内します!!」
「リィスさん、お願い!そうさせてもらうわ!!」
「お任せください!」
そう言ってリィスさんはそのまま幻夢界へ飛び去って行く。私も全速力で幻想郷に引き返す…どこに向かうか考えながら!
(ここからじゃ人里は遠過ぎる…でも、この通信が伝わってるルナサ達なら間に合うかもしれない。
それなら、私が向かうべきは戦力が手薄になった方!!リリカを逃がすための囮になってくれた誰かの援護なら、まだ間に合うわ!!)
レミリアさんみたいに強大な力を持ってるわけじゃないけど、私だって吸血鬼。これが雪じゃなくて雨だったらそうもいかなかったけど、太陽が沈んだ夜だからこそ全力を発揮できるんだから!
「戦力は少しでも多い方がいい…!持ち堪えてよ!」
レミリアさんの派遣してくれた小悪魔の反応は、一度ルナサ達と合流してたけど…私が引き返し始めてからすぐにルナサを含めた3つの反応が人里の方に向かって、カナと小悪魔にもう一つの反応がリリカの交戦ポイントに引き返し始めてる。つまり私も合流すれば囮の一人も合わせて5人で袋叩きに出来るから、速攻で終わらせてから豹さんと合流すればいい。
なにより…幻想郷の地理に疎い私一人じゃ、遊軍として効率のいい動きは出来ないから。最速で合流出来る味方のところに向かうべき!!
(5人もいれば、妹紅の家って集合場所も誰か知ってるだろうしね!)
「『皆、メルランが永遠亭に拉致された!!手の空いてるメンツは妹紅の家に集まってくれ!!
雛、幻月か夢月にフラワーマスターの相手を頼んでくれ!!人里と太陽の畑の間で藍が交戦に入る!!』
だそうよ…!」
「…ここまで悪魔らしいエリスは本当に久し振りだな。それほどまで、ヒョウを認められないのか…」
「こうなった以上切り捨ててもらうわよ?完全にヒョウの足を引っ張ってるし」
幻想郷においては大きく動かなかったエリスと幽玄魔眼だが、ここに来て予想以上にハイリスクな手段を取ってきたのは展開していた探査魔法で雛とエリーがキャッチ出来ていた。人里で孤立したメルランを狙う…被害状況によっては幻想郷の管理者直々に処刑に出向きかねない位置での襲撃だ。そしてその行動は功を奏し、ヒョウが最も避けたがっていた状況に向かいつつある。
それだけの覚悟を決められるほど、ヒョウを受け入れたくないということだ…だが、私のことを考えての行動ということも理解できないわけではない。
本当に、ままならないものだな…
「ああ、こうなった以上は私直々に魔界へ追い返すべきか…
だが、私たち全員が同時に幻想郷へ侵入しては余計な者まで反応してしまうだろう。少し策を弄させてくれ」
「説明は手短にお願いしますよ?余裕はほとんどなくなっているようですし」
「大した策では無い…風見幽香とやらを抑えに向かうのは、今までの話通り夢月で良いのか?」
「そのつもりだけど、いいのよね姉さん?」
「私はヒョウとサリエルの運命の再会に居合わせるのが目的だから、むしろ夢月に任せちゃいたいわ」
「だって。それでどうするの?」
「夢月、先に一つ確認させてくれ。先程位置を覚えて来たという豹の隠れ家に空間魔法で飛べるか?」
「姉さんも協力してくれれば行けるよ」
好都合だな。勝手にヒョウの家に上がり込んでしまうのは気が引けるが…今は緊急事態。ヒョウも許してくれるだろう。
「それならば、私と幻月だけ魔力を最低限に封じてヒョウの隠れ家に空間魔法で移動する。そのまま夢月は風見幽香の元へ向かってもらい、エリーと雛はヒョウの指示した集合地点に向かってくれ…雛、場所は分かるか?」
「正確な位置までは把握していないけれど、ルナサたちも向かってくるはず。それを目印に出来るわ」
「それで頼む。私と幻月はヒョウの隠れ家周辺に魔力遮断領域を展開してから魔力封印術式を解く。こうすることでヒョウの隠れ家の位置を把握して向かって来る者が居れば、情報源として捕らえることが出来るからな。
誰も釣れないようであれば、そのままヒョウの隠れ家で私と幻月は待機するか…エリスと幽玄魔眼の排除に向かう」
「私はその策に賛成です。皆様はどうでしょうか?」
「私もそれで構わない。こんな風に頭を使うの苦手だしね」
「足手まといになりかねない私が反対することは無いわよ」
「決まりですね。夢月、ヒョウの隠れ家に繋げて!」
時間に余裕がないことを理解しているエリーが、説明を終えた時点で真っ先に賛同し。反対なく話がまとまる…これもヒョウの人望なのだろうな。悪魔と死神、厄神に堕天使と負の性質が強い種族ばかりだというのに、何の対立もなくスムーズに話が進むことなど稀。だがヒョウの信頼により完全に協調出来るのだ。
「ヒョウの隠れ家行きです。それでは魔力封印、お願いしましょうか」
「私を信用してくれることにあらためて感謝しよう。移動して魔力遮断領域を展開し次第、すぐ解除する」
「ふふふ、そうですね…私自身もこんな簡単にサリエルの魔力封印を受け入れることが出来るのは驚きです。本当に、ヒョウが与えてくれた影響は大きい」
あの天使を嫌うことで知られる幻月が、私に魔力を封じられることを拒まない。魔界の住人からすればとても信じられないであろうことを、ヒョウは可能にする。夢幻姉妹からの厚い信頼と共に。
だからこそ、ヒョウを失うわけにはいかない…!
「…これで誤魔化せるだろう。皆、手を貸してくれ」
「今更よ。それじゃ、私は幽香を止めてくるわ」
「エリーは私についてきて。正確な場所は分からないけど、大まかな位置なら分かるから」
「お願いしますね、雛」
「では、行きましょう!」
―――幻想郷。ヒョウが逃れ、無事に過ごした地…被害を出さずに済ませたいところだな。
私がそれに気付いたのは、ようやく人里が見えてきた辺りでした。
「…ああっ!?メルランさんが、永遠亭の方に向かって――いえ、これは連れ去られてしまっている!?」
「―――あれは、玉兎!?不味いことに…!」
千里眼を持つ椛さんは連れ去った相手を視認できたようですが、それはますます事態の悪化を証明しています!
何故なら、私たちが気付いた反応は…!
「くっ!?間に合わなかったの!?」
「エリスと幽玄魔眼ではなくてですか!?どういう状況なのでしょう!?」
「…まさか。椛さん、その玉兎って青いのと橘色のかしら!?」
「そうです!メディスン、知っているのですか!?」
「ヒョウさんと会う前に、私が永遠亭まで案内した奴らだ…!もしかしたら、永琳が手を回してたのかも!」
そう、エリスと幽玄魔眼はまだ交戦中なのです。二手に分かれているのですが、どちらも2対1で足止めされている…そこを永遠亭に出し抜かれてしまったということになります!
「メディスン、案内したってことは迷いの竹林を抜けられるのよね!?」
「うん、案内は出来るわ!」
「それならメルランの救出を優先するわよ!魔界の侵入者の排除は交戦してるのに押し付けるわ!!」
「「「はいっ!!」」」
咲夜さんが即座に優先順位を付けてくれたことで、メディスンだけでなく私と麟さん、椛さんも速度を緩めず迷いの竹林方面に進路を変えます!手遅れにならないように、急ぎませんと…!!
次の更新は1/2(火)になります。
皆様良いお年を。