寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第21話 道具達の意思と新たな出遭い

「…起きないとな」

 

覚醒魔法が作動し目を覚ます。今日はまず麟のことをエリーとくるみに確認しなければ。もし覚えていられたなら、いつかカナとも接触してもらってなにかしら共通点を見つけてもらいたい。あまりに情報が少なすぎてお手上げだった麟の呪いを、祓うことができる可能性を見つけられるかもしれない。

 

(…ったく。追い込まれた状況で考えることすらこれだ)

 

麟の言葉通り、逃亡者としての自覚が足りていない。―――俺は結局、反逆者にも逃亡者にもなりきれないままズルズルと生き延びてしまった。

間違っていたのは、俺自身。報いを受ける刻が、すぐそこに迫っている。

 

「立つ鳥跡を濁さず…そうありたかったが。俺には土台無理な話か」

 

そう遠くないであろう最期の刻に、後悔無く散ることなど出来そうになかった。

 

 

 

 

 

「おはよう、エリー」

「おはようございます、豹さん」

 

エリーはあまり睡眠を必要としないのか、昨日同様すでに活動していた。…くるみの方が門番の仕事してたと言ってたが、少なくとも今はエリーの方が仕事してるってことだよな、これ。

まあ、先に確認すべきことはこっちだ。

 

「エリー、麟のことは覚えていられてるか?」

「え、麟さんですか?もちろ………」

 

…駄目か。いや、ちょっと待て。

 

「名前はまだ覚えてるのか?」

「―――はい。昨日豹さんから聞いた、冴月麟さんの名前は覚えています。

ですが…なぜこの名を聞いたのかは、思い出せない。どういうことでしょうか…」

「カナと同じ状態か…エリー、カナ・アナベラルという騒霊と面識があったりするか?」

「カナ、ですか?いえ、聞き覚えのない方です」

 

共通点は、今の時点では見出せないだろうな。

 

「混乱させてすまない。今は麟の名前と、麟は俺の味方だということだけ覚えてくれてればいい。

カナにも、機会があれば会わせるが…しばらくは無理だろうな」

「…すみません、私では役に立てなかったみたいですね」

「いや、謝る必要はない。むしろ俺にとっては名前を覚えてくれていただけで貴重な情報だ」

 

それを、俺が活かせる時間があるかどうかがわからないだけで。

 

「くるみを叩き起こすのと、このままエリーに今日の作業を指示してもらうのはどちらがいい?」

「あ……、それでは私たちじゃ手の施しようがない部分を見てもらいたいので、今日は私と一緒にお願いします」

 

強引に話題を逸らしたのはバレていたようだが、乗っかってくれた。あまり気にし過ぎてもエリーのメンタルに悪いだろうという判断だ。しかし…麟は呪いの都合で仕方ないが、エリーもなぜか俺に依存しそうな雰囲気がある。悪化する前にくるみと相談しておくべきか。本来ならフラワーマスターの仕事のはずなんだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃ、行ってくるわ」

「はい、いってらっしゃいませご主人様」

 

春告精の住処を調べてもらうため、ご主人様は光の三妖精を訪ねに向かいました。私も付いて行こうとしたのですが「たぶん霊夢に勘付かれる」ということでお留守番です。帰ってくるまでは自由にしていいと言われてはいるのですが…やはり私一人だけ好きにするのは申し訳ないです。

 

そういうわけでまずはみんなと一緒にお掃除です。私は戦闘用なので家事はあまり得意ではないのですが、慣れているみんなに細かいところをやってもらうため、目立つところの掃き掃除と雑巾がけ…でしょうか。

 

\……/

 

同じく戦闘用ながらお留守番のゴリアテちゃんもお手伝いしてくれるみたいです。まだ未完成の魔法をその身に受けているので、大江戸ちゃんたちのように意思が薄かったのですが…今では、はっきりした意思を持っています。私がほぼ全ての記憶を頂いてしまったようですが、ご主人様が私たちに豹さんの魔力を繋いでくれたことによって―――特に多くの魔力を扱ったゴリアテちゃんは隠れ家さんの影響を私に次いで大きく受けたのでしょう。言葉を話すことは出来なくても、私と意思疎通ができる…ゴリアテちゃんもそれがわかったから、ご主人様の命令が無ければ私の傍に控えてくれるようになっています。

 

ご主人様に作られた私たちはみんな姉妹ですが、私は突然ここから巣立つことになってしまいました。

ですが、あの戦いを共にしたみんなとは、ご主人様とは別の…豹さんによるつながりができました。そのつながりが一番強いのがゴリアテちゃんです。そういう意味では、これから私にとって一番近い妹になるのかもしれません。

 

今までご主人様が私に求めていた役割は、これからは蓬莱が担うことになるでしょう。再び名付けられる前までは、一番近くにいた妹。だから私の代わりが務まる…今もご主人様の傍に控えているように。

一緒にいるときはフォローしますが、蓬莱自身で出来るようになってもらわないと。そして、それは私も同じ…ご主人様から離れても、私自身だけで果たすべき役割を務められるようにならなくてはなりません。

 

そんな私の傍に、ゴリアテちゃんがいてくれる。とても心強いし、ご主人様のお心遣いに感謝してもしきれないです。

隠れ家さんの願いを果たすために。ご主人様の期待に応えるために。

私はご主人様のようになれるよう、頑張らなくてはなりませんね。

 

 

 

\~♪/

 

ゴリアテちゃんがご機嫌です。そういえば、お掃除なんてゴリアテちゃんはやったことないですもんね。初めてやることは楽しいものです。そんなゴリアテちゃんが張り切ったりしたので、私が思っていたより早くお掃除は終わりました。

 

残りの家事は担当のみんながやってくれるそうなので、私とゴリアテちゃんは自由時間です。一昨日までの私でしたら命令にすぐ従えるよう魔力の節約も兼ね大人しく待機していたのですが、今の私には探し人がいます。

 

「少しでも、知らないことを減らすために」

 

ご主人様がわかりやすく、机の上に置いていってくれた…豹さんの研究資料。私でどれだけ理解できるのか不安ですが…隠れ家さんに頂いた記憶と、ご主人様に教えられた知識で読み進められるところまで。

 

「豹さんに、会いに行くために」

 

ご主人様が帰ってくるまでに、豹さんの残してくれたものを追いかけます。

 

 

 

 

 

 

 

 

私がこの舞台から振り落とされないでいられるか、二日目でもう心配になってきたわ…

 

「…また忘れるだろうから、後でメモ書きを残しておくわ。明日からはそれで済ますわよ」

「うわ、雑な対応になったし。メル姉はいいのこんな扱いで」

「仕方ないじゃない、忘れちゃってるのは事実みたいだしね~」

 

私が持ち出した二胡…昨日メルランとリリカには説明したのに、今朝になって誰から貰ったの?と聞かれてカナの言葉を思い出した。

 

 

 

―――麟さんのことは覚えていられないはずなの。

 

 

 

どういうことかよくわかっていなかった私は、朝になってそれを知ることになった。メルランとリリカは昨日話した二胡のことは覚えていたけれど、持ち主であろう冴月麟のことを忘れてしまっている。

 

それなら、どうして私は覚えているのかしら?

 

 

 

―――この二胡、弾き手を選ぶんだわ。

 

 

 

アリスの言った通り、昨日試してもらったけれどメルランもリリカも音を出すことができなかった。ちなみにカナも同じで、弾くどころかアリスとやりあった際には強化魔法で硬化させて人形にぶつけてたとのこと。当然使い方に対して抗議しておいた。…まぁ、楽器に対して謝罪するべきという自覚はあったし、今後はそんな使い方しないと約束してくれたからいいのだけれど。

 

つまり、弾き手として認められた私だけ、憶えていられたということなのでしょう。

カナは名前しか覚えていないと言っていたのに、私はこの二胡のことだけでなく、アリスが感じ取れなかった二人の…豹と冴月麟の魔力も覚えている。メルランとリリカは感じられなかった、この魔力を。

 

「わからないことが多すぎるのに、どんどん増えていく。豹は、本当に遠いところにいたのね…」

「あ、まずい。ルナ姉が落ち込み始めてる」

「ちょっと姉さん、弱気になるのが早すぎるわ!そんな簡単に豹は諦められないでしょ!」

 

それは言われなくてもわかってる。でも、私の中で整理することすらままならないのよ。

ただでさえ不相応な舞台に引き上げられて余裕がなかったのに、初日から私にしか出来そうにない案件が見つかって。そしてほかの誰も手伝えそうにない。

私一人で、抱えきれるか。不安ばかり募ってしまう。

 

「………とりあえず、今日は午後からアリスと合流することになってるから今から雷鼓に会って来るわ」

「ストーップ!その雷鼓は今日こっちに来てくれるって、昨日話したのに聞いてなかったの?」

「午後になったら無駄足にさせてしまうでしょう。そうならないように私から出向くわよ」

「姉さんから動こうとするだけの気力はまだあるのね~。それを長続きさせるために私はどうすればいいかしら?」

 

八雲藍に言い切ったんだから、そう簡単に折れないわよ。だからこそ今は、メルランには一歩引いておいてほしいわ。

 

「変わらないわ。私と入れ違いにならないように、ここが留守になる状況を作らないでおいて」

 

そう返して、外へ出ようとしたところで。

 

「朝から失礼するわよ…ってルナサ、もう出かけるの?」

 

見計らったようなタイミングで、雷鼓がやってきた。

 

 

 

 

 

「それで、これがその二胡と。でも私は弦楽器専門外なのよね…こうでいいのかな?」

 

さっそく説明して雷鼓にも試してもらう。彼女は元々打楽器、なにか気付くことがあればいいのだけれど。

 

「…本当だ、音が出ない。いや、出そうとしていない?

こんなに新しいのに、意志を持ち始めてるっていうの?」

 

私の予想も捨てたものではないようね。アリスと同じ見解を雷鼓も出してくれた。

 

「アリスは、術具に変化したと推測してたけれど。雷鼓にはなにかわかることはある?」

「そうね、間違いなくこの二胡は術具と化しているわ。ただ、おそらくこの二胡は作られて10年…いや5年も経っていない。そんな短期間で意思を持てる道具なんて普通は無いのよ。

そこから考えると、この二胡は製作者も最初から術具として作り上げている。それはもはや術具とは呼ばない―――呪具と呼ぶべき代物よ、これは」

「あちゃー…豹がどんどん危険人物に思えてくるじゃん。もしかしてとんでもない悪縁作っちゃってたのルナ姉は?」

「ちょっとリリカー?私にとっても豹は特別なお客さんよ。悪縁なんて言うのは許さないわよ~?」

「いや冗談だって!そんな怖い笑顔で迫ってこないでってば!」

 

メルランも私ほどじゃないけれど、豹のことを意識してるのよね…

 

「でも、私を受け入れてくれない以上これしかわからないわ。作った本人かその持ち主らしき冴月麟?じゃないと詳しいことはわからないんじゃないかしら」

「私は雷鼓が話してくれた姉妹に聞いてみようと思っていたのだけれど。彼女たちが弾き手に選ばれたとしても、得られる情報は私と大差ないと思う?」

「九十九姉妹か。たしかに私より可能性はありそうだが…あまり期待は出来ないんじゃないかな。少なくともルナサが言う魔力に関しては望み薄だろうね」

 

…そうなのね。でも、何も手がかりが無い以上少しでも情報が欲しい。

 

「望み薄でも心当たりが他にないのよね。雷鼓は彼女たちと今も連絡は取れるのかしら?」

「う―ん…取れるとは思うけど、素直に協力してくれるかが、ね。あの子たち誘わずに私たちで組んじゃったから、誘わなかったの根に持たれてる気がしてさあ…」

「でも姉さん一人で弦楽器は事足りるのよね~」

「それで誘わなかったからさ…ルナサと私で会っても協力してくれるかなあ?」

 

…なんだか私の知らないところで印象悪くなっちゃってるのね。

 

「ただ、今日は昼過ぎから人里で演奏する予定のはずだから会うことは難しくないんじゃないかしら。私もそれがあるからこの時間に来たわけ」

「昼過ぎ、か。厄神のところからの帰りで間に合うかしら…」

 

天狗に絡まれるだろう妖怪の山では時間取られるだろうから、夕暮れぐらいまで人里に残ってくれてればいいのだけれど。

 

 

 

 

 

 

 

エリーとくるみで手の施しようがない部分というのは、壊れ方が細かすぎてどのあたりの残骸なのかわからない瓦礫の山だった。たしかにこれは俺でも時間がかかる。

戦闘できる程度の魔力を残すようにすると、流石に昨日のような速度で修復魔法は行使できない。魔力回復薬も持ち出してきてるとはいえ、修復のフォローで使えるほど数は無い。そうなるとゆっくり作業することになるわけで。

 

「もうー…どうしても修復魔法はうまく使いこなせないです。種族特性には逆らえないのが悔しいですね」

「新築とは真逆の手段だからな…それこそフラワーマスターはどうなんだ?」

「私たちよりは絶対にうまく使えますけど、飽きた時点で投げ出して二度とやらないでしょうね。こういった地道な作業を幽香が続けられるのは花に関わることだけです」

「そ、そうか…」

 

俺が実践を見せながらエリーが模倣しようとしているが、やはり苦戦している。やっぱ業者呼んだ方がいいんじゃないかこれ。

―――と思いながら作業をしていると。

 

「エリー、こちらに向かってくる強大な気配が二つあるんだが…夢幻世界の方向から。知り合いか?」

「え、…あ、もう顔を出しに来てくれたみたいです。昨日話した悪魔の姉妹さんですよ」

 

………エリー、俺が逃亡中ってこと忘れてないか?というか…これは参ったな。

 

「おはようエリー!お客さんが来たんですって?」

「おはよう。…へえ、これは面白そうじゃない」

 

天使のような翼を羽ばたかせた少女と、メイド服に身を包んだ少女。

悪魔であることを隠そうともしない…いや、隠す必要が無いのか。強大な力を振り撒く美少女が二人。

 

今の俺じゃ本気を出そうが逃げ切れるかわからない相手と、遭ってしまった。

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