(…団子屋の玉兎がトランペッターを永遠亭に連れて行く、ね。これはちょっとやっちゃったかしら)
手短とはいえ八雲藍からここ数日の流れを聞き出したのはいいんだけど、トランペッターの救助は間に合わなかったわ。まあ…命令されたのは《侵入者の排除》だから私の失態ではないけど、余計な火種が増えたことは間違いない。
なにしろ、この騒ぎの中心―――豹が魔界以上に警戒しているのが永遠亭なのだから。これからもうひと悶着あることが決まったようなもの。
(それなら、さっさと命令を遂行して情報の整理をするべきね。侵入者も人里に被害が出ないよう配慮はしてるようですし)
流れ弾が住人や家屋に着弾するようなら私も現場に直行したのだけど、どうも本気でトランペッターを狙っているような感じがしなかったから八雲藍との接触を優先した面もあるのよね。案の定それは当たっていたようで、侵入者は団子屋を追うより割って入って来た二人…後戸の二童子の迎撃を優先しているわ。
つまり、侵入者が意図的にトランペッターを永遠亭に拉致させたとも取れる。ただ、どうにも不可解なのが…
(八雲藍は侵入者と後戸の秘神は繋がってると見ていたけれど…思いっきり交戦してるわよね?
読み違えたのかしら?でもその方が面倒になる…侵入者だけでなく二童子の目的も不透明になるわ。
―――直接問い質す方が早そうね)
そう結論付けて私は速度を上げることにした。
「―――っ!?増援か…!
これ以上無駄な消耗は避けたいから、退いてあげるわ!」
「あ、逃がさないよ!」
そして私は交戦地点に辿り着いたのだけれど、数的不利を悟ったのか侵入者と思われる悪魔は私の姿を捉えると早々に空間魔法で離脱してしまったわ。それを後戸の二童子の片割れが追撃したのか続け様に姿を消す。
「…小兎姫だっけ?もう少し早く援護に来てもらいたかったわ」
「あらごめんなさい、先に話を聞きたい相手を捕まえられたから遅くなってしまったわ」
「―――ああ、藍がフラワーマスターの抑えに回ってるのね。これは私達の仕事は楽になるかなー」
そして残った片割れ…たしか爾子田里乃だったかしら?僕っ娘じゃない方が相手してくれるようね。色々聞いておきたいけど、まずは――
「とりあえずお礼は言っておくわねー、援護ありがとう。でもどうしてあなたたちが人里に?」
「お師匠様の命令よ、人里を守るために魔界からの侵入者を強制排除しろって。
私も舞も詳しいことは知らされてないから、これ以上を聞かれても答えられないわよ」
…まあ、あの後戸の秘神がそう簡単に情報を持たせるはずもないですよね。あの秘神は八雲紫と比べて部下に対する信頼が薄い―――どちらかと言えば冬眠の必要がある八雲紫が、式である八雲藍に管理者代行を務めさせる必要があるから部下への信頼がとても厚いと言うべきなのでしょうけれど。
八雲藍と後戸の二童子では幻想郷においての立場の重さが違いすぎる。つまり重要な機密は伏せられた上で動いている可能性が高いということだわ。
「それじゃ、もう一方の逮捕には手を貸してくれるのかしら?」
「むしろ手伝いなさい。舞一人じゃ不安だから、私も早くあの悪魔を追いたいからね」
「では情報はそっちから聞き出しましょうか。参りましょう」
少なくとも人里の敵ではない以上、侵入者の撃退まではやってくれるということよね。それならまだ粘っている侵入者と、妖夢さんに話を聞きに行きましょうか。永遠亭は余計な騒ぎを好まないのだし、トランペッターは放置しても平気でしょう。
―――最悪の事態になってしまった…!メルランが永遠亭に拉致されたのに私が気付いたのは、風見幽香を抑えるべく太陽の畑方面に移動し始めてからだった。要するに人里に被害が出ないよう風見幽香との距離を詰めてしまったことで、紫様と橙に状況の悪化を伝える時間が無くなってしまったのだ。
最早お互いに攻撃範囲内…問答無用で撃ってこないあたり会話する気はあるようだが、ここで私が進路から去ってしまえば風見幽香が人里で暴れかねない。しかも豹は無名の丘辺りに潜伏していたらしく、風見幽香の後方から猛スピードで迷いの竹林に向かっている…つまり正面にいる私がスキマに入ってしまうと、後方の豹に気付かれる可能性があるのだ。陽動のためにも私は八雲邸に戻ることが出来ない…!
(豹が迷いの竹林に向かっているということは、夢幻姉妹も含めて集合の指示を出したはず。つまり幻月か夢月が到着するまで時間を稼ぎさえすれば!)
豹自身が動くのは本末転倒だが、豹の性格と八意永琳の月における所業を照らし合わせれば避けられない状況―――大天使サリエルすら実験対象と見た八意永琳なら、幻想郷の住人など情報を引き出すためであれば何の躊躇もなく非人道的な扱いに出ると豹は考えているのだろう。ここまで隠岐奈様が読めているとすれば、予想以上に豹の情報を掴んでいたということだ。
(それこそ、豹のことを私や紫様と同程度に調べ上げていた可能性を考慮すべきだったか…!
古くから一貫して豹の排除を主張していたのは、豹のことをある程度調査済みだったからこそ。今更悔いても遅いが、隠岐奈様の諜報能力を甘く見ていたということだな…!)
私も紫様も、豹が過去を伏せることを望んだからその意思を尊重し深く追及することは無かった。だが豹を敵視していた隠岐奈様が、そんな配慮をするはずがない。下手をすれば、私より豹の過去を知っている可能性もあったわけだ。
(数少ない甘えられる相手として、豹の希望を優先したことで…情報収集に後れを取ってしまっていた、か。
…今は振り返るな。集中しなければこちらが滅ぼされかねないのだから…!)
後悔と雑念を振り払い、奴を見据える。
「人里の救援に出向いてくれたことには感謝するが、貴方と交戦させるわけにはいかない侵入者なんだ。引き返してもらえないだろうか?」
「へえ、まさかあのスキマ妖怪の式が直々に邪魔しに来るなんて。
別に引き返しても構わないわよ?私を楽しませることが出来ればね!!」
会話をする気はあったが、戦闘を避ける気は皆無だったか…予想通りではあるが!
四季のフラワーマスター、風見幽香。援護が入るまで、私が食い止めなければ!!
『―――というお話になったのですよー!』
「…咲夜が上海に同行した時点でもしかしてとは思ってたけど。レミリアが完全に豹の味方とはね」
カナに渡しておいた
その移動中にリリーからあちらの状況を聞き出したのだけれど、一番大きな情報がこれ…レミリア率いる紅魔館が豹側で参戦してきたということ。それも咲夜を派遣するという本気振り。
そして、それ以上に驚いたのが…
『まさか、カムさんの取引相手が先輩と面識があったとはね…流石にこれは読めなかったわ』
「どうしようもなくなったら向かってみるつもりだったけど、こんな形であっちから動いてくれるなんて思わなかったなぁ…」
夢子とユキもレミリアのことを知っていた点。もっとも、魔界としては頼らずに済む方が好都合だったらしくて私にはまだ話してなかったそうだけど。
まさか、紅魔館と魔界で異界間闇取引を行ってるなんてね…私が思っているよりレミリアは大物なのかもしれないわ。
『咲夜さんは紅魔館に逃げて来てもいいって言ってくれたのですよー。魔界の皆さまもお知り合いなのでしたら、お手伝いしてもらえるのではないでしょうか?』
「そうだね、カムさんの取引相手なら信用できるよ」
『幻想郷に向かう前に話を聞いておいて正解だったわ。落ち着いたら足を延ばした方が良さそうね』
「ただ、頼れる味方ではあるけれど…異変扱いさせずに終わらせるのは不可能になるでしょうね。レミリアの性格的に自重することなんて出来ないでしょうし」
むしろ問題はここなのよね…霊夢と魔理沙が動き始めてるから今更ではあるのだけれど、レミリアが介入してきた以上ここ一週間における豹の逃走は異変として明るみに出ることになる。それは上海やカナの望む結果に繋がらないわ。
「―――ありがとうねルーミア。付き合わせて悪かったわ」
「かまわないのだー。でも春告精がおにーさんのお手伝いしてるなら、私も何かお手伝いした方がいい?」
「その気持ちだけで十分よ。先輩はルーミアを置いて行った…ここから察してもらえないかしら」
「…うん、わかった。弱い私じゃ足を引っ張っちゃうんだよね。
でも、何か私にもできることがあったら…お手伝いさせてほしい」
「ええ、その時は呼びに行くわ」
「それじゃ、私は帰るのだ―」
そんなことを考えている間にルーミアを連れた夢子と合流出来たわ。お互い最短距離で合流に向かう途中で余計な相手に絡まれると面倒なことになるから、念のためにスペルカードルールを理解できてるルーミアを夢子に同行させたのだけど…問題なかったようね。
そして夢子は上手くルーミアをこの一件から遠ざけている。今の切羽詰まった状況では、ルーミアは足手まといになりかねない。そして自身の弱さを理解しているルーミアは食い下がることもなくおとなしく帰って行く。聞き分けが良くて助かるわ。
「それじゃ、私たちも人里へ向かいましょう。魔界の住人を追い返すなら、私とユキが一番角が立たないわ」
「うん、手遅れになる前に急ぎ――ッ!?」
「ッ!?ここからで間に合うかしら…!」
そして、人里に意識を向けたこのタイミングで私たちも気付く…!リリカはルナサたちと合流出来ているのだけど、人里に逃げ込む前にメルランを追っていた二つの反応が迂回してメルランを再度狙っている!
上海たちもまだ人里に辿り着いていないから、孤立したメルランが包囲されそうな状況だわ!!
「くっ…!人里を優先すべきだったかしら!」
「結果的には判断ミスね…!一度人里で襲撃があれば、別勢力も遠慮がいらなくなるってことだわ」
「夢子、空間魔法で飛べない!?」
「それは
「そうだった…!全速力で向かうしかないか!」
「急ぐわよ!!」
そのまま3人で人里へ向かったのだけれど、当然間に合うはずもなく。
「なっ!?また空間魔法!?」
「いえ…空間魔法じゃない。おそらくは空間系能力よ。あの邪仙以外にもこれだけの使い手がいるのね…!」
「ッ!?間に合わなかった!?」
人里がまだ遠い位置で、さらに二つの反応が突然現れたとほぼ同時。メルランの反応が別の二つの反応と共に永遠亭へ向かっていく…!
最早手遅れ。そう私も夢子もユキも理解した直後…別地点に強大な反応!
「えっ!?夢月だよねこれ!
それに、だいぶ魔力を抑えてるけど…!」
「―――サリエル様…!」
「はぁっ!?ってことは雛とエリーの他にもう一つ抑えられた魔力反応はまさか幻月!?」
空間魔法で豹の隠れ家に5つ反応が出て来たのだけど…そのうち3つは夢月と雛にエリー。夢月とルナサが一足先に私の家を離れた理由を考えると、夢幻館の規格外な戦力が幻想郷に乗り込んできたってことになる!
そして、それが事実であることを証明するかのように。
『アリスさん!雛さんが来てくれたので、お話ししてくるのですよー!』
「あ!?リリーちょっと待ち『―――繋がっているのか?』
「サリエル様!?幻想郷に入っちゃって大丈夫なんですか!?」
『ユキか!礼を言うぞ妖精、侵入してすぐ連絡が取れるとは思っていなかった』
リリーが迷いなく