藍と風見幽香が交戦に入ったタイミングで俺も大きく動く。封じていた魔力を解放しさらに速度を上げる―――一度戦闘に入れば俺に気付こうが狙ってくることは無い。それこそ俺を優先すれば藍がそのスキを付けるのだ。強硬手段を取らざるを得ない以上、俺の反応も拾われるようにした方が動きやすくなる。
(メインターゲットの俺を探知させておけば、問題になる連中の動きも読みやすくなるからな…!)
八意永琳を敵に回すのであれば、俺が後方の安全地帯にいるわけにはいかない。迂闊に攻撃を仕掛けてしまえば、メルランだけでなく他の皆まで囚われてしまう危険があるのだ。サリエル様すら手玉に取られてしまった天才を相手取る以上、時間が惜しいとはいえ無策で突っ込むのは無謀にも程がある。だからこそ、
「―――豹様、メルランの救出に力を貸していただけるのでしょうか?」
「当然だ、それこそ俺から頼みたい。
咲夜、手を貸してくれ!」
「そのために参りました。私の力、ぜひお役立てください」
「ああ、よろしく頼む!
…あらためて、名乗っておこう。くるみから聞いたようだが、今は豹と名乗らせてもらっている」
「ええ、今後は豹様と呼ばせてもらいます。お嬢様は引き続きお兄様と呼びたがっておりましたが」
「好きに呼んでくれて構わないさ。とりあえずは、先行してくれた皆に作戦を伝えるぞ」
先行してくれていた面子の中でも最高戦力、紅魔館のメイド・十六夜咲夜が俺の傍らに現れる。俺の魔力反応を察知してすぐに、時間を操る程度の能力で合流してくれたわけだ。
「麟たちにはどう伝えてきてくれた?」
「豹様が向かってきているので、合流を優先すべき。迷いの竹林手前で待てと言ってきましたわ」
「ベストだ、流石は咲夜だな。
なら急ぐぞ。掴まれ」
「は…?―――!?」
咲夜と妹紅が切り札になる。ゆえに無駄な消耗はさせられないから、差し出した手を取った咲夜をそのまま抱えてさらに加速。時間停止を使った移動よりは遅いが、これなら咲夜の消耗を最小限に出来るからな。
―――そうして俺と咲夜が妹紅の家に辿り着くと、先行してくれていた皆も目印となる妹紅の家の前で待機してくれていた。皆察しが良くて助かるな…!
「豹さん!魔力を隠さなくていいのですか!?」
「俺から動く以上、追手の動きも予想しやすくしときたいからな。俺を狙って動いてもらう方が対処を考えやすい…皆を巻き込むことになるのは悪いが」
「私はもうその覚悟を決めています。皆さんもそうではないでしょうか」
「そうですね、私は最初から豹さんの力になるために動いています」
隠れ家から出てきてくれた麟と椛が即答を返してくれた。あまり前線に出したくはない二人だが、今の状況じゃそうも言ってられない。ありがたく戦力に数えさせてもらおう。
「はい、隠れ家さんのためにも覚悟は出来ています」
「私は上海を手伝うだけよ。だから上海に無理をさせるのは許さないわ」
「わかってる。俺のためじゃなくていい…メディスンは上海を助けてやってくれ」
「言われなくてもそうするわ」
上海のおかげでメディスンも俺に手を貸すことに異論はないらしい。この状況になってしまった今では誰よりもありがたい協力者だ。
八意永琳と毒の取引を行っているメディスンは、迷いの竹林を抜けることが出来る。つまり妹紅と分散することで時間差攻撃を仕掛けられるのだ。永遠亭の戦力は少数精鋭だが、今はそのうちの一人…鈴仙・優曇華院・イナバが不在。メルラン救出を迅速に行うためには、協力してくれる皆との人数差を利用することが必要だろう。だからこそ俺から次に伝えることは。
「突入は俺の救援要請に応えてくれた皆が合流してからだ。位置の問題で作戦のメインになるルナサと妹紅の到着が最後になりそうだからな」
「あっ!リリカさんはルナサさんと合流できているのですね。ですが、囮として足止めしてくれた方の援護のためにカナさんたちは分散してしまっている…」
「殿を務めてくれたのは永江衣玖…竜宮の使いだ。メルランのソロライブに何度も足を運んでくれてたから、手を貸してくれたんだろう」
「あら、あの竜宮の使いにそんな趣味があったのは初耳ですわ。
…ところで、私はいつまで豹様に抱えられていればいいのでしょう?悪くない気分ではありますが」
「っと、そうだったな。急に抱えて悪かったな咲夜」
「抱えられたまま高速飛行するなんて滅多に出来ない経験でしょうし、謝罪は必要ありませんわ」
「羨ましいです…」
麟が本音を漏らしているが、今はちょっとフォローしているような時間が無い。ここに向かって来てくれている皆の他にもう一人、手を貸してもらいたい相手がいるからな。
「そこっ!」
「うおっ!?即席のタッグとは思えないなお前等!」
「これでも当てられないのが恐ろしいがな…!」
成り行きで慧音と共闘することになったから、幽玄魔眼も余裕をなくしてるみたいなんだけど…押し切れない!異空間に逃げられる相手が足止めに徹するとここまで厄介だなんて!
…そんな感じで手間取ってたから、次の動きは意外過ぎて。
「だが、ここらが潮時みたいだな…
妖夢って言ってたか?どうもアンタは上手く使われてるだけっぽいから忠告しといてやる。
―――ヒョウみてえな女誑しを助けてもロクなことにならねえぞ。あのクソ野郎に誑し込まれた奴らだけじゃなく、敵視されてる連中からの話も聞いておくべきだぜ。じゃあな」
「はあ…?」
そんな捨て台詞を吐いて幽玄魔眼が消えちゃった。なんで?と思ってたらすぐその理由がわかる。
「あら、こっちもさっさと逃げちゃったの?」
「ってことは舞が危ないわね。悪いけど情報はこいつらから聞いておいて。私は侵入者を追うわ!」
「あ、ちょっと待ちなさい!」
別方向から二人援護に来てくれてたみたい。そのうち片方は急に開いた扉に入って行っちゃったから、残ったのはお姫様の格好した女の子だけになったけど。
「小兎姫も動いてくれていたのか。助かったぞ」
「話を聞きたいのには全員逃げられちゃったけどねぇ。
…おまけに、またとんでもないのが出て来てるし」
「へ?………っ!?」
「これは…!?」
そのお姫様から言われてようやく私も気が付いた。物凄い強い力の反応が、また二つ増えている!!
一つは迷いの竹林上空を横切るように動いてて、もう一つはこっちの方に向かって来―――ええっ!?
「藍がフラワーマスターと闘り始めちゃってる!?なんで!?」
「なんでも何も、あなたをこっちに回した以上幽香さんを抑えられるのは私だけって言ってたわよ」
「妖夢の援護は八雲からだったのか。それに、今侵入者の追撃に向かったのは…」
「そう、後戸の二童子よ。だからもう少し話を聞きたかったのだけど…先にあれを抑えないと、よねぇ」
「そうだな…妖夢、もう少し手を貸してくれないか?
こちらに向かってきているあの強大な反応、人里を狙っているとすれば私と小兎姫だけではとても抑えきれない。私が人里を隠すための時間稼ぎを頼みたい」
「っ!そっか、そうすれば人里の被害を気にせずに動ける。任せて!
えっと、あなたは…」
「警官の小兎姫よ。よろしくね」
藍には悪いけど、こんな強過ぎる相手を人里に入らせるわけにはいかない。慧音が人里を隠してくれるまでは、こっちを優先するべきだよね!!
「はぁっ!?豹直々に永遠亭に乗り込む気だっての!?」
『ヒョウはそういう漢なんだ。本当に変わっていなくて…私としては安心したぐらいだ。
だからこそ、アリス…君はまだ動かないでもらいたい。これが摩多羅隠岐奈とやらの筋書き通りであれば、あの巫女たちが動くのはこれからだろう』
『幽香は夢月が抑えてくれるから気にしなくて大丈夫です。エリスと幽玄魔眼も、ルナサの妹を永遠亭に拉致させることに成功した時点で目的は果たしたと考えられます。つまり、タイミングを見計らって退く――って言ってる間にエリスは退きましたね。なので幽玄魔眼も放置して平気です』
リリーが繋いでくれた相手―――魔界に堕ちた大天使サリエル。魔力を封じて幻想郷に侵入、そして豹の隠れ家に魔力遮断領域を展開し待機する…隠れ家の主と全く同じ場所と方法で潜伏することに因果を感じるけれど…そんなことを考えている間にも事態は動き続けていて。
「それじゃ、わたしと夢子もアリスと待機した方がいいでしょうか?」
『迂闊に交戦するわけにはいかないユキと夢子はそうせざるを得ないだろう。だが、再びエリスと幽玄魔眼が現れたら即座に対応してもらいたい。ここまで侵入したとはいえ、私と幻月が動いては余計な干渉が入りかねないからな…頼めるか?』
「お任せください。他に神綺様からは何か?」
『邪神としての繋がりで、協力してくれる当てがあるとは言っていた。ただ、あまり頼りたくは無いとも言っていたが』
「この状況で神綺様が当てに出来るけれど、あまり頼りたくはない邪神…袿姫様かしら」
え、邪神の袿姫?もしかしてそれは…
「夢子、その袿姫って埴安神袿姫のことかしら?」
「ッ!?なんでアリスが袿姫様のことを知ってるのよ!?」
「直近…じゃなくてもう一つ前か。畜生界で起きた異変の元凶だったらしいわ。もっとも、幻想郷らしく異変が解決してからは人里に出てきたりしてたのだけど、その時私の人形劇に興味を持ってね。造形術に関して何度か意見交換したりしてたのだけど…まさか母さんの知り合いだったわけ?」
「うん、わたしも一度だけ会ったことあるよ袿姫様。まさか幻想郷にいるなんて思わなかったけど」
『それはつまり、アリスから協力を求めれば味方に付けられるということですよね?』
「そうだとは思うけれど…今彼女が住んでる場所が問題なのよ。畜生界の霊長園…妖怪の山にある地底へ通じる洞窟と、旧地獄を抜ける必要があるわ。時間もかかるしまず間違いなく妨害が入る…妖怪の山の天狗と旧地獄の地底妖怪たちにね。私が向かってもタイムロスが大き過ぎるわ」
『となると、魔界から直接畜生界とやらに神綺が飛ぶ。もしくは神綺が使者を送るのが現実的か…間に合うかどうか』
ここに来てとんでもない大物が味方に付けられる可能性が出て来たわね…今となっては遅すぎる気もするけれど。まさかつい最近招喚された袿姫が母さんと知り合いだったなんて。
…そういえば、私が魔界出身だと話した時に含みのある笑顔と反応を返してきたけど。その理由はこれだったみたいね。
『魔界と連絡を付けられる人手が残っていればよかったのだが…雛とエリーも永遠亭への増援に向かわせたのが早計だったかもしれん。ルナサと分散した者達の援護に向かい、合流することも考えるべきか…?』
「ッ!?兄さんが呼んでる!!
アリス、夢子!わたしは兄さんを助けてくる!!サリエル様、後はお願いします!!」
「え?ちょっとユキ!?」
その言葉と同時にユキが、昨日と同じように一瞬で姿を消し…妹紅の家の辺りに現れる。
そこでサリエルとの通信に気を取られていた私はようやく気付く。ユキによく似た強い魔力反応が、上海たちと同地点に現れていることに。あの時、寺子屋で初めて見つけた豹の魔力反応より…ずっと強くなって。
あれこそが、魔界神の護衛―――ヒョウなのね。
『…ユキにも助けを求めたか。八意永琳が相手であれば、ヒョウの本気が必要だということだな』
『ヒョウも随分思い切りますね…本当に、自分より妹の危機の方が堪えているようです』
「先輩ですから…私も助けになりたかったのですけれどね。
ただ…これで逆に私の役目が出来ました。サリエル様、私はアリスの家から一度魔界に帰還して、袿姫様の所在を神綺様にお伝えしてきます。そのまま使者として協力を要請して参りましょう」
『頼む。アリスへのフォローは私と幻月が引き継ごう』
そして夢子も迷いなく己の果たすべき行動を理解して言葉に出し、サリエルも即座に返答を返す。
ここまで迅速な判断は、今の私には付けられない。本当に、経験不足を痛感させられるわね…
「私はそのまま待機して、霊夢たちが動いたら足止めに動けばいいのね?」
『それに際し、彼女達が先にアリスを排除するような戦力配分になれば私と幻月も救援に向かう…厳しい役割を負わせることになるが、許してくれ』
「私一人が相手なら、霊夢と魔理沙はスペルカードルールに従うわ。幻想郷の維持のために【弾幕ごっこで済ませる】のが博麗の巫女の大前提、危険は少ないわよ。
ただ、魅魔だけはそれを無視して動くでしょうから…そっちのフォローはお願いさせていただいていいかしら?」
『任されよう。
どうかヒョウを…頼む』
それを最後に通信が切れる。目まぐるしく状況が変わるけれど、振り回されるわけにはいかない。
「それじゃ、行きましょうアリス」
「ええ、夢子も頼むわよ。母さんだけじゃなくて私の名前も袿姫に出していいから…って」
「?どうかしたのアリス」
「―――ゴリアテがいない。ユキにくっついて行ったのね…
本当に、豹は恐ろしいスケコマシだわ」
「…まあ、先輩だから」
上海がいるから自分も力になれると判断した、か…自立意識の薄いゴリアテですら、自発的に動くようになるなんてね。
申し訳ありません、新年早々左手を負傷してしまい…今週土曜の更新は休ませていただきます。
次の更新は1/9(火)になりますが、治り具合によっては片手だけでキーボード打ち込みすることになるので更新速度が落ちるかもしれません。なんとか先月同様、週一更新は維持できるよう頑張ります。