「―――兄さんっ!」
「ユキ、すまない!手を貸してくれ!」
「わかってる、メルランを助けに行くんだよね!」
ユキも状況を理解してくれていたから説明が省ける。八意永琳率いる永遠亭に殴り込むのだから、俺が打てる手は全て打たなければならない。格上に挑むのに、戦力を出し惜しむなど愚の骨頂なのだから。
「え!?ゴリアテちゃん!?」
「あれっ、いつの間に!?アリスの人形…わたしに掴まってたのかな?」
\……/
そしてユキと一緒にアリスの人形が一体ついて来ていた。ユキが連れてきたわけではないようだが…
「上海、この…ゴリアテ?は戦力に数えてもいいのか?」
「はい、ゴリアテちゃんもあの日…ご主人様とカナさんで隠れ家さんを落ち着かせたときに、ご主人様が隠れ家さんの魔力を繋いでくれています。そういう意味では、今の私にとって一番近い妹です」
\…!!/
上海と違い言葉を話すことは出来ないようだが、任せろと言うように俺の方に向き直って胸を張っている。こんな形でも俺の隠れ家は力になってくれてるんだな…
約束を違えないためにも、手を貸してもらおう。
「そうか。ゴリアテも、よろしく頼む」
\……♪/
握手するにはサイズが違いすぎるので、頭を撫でてやる。すると心地よさそうな雰囲気を出しておとなしくなった。本当に、アリスの人形は凄いな…こうまで自立意思を持っているとは。
―――そして、このタイミングで俺が説得を行う必要がある相手が到着する。
「…おい、急に本気を出すからまさかとは思ったが。豹が表に出て来てどうするのよ!!」
「八意永琳を相手にするんだ、俺が後方で高みの見物なんてするわけにはいかない。
妹紅、ハッキリ言って永遠亭に対しては俺の私怨がかなり入ってる。だが妹紅抜きでメルランを助けるのは難しいんだ。手を貸してくれ…!」
「頭なんて下げなくていい、豹と永遠亭なら私は豹の味方に付く。豹が永琳を敵視してる理由も、色々聞いて納得したからね。
―――ただ、交渉の余地なしで襲撃一択な理由は教えてくれ。何度か言ったけど、今の永琳は信用していいと思う…豹と同じで、悪目立ちするようなことは控えたい立場のはずなんだよ。お互いに不干渉を貫くぐらいの妥協は出来ると思う…それが最初から選択肢に無いのはどうしてなんだ?」
妹紅の言うことにも一理はある。いまだ月の重鎮と連絡の取れる関係とはいえ、八意永琳本人が月の都へ戻る意思はゼロ…月の姫である蓬莱山輝夜の意思が変わらない限りは。だから最低限の取引で済ませる方がリスクが少ないのではないか、と。
「私もそこは気になりますわ。豹様直々に動いて襲撃するよりは、繋がりのある方に依頼して交渉する方が潜伏生活を続ける上でもメリットが大きいと感じます。
豹様がそのメリットを捨てるほど、危機感を抱く理由は知りたいですわね」
「そうですね…私は永遠亭のことをほとんど知らないので、豹さんの判断に従いますが。妹紅さんと咲夜さんの意見も一理あると思います。
豹さんの中で襲撃という選択に決まっている理由は、お聞きしてもいいのでしょうか?」
仕える主を持つ咲夜と椛だからこそ、俺の判断はハイリスク過ぎるように見えているのだろう。それも当然の話で、潜伏目的の俺が最前線に出るのは普通はおかしいのだ。主の手を煩わせないために、部下が前線に向かう方が自然なのだから。
―――これから聞かせる八意永琳の所業で納得してもらえなければ…俺の隠れ家でサリエル様と幻月に合流してもらうか、紅魔館のレミリアへ状況報告に向かってもらうしかない。ここが俺にとっての分水嶺だろう。
「妹紅、俺のことをそれなりに知った今なら…俺が都で妹紅と出会ったのは不自然だってことは理解できるよな?」
「…そうだね、隠棲って言いながら人里に出て来るのとは訳が違う。潜伏生活を送ってたはずの豹が都に出て来た…それだけの理由があったってことになる。たぶん、輝夜のことだよね?」
「そうだ、かぐや姫が月に帰った…月の連中が地上に出向いたと知った俺は情報を集めるために都に出向いた。もちろん紫さんの許可も取ってな。あの時はまさか八意永琳が当事者だなんて思ってもいなかったが…
奴が派手にやらかしてたことで、あっさり裏が取れた。あまりのことに愕然として、少しでも情報をかき集めようとそれなりの期間都の近辺をうろついてたからこそ…しばらく妹紅の話相手になることになったわけだ」
「そうだね…懐かしいな」
感慨深げに妹紅が言葉を漏らす。あの頃の妹紅にとって、まともな話相手は俺ぐらいだったのだろう。お互い広く顔を知られるのを避けたい立場だったから、基本的に野宿生活だった。そのため睡眠や休息を取る際に、野良妖怪や獣・野盗の類への警戒を交替で行うことも何度かあったからこそ…背中を任せた相手として妹紅は俺のことを忘れていなかったのだろう。
もっとも、今はこんな感傷に浸っている時間は無い。それを思い出させるように、ここに向かって来てくれていた最後の仲間が到着する。
「―――って、ホントにいるし!!何やってんのよ豹!?」
「リリカ、そこは言ってもムダ。むしろメルランを助けに来てくれたことに感謝しないと…ありがとう豹」
「ルナサさんも、豹さんへの信頼が厚いのですね」
「ま、豹だから。私たちが最後かしら?」
「ああ、皆ありがとうな。ただ少しだけ時間をくれ…妹紅を説得しなきゃならん」
「説得じゃなくて説明だよ、豹の判断を優先するのは決めてる。
揃ったみたいだし、手短に終わらせてくれ」
途中で合流してくれたらしく、ルナサ・リリカと雛・エリーが一緒に辿り着いた。これだけ戦力が揃えばなんとかなるはずだ…!時間も貴重なのだから、妹紅の言う通りさっさと話を終えねえと。
「話を戻すぞ。俺が少しでも情報をかき集めようとした理由は『かぐや姫は月に帰ったのではなく、従者を一人連れて地上の何処かへと去った』ということを掴んだからだ。その従者というのが八意永琳…月で敵対した、俺の素性を知る者。俺が潜伏を続けるためにも、魔界への侵略を阻止するためにもその動向は注視するべきだと判断して粘ったわけだ。まあ、これに関しての成果は上がらなかったワケだが…
問題なのは、八意永琳が月の姫様と逃亡するために取った凶行だ」
「いや、なんで豹は輝夜が地上に残ったってことをその時点で掴んでたんだよ!?私もあの一件はかなり調べたのに、そんな情報なにも出てこなかったぞ!?」
「俺並に屍術にも精通してなきゃ不可能な情報源だったからな。
月の使者が降り立ったって地点に出向いて、当時を目撃している死者を探したんだよ。月の連中は同族以外を穢らわしい劣等種としか見ない、つまり目撃者がいれば何の躊躇いもなく始末してると踏んでな。
だが、俺がその地点に留まる怨念に言葉を話せる姿形を与えたらな…月の民が怨霊として象られた」
「「「「「「「「「「「っ!?」」」」」」」」」」」
妹紅だけでなく話を聞いていた皆…ゴリアテを除く全員が息を呑む。それはそうだろう、これが意味するのは―――同士討ち。
「八意永琳は、かぐや姫を連れ帰るために連れて来た部下を一人残らず皆殺しにしていた。俺が象ることに成功したのは一人だけだったが…『なぜ、どうして、嘘だ』とか、殺られた理由すら理解できてなかった。気に食わねえ月の連中だが、流石に哀れに思えたぜ。
逆に言えば、そこまで信頼を寄せられていた部下ですら八意永琳は切り捨てたんだよ。月の姫様と逃亡するためだけにな」
「…甘過ぎる兄さんとは真逆だね。月の連中らしいけど」
「逃亡者としては、俺より八意永琳の方が正しいさ。その選択自体は俺も責める気は無い。
だが、そういう繋がりを持つ相手すら切り捨てられる
サリエル様を昏睡させるような薬を創り出せるような天才だ。メルランに何かしらの薬物投与をされた時点で手遅れになる―――
「…妹紅さん、私からもお願い。メルランを助けるために、力を貸して!」
「私からも!メル姉がピンチ過ぎるからさ!」
「わかった。永琳が輝夜に尽くしてるのはよく知ってたつもりだけど、そこまでだったなんてね…
豹の危惧もよくわかったよ。急ごう」
「それでは豹様、作戦を聞かせてもらいましょう。私たちはそれに従う…皆様異論はありませんね?」
ルナサとリリカの願いもあり、妹紅も納得してくれた。そして咲夜の言葉に皆揃って頷く…本当に、俺は仲間に恵まれ過ぎてるな。
「それじゃ手短に作戦会議だ。目標はメルランの救出と、無事に拠点へ撤退すること。
俺が潜伏を続けるために、撤退先は隠れ家・紅魔館・アリスの家の三ヶ所に分散してくれ」
「―――というわけだ。豹が永遠亭を襲撃することで、【幻想郷の平和を乱す異変の首謀者】として扱える。
これでお前達が実力行使に出ても問題ない」
「…こんな回りくどいことをよく考え付くわね。それも半日で用意を済ませるなんて」
「あら、ここまでお膳立てしておいてまだ不満なの?」
「だから言葉遣いを急に崩すなよ。気持ち悪いぜ」
成程ね、豹に永遠亭を攻撃させることで、魔理沙と霊夢が退治に出向くだけの理由を作る…これなら魔界人である豹を私達が攻撃しても、幻想郷内で問題行動を起こしたという討伐の理由を魔界側に突き付けられる。幻想郷の維持のために魔理沙と霊夢が動くことを魔界からどうこう言われる筋合いはない、この結果で魔界が騒いでも幻想郷に非は無いと言い切れるってワケだ。
後は私たちが豹を神綺に引き渡せば、魔界神に個人的な恩を売れる。その見返りに魔理沙の安全と魔界の面倒な連中の粛清を要求すれば異変は解決、豹に助力した面々は魔界側の粛清に協力させれば厄介払いも済むってところか。幻想郷での生活より豹との付き合いを優先しようとするのも結構な数がいるようだしね。
一見問題は無いように見えるけど、確認しておきたい点がある。
「豹が八意永琳と何かしらの取引をして、戦闘を避ける可能性が抜けてるんじゃないかい?」
「その可能性は無い。豹は思考が固定されている…魔界のことを最優先に行動するように刷り込まれているのだろう。私が奴を排除する最大の理由がこれだ。
豹は月から堕とされ妖精に零落した神でさえ、潜伏を捨てて保護するほど月を敵視しているのだ。その理由は月が魔界に害を為すと見做しているため…魔界から追放されながらも、奴は魔界を支えるべく動き続けていた。そして月の民共は遥か昔から変わらぬままだ。
八意永琳が月と関わり続ける限り、豹は八意永琳を絶対に信用しない。豹が持つ月への悪意は凄まじい…何よりも優先すべき魔界から、追放される切っ掛けだったのだからな」
「…恨みがましいというか、執念深いというか。ろくでもない奴なのね…なんで紫はそんなのを買ってるんだか」
ふっ、霊夢が紫の交友関係を気にするかい。なんだかんだ幻想郷の管理者として頼りにしてるんだろうね。
「もう一つ。アンタはどこまで妖怪の山の連中を動かしてたんだい?私達に都合のいい動き過ぎる」
「私は守矢と天狗には何も干渉していないさ。ただ、天狗が豹と因縁持ちなのは把握していたからな。地理的な面も含めこの二勢力が協調して豹の敵に回ることは予測していた。
幸運だったのは、守矢の風祝が永遠亭と協力体制を取ったことだ。私達だけで策を成す場合は、舞と里乃を使って永遠亭の玉兎を動かす予定だったのよ。それが必要なくなったことで、今夜中に片が付けられそうだわ」
…嘘は言っていないが、全てを話してもいないね。何を隠してる?
私が裏を読むのを援護するかのように、狛犬が言葉を続ける。
「早苗さんも交友関係が広いですからね。それが幻想郷のためになったということでしょうか」
「そういうことになるのだろうな。守矢の二柱も優秀な駒を育てたものだよ。
だからこそ、我らにとっても利用価値がある。豹が永遠亭を襲撃したことを守矢に伝えることを代価に、永遠亭の玉兎を引き渡してもらえ。迷いの竹林を最速で抜けるのに道案内がいるだろう?それに豹もそれなりの頭数を揃えた以上、あの玉兎と風祝を露払いに使う方が確実性が上がる」
「…アンタが直接私たちを永遠亭に送れば済む話じゃないの?」
「私はこれから【豹が空間魔法で長距離移動出来ない】状態にする必要がある。別の伝手にも協力要請を出しておいたのだが、別件で間に合いそうにないのでな。悪いけれど移動は各自で頼む…奴の空間魔法を妨害するのは、私でも片手間では困難なのだ」
「そうだったな、あんな長距離からカナを助けてたんだ。それを止めてもらわないと捕まえられる気がしないぜ」
「仕方ないわね…それじゃ、私たちも動きましょうか」
霊夢がしびれを切らしてるか…もう少し様子を見たかったが、少なくともこの秘神が私達に不利な行動をすることが無いのは確定だろう。協力者が他にいて
それなら、厄介な魔界神が乗り込んでくる前に終わらせるべきだからね。
「それじゃ萃香、天子が戻って来たら適当に相手しといて。また神社に余計な事されるのはごめんだから」
「はいよー、今度また酒奢りなー」
「紫に言いなさいよまったく…
じゃ、行くわよ魔理沙」
「おう!」
「皆さん、行ってらっしゃいませ!」
狛犬の声を背に博麗神社を出る。こんな雪の中動くのはいつ以来かねえ…
「魔理沙、私はそのまま迷いの竹林に向かうよ。私一人なら余計な連中が釣れるかもしれないからね」
「了解だぜ魅魔様!」
「そうね、魅魔が一緒だと妖怪の山で絡まれる可能性が上がりそうだし。その方が楽そうだわ」
「それじゃ、さっさと道案内を連れてきな」
―――この時、明羅と呪珠が戻って来るまで待機していれば。私達にとって最上の結果を得られたのかもしれなかった。
しばらく更新が不定期になります、申し訳ありません。
今週土曜までにもう一回更新出来るとは思います。