寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

213 / 289
第213話 メルラン救出作戦

「永遠亭への侵入は時間差を付ける。先行するのは妹紅を案内役に俺・ユキ・椛・エリー・麟・咲夜。後の皆はメディスンを案内役に少し時間を置いてから来てくれ」

「戦闘班と救出班に分けるということですね」

「厳密に言えば八意永琳と蓬莱山輝夜を抑える先発隊だ。他の3名が割って入ってくる場合はユキに足止めしてもらい、救出班の雛・上海・メディスン・ゴリアテで不意打ちしてくれ」

「私とリリカはメルランを助けることだけ考えればいいのね?」

「そうだ。だが永遠亭内部は侵入者防止の術がかけられていると紫さんから聞いてる…これがあるからこその時間差攻撃だ」

 

最後に到着したエリーとルナサが真っ先に相槌を打つことで、初対面同士の紹介などは後回しということを皆に示してくれたようだな。これは助かる。

 

全員で同時に突撃したところで、永遠亭内部で各個撃破されちゃ意味が無い。なので敵戦力を屋敷外に引き摺り出すことも必要になる…まあこれ自体はそれほど難しくない。侵入者防止の術がかけられていようが、屋敷内で戦闘となれば物損は避けられないからだ。ただし突入した救出班が背後から叩かれるのを防ぐため、足止めは確実に行わなければならない。それを救出班が確認できた状態で侵入すべきだ。

 

「先発隊の動きだが、八意永琳は俺とエリー・麟で対応する。蓬莱山輝夜を妹紅と咲夜・椛で止めてくれ…この作戦、椛が核になる」

「え、私ですか!?」

 

まさか自分が名指しで重要ポジションに指名されるとは思っていなかったのだろう。思わずといった風に椛が反応する。

 

「ああ。妹紅、蓬莱人がリザレクションするときは、好きな場所に移動出来るんだよな?」

「私はそれを上手く活用したことは無いけどね。ただ輝夜は殺されたらだいたい自室でリザレクションしてるらしいから、輝夜と永琳は使いこなせるんじゃないかな」

「それを逆用して救出班の背後を取られる危険がある。つまりその二人は()()()()()()()()()()する必要があるってことだ」

「っ!?椛さんの魔眼でしょうか」

 

俺の頼み通り上海に説明してくれていたのだろう。椛が鍵になる理由を上海が真っ先に理解する。

 

「そうだ。それに蓬莱山輝夜は咲夜と同じ時間干渉系能力の持ち主、確実に無力化しとかねえと簡単に戦況をひっくり返されちまう…だからこそ最高戦力の妹紅と咲夜を援護に回し、確実に椛の【昏睡の魔眼】を決めてもらう」

「責任重大ですが、私が白狼天狗であるからこそ油断を誘えるということですね。

やらせてください。妹紅さんも咲夜さんも、どうか力をお貸しください…!」

「ええ、私も永夜異変に首を突っ込んだので永遠亭の厄介さはよく知っているわ。任せなさい」

 

レミリアの従者である咲夜が、俺の指示に何の文句も言わず椛の援護に回ってくれる。ありがたい限りだ…不満が出るようだと説得が必要になるところだったからな。

【昏睡の魔眼】は反乱の際に俺が訓練場で神綺様に決めた魔眼だ。椛が再現できた後は雛に試してもらったことがあり、椛も山へ侵入した格上の妖怪に効果があるのを自身で確認している。俺のように長時間持続させることは難しくても、メルランを助ける時間は稼げるはずだ。

 

「蓬莱山輝夜相手の戦闘に関しては、俺より妹紅の方が最善策を打てるはず。任せていいか?」

「了解、移動中に話しておくよ。要するに私が先鋒として、まず輝夜を引っ張り出せばいいってことね?」

「ああ、妹紅と咲夜、椛はそれで頼む。

それで八意永琳だが…俺が肉弾戦に付き合わせる」

「ちょっと、永琳にそれは危ないわよヒョウさん。私が渡してる毒以外にも、いろんな薬を持ってるけど…永琳はその薬を効かなくすることができるみたいよ。永琳も吸い込む前提で毒ガスとして散布されたら、ヒョウさんだけに効果が出ちゃうわ」

 

メディスンが俺も知らない八意永琳の情報を教えてくれる。これは今後もメディスンとは良好な関係を続けたいところだな…!俺の敵である八意永琳の情報をまだまだ持っているかもしれん。ここで失うわけにはいかないってことだ。

 

「それは知らなかったが、大丈夫だメディスン。俺は八意永琳が幻想郷に来てから、奴への対処法だけは模索し続けてたからな。

…麟、頼むぜ」

「はい、豹さんが唯一私に『編み出すか類似魔法を習得してくれ』と頼んでくれた術です…!

必ず役立てて見せます」

「…?2人で納得せずに軽くでいいから説明してほしいわ。隠したいのなら仕方ないけど」

 

…雛の言う通りか。皆俺の逃亡のために力を貸してくれている、その俺が最前線に出るのに説明なしじゃ不安にもなるよな。

 

「麟は癒しの瑞獣・麒麟の加護を授かっていてな。回復系の魔法に高い適性を持っている…いつか八意永琳と再び対峙することになった時のために、手の空いた時間で毒や病といった《あらゆる肉体に現れる症状》の治療・予防を研究してもらってたんだよ。俺が八意永琳に突進すると同時に抵抗系の魔法を片っ端からかけてもらい、それで防止できなかった症状はすぐさま治療してもらう…メディスンの危惧通り『多人数で八意永琳に接近し薬毒で一網打尽』という結果を避けるには、足止め役は一人が理想だからな。

それなら肉体的にも精神守護能力的にも俺が適任だ。だがこの援護を行う麟はある程度俺の近くにいる必要がある」

「私はその護衛というわけですね」

「頼むエリー。さっき言った通り八意永琳と蓬莱山輝夜はリザレクションされると非常にマズい、そしてエリーは手加減があまり得意じゃないだろ?だから麟の護衛に専念してくれ。

この月人2名以外は死神の大鎌を持つエリーに殺されるのが一番怖いだろうよ。死神の護衛を受けている麟へ、迂闊に近寄ることが無くなるはずだ」

「わかりました、お任せください!」

 

エリーは死神(アンクゥ)―――生者の魂を狩る方の死神だ。そのエリーに首を斬り落とされれば地獄の閻魔に裁かれるのではなく、新たな死神(アンクゥ)と成り果てる…すなわち転生を許されず死神として現世を彷徨うことになるのだ。

…もっとも、因幡てゐ以外の2名はそれを知らない可能性もあるからユキも先発隊なのだが。

 

「ユキは八意永琳と蓬莱山輝夜を徹底的に分断してくれ。蓬莱山輝夜の方は咲夜がある程度フォローしてくれるだろうが、俺はそうもいかないからな…

昔と同じだ、俺への誤射なんて気にせずバラ撒け。ただ残りの3名が迎撃に出てきたらそっちを優先だ」

「OK!妹紅さんに咲夜、椛は【威力の低い高速弾の誤射上等援護射撃】っているかな?邪魔になるなら攻撃範囲から外すけど」

「妹紅さんと咲夜さんはともかく、私はそれを上手く利用出来る自信がありません…

お二人とも、援護が減っても大丈夫でしょうか?」

「私も邪魔になる気がするな。咲夜はどうだい?」

「私は能力でどうとでもなりますが、作戦の核となる椛の判断を優先するべきだと思いますわ」

「わかった!そっちへの援護は判別しやすいのにしておく!」

 

先発隊はこれでいいだろう。後は後詰だ。

 

「ルナサとリリカはメルラン救出に専念だ。永遠亭内部で迷いそうであれば、メルランの位置を探っておいてくれ…位置さえ把握出来れば俺か咲夜なら辿り着けるはず。蓬莱山輝夜を椛が無力化できたら、咲夜はルナサとリリカに合流してくれ」

「それじゃ、私と上海とゴリアテはてゐと清蘭・鈴瑚を倒したら、次は永遠亭のお姫様を狙えばいいってこと?」

「ああ、さっき言った通り八意永琳に多人数で接近戦を挑むのはハイリスクだ。だから俺が奴を抑えている間に他の戦力を黙らせ、メルランを救出。メルランを確保さえできれば、八意永琳一人なら俺とユキで長時間足止めできる、この天気のおかげでな」

「あ、そういうこと。わかった、ラスト一人が八意永琳になったらわたしは準備に入っちゃった方が良いかな?」

「頼む。それとメディスン、清蘭と鈴瑚ってのは人里で団子屋を出してる玉兎のことか?」

「そうよ、私は今日毒を届けに永遠亭に行ったわ。その時最近来たばっかりで迷いの竹林を抜けられないからって、その二人を案内したのよ。途中で落とし穴に嵌まってたから、永遠亭に来たばっかりってのは嘘じゃないと思う」

「豹はそいつらのことも知ってるワケ?」

「ああ、異変で地上に降りてから月に戻らず人里に入り込んでるのは把握してたが…やっぱ永遠亭と繋がってやがったか」

「いや、私が知る限りあいつらが永遠亭に入ったことは無いはずだよ豹。繋がったとしたらメディスンの言う通りつい最近のはず…って、鈴仙ちゃんが連れて行ったのが!?」

「数が合うな…!守矢の風祝はかなり上手く立ち回ってたわけか」

 

ここに来て妹紅が掴んでいた全員がハッキリした…!今更でしかない情報だが。リリカの口振りからすれば集まった皆の中に団子屋と面識があるのはいなかったということだろう。いるのであれば妹紅のように補足してくれるはずだしな。

 

「…そういえば、永琳が豹宛てに手紙書いたの忘れてたわ。今更だけど、読んでおく?」

「手紙か…メルランが攫われる前だったら読んでやったけどな。今となっちゃ読む時間が惜しい、一応受け取ってはおく」

「そう、これよ」

 

メディスンが差し出した手紙を回収しておく。細工がしてあったとしても麟の援護を受けていれば大きな害はないはずだ。むしろメディスンに持たせておいて上海たちまで巻き込んで作動する方がマズいだろう。

 

「因幡てゐ・清蘭・鈴瑚をどう片付けるのかは後詰の上海たちに任せるが、雛は厄をこいつらに押し付けるのは避けてくれるか?厄は逃走後の取引に使いたい」

「わかったわ。でもその制限がかかると私はあまり戦力になれないわね…」

「それでしたらゴリアテちゃんを前衛に、後ろから雛さんが援護してあげてください!戦力配分はこれがベストでしょうから!」

\…!!/

「上海の言う通りね。少し話した感じ三人とも鈴仙よりは弱いと思うから、私と上海なら一対一でなんとかするわよ。ゴリアテを助けてあげて」

「助かるわ、二人ともありがとう」

 

上海はアリスの下で戦っていただけあって、指揮官としての才も持ち合わせてるんだな…俺が頼むより先に現状で合理的な戦力配分を言い出している。

 

「戦場全体を俯瞰しなきゃならないのはユキだが、5人だけなら問題ないな?」

「当たり前だよ。兄さんが帰って来てくれないからって、泣きながらただ待ってたわけじゃない。今でも魔界で最上位の黒魔導士を自負してる」

「フッ、聞く必要なかったな。

メルラン救出はこの流れだ。次は脱出だが…まず間違いなく摩多羅隠岐奈の手引きした博麗の巫女と魅魔一派も動くだろう。だから囮も兼ねて皆にはさっき言った通り分散して離脱して欲しい。それに乗じて俺は一人で潜伏する」

「ダメッ!」「駄目ですっ!」

 

…即座にユキと麟から拒否された。時間が惜しいんだが…!

 

「せめて一人は豹さんに同行させてください!まだ右手は完全に治ってないですよね!?」

「八意永琳の厄介さは兄さんが一番理解してるでしょ!回復魔法が得意な麟ちゃんがいるんだから一緒に居てもらって!遅効性の毒とかを食らっちゃった場合、単独行動は危険すぎるよ!!」

「…私も同感。一人の方が逃げやすいのもわかるけど、もう戦闘が前提な状況になってるわ。それならせめて背中を守る一人は連れて行って…ここにいる皆、豹が心配なんだから」

「私からもお願いします!隠れ家さんのためにも、もう一人で無理はしないでください…!!」

 

ルナサと上海も加わって反対された。これはタイムロスを防ぐのを優先するべきか…

 

「わかった、ユキの危惧もその通りだから回復役の麟は俺に付いて来てくれ…これでいいな?」

「まったく…ほんとこういうところだよ?私が言えたガラじゃないけどさ、豹はもっと自分がどう思われてるのかよく考えな」

「妹紅にはあまり言われたくないなホントに!

時間が惜しい、脱出先の振り分けは俺が決めるぞ」

「ええ、お願いしますわ」

 

とは言っても、これは迷う必要が無いんだよな。

 

「まずユキと妹紅に雛は殿を頼む、というか雛の厄を永遠亭に振り撒いて脅迫してもらいたい。

―――『永遠亭を厄塗れのまま逃げられたくなければ、このまま追撃せず見逃せ』、だ」

「私が永琳と話を付けろってことだね?」

「ああ、それに俺だけじゃなくユキも八意永琳に顔を知られてる。脅迫が本気だってことを理解させられるし、妹紅とユキなら誰が相手でもそう遅れは取らないだろ?

だから永遠亭の追撃を阻止してからアリスの家に向かってくれ。ユキと夢子にアリスなら、妹紅が知りたいだろう魔界のことも聞けるはずだしな」

「わかった、任せて。ユキに雛、付き合ってもらうよ」

「うん!よろしくね妹紅さん!」

「ええ、お世話になるわ」

 

この班が一番負担が大きくなるからこそ、夢子とアリスに合流してもらう。サリエル様と幻月はまだ表に出てもらうのは早い…摩多羅隠岐奈以外の管理者まで動かしかねないからだ。幻想郷の住人相手に問題なく戦闘できるアリスを頼らせてもらう。

 

「残りは迷いの竹林を抜けるまではメディスンの案内がいる以上同行するが、抜けた時点でルナサとリリカはメルランと一緒に咲夜の伝手で紅魔館に逃げ込んでくれ。さっきルナサとレミリアが接触してたってことは、戻って来いって言われてるだろ?」

「…豹は本当に凄いのね、そこまで把握できてたの。

咲夜、お願いしていいかしら?」

「それこそお嬢様の命令通りですわ。紅魔館までの護衛はお任せくださいませ豹様」

「頼んだぞ」

「私はあんま役に立たないからそこもよろしく!」

 

…こんな状況でもリリカは変わらないな。緊張感が解れる…助かるぜ。

 

「最後に椛とエリーに上海・メディスン・ゴリアテは俺の隠れ家に向かってくれ。サリエル様と幻月が待機してくれてる」

「「えっ!?」」

「流石は豹さんですね、しっかり気付いていましたか」

 

椛と上海はそこまで探知できていなかったらしく驚いている。だがエリーと雛が何も言わずここまで話を聞くことに徹していたのだから、何も問題は無いのだ。

 

「リリーは上手く説明してくれてるんだよな?」

「はい、私たちが豹さんの隠れ家に飛んですぐ話をしに出てきてくれました。勇気のある妖精ですね」

「うん、それはわたしも確認してるよ。リリーは隠れ家にあったアリスの通信人形で、わたしたちにも色々教えてくれたし」

「あっ!?そういえば忘れてきてしまいましたね!でもリリーさんは上手く使ってくださったのでしょうか」

「そうみたいだよ。わたしたちと通信してる途中でサリエル様たちが来てるからね」

「ユキもほとんどの状況を把握できてるのはそれが理由か。リリーにもだいぶ助けられてるな…

まあそういうことだ。あまりサリエル様と幻月に戦闘して欲しくは無いんだが、隠れ家を狙ってくる相手がいたら力を貸してもらってくれ。

俺と麟は皆が動いたあと、敵戦力が分散したタイミングで紅魔館に向かう。隠れ家組は追手を凌げたら、サリエル様と幻月も連れて紅魔館に来てくれ」

「わかりました!」

「わたしたちは呼んでくれないの?」

 

ユキが間髪入れずに聞いてくる。

―――そう、ユキの助けを借りた時点で…腹を括らなきゃならないのだ。

 

「…悪い、ユキ。こうなった以上俺も神綺様を頼らざるを得ないが、もう少し時間をくれ…

 メルランを助けてから、出来るだけ皆の希望に沿う行動を考える時間が欲しい」

「わかった、夢子にもそう伝えておく。

 でも、ちゃんと神綺様と夢子にも会ってもらうからね?」

 

優し過ぎる妹だ…ここまで来て、俺に時間をくれるんだからな。

 

「そうせざるを得なくなるだろうが、これ以上時間を掛けてられない。

まずはメルランを助けてからだ。皆、頼むぜ…!」

「ああ、こっちだ!」

 

誰もこれ以上何も聞かず、妹紅を先頭に迷いの竹林に飛び出してくれた。

俺は本当、仲間に恵まれてるよな。




次の更新は来週火曜日までには出来ると思います。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。