寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第214話 積み重なる判断ミス

「―――ご苦労様、こちらの私。貴重な情報をくれたことに感謝しますわ」

「ふふふ、あちらの私がこんな素直にお礼を言うなんて。よほど切羽詰まっているようですわね」

「ええ、真意を隠して煙に巻くような余裕は既に無いもの…自分相手の言葉遊びなんて時間の無駄だわ」

「そうね、豹を失うかどうかの瀬戸際となれば私もそうなると思うわ。

―――では、私はこれで。幸運を祈っておきますわ」

「お疲れ様でした。私も協力に感謝しましょう」

 

そう言葉を残して夢の世界の私がスキマに去る。ドレミー・スイートが豹に好意的だったおかげで、想定外の方向で情報収集が行えたわ。豹は本当に味方として頼りになり過ぎる。

…逆に、敵に回した相手からは過剰なほど警戒されてしまうのが問題になってしまったのだけれど。

 

「しかし、私が想像していた以上にあなたは規格外なのですね…夢と現の境界を操ることで、()()()()()()()を使い情報を集めるとは」

「いくら私でも一人ではここまで効率的に動けていませんわ。夢の世界の支配者たる貴方の協力あってこそ…あらためてお礼を言っておきましょう。助かりましたわ」

 

―――夢の世界の住人は感情豊かで素直。それはつまり現の世界より情報を引き出しやすいということ…ドレミー・スイートの協力もあり【夢の世界の私に豹を敵視している面々と接触させる】ことに成功。豹の処遇に関して妥協や取引が可能か、その判断材料は揃えられたわ。

 

「普通は【夢の世界の自分と協力体制を取る】こと自体が困難なのです。こちらの貴方が穏当だったのも予想外ですし…私としては月の住人より貴方の方がずっと敵に回したくないですね」

「私としても貴方と対立することは避けたいわ。稀神サグメと交友がある夢の世界の支配者…今後も出来る限り友好的でありたいところです」

「その方が私としても助かりますわ。

では…友好的な関係を続けるために、夢の世界で集めた情報で私はどう動けば良いのでしょう?」

「そういえば、貴方は豹を取り巻く状況をどこまで理解しているのかしら?」

「私は何も知らないと見て差し支えないですよ。八意永琳から、豹と月の因縁だけは伝えられましたが。

彼女に協力する条件として『豹が有利になるように私が仲介しても文句を言わない』ことを認めさせています。ですので私を豹の援護に使うのであれば、必要最低限の情報は頂きたいところですね」

「そこまで言質を取ってくれているのは助かります。ですが時間が惜しいので、必要最低限の情報供与で済ませてもらいますわ。

細かい部分は時間に余裕ができ次第、豹に協力している皆と接触して聞いて下さいな。私の名前を出してしまって構いません」

 

―――この時点で、既に事態が急変していたことに気付けなかったのが私最大の失策。緊急事態であれば藍か橙が呼び戻してくれると踏んでいたから、夢の世界での情報収集とドレミーとの打ち合わせに時間を割き過ぎてしまった。

 

私が夢の世界に留まっている間に、手遅れになるまで状況が動いてしまった。それに気付くのは、もうしばらく先のこと…

 

 

 

 

 

 

 

 

…流石は八雲紫の式、藍もやるね。一人で幽香を食い止めてる。機会があれば闘り合ってみたいところ。ま、ヒョウと同じでこの件が一段落してからじゃないとまずいだろうけど。

 

雪の降る夜空を飛びながら、軽く状況を探ってみる。ヒョウの呼びかけに応じてエリーと雛の進行方向に向かってるのが、ルナサ含めて3人。その進行方向に先行してるのが上海含めて5人。ルナサたちと分かれて戦闘っぽい反応に向かってるのがカナ含めて3人。

 

私は探知・索敵系の魔法はあまり得意じゃないから、後は夢子含めた3人が変な位置で止まってるぐらいしか把握できなかったんだけど…このタイミングでヒョウが封じていた魔力を開放したことで居場所がわかる。

 

(移動方向を考えると、幽香に見つかりかねないとこに隠れてたのか。ヒョウ直々に動くのは早過ぎると思ったけど、幽香から離れることも考えてのことなのね)

 

ヒョウの性格じゃメルランを助けに動くのは避けられない。そこを考えれば別に悪くないタイミングなのかもしれない…幽香がヒョウを狙うのが一番問題なんだし。

それなら、私はさっさと幽香の相手に回って藍をフリーにするべき。ある意味紫以上に藍は重要なポジション―――あくまで紫の部下扱いだから、管理者として問題視される行動も独断専行として紫が握り潰せる…つまりそれなりに無理を通せる貴重な駒。

 

私と姉さんは幻想郷の事情に疎いから、戦力にはなれても盤面全体の把握は出来ない。それが出来る藍を最前線の戦闘員にするのは非効率が過ぎる。藍は駒として動くだけでなく、駒を動かす側にも回れるんだから。

 

だからヒョウの隠れ家から一直線に戦闘地点に向かってたんだけど…位置的に人里を横切る形になるみたいで、邪魔が入る。

 

「止まりなさい!ここから先は人里。こんな真夜中に何の用です!?」

「あなたみたいなとんでもないのを入れるのはちょっとねぇ。入るのであれば監視を付けさせてもらいたいわ」

 

刀を携えた半霊の少女と、小袖に打掛という和風の姫衣装の人間が進路を塞いできた。

…問答無用でどかすのを自重しなきゃいけないのは面倒ね。ま、一度だけでも会話しておけば後は力尽くでいいか。

 

「用があるのは人里じゃなくて通り過ぎた先、幽香の相手を頼まれてるのよ。

通さないなら力尽くで通るけど?」

「え、藍の援護に来てくれたってことですか!?」

「そうだけど。というかそう返してくるってことは、あなたも八雲の指示で動いてる?」

「はい。

…小兎姫さん、そのまま通してもらってもいいでしょうか」

「うーん…念のために人里を通り過ぎるまでは同行させてもらっても?」

「勝手にして。それじゃ、通るよ」

 

半霊は藍が手配した増援だったみたいね。なら叩きのめすのは止めとくべき…ヒョウを援護してくれるのは貴重だから。だからそのまま直進したんだけど、二人ともついて来る。

…一応、話を聞いておくべきかな?

 

「半霊、あなたの名前は?」

「あ、魂魄妖夢です。貴方は?」

「夢月よ。見ての通り悪魔」

「…夢月!?あなたが夢幻世界の主なのですか。それはとんでもないはずです」

「へえ、私のこと知ってるんだ。

小兎姫はそれなりの情報を貰える立場みたいね」

「私は警官ですから。政治的に動くこともある以上、それなりの伝手はありますよ」

 

警官ね…それが何でこんな格好してるんだか。メイド服着てる私が言うことじゃないかもしれないけど。

ま、私についてこれる時点でそれなりの実力者なのは間違いないか。

 

…なんて思ってたところで、ヒョウが大きく動く。上海たちと合流したヒョウが何か魔法を行使すると、ユキが一瞬でヒョウの元に現れたわ。

これが、兄妹だけの召喚魔法…魔力を解放した以上もう見つかってる。それならユキも戦力として使う、か。ハイリスクな手段も即決で取れる――本当にヒョウはいい戦闘相手。

 

「…これは!?」

「空間魔法かしら?急に増えたわね」

 

そしてこの魔力反応は妖夢と小兎姫も探知できていた。

…妖夢はともかく、小兎姫がヒョウの方に向かうのは厄介になるかもしれない。少し誘導しておこうかな。

 

「メルランを助けるための戦力だろうね。ただこの魔法でアリスの方が手薄になったみたいだけど」

「アリス?

…あ、そういえば移動してきた魔力、さっき会ったユキですね。余計な騒ぎを起こさないようにと言っておいたのに」

「さっき、ですか?小兎姫さんがどういった経緯でユキさんと会ったのでしょう?」

「アリスがユキを連れて命蓮寺に来てたのよ、妖夢さんが人里に来てくれる前にね。夕方から夜にかけて命蓮寺と夢殿大祀廟に実力者が立て続けに向かってたから、私の手が空いたタイミングで足を延ばした時に居たのよ。

…まあ、かなりの人数があのトランペッター救出に動いているようですし、騒ぎを止めるのは不可能でしょうね」

「逆に言えば、アリスから情報を聞き出すなら今がチャンスになるよ。行かないの?」

「明日には魔界神が到着するそうなので。私が優先するべきは人里の防衛ですから、まだ離れるわけにはいかないわね」

「まだ?

―――っ!?へえ…人里全体をこうやって守るんだ。誰か知らないけどいい判断…私と幽香じゃ流れ弾でも相当被害が出るだろうし」

「これでひとまず人里は安全かな?

…それじゃ、小兎姫さん。藍には私が説明しておくから、慧音に夢月さんのことを伝えてきてもらっていい?」

「そうねぇ…下手に私から動いて悪手を引くほうが危険でしょうし。妖夢さん、こちらは任せていいかしら?」

「はい、人里をお願いします!」

「任されました」

 

…私の狙いとはズレたけど、上手く小兎姫を引き剥がせたわ。これで、妖夢と少し突っ込んだ話ができる…藍との合流はもうすぐ。手短に情報交換しましょうか。

 

「妖夢は藍からどういう指示を受けてる?」

「『メルランを保護してくれ』って言われてた。でも夢月さんがこっちに向かって来た時は敵なのか味方なのかわからなかったから、見ての通り人里を安全にする手伝いを優先したよ」

「…今から妖夢がメルラン救出に向かっても、合流できるかは微妙か。

妖夢、悪いけどアリスと合流してくれる?その方が例の巫女が動いた時、効率的に動けると思うから」

「っ!?そっか、まだ霊夢も魔理沙も動いてないんだ…!

わかった、私はアリスと一緒にそっちの対応に回るね!夢月さんは藍をお願い!」

 

そう言って妖夢はアリスの家方向に進路を変えた。…八雲の指示があったみたいだけど、それを差し引いても素直。駒としてはちょっと扱いにコツがいるタイプかしら。

 

…ま、アリスなら上手くやるでしょ。人形遣いである以上、指揮・統制能力は必須なんだし。

 

(それじゃ、私も急ごうか。

 フフ、幽香と闘り合うのも久しぶり。楽しまないと!)

 

―――ここで妖夢をアリスの援護に向かわせたのが、私の判断ミス。

藍とポジション交替するまで妖夢を連れて行っていれば…まだ間に合ったのかもしれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――と、私の目論見はこの時点で達成できたようなものだ。永遠亭と豹であれば幻想郷に留めるべきは永遠亭…紫が庇おうが残りの管理者に有力勢力の幾つかから排除を要求されれば拒否できなくなる。

なにしろ、博麗の巫女が追放すべきと判断したのだからな」

「そうね、月の奴らとあの巫女がヒョウを狙って動いた。わたしと魔眼じゃできなかったわ。

でも、ヒョウを魔界に追放されるのはわたしたちにとって一番イヤな結果なんだけど?話が違うんじゃない?」

「私は豹の排除に協力すると言ったぞ?殺害が目的だとは言っていない。

豹を仕留めたいのであればお前達の手で行え。幻想郷の住人による殺害では魔界との戦争が避けられんのでな。

それとも、ここまでお膳立てしてやって奴に止めを刺すことすら出来ないのか?」

「言ってくれるじゃねえか。それはつまりアタシらがヒョウを殺すこと自体は黙認するってことだな?」

「個人的にはそれが理想的な結末だ。幻想郷にとって豹は生存しているだけで危険を招く爆弾でしかない…魔界や月といった世界としての規模が違いすぎる異界との対立要素だ。追放ではなく殺害の方が後腐れの無い処分だからこそ、お前達に手を貸したのだからな」

「…やってやろうじゃねえか。ヒョウを殺せばアタシもサリエル様に殺されるが、ヒョウに囚われたサリエル様の心を解放できる―――使い魔としての本望だ」

「サリエル様を悲しませることになるけど、ヒョウが生きる限りサリエル様の心は苦しめられる…

ヒョウは全く変わってなかった。それに変わる気もない…わたしも覚悟を決めるときってことね。いいわ、終わらせに行くわよ魔眼」

 

己の死よりサリエルの呪縛を解くことを優先するか。洗脳されているでもなくこの思考…根本的には自己願望を優先する悪魔らしいとも言える。その願望が己ではなく主に向いているのが特殊なだけで。

 

ここまで漕ぎ着けた以上エリスと幽玄魔眼は切り捨てても問題は無いのだが、豹の殺害に成功してしまうと逆恨みを幻想郷に向けられる可能性がある。それならば…もう少し私で制御しておくべきか。

 

「いや、殺害成功率を少しでも上げたいのであればもう一仕事手伝っていけ。そうすれば私が確実に豹の空間魔法を妨害できる」

「…一応、中身を聞かせてよ」

「これだけ事態が動いたのに紫本人はまだ介入してきていない、つまり紫は今幻想郷ではない世界で動いている…藍を妨害すれば紫の介入を完全に遮断できるということだ。

―――里乃と舞と共に藍の足止めに加われ。豹が少人数に分散したタイミングで呼び戻してやる…奴の消耗を狙う意味でも、今この場で私の援護を失うのは惜しいだろう?」

「アンタの部下を前衛に回すなら乗ってあげる」

「いいだろう。

舞、里乃。藍を引き込んだら前衛として動け」

「「おおせのままに、お師匠様!」」

「ケッ…!幻想郷の管理者やってるだけあって上手くこき使ってくれるぜ。

まあいい、これ以上のチャンスは作れなかっただろうしな。協力に感謝はしておいてやる。行こうぜ、エリス」

「ふん…!ちゃんとヒョウと八雲紫の空間魔法は妨害しなさいよ!!」

「言われなくとも。そのために私が前線に出ていないのだからな」

 

不満を隠そうとしないまま舞と里乃と共に魔界からの客人が去る。ここまでは文句のない働きだったのだから、私もそれに応えてやらなければな。

 

「さあ、ここからが本番だ。紫も豹も、無駄な被害を出すような真似はしないでくれよ?」

 




次の更新は今週土曜日には間に合うと思います。
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