寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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誤字報告により214話の誤変換を修正してます。いつも迅速な報告ありがとうございます。

それと捜索においてこの作品の名前を挙げてくれていた読者様がいらっしゃいました。ありがとうございます。


…このように読者様から応援いただいているのにもかかわらず、更新ペースを週3に戻すのはしばらく先になりそうです。申し訳ありません。


第215話 いざ仙界

「…で、どちらも全く折れず時間だけが過ぎたと」

「華扇ならこうなるのはわかってたでしょ?私らじゃ止められないのもさ」

「あたいらがこれ以上目立つのもあれだろ?後は任せちまうよ」

 

私が地底に到着すると、待ち構えていたように先行させた小町がヤマメを連れて来たわ。攻撃的な地底妖怪を大人しくさせるところまでは済ませてくれたけれど、勇儀を止めるのは閻魔様に押し付けて傍観に徹していたようね…

まあ、大きな騒ぎが起こっていないだけ上々と言うべきかしら。

 

「古明地こいしはどうしました?」

「さあ、私は見てないねえ。でも勇儀に喧嘩売った仙界ってのは、そう簡単に行ける場所じゃないって話じゃないか。それならあっちの方から合流してくるだろうし、たぶんさとりが行かせないよう粘ってるんじゃないかね?」

「呼び出すのであれば自分で行きなさい。あれに関わるのは地底の妖怪だからこそ御免だわ。

地霊殿は相互不干渉違反の例外でいいわよ」

 

…地底妖怪の実力者の中でも地上を嫌う水橋パルスィが私に押し付けるとは。相変わらず古明地さとりは嫌われていますね…だからこそ今の立場に適任とも言えるのですが。

彼女に続く形で久侘歌とこころもこちらに来ました。戦闘無しで合流できたのは理想的ですが、問題なのはここからだわ。

 

「久侘歌は地底でもある程度自由に動けるわよね。お願いしてもいいかしら?」

「…まあ、確かに余計な騒ぎが起こる確率は最小限になるとは思いますが。私が迎えに行ったところで相手にされない可能性があります。それでもよろしいでしょうか?」

「それなら私も付いて行くぞ。私はこいしのライバルだからな、無視されることは無いだろう」

「お願いするわ。時間が惜しいし、説明は一度で済ませたいから。まあ、私が状況を説明したところで古明地こいしが大人しくしくれるとも思えないけど―――って、これは?」

 

ここまで口に出したところで、当の地霊殿からこちらに向かってくる反応に皆が気付く。

 

「言った側から出て来たわね、ふざけた妹の方が。でも知らない反応がくっついてきてるじゃない」

「これは…守矢神社の諏訪子さんですね。何故地底に…?」

「こっちに来てるなら直接聞けばいいさね。あたいらにわかるはずもないさ」

「…誰ですか?」

「おや、地上の客人の方が知らないのかい。

洩矢諏訪子、旧地獄を核融合炉として利用する計画を進めてる神社の神様だよ。最近幻想郷に引っ越して来たって割には、話が通じるから私らも普通に対応できてるのさ」

「なんでヤマメまで好意的なのよ。ああもう妬ましい」

「…そういえば、東風谷早苗も豹と直接接触した一人でしたね。情報交換できるのであればしておくべきですか」

 

地霊殿と繋がりがある守矢神社は地底にも伝手がある…地底側から言葉にされて思い出しましたが、このタイミングで動いたということはまず間違いなく豹絡みで動いている。それなら時間を割いてでも接触しておくべきでしょう。

…となると、彼女たちが到着する前に私が終わらせるべきことは。

 

「…気乗りしないけれど、勇儀と閻魔様を止めてくるわね。あちらが先に来てしまったら少し待つよう伝えておいて」

「あいよ!」

 

 

 

 

 

「話には聞いてたけど、仙人と閻魔も絡んでるんだねー。ま、魔界が関わってる以上仕方ないのか」

「私としちゃお前さんが出張って来るのは予想外だけどねえ。早苗って小娘はどうしたのさ?」

「騒霊楽団に話を聞きに行ってるよ。上手くいってればそろそろ帰って来てるんじゃないかなー?」

「…相互不干渉も最早形骸化していますね。地底妖怪の元締めである勇儀が追い返さず対話に応じるとは」

 

閻魔様は洩矢諏訪子の地底侵入を放置は出来ないようで、口論を一旦止めて情報交換に同意してくれたわ。勇儀もすんなり矛を収めてくれたのは意外だったけれど、守矢神社は勇儀とかなり上手く付き合っていたということよね…敵視するどころか普通に勇儀と洩矢諏訪子で会話できている。これは予想外に幸運かもしれないわ。勇儀を抑えられるのが増えたという点で。

 

「それで、こいしは何故それほどまでに不機嫌なのだ?」

「お空を連れてくるつもりだったのに、お姉ちゃんに邪魔されたんだもん!豹がとっても素敵なお兄ちゃんだってのを信じてくれないなんて思わなかったよ!私一人でもダメの一点張りだったし、諏訪子さんが来てくれなかったら置いてかれてたかもしれない!本っ当に分からず屋なんだから!!」

「…なんというか、地霊殿の主も苦労しているようですね…」

 

割と社畜に近い扱いを受けている久侘歌にすら同情されるなんてね…

まあ…下手にあの地獄烏を戦力として投入されると被害が洒落にならないことになりますし、私達としては助かる判断ではあります。

 

「それで、情報交換するってことでいいんだよね?地底で私ら地上の面々が暴れるのは面倒なことになるんだし」

「ええ、私としてもそこに異議はないわ。ただ、守矢神社に協力できるかは別問題よ?」

「あー、そこは安心していいよ。私たちは情報不足で先走ったのを痛感したところでさ、今後どう動くかってのを検討し直す羽目になってるから。

状況次第じゃ、早苗が引き込んできた永遠亭の兎を切り捨てなきゃならなくなりそうだし」

「ッ!?永遠亭と協調しているというのですか!?」

「やっぱこの辺りは把握してないのね。それじゃ、まずお互いの状況を照らし合わせよ?

早苗とこいしが分かれてから、どう動いてたのかってところから」

 

 

 

「―――私たちゃあこの流れで一度地底に戻って来たところだよ。仙界の連中を叩き潰せば豹は地底に来てくれるさ…恩はしっかり返す口だからね」

「何故そう言い切れるのですか?豹なる者がその恩に報いず逃亡する可能性の方が高いでしょう」

「閻魔にゃわからないさこいつはね。豹と本気で殴り合った私だからわかる―――豹は律儀に恩を返さずにはいられない性分なのさ」

「………こうまで自信満々に言い切られては返しようがありませんか」

 

まずは勇儀が妖怪の山で豹と東風谷早苗・古明地こいしが交戦した後から夢殿大祀廟で豹と接触するまでを軽く説明してくれたわ。豪放磊落を地で行く勇儀が、話の途中で質問を入れられても気を悪くせずに返していた…私はそこで閻魔様と違い勇儀の言を信じることができる。

 

喧嘩相手の内面を見抜くことに関してなら、勇儀は誰よりも鋭い。私が四天王に数えられる前から【策を弄することも厭わない】ことを勇儀には見抜かれていたように…己の喧嘩相手に相応しい存在に対する眼力において、勇儀に勝る者を私は知らない。

その勇儀が【豹は律儀に恩を返しに来る】と言うのであれば、それを前提として動くべき。

 

「次は早苗の動きかな?早苗はこいしと分かれて一度帰って来たんだけど、その前に厄神が来てたのよ。

『天狗に豹の情報を流してるのは、貴方たちかしら?』って聞きに来てね」

「鍵山雛さんですね。彼女もヒョウを支えている一人なのは椛から聞いていましたが…すでにそのタイミングで動いていたのですか」

「そーいうこと。ぶっちゃけちゃうと、私たちは大天狗から【豹の捜索・可能であれば連行】を依頼されただけだから豹のことなーんにも知らなかったのよ。だから厄神から引き出した《ユキと夢子という魔界人2名が既に幻想郷に侵入してる》って情報を早苗に伝えたわけ。

その時にはもうこいしは早苗と別行動してたから、早苗に『協調出来る奴がいれば引き込んでおきな』って神奈子と一緒に言っておいたのよ」

「それでお前さんとこのが永遠亭を頼ったってことかい。見事に地雷を踏み抜いてるねえ」

「早苗は悪くないからねー?そもそも大天狗が私達に依頼してきた理由は『博麗の巫女にこの件で動かれると面倒な事態になる』だし。早苗が永遠亭を協力者に選んだのも仕方ないと見てもらわないと困っちゃうよ」

「…む?それならこいしは最初から天狗の指示で動いてたということか?」

「そういえばそんなこと言ってたねー。忘れてた♪」

「またなのかい?さとりも相変わらず苦労してそうだねえ…」

「ヤマメさんならしょーがないってこと知ってるでしょ?ここを突っ込まれても困るかなー。

私は豹の情報が全然ない状態だったから、地上で会っても文句を言われれない守矢神社に真っ先に行ったの。そしたら早苗も豹を探してるって言ってたから一緒に探してただけだもん!そもそも豹の名前と格好は早苗が持ってた写真で初めて知ったんだし」

 

なるほど…守矢神社と永遠亭が協調することになったのは成り行きでしかない。だから守矢神社側からは切り捨てるという選択肢も出てくるということね。それはつまり情報交換だけでなく協調することも不可能ではないということ。上手くその方向に持って行きたいところね。

 

「私からも永遠亭について聞かせてもらいます。永遠亭は何処まで情報を掴んでいたのですか?」

「んー、はっきり言っちゃうと私たちの方が幻想郷における豹の動向については情報を集められてたね。ただ、永遠亭の奴らが警戒してるのは豹だけじゃなく、サリエルって堕天使のこともめちゃくちゃ警戒してたよ。そいつの部下と名乗った悪魔も幻想郷に侵入してるみたいでね」

「「サリエル!?」」

 

その名前に私と閻魔様が大きな反応を返してしまいました。八雲紫との会談で少し話題に出た堕天使ですが、その部下がすでに幻想郷に侵入しているということ。そして、私が隠岐奈の元へ向かうことになった情報と合わせると…!

 

「茨華仙、件の侵入者を摩多羅隠岐奈は把握していましたか?」

「ええ、まさか水面下ですでにここまで動いていたなんて…!

隠岐奈が掴んでいたのは『昨夜察知したのは天界経由で魔界から侵入してきた二人組』『天界経由で魔界から侵入してきた二人組が、夜明け前に幻夢界から幻想郷に侵入した天使と接触した』『その後魔界に帰還している』―――要約するとこの3点よ。結論としては『竜宮の使いが侵入者を帰還者と偽った』ということになって、そちらは隠岐奈が調査するとは言ってたけど…!」

「ちょい待ち、その摩多羅隠岐奈ってのも仙人に虚言を混ぜてるよ。豹に恨みがある大天狗の部下に接触してきた《ヒョウを始末したい魔界の住人》がいて、そいつの後ろに摩多羅隠岐奈がいるってことを大天狗とその部下が看破してる。

つまり、【竜宮の使いも摩多羅隠岐奈も魔界からの侵入者を利用してる】。何が目的かまではこれだけじゃ読めないけど…」

「そのサリエルの部下ってのも、まだ幻想郷に残ってるってことかい」

「そうなるわね。珍しく永遠亭から異変に関わろうとするだけの理由があるわけだわ…!」

 

情報を整合することで問題が増えていくわ…!まさかユキと夢子とは別派閥の魔界関係者が既に侵入していて、それを隠岐奈が利用しているなんて。私が予想していたより豹に対する隠岐奈の警戒心が高過ぎる…それは紫も手段を選べなくなるということ。

 

「…どうやら私も楽観視し過ぎていたようですね。これはもう多少の被害を出してでも時間を優先すべきですか。

星熊勇儀、仙界へ向かうことを許可しましょう。ただし攻撃を加えて良いのは邪仙・霍青娥一人。

これを守れるのであれば、私と茨華仙で仙界へ送ります」

「えー!それじゃ豹が地霊殿に来てくれないかもしれないじゃん!」

「黙りなさい古明地こいし。魔界との戦争どころか幻想郷内での内戦になりかねない状況なのです。

個人の希望を優先する余地は無い」

「断ると言ったらどうするんだい?」

「話は最後まで聞きなさい。霍青娥を抑えている間に私と茨華仙が豊聡耳神子と会談します。その結果次第では仙界上層部との交戦も許可しましょう。現状だと、八雲紫より摩多羅隠岐奈の方が黒い…豊聡耳神子が摩多羅隠岐奈に協調することは、現時点では避けたいので」

「いいだろう、少なくとも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ってことだな?」

「はい。戦力的には惜しいですが、霍青娥一人で大幅な時間短縮に繋がるのであれば許容範囲ですから」

「よっしゃ!それじゃすぐ準備しな!!」

「私も仙界まで付き合わせてもらうよ?摩多羅隠岐奈ってのの情報は欲しいからね」

「それこそ私からお願いしたいぐらいだわ。交戦になった場合、貴方は戦力に数えられるからね」

「いいでしょう。久侘歌も手を貸しなさい」

「畏まりました、四季様」

「それじゃ、私と一緒に仙界に乗り込むのは地上から来てる奴とこいしでいいね?どうせついてくる気だろ?」

「当たり前じゃん!豹を連れ帰るまでは地霊殿に帰らないもん!」

「脱出の道案内ぐらいなら私も出来ますし、構わないですよ」

「あたいはもう帰りたいんだけどねえ…仕方ないか」

「決まりだな!ヤマメとパルは地底を頼んだよ」

「だからパル言うな!!まったく妬ましい…!」

「はいよ、何かあったらさとりに頼んで守矢神社に連絡しとけばいいね?」

「そうだねー、私の名前使っていいよ」

「お、そりゃ助かる。それじゃ私は若いのを帰らせとくよ」

 

閻魔様がこうも簡単に折れてくれるとはね…もっとも、紫と隠岐奈の対立に永遠亭の介入、魔界神と堕天使サリエルの侵入が重なってしまえばとても手が回らなくなる。まだ本格的な衝突になっていない今のうちに動くべきだものね。

 

 

―――すでに地上で、その【本格的な衝突】が起きようとしていたのだけれど。




しばらくは火・土の更新になると思います。
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