「なんだい、つまり博麗の巫女は八雲紫じゃなく摩多羅隠岐奈を支持するって言うのかい?」
「豹って魔界人の対応に関してはね。紫が保護してたのが本当なら、それこそ今まで私に挨拶すらしに来なかったってのが怪し過ぎるのよ。そもそも魔界人ってのは神綺の言うことさえ聞かない連中なんだから、紫の命令を平気で無視してもおかしくないわ。そんな危険人物はさっさと魔界に追い返すべきでしょ」
「私なんて魔界との交渉材料扱いなんだぜ。魅魔様が教えてくれなかったら何も知らないまま紫たちに襲われる可能性があったってことだ。私なら簡単に捕まえられると思われてるのが気に入らないからな、今回はあの秘神に乗ってやったぜ。敵の敵は味方って奴だ」
魅魔様の命令で守矢神社まで飛んできたんだが、毎度うるさい見回り天狗の邪魔が入らなかったんだよな。珍しいこともあるもんだと思ってたんだが、それなりの理由があったみたいで。
「ほほう、これはまた良い記事になりそうなネタですなあ!博麗の巫女が八雲紫に反旗を翻すとは!
哨戒任務中の白狼天狗に手を回しておいたのは正解でしたねえ」
「なんで好き勝手やってるのにどうしてこうも上手い方向に転がるんだか。私は散々なのに…」
「ですが、今回に関しては鈴仙にとっても悪くないじゃないですか。解放される理由に出来るんですし」
あの秘神が言ってた通り、守矢神社に鈴仙も居た。捕まってるって聞いてたが、実際は永遠亭から迎えが来ればすぐ帰す気だったらしく身動き取れないように拘束されてるワケじゃなかったから拍子抜けだったぜ。
そして、鈴仙だけじゃなく文までいた。文が絡んでるんなら見回り天狗が私と霊夢に絡んでこなかったのも不思議じゃない…下っ端天狗からすりゃ私たちの相手を文に押し付けられるってメリットがデカすぎる。そしてどんな異変だろうと首を突っ込んで記事にしようとする文からしても、霊夢の動きは知りたいはずだ。なにしろ【霊夢の勘】を当てにすれば異変の黒幕に問題なく辿り着けるんだからな。
「…まあ、私が口を挟むべきじゃない。永遠亭の依頼でお前らが玉兎を迎えに来たってことにすれば押し通せるから、連れて行きたいなら好きにしな。
ただし、早苗は同行させん」
「えっ!?どうしてですか神奈子様!?」
注連縄の方の守矢の神が出した返答に早苗が不満を持ったのか疑問を返す。私としても戦力は多い程いい―――この異変は私一人で解決するメリットが何一つないから、手伝わせられる奴の手は片っ端から借りたいぐらいだからな。だから早苗も連れていきたいところなんだが…
「お前らが摩多羅隠岐奈を支持するなら好きにすればいいさ。だが先に伝えた通り、諏訪子が地底で情報収集してるんでねえ。
私は摩多羅隠岐奈ってのを支持できるだけの情報を持っていない。現状だと八雲紫の方がまだ信用出来るぐらいだ。それゆえに情報収集と分析を優先する…早苗は諏訪子が帰ってくるまで待機だ」
「う、たしかにそれはそうですが…」
「何よそれ、そっちから協力要請を出してきておいて永遠亭を見捨てるっていうの!?」
「玉兎にはそう見えるのも仕方ないが、私と諏訪子は迂闊に動かない方が幻想郷にとっての保険になるのさ。さっき教えてやっただろ?私と諏訪子は神綺と面識があるって」
「「「はあっ!!?」」」
思わず声が出ちまったぜ…!しかも霊夢どころか文とまで揃った。
あの神綺と面識があるだと!?
「お前らがそう反応するってことは、摩多羅隠岐奈もここまでは把握してなかったってことかい。
ま、ハッキリ言ってしまえば八意永琳よりは神綺の方が私と諏訪子は信用できる相手なのさ。お前らが豹に対する処遇を間違えて魔界が全面戦争を仕掛けて来れば、まず間違いなく幻想郷は滅びる…魔界人と人里の人間の間にある絶対的な戦力差でね。
神綺と面識のある私と諏訪子は、
「知らないわよそんなこと。普通に豹ってのを生きたままとっ捕まえれば問題ないでしょ」
「その方法が問題になる可能性もあるのさ。まあここは私が口を出すべきじゃない…八雲紫が言うべきことだからこそ、今ここでお前らを止めはしない。
だが幻想郷が敗北した際に、【早苗が魔界から追討される】リスクがある行動に早苗を巻き込むわけにはいかないよ。私にとっては幻想郷より早苗の方が大切なんだからね」
「人里が壊滅すれば幻想郷全ての妖怪も巻き添えですからな、そこに関しての危惧は我々天狗も理解できます。幻想郷が滅びれば永遠亭も末路は同じ、たしかにそれなら魔界神と通じる貴方はこれ以上の心証悪化を避けるべき…ですか」
「そういうことだ。本来なら永遠亭から魔界に巻き込まれただけだと無実を訴えるべきだろう?だが過去の因縁でそれが不可能だってのは、月の玉兎の方がよく知ってるんじゃないかい?」
「………」
「要するにだ、永遠亭じゃ魔界は交渉の席にすらついてもらえない。だから替わりに私らで交渉してきてやると言ってるのさ。見捨てるどころか尻拭いに回ってやるってことだ。まだ何か言いたいいことはあるかい玉兎?」
「…無いわよ、好きにしなさい」
「うーん…私も釈然としませんが、神奈子様がそう言うのであれば諏訪子様を待ちますね」
ちっ…私が口を挟む隙が無いまま話が終わっちまった。本当に面倒臭いぜ今回の異変は。異変の元凶を叩いて終わり!ってわけにいかないのがここまで厄介だなんてな。
だが道案内の鈴仙を連れてくだけじゃ、わざわざ守矢神社まで出向いた手間の割に合わねえ。他に手伝わせられそうな奴は…
「そういや文はなんでここに居るんだ?豹ってのを記事にしようとでもしてるのかよ?」
「まあそれもありますが、上からの命令で守矢神社に手を貸していたのですよ。もっとも豹の協力者たちにしてやられたので一度撤退したのですが…それこそ貴方達があの天人を差し向けていなければ私もまだ足止めを食っていたでしょうな。あの乱入のおかげでにとりとたかねが退却したのを察知できたのですし」
「ちょっと待て、にとりって河童のにとりだよな?この騒ぎに関わってたのに何でここに居ないんだよ?」
「霊夢さんがうちに向かって来たのを察した途端、『博麗の巫女まで関わって来るなら付き合えないね!』って玄武の沢に帰っちゃったんですよ。元々無理を言って手伝ってもらってたので、無理強いも出来なくて。たかねさんもそれに同意して帰ってしまいましたし」
「役に立たないわね…ただでさえ人手不足だってのに」
霊夢も今回に限っては頭数の大切さがわかってるみたいだな。単独行動が当たり前の霊夢が人手不足なんて口に出すあたり、敵に回られると厄介な豹の協力者が思った以上に多いって理解してるってことだ。
それなら、最低限文を逃がすわけにはいかねえぜ。
「それじゃ、文も手を貸しな。記事にするにもまず大人しくさせる必要があるだろ?単独行動じゃ取材拒否されるのは間違いないぜ?」
「そうですな…流石の私でも藤原妹紅と紅魔館のメイドを同時に取材は厳しいですし」
「って、ちょっと待ちなさい!咲夜も豹ってのに協力してるっての!?」
「ああ、説明し損ねてたね。早苗たちを追い返したのは騒霊のルナサとカナに竹林の案内人・藤原妹紅、人形遣いの人形と鈴蘭畑の毒人形。それに加えて紅魔館のメイド・十六夜咲夜の6名さ」
「まじかよ…つまり紅魔館まで豹の味方だってのか!?」
「間違いないわよ。咲夜が『お嬢様の命令』ってハッキリ言ってたから」
「…本っ当に冗談じゃないわよ。あの秘神も情報不足だったなんてオチじゃないでしょうね」
霊夢に本気で同意だぜ…!レミリアの命令ってことは咲夜だけじゃなく紅魔館全体が敵ってことだ。下手するとレミリアやパチュリーまで出てきちまう可能性もある。
つまり、咲夜一人の援護で済んでるうちに豹ってのを捕まえなきゃもっときつくなるってことだ。
「霊夢、急ごうぜ。これ以上敵が増えると数の差で押し切られちまう」
「そうね、すぐ終わらせるのが正解みたいだわ。
それじゃ急ぐわよ、永遠亭に」
「言われなくても!汚名返上しないと!」
「そこは挽回の方がネタになりますよ?」
私と霊夢に鈴仙と文。魅魔様を加えても頭数が厳しいが、やらなきゃ私が道具扱いされるんだからな。
私を軽く見た奴らに目にもの見せてやらねえと!!
「夢幻姉妹だと…!」
「金髪のメイドという姿形にあの強大な魔力。慧音さんの持つ情報と照らし合わせてどうでしょうか?」
「…伝わる通りだ。本人だと見て間違いないだろう、それに…!」
人里を隠し終えた慧音さんと合流して、夢月と名乗ったあの強大な相手が本人かどうかの確認を取ります。私はあくまで人間、警官として活動するための情報を回されているだけの立場です。ですので永く人里の守護者を務めている慧音さんにその真偽を確かめてもらうことにしたのですが…話の途中で本物だと理解せざるを得なくなったわ。
「―――なんとか間に合ったと言うべきか。フラワーマスターがここまで本気を出すとは…!」
「それを真正面から止めてますねぇ。人里を素通りしてくれたのは本当に運が良かったようです」
早速強大な力同士でのぶつかり合いが始まりました。最強妖怪を名乗るに足る強さを持つ四季のフラワーマスター・風見幽香と夢幻世界を統べる悪魔・夢月―――規格外同士の戦闘です。周囲に破壊を撒き散らす大災害のようなものです。
「幻想郷じゃない場所でやってもらいたいのですけれど」
「だが私達の希望など聞いてくれるはずもない。八雲藍が離脱してくれている以上、八雲紫が何か手を打ってくれるとは思うが…この異変の全貌が全く見えてこない。何が起きていると言うんだ…!?」
…成程、慧音さんには情報がまだ届いていないということですか。それもそのはず、幻想郷の管理者達としては、八雲紫と摩多羅隠岐奈が対立している状況で人里の守護者に迂闊な指示を出すわけにはいかないでしょう。管理者として魔界に対する意思統一が出来ていない状況で【人里の守護者が対立に巻き込まれる】のは、人里の壊滅という最も避けるべき事態を引き起こしかねない。
ある意味、この異変に巻き込んではいけない存在の筆頭なのですから。
(そうなると、この辺りに慧音さんを孤立させるのも危険ですね。妖夢さんも単独行動してしまったようですし。
中立を保った状態で保護してもらえる勢力となれば…)
幸いなことに夢月が幽香さんの対処のために動いたということに間違いがないのであれば、今の状態で放置して問題ないということです。それなら、私には向かうべき場所の当てがある。そのためには、慧音さんを護衛してもらう戦力が私以外に必要になる…今となっては、短時間とはいえ接触しておいたのは大正解だったようですねぇ。
「慧音さん、命蓮寺に向かってもらえますか?あそこの住職なら今の状況についてある程度予測が立てられるはずです。彼女は魔界に封印されていたのですから。
それに、人里を狙う敵が出向いて来たら共闘もしてくれるでしょう」
「…小兎姫はどうするんだ?」
「夢月が人里に向かって来た方向に、ちょっと気になる場所があるのよ。
人里が安全になった以上、あそこのことを知ってる私は様子を見に行くべきだと思ってね」
「今の状況で単独行動を取るだけの価値があるのか?」
「ええ。
この異変に深く関わってるであろう、豹の隠れ家よ」
慧音さんが驚愕の表情を浮かべる。まあそれもそうでしょう…豹は慧音さんと最低限の付き合いがあったけれど、深い付き合いは徹底的に避けていたようですし。その豹の潜伏先を私が突き止めているなんて想像もできなかったはずだわ。
「こうまで大事になっている以上、豹本人が何を考えてるのかは聞き出しておくべきですから。答え次第では首に縄を付けてでも引き摺り出してくるわ。
もっとも、すでにもぬけの殻ってこともあるだろうけど」
「…そうだな。もし豹と接触できるのであれば、この事態を打破できるかもしれないか。
わかった、私は命蓮寺を頼ろう。小兎姫も十分気を付けてくれ」
「はーい」
―――情報不足であるからこそ、私もここで動いたのだけれど。
既に遅すぎたということに気付くのは、まだ先のことだったわ。